OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
スルシャーナとの会談とは、また別の日。
ともに転移してきた仲間が元気でいるか、大きな問題を起こしていないか等を確かめるため、カイは居場所が分かるプレイヤーのもとを定期的に訪れている。
セントエルモとイクルミが暴れ出すのを止められなかった時点で、既に一部は失敗した試みだ。さりとて他のプレイヤーを放置してよいということにもならない。
自分には、あのサービス最終日の打ち上げを企画した者として、彼らをこの世界に
ミサキには「お人好しの世話焼き体質」などと笑われもしたが、そういう性分であるのはカイ自身認めている。もっとも、現地の人々から〝大聖女〟などと呼ばれる利他の人が他人をお人好し呼ばわりするのだから、これは冗談なのだろうとも思ってはいたが。
その日は料理人ビルドの非戦闘系一〇〇レベルプレイヤー、アーメン†ラーメンと会うことになっていた。
相談したいことがあるからと、カイが呼び出された形である。
ギルド拠点たる
「ラーメンさん……なんだか、少し……やつれましたか?」
「あ、分かっちゃいます? いやー、料理人はちょっとふくよかなくらいが客に安心感を与えると個人的には思っているので、できればあんまり痩せたくないんですが」
本来、アーメン†ラーメンというプレイヤーのアバターは、小太りな人間の中年男性としてデザインされていた。
いつでも人畜無害な微笑みを浮かべる、丸みを帯びた顔。頭の上にはコック帽。切り揃えられた髪や爪は、常に純白を保つコックコートと合わせ、見る者に清潔な印象を与えていた。
今の彼も、几帳面な清潔さはそのまま。しかし笑顔には憔悴が滲み、体型は明らかに細くなっている。健全な痩せ方でないのは、こけた頬と目の下の隈を見れば分かる。
「何か……あったんですか?」
「今に始まったことじゃないんですけどね。ただちょっと、
この世界で思う存分料理人としての腕を振るい、第二の人生を最も謳歌しているかと思われたアーメン†ラーメンが、病んでいる。
いかなる悩みかとカイが聞きに回ってみれば、その内容は予想だにしない方向性で、しかも深刻だった。
「この世界に来て……最初は楽しかったんです。夢みたいに幸せでした。
汚染されていない土があって、澄んだ空があって。自然に育った植物がある。海には魚がいる。知らない香草、知らない獣、知らない果実がある。
しかもそれらがデータじゃなく、本当に匂いや味や食感を持っているんです。ほとんど狂ったように喜んで、飛び回りましたよ」
採れたての野菜を齧って笑う。市場で見知らぬ豆を見つけて店主と話し込む。
異種族の発酵食品を食べても、一〇〇レベル・キャラクターの耐久力なら腹を壊す心配すらない。ただ純粋に味や香りを堪能し、「これ! こういうのが欲しかったんですよ!」と感動する。
何よりも、自分の作った料理を誰かが
見た目とバフ効果だけのアイテムデータではない。美味しい、と言って笑う人々が目の前にいる。
札束で叩かれながら貴重な食材をかき集め、「昔はもっとマシなものが食えた」とぼやく老人たちに食事を提供するばかりの日々は、ここにはない。
だから、八人の中で最初に
思う存分、この異世界で自然の食材を探し、魔法さえ交えた料理の可能性を探求し尽くせる。叶うはずのない夢が叶ったと、素直に喜んでいられた。
何かがおかしい、と気づいたのはいつからか。
「あるとき、自分の昼ご飯を作りながらね。別の新しいレシピのこと考えてたんです。デザート系のスイーツ。卵はどういう種類のものがいいか、ソースはカラメルかチョコレートか、なんてね。
で、そういう注意散漫な状態で料理やってたら、砂糖と塩を間違えるレベルの大ポカを久々にやらかしましてね。作っちゃったもんは仕方なし、食材を無駄にするのも忍びないので、自分への戒めとして不味いのは承知の上で食べてみたんです。
そうしたら……もともと作りたかった味とは全然違うんですが……
偶然に美味い料理ができてしまったなら、料理人としては嬉しいのではなかろうか。
頭ではそう思ったカイだが、首から下ではアーメン†ラーメンの平坦すぎる声に、どこかゾッとするものを感じている。
「わたしの、料理人としての経験で言えば、美味しくなるはずのないバランスでした。
こりゃ何かおかしいぞと思って、それから色々試してみたんですよ。わざと火を通し過ぎたり、臭みが残るように処理をしたり、調味料の組み合わせを間違えたり。
どうなったと思います? ……全部、
料理人の声は乾いている。
顔には寒々しい無色の笑みだけが、薄く広がっている。
「それで気づいたんです。自分がこっちに来てから、抱えてた違和感の正体に。
リアルに存在しない動物の肉なのに、一目で最高の火入れが解りました。見たこともない毒草の、毒だけを処理して風味を活かす方法が、触ったら自然に頭に浮かびました。どれも実際にやってみたら、上手く行ったんです。完璧すぎるくらいに。
カイは料理については素人である。が、ユグドラシルに関しては専門家のようなものであるから、思い当たる節があった。
「もしかして……調理スキルの技能判定が、ゴリ押しで成功してる?」
「多分そうでしょう。バフを仕込むでもない普通の料理なんて、一〇〇レベル専業の料理人ビルドなら、能力値だけでほとんど確定成功です。おまけにわたしは、料理関係の判定に常時ボーナスが入るスキルをいくつも持ってる」
ユグドラシルでの料理というものは、基本的に
中には高位魔法と比べても遜色ない、超常的な効果を発揮するレシピもある。それを作れるほどの料理技術が、現実に落とし込まれたらどうなるか?
「試しに
でも、だんだん怖くなってきて……わたしは果たして、
摂理を捻じ曲げ、あらゆるものを
それは〝料理が上手い〟などという次元ではなく――
包丁の握り方も、素材への理解も、経験も、本当はもう必要ないのかもしれず。
極論すれば、己が厨房に立って行うあらゆる工程は、スキルの実行ボタンを押すだけの儀式に過ぎなくなっているのではないか――。
料理人ならぬカイに、その恐怖は解らない。
できるのは、ただ話を聞くこと。確かに聞いているのだと頷きで示し、先を促すこと。
「……業が深いことに、わたしはここで立ち止まれませんでした。
なんでも料理できる、食べられるようにしてしまえる、そう解ってくるとですね……
物理的に食べられないはずのものでも、食用可能にできる。じゃあ
自分の料理を何度も食べてきたカイが硬直するのを見て、アーメン†ラーメンはひらひらと手を振る。
「ああ、心配しないでください。
ただ……そう、人間を食べるのが食文化の一部であるような異種族に、〝
わたしの料理はもしかして、ただ〝美味い〟というだけで一つの種族に共喰いをさせて、絶滅にだって追い込めるんじゃないかと。それができてしまったら、わたしは……」
自分が大きな思い違いをしていたことに、カイはこのとき初めて気付く。
アーメン†ラーメンは八人の中で、誰より
だが……不可食を可食に変えてしまうほどの〝食の超越者〟が、悪意を持ってその腕を振るったなら。
自ら敵と戦う必要すらない。あらゆる種族を意のままに共喰いさせ、味の暴力で理性を吹き飛ばし、食欲の奴隷に変えて支配することもできるのではないか。
あのセントエルモやイクルミにも比肩する脅威。
それは――〝
「やっちゃいけないことだと解ってるんです。だからやらなかった。レシピも燃やしました。
けど、頭の中には残ってる。わたしはもう、人間も異種族の人々も、前とは同じように見られなくなってしまいました。
だって、見ただけで
知性があろうと、人型をしていようと、マジックアイテムの助けがあれば言葉を交わせて、仲良くだってなれるのに……一度
人と話している最中に、「この種族は脂肪が少ないな」と浮かぶ。
同じプレイヤーの腕を見て、「この筋肉は煮込みより――」と考え始め、ふと正気に戻る。
人を人として認知しながら、同時に食材としても見てしまう。
それはもはや料理人ではなく、怪物の思考ではないのか。
そして、なおも救いがたく恐ろしいのは。
「わたしが料理のことを考えるとき、最終的には
いまも同じです――同じように、考えられてしまう。
人の禁忌を踏み越えるような、おぞましい料理を発想しながら……わたしはそれを、
アーメン†ラーメンが震えている。
己の中の力と狂気が恐ろしくて、震えているのだった。
「リアルの二十二世紀は、食文化の貧しい時代でした。不味い合成食。乏しい食材。失われる伝統料理……だからこそ、わたしは料理人として、美味しい食事は人を幸福にすると信じてきました。
〝美味しい〟ということは、ただそれだけで一つの善だったんです――わたしにとっては!」
だというのに、この世界では。
ゲームシステムに下駄を履かされた、高すぎる技術が。もはや技術を飛び越えて、奇跡に――あるいは呪いに――なってしまっている。
他の誰にも再現できない。やっている当人ですら理解できない。
ただ結果だけがアウトプットされる。世界さえ滅ぼすかもしれぬ、〝美味〟という名の魔を生み出す力。
麻薬のような料理を作れる。
健康を害しても、命を危機に晒しても、食べ続けたくなる料理を作れる。
共喰いを誘発する料理を作れる。文化を破壊する料理を作れる。あらゆる食の禁忌を冒涜し、形骸化させる料理が作れる。
――振り返って、己に問う。
果たしてこの世界でも、〝
「わたしには……もう、解らなくなりました。料理を続けていいのか。自分がまだ人間と呼べるのか。
自分の作ったものを、美味しいと言ってくれる人たちのことさえ、今のわたしには信じられないんです。だってそうじゃないですか。
その人が本当に、心の底からわたしの料理を美味しいと思ってくれたのか。
それとも、わたしの能力値やスキルが〝判定〟を成功させて、そう感じさせただけなのか――判断しようがないんだから」
料理に失敗しなくなったとき、アーメン†ラーメンの中で〝美味しいものを作れる〟という喜びは失われた。
試行錯誤もない。達成感も、挑戦心も生まれようがない。成功を約束された料理など、スキルを発動するだけの作業に過ぎない。
料理を食した誰もが、言葉の限りに感激を表明するたび、輝かしいはずの評価は色褪せていった。
これでは精神支配の魔法で「美味い」と言わせているのと何が違う。料理にドラッグを混ぜ込んで食わせるのと何が違う。
成功しかない料理。称賛しかない料理。
孤高と呼ぶにはあまりに無惨な、天涯の頂に取り残された料理人の孤独。
だからこそ、限界を試したくもなる。
どこまで禁忌を侵犯されれば、人は〝味の暴力〟に抗えるのか。
同族で作った料理なら、どんなに良い匂いがしても拒めるのか。家族の肉なら、どんなに美味そうに見えても手を付けずにいられるのか。
それとも――いかなる聖人も英雄も、結局は食欲に抗えないのだろうか、と。
いま、彼しか辿り着けない世界の果てで、独り内なる怪物と戦う同胞に。
自分は何を言ってやれるだろうと、カイは思いを馳せる。
それでも寄り添うならば、出来ることは二つに一つ。
解らないものを解らないままに扱うか、理解できるものに置き換えるかだ。
「……参考になるか、解らないんですけれど……僕も人を見るとき、どこかで
「――――えっ」
あまりにも想定外の言葉を聞いて、己の耳を心底疑ったという様子で、アーメン†ラーメンがカイの方を向く。
ひとまず注意は惹いた。自分の中の闇ばかり見つめて疲弊していた料理人の目を、他人や外界に向けさせるという試みの、第一段階は成功。
さて、ここから――彼にとって小さな救いにでもなるような話を、見つけられるか。
「仕事で
このゲーム、プレイヤースキルの差は防御に出る作りでしてね。上手い人は本当に、判定上可能なあらゆる体勢からガードを間に合わせてくるんです。だから上級者同士の対戦になると、互いにまず相手の体勢を崩して、ガード不能の隙を作ろうとするところから始めます。小技を振って、フェイントもかけて、果てしなく高度な読み合い刺し合いが続く。
そんなゲームを短期間に、世界大会でも通用するレベルで仕上げようと思ったら、ゲーム機にジャックインしてる時間だけじゃ練習が足りないわけです。
それで……僕はリアルで会う人会う人の一挙一動に注目して、これがあのゲームのキャラだったら
歩き方。重心。反応速度。視線の動き。瞬きの癖。利き手。呼吸の間。
どこに隙が生まれるか。投げの起点は手か襟か。急所攻撃の確定タイミングはいつか。
「怖いなあ、プロゲーマーのマインドセット!」
引き気味に笑うアーメン†ラーメン。微かだが、そこには人間らしい感情の動きが戻ったように感じられる。
剣呑な言葉を穏やかな笑みで中和し、カイは続ける。
「自分で言うのもなんですけど、めちゃくちゃ物騒でしたよ。マネージャーさんにもしょっちゅう言われましたもん。〝
でも、おかげで対戦成績はガンガン伸びたし、次の大会でタイトルも獲れました。ただその後遺症というか、別のゲームに移ってからも癖が抜けなくて。
それから今に至るまで、ユグドラシルでも
「……ひょっとしてこれ、慰められてます?」
苦笑するアーメン†ラーメン。その表情や、僅かな所作から、カイは拒絶のニュアンスを感じ取る。
これだけでは届かない。当然だ。こんな笑い話ひとつで「あなたの気持ちは解る」などと、上辺だけの共感を示すつもりはカイにもない。
「残念ながら、今のあなたを慰められるほど含蓄ある言葉を、僕は持ち合わせていません。リアルとこの世界を合わせても、たかだか二十数年しか生きていない若造ですから。
でも、僕があなたを見て〝右膝を崩して喉を潰せば殺せるな〟とか自動的に考えてしまうことと、あなたを友人だと思うことは両立するんです。
同じように、あなたが僕を見て〝肝臓はこう処理したら美味いな〟とか考えていても、その上でなお友人だと思ってもらえたら嬉しいですね」
「それは……どうしてです? いつ自分を殺したり、料理したりするか分からない相手なんて、怖いのが普通では。
わたしが弱いから安心できる、というだけの話に聞こえますが……」
卑屈さを帯びかけるアーメン†ラーメンの声。カイは首を振って、それを遮る。
「違いますよ。ラーメンさんはそんなことを
といっても、失礼ながら信じているのは人柄じゃなくて……何といえばいいのかな。職業倫理、みたいなものでしょうか。
仮にあなたがここで、僕を何かの天使料理にしてしまったとする。でもそれを本当に、
アーメン†ラーメンが目を見開く。――届いた、という感触があった。
「ラーメンさんの料理って、ただ美味しいものを作って完成じゃあないでしょう? 同じ品目でも相手によって味付けを変えたり、火の通し具合を調整してたりしますよね。人をよく見て、どうしたら喜んでもらえるか考え抜いた料理だから、食べる方にも無二の感動がある。
確かにあなたは、僕を美味しい料理にしてしまえるのかもしれない。人間が食べても美味しい人肉料理だって、作れるのかもしれない。
でも――食の喜びとか、満足とかって、
最高級の料理でも、腹が空いていなければ喉を通らない。
食事を楽しめる心のゆとりがなければ、いかなる美味も舌に感じられない。
家族や友人、恋人などとテーブルを共にして、料理の感想を語り合いたいときもあるだろう。
逆に誰しも、嫌いな食べ物の一つや二つはあって当たり前で。
個人的に辛い思い出があって食べたくないものもあれば、文化や宗教によって禁じられた食材というものも世の中には存在する。
そうした状況や心理を無視して、味の暴力だけを押し付けてしまえば、それは相手を
だからこそ――アーメン†ラーメンは
彼の料理はいつも、食べてもらいたい誰かへの思いやりに溢れていたのだから。
「僕が思うに……作ったものを食べて、心から喜んでくれる〝客〟がいて、初めてあなたの料理は完成するんじゃないかな。そこには何を食材にして良いか以前に、
それを忘れない限り、あなたは
逆を言えば。
〝客〟を尊重できなくなり、料理をただの人体実験にしてしまったとき、アーメン†ラーメンは真の意味で怪物に成り果てるのだろう。
堕ちないためには、選び続けるしかない。
何でも料理できてしまうからこそ、何を料理に
それが、きっと料理人と怪物を分かつ境界なのだ。
少年の隣で、料理人は遠い空を見上げながら、静かに泣いていた。
苦悩が取り去られたわけではない。あらゆる禁忌を料理したいという、暗黒の欲求も消えてはいない。
しかしその眼には、小さな希望の光があった。
「わたしは……なんて、馬鹿だ。こんな、基本ですらない大事なことを、人に言われるまで気づかないなんて……」
「僕がちょっと口を出したくらいで解決する悩みでもないでしょう。もし立ち直るきっかけの一つでも見つけられたのなら、それはあなたの中に元々あった答えということです。
お節介ついでに、僕からもう一つ言うとすれば……料理、やめないでくださいね」
少し驚いた、という様子で片眉を上げるアーメン†ラーメン。
「さっぱり足を洗うか、そうでなくても距離を置けぐらいは言われるかと思っていましたが……」
「あなたが研究第一のマッドサイエンティストタイプだったら、言ったかもしれませんね。でも顧客満足が第一の料理人に料理やめさせたら、あとは自分の暗黒面を監視するだけの人生になりそうじゃないですか。絶対
だから――人
ユグドラシル運営が教義のように――あるいは祈りのように――繰り返したフレーズ。バランス崩壊の言い訳に使われている印象しかなく、プレイヤー間では揶揄を込めて語られたものだが。
きっといま、自分がこの世界で何者になるのかと恐れる一人の
はあ、とアーメン†ラーメンが大きく息を
「……あぁ。ああ……よかった、カイさんに話して。
ありがとうございます。足掻いてみますよ、もう少し。わたしがこの世界で、〝素材を最大効率で美味に変換するだけの機械〟より、少しは上等なものになれるかどうか……自分の人生だけは、スキル頼みじゃ
成功が約束されていない新メニューこそ、開発に挑む価値があるのだと。
そう言って、灰色の世界から来た料理人は、火を入れた炉のように明るく笑った。
カイは未だ知らない。この日説いた言葉が、やがて己に返ってくることを。
できることと、やっていいことは違うのだと。
何を成し、何を成さざるか、その選択こそが己を形作るのだと。
すべてのプレイヤーが否応なく、己の力の使い道を問われる日が来る。
選択の時は、近い。
――その王は、食の歴史に不滅の功績を打ち建てた、文化英雄として知られた。
森羅万象を食材とし、究極の料理を作り出すことができた。
誰に対しても、その者の魂が求める、至高の一皿を提供することができた。
後には多くの弟子を採り、己の技術とレシピを世に残そうと、料理教室を開いて回った。
しかしまた、定かならぬ語り手が残した、後世の伝承は語る。
その王は、あらゆる食の禁忌を己が魔技で蹂躙したいという、暗黒の欲を終生抱き続けた。
すべてを食材に分解する認識の中で、自分と同じ地平を見られる者がいない孤独に病んでいた。
誰よりも戦いに向かぬ最弱の王でありながら、誰よりも凶悪な権能を秘める、無敵の王であったという。
その名の響きは、歪んだ形で後世に伝えられている。
史に刻まれた名は、『美食王』アメンラーム。
八人のうち、最も勇敢に戦って死んだとされる王である。
[memo]
■「一〇〇レベル・キャラクターの耐久力なら腹を壊す心配すらない」
・毒物や食あたりに対する
■「摂理を捻じ曲げ、あらゆるものを食用可能にする行為」
・ユグドラシルの戦闘システムが複雑精緻な調整によって(一応の)バランスを保たれていたのに対し、アイテム製作は比較的シンプルなルールのみで成立していた。
品目に対応する基礎技能スキルと、その成否判定にボーナスやペナルティを与える各種の追加スキル。基本成功確率を決定する能力値。魔法や装備による後付けの補正。関わってくる要素は多くとも、最終的には製作スキルの成功率に全てが収束し、それ以外の戦略やプレイヤースキルが関与する要素は少なかった。
・異世界では、そのシステム的なシンプルさが制約の少なさに置き換わり、結果として多くの抜け道を生んでいる。たとえばユグドラシルでは料理の素材として選択できなかった物品を、能力値の高さとスキル等の補正で強引に食用可能な料理へと変換してしまうなど。
・特にアーメン†ラーメンは料理人系クラスの固有スキルによる補正値の累積が大きく、通常ならまず成功しないような判定ペナルティの発生する高難度食材であっても、問題なく調理できてしまう。一見バグにしか見えない不可能料理も、システム上は特に不正を働いていない。
■アーメン†ラーメンが作った実験料理の例
・石ころのプディング:そのへんの石を卵や牛乳、バターなどとよく混ぜて、蒸して固めたらなんか出来てしまったもの。石ころの風味を活かしつつ舌ざわり滑らかに仕上がっている。非常に美味である。
・ドラゴンゾンビの煮込み:新鮮な五十レベル台のドラゴンゾンビをそのまま鍋にぶち込み、じっくりコトコト煮込んだシチュー風の逸品。芳醇な屍臭が香り、負のエネルギーたっぷり。非常に美味である。
・ダークマターうどん:ユグドラシル製希少素材・
・空揚げ:素材がなければ流石に調理できないだろうと思い、やってみたら
・██のハンバーグ:██の挽肉100%で作った、いたって普通のハンバーグ。一口でも食べれば、もう昨日までの自分には戻れない。非常に美味である。
◆蛇◆
キャラクター名鑑 #0204
【アーメン†ラーメン】
役職:ギルド『セラフィム』ギルドメンバー(臨時)
八欲王の一人、『美食王』
住居:ギルド拠点『天上兵器都市 ヴァーラスキャールヴ』客室
種族レベル:
人間種のため、種族レベルなし。
職業レベル:
など
[職業レベル:取得総計100レベル]=計100レベル
※1:プレイヤーのカルマ値は(スキル等で固定されていない限り)行動によって変化する。また、実績によって数値が変動するのであって、数値が精神に影響するわけではない。この点はNPCよりも現地人に近いシステムが適用されている。
◆足◆