OVERLORD:The Invisible Watchmaker   作:Stormgren

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―ふたたび心室―

 本当は()()()()()のところも回ろうと思っていたのだが、もう随分いい時間になってしまった。これは後日にしよう。

 

 心室(コアルーム)に戻ってきた俺は、心を落ち着けるための休憩も兼ねて、ルーチンワークと化した()()を始める。

 目の前には多種多様な宝石がゴロゴロ。この世界で手に入れたごく普通のルビーやらダイヤモンドやらもあれば、ユグドラシルから持ち込んだ胞体結晶(ポリトープ・クリスタル)可能態の紅玉髄(ダイナミスカーネリアン)といった希少素材も混ざっている。

 これらを媒体とした、()()()()()()()()()()の永続化。そのための実験を心室(ここ)で、ギルド武器の助けも借りて行うのが俺の日課だ。

 

「うえさまなにしてるですー?」

「なんか作ってるですー」

「石ころなのですー」

「きれーな石もあるです」

 

 幼女型スライムのシズク&分体姉妹(シスターズ)がわらわら集まってくる。普段なら俺の作業中に話しかけてきたりしないのだが、今日は久々にかまってやったせいか妙に甘えたがる。やめろやめろ。お前ら邪魔。

 と言いつつ俺も幼女をあんまり冷たくあしらうのは気が引けて、ついつい話し相手になってしまう。まあ単調な作業だから暇つぶしに会話を挟んでもいいけどさ。

 

「ん~、これはね~思念結晶(サイクリスタル)っつって、あるといろいろ便利に使えんの」

 

 消費したMP量に応じたレベルで作成され、一定時間経過で消滅する、手のひらサイズの小さな結晶体。単体では戦闘能力を持たないが、運用次第で恐るべき万能兵器に化ける。

 この思念結晶(サイクリスタル)、ほんとに使い道が多彩すぎるので、一言で〝こういう代物です〟みたいな表現ができない。いちおう人造物(コンストラクト)系の使い魔ってことになるんだろうか?

 

 ()()だが――最高レベルかつ消えない思念結晶(サイクリスタル)を無制限に量産できるという条件下なら、たぶん俺ひとりでもワールドエネミー三十二体を同時に相手取って全滅させるくらいのことはできてしまう。別に俺じゃなくても同様。しかしそこまでの高品質媒体が都合よく大量に見つかるとは、さすがに思っていない。

 だから最高レベルじゃなくていい。とりあえず最低限、全機能がアンロックされる程度のレベルでは永続個体を作れるようにしておきたい。そのため俺は日々こうして内職に精を出しているわけだ。

 

 草木でも金属でも死体でもなく、宝石や結晶系鉱物素材が思念結晶(サイクリスタル)の定着に必要らしい、というところまでは自力で調べ上げてある。

 あとはひたすら石の種類と質量、生成クリスタルのレベルを変えながら、実験アンド実験そして実験あるのみ。

 

 紅玉(ルビー)(いち)グラム、十レベル。生成:転移後DD日TT時MM分。

 星紅玉(スタールビー)(いち)グラム、十レベル。生成:転移後DD日TT時MM分。

 薄紫水晶(パープルアメジスト)(いち)グラム、十レベル。生成:転移後DD日TT時MM分。

 胞体結晶(ポリトープ・クリスタル)(いち)グラム、十レベル。生成:転移後DD日TT時MM分。

 

 蒼玉(サファイア)(いち)グラム、十レベル。成功。

 翠玉(エメラルド)(いち)グラム、十レベル。失敗。

 金剛石(ダイヤモンド)(いち)グラム、十レベル。失敗。

 黒瑪瑙(ブラックオニキス)(いち)グラム、十レベル。成功。

 

 俺は淡々と次回確認分の思念結晶(サイクリスタル)を生成しつつ、前回生成分クリスタルの配置枠をチェックし、検証リストのパターンごとに設けられた生成日時と結果の欄を埋めていく。

 本来の持続時間が過ぎても生成物が消えていないパターンは成功。消えていれば失敗。媒体の種類、質量、生成レベル――組み合わせで試すべきパターンは無数にあり、先は長い。気が遠くなりそうなほどに。

 しかし時間は腐るほどある。気長にやっていけばいいだろう。

 

「いまんとこ現地素材の中ではサファイアとオニキスが好成績か。どこまで行けるか……最低五十五レベルは作れないと実用性がな~~」

「このリスト全部埋めるです?」

「うえさまひとりで試してるです?」

「まだ埋まってないパターンがいっぱいあるのです」

 未検証パターンのページをめくり、うへー、と幼女フェイスでうんざり顔を作るシズク三号。

 

 分担して人海戦術で検証できたら楽だったのは確かだが、思念結晶(サイクリスタル)はあくまで俺が使うためのものだし、生成は俺自身でやらなければ意味がない。そう思ってNPCには同様の能力を持たせなかったのだ。今となってはちょっと後悔している。もう何人かいれば検証だけでも任せられたのだが……。

 という話を愚痴まじりにこぼしたら。

二重の影(ドッペルゲンガー)さんに手伝ってもらうんじゃダメなのです?」

 

 HAHAHA甘く見るんじゃないよシズクや。たとえ上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)を動員したところで、奴らには変身能力の限界があるから高レベル帯のクリスタルを作れない。とても俺の代わりは務まらないし、大した助けには……

 

 いや結構な検証パターン埋まるな????

 

 そもそも今やってる思念結晶(サイクリスタル)作成実験で一番面倒なのは、手探りでいろんな媒体を試さなきゃならない低レベル帯の方だ。レベル一のクリスタルすら永続化できない素材とか、永続化できるレベルが十以下で打ち止めになる素材とか、そういうのを弾いていく作業に気の遠くなるような試行回数が必要になる。

 ドッペル部隊に俺の姿を模写させ、低レベル帯クリスタルの膨大な検証パターンを分担してもらえば、ほんとうに有望な素材を絞り込むまでの大幅な工期短縮が見込めるだろう。

 

 加えて思い出したが――俺の代わりに高レベル帯の思念結晶(サイクリスタル)を作れる奴らだって、いることはいる。

 二重の真影(マスター・ドッペルゲンガー)五人衆。いずれも一〇〇レベルNPC。ストックしておける変身バリエーション数の大幅減と引き換えに、一〇〇レベル・キャラクターの能力すら九十パーセント以上写し取る再現精度を得た、コピー変身のスペシャリストたち。

 現在は製作部門や諜報部門で万能サポーターとして活躍しているが、一時的に俺のところで借りても業務が滞るほどの影響はないはずだ。

 

 なんで俺はこんな基本的な業務効率化を幼女に指摘されるまで思いつかなかったんだ? 転移前にもさんざん二重の影(ドッペルゲンガー)という種族の潜在能力について考察していたし、ナザリックのNPCで()()()()()()()()()()()はパンドラだろうとも思っていたのに。自分の頭の悪さに嫌気がさして死にそう。もぅマヂ無理。

 

「分担して素材の絞り込みをやる前提の検証計画に組み直すか……はぁぁ~~……」

 俺が今までコツコツやっていた実験は無駄だらけの手遊びでした。衝撃の真実に休憩代わりの内職すらやる気が消し飛んでしまい、俺は大の字になってばったり倒れる。

 

 飲食睡眠呼吸不要かつ疲労無効であろうと、意志力の欠乏はどうにもならない。いや魔法で活力をぶち込む方法がないわけでもないが、それをやろうという気すら起きない。我はゼロ。タトゥーが光る八本指のハゲマッチョではなく気力ゼロ。もう人間に変身してでも不貞寝してくれようか。

 

 などと考えていたらマジで久々に眠りたくなってきたので、俺は〈完全変態(トゥルー・メタモルフォーゼ)〉を発動し人間の身体にフォームチェンジする。この禍々しい字面の呪文はほとんどあらゆる種族に化けられる最高位変身魔法の一つで、種族レベルこそ変動しないものの、基本的な特性・耐性などは変身先の種族能力を完全にコピーすることが可能だ。

 こっちの世界に来てからは生理機能もきっちり再現してくれるので、俺は人間に化ければ前々世と同じように飯を食えるし睡眠も取れるし多分やろうと思えばセックスもできる。

 

 なにより他種族や自分自身についての感じ方が、発動中だけとはいえはっきり人間寄りに戻る自覚がある。

 悲しいことに前世(リアル)の俺は()()()()()()()だったので、肉体だけ人間になったところで人格まで健全になれたりはしない。しかし少なくとも、〝人であった頃の自分ならどう感じるか〟を擬似的に再現することはできる。これが一番大事な効果と言っても過言ではない。

 

「おっ……お、おぉ~。そうそう、これだよこれ。ん~人間性(ヒューマニティ)ィ~~~」

 

 全身の知覚チャンネルが一斉に切り替わり、その鮮烈な刺激の飽和に圧倒された俺はいつものように語彙を喪失。これには何度やっても独特の感動がある。

 

 懐かしい肉体の感覚を取り戻してしみじみ浸るのも束の間、やはり精神の疲労が負担になっていたのか、強烈な眠気が襲い来る。脆弱な人の肉体に化けたとはいえ俺も一〇〇レベル。このままゴロ寝しても風邪をひくようなことはあるまい。

 

「うえさまがおねむなのです」

「人間さんの姿は珍しいですー」

「シズクがおそばで護衛するのです」

「うえさまの安眠を死守なのです」

 

 目を閉じて微睡んでいると、何やら柔らかいものが腹の上に寝そべり、両腕に抱きつき、頭の下に潜り込んでくる。

 もちもち。

 もちもちしている。

 たまらぬもちもちであった。

 

 幼女スライム四姉妹を枕と布団にして就寝。贅沢なんだか安上がりなんだかわからんが寝心地はたいへんよい。おまけにこいつら攻撃力こそ自衛程度でしかないものの、防御と回復にかけては専業プレイヤーと同等以上の水準で練り上げてあるため、性能的にはこの世界で最も安全に眠れる寝具と言える。ユグドラシルだったらR18規制違反(接触過多)でアカBAN喰らいそうだけど。

 

 ああ――それにしても今日はよく働いてしまった。

 俺らしからぬ勤勉さだ。いつになったら怠けられるのか。なんかヤン・ウェンリーみたいなこと言ってる自覚はあるが、残念ながら俺にあんなチートじみた将才はない。せいぜい原作知識持ってるだけのアンドリュー・フォークがいいとこ。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処せねば。

 

 ともあれ、おやすみ異世界。明日もよい日を。

 スヤァ。

 

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