OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
DMMO-RPG『
ギルド拠点ごとの異世界転移に成功した俺は、さっそく身体機能や魔法・スキル・所持品を確認したり、ユグドラシルから連れてきた公式NPCたちを客室へ案内したりと気忙しく働くことになった。
その過程で自家製NPCたちの力も少なからず借りたし、どうやら原作ナザリック勢同様、ギルドメンバーに対する忠誠心を持ち合わせているらしいことは確認している。しかし俺個人に対する認識はどうなのか、あるいはちゃんと設定文通りの思考・言動になっているか、なんてことを忙しい中で全員分チェックして回れるわけはない。
仕方ないので初動が一段落した後、俺は
どうせやるなら嘘を感知できるマジックアイテムを装備しておき、言動と意思の一致しないNPCがいればマークしようと思っていたのだが――その矢先、
明らかに
おい嘘だろ。まだこの世界に来てから八時間くらいしか経ってないぞ。
「敵襲だと? ……リーギリウム、被害状況の確認を。
カレルレン様、まことに残念ですが忠誠の儀はまたの機会に。いまは防衛戦の指揮を執らねば」
最初に状況を看破し、対応に向けて動き出したのは神話的美形エルフ(外装のみ)のエルスワイズ。さすがに全部門のNPCを束ねる地位にいるだけあり、判断が早い。
とはいえ俺たちはこの世界に来たばかりで、ここが
たとえば原作開始時点の百年後とかに転移してしまい、大陸全土を征服したアインズ・ウール・ゴウン魔導国から領
先制攻撃がモモンガ自身の指示とは考えにくい――あいつはこの拠点の外観も、
もしくは今が原作五百年前の戦乱期で、八欲王や
まずは敵の正体を探るところからだ。俺はエルスワイズの指示に便乗する。
「リーギリウム、損害確認ついでに外の様子も映せる? 敵軍の規模や編成が知りたい」
水を向けると、諜報部門の長たる銀髪ショタっ子ダークエルフ(擬態)は力強くサムズアップした。
「オッケー、ちょうど両方捉えたトコだ。投影するぜ!」
リーギリウムの情報的防御は装備効果と
俺が指示する前から発動していたらしい念視系スキルの視界が幻術と結合し、
「まず損害だけど、『シング』の外殻装甲が七層まで抉られて、表面積の十二パーセントにダメージ受けてる。表層を守ってた
ダンジョン構造物を損壊させるのは簡単ではないはずだが、敵はギルド拠点に一発で巨大なクレーターを刻むような攻撃手段を持っているらしい。ついでに消し飛んだ
相手はそれをまとめて瞬殺する超位魔法クラスの火力を持つということ。間違いなく強敵だ。
「んで敵の方は、さっきまで『シング』の周りを飛び回ってたけど、
そして映し出された〝敵軍〟の姿は、たった一体のドラゴン。
神々しいまでの威厳と造形美を兼ね備え、白金色の外皮鎧を身に纏う、ユグドラシル以前のどっかで見たようなその姿は――。
……アイエエエ!!?!? ツアー!? ツアーナンデ!?
部下たちの手前、俺はなんとか叫び出すのをこらえる。記憶にある書籍やアニメのデザインよりちょっと細身に見えるが、ありゃ間違いなく〝
出現したばっかで情報ゼロのギルド拠点に本体単騎カチコミとか、てめー正気か? アズスを捨て駒にしつつ鎧ドローン飛ばしてリモート小手調べに徹する原作での用心深さはどうしたよ。だいたい八欲王のギルド武器は? まだ
原作知識が
「おーしみんな聞けー。詳しい説明は省くが、あのドラゴンはこの世界における最重要人物のひとりだ。難しいことを頼んで申し訳ないけど、殺さず追い払うか――いや、できれば捕らえてもらいたい」
ざわッ、とNPCたちの間に動揺が走る。さすがに来たばかりの未知なる世界で、「あいつが重要人物」なんて言われても信じられないか?
と思っていたが、こいつらが反応したのはそこではなかった。
「
切実な声と表情で訴えるのは、魔法研究部門統括・眼鏡魔女っ娘のミハネ。周りの奴らも同意を示すように頷いている。俺もつられて頷いてしまう。アッハイ。
ナザリックの連中に比べ、主君への態度はかなりフランクになるよう調整を施したはずだが、ブラック労働を求めるNPCの本能みたいなものはうちの奴らにも標準搭載されているらしい。
初見の敵の情報を何で知ってるんだよ、というツッコミはどうやら入らなさそうなので、俺は覚えている限りのツアーの情報を共有していく。
推定一〇〇レベル級のドラゴンであること、位階魔法とは異なる体系の魔法を行使すること、使えることが分かっている魔法の効果など……
「
レベルは……見えにくいけど、ボスの言う通り、たぶん一〇〇近くあると思う」
ツアーのステータスに探りを入れていたリーギリウムからの補足情報。
それら一通りを黙って聞いていたエルスワイズが、虚を衝くような問いを投げてくる。
「ひとつ確認ですが……彼を殺さず止めるとして、
幸いにしてエルスワイズが怪しむほどの時間をかけずに答えは出た。
拠点の防備、戦力、技術、それから自家製NPCたちに詰め込んだ過剰なまでの高性能――殺してはいけない相手に対し、それらを
「基本的に、
とりあえずフィールド変化系と広域破壊系、あと大規模構造物の召喚は無しだな……見た目が地味なやつとか、効果の解りにくいものなら使っていいかな?」
俺がいくつか思いつきを並べていくと、途中でエルスワイズが手を挙げて遮った。
「そこまで指針をお示しいただければ、充分です。あとは我々で戦術を組み立てましょう」
続けてエルスワイズは他のNPCたちに向き直り、指揮官らしく作戦を伝えていく。
「――先鋒はキャロル。敵が未知の転移魔法を使う以上、我々の持つ転移阻害手段で逃亡を封じられる確証はない。よって、まずは〈
キャロルが着火に成功したら前衛をシズクにスイッチングし、作戦を第二段階に移行する。〈
即興とは思えん迎撃プランがすらすら出てくる様に感銘を覚えていると、袖を引く小さな手の感触が。
「オレはこのまま拠点の中から援護だな! ボスはどうする?」
何かを期待するようなリーギリウムのきらきらした目が眩しい。わかってるよ、俺もここで援護に徹するのが最適解だよな。強いて分類するなら俺のビルドは指揮官型
でもその前にやっておかなきゃならんことがあるんだ。
「お前たちが戦闘準備してる間に、ちょっと
「え?」
「は?」
「誰と――」
困惑するNPCたちを残し、俺はさっさと〈
行き先は拠点の外、雲の壁に囲まれた円い空の下。
第二撃に向けてエネルギーを溜めているらしい
「なに!?」
世界に自動翻訳された渋い声で、白金の竜が驚きを表明する。悪くない反応だ。少なくとも意表を突くことには成功している。
その隙に付け込むべく、俺はさらに畳みかける。
「鎮まれェー! 鎮まりたまえ! さぞかし名のある竜と見受けたが、何故そのように荒ぶるのか!?」
なに言ってんだこいつ、みたいな顔をしてツアーが固まる。異世界の竜王すら瞠目させるとは、さすがはジブリ史上最高のイケメン(※諸説あり)が発した御言葉。パワーが違う。
本来なら竜の表情なんか分かるはずはないのだが、『忠誠の儀』に備えて装備していたアイテムの効果か、人型とかけ離れた異種族相手でもある程度の感情表現を読み取れるようだった。これはツイてるかもしれん。
「……お前は、ユグドラシルから来た〝ぷれいやー〟なのか?」
あくまで臨戦態勢を解かず、ツアーが問いを投げてくる。会話に応じてくれたというよりは、純粋に情報を引き出そうとしている感じだ。
ま、いいけどね。意図があるのはこっちも同じだし。
「そうだよ。あんたは? 言葉通じるみたいだけど、このあたりに住んでる竜さん? 俺たち、ちょっと前まで別の場所にいたはずなんだけど、気付いたらここに飛ばされてたんだよね」
俺はツアーのこともこの世界に転移するであろうことも知っていたが、しかし原作知識は基本的に秘匿事項だ。ここでは「何も知らず転移に巻き込まれたモブプレイヤーA」として振る舞わなければならない。
後方の『シング』を指で示し、ゲーム気分が抜けきっていない能天気なプレイヤーを演じる。普段と大して変わらん気がするのはご愛敬。
「あの
「お前が〝ぷれいやー〟であるなら、この世界のことを知る必要はない」
竜の腹から全身に、葉脈のような碧い光が走る。
見るからに大技の前兆。おそらくは、拠点外殻にクソデカクレーターを刳り抜いた攻撃――原作でも詳細不明だった、あの大爆発が放たれようとしている。
「ただ滅びろ。その力が、再び世界を汚す前に」
どうも原作よりだいぶプレイヤーへの殺意が高い。これは十三英雄のリーダーに会う前の時系列と見た方がいいか? ツアーにも八欲王への恨みマシマシのやさぐれドラゴン時代があって、ちょうど今がそこなのかもしれない。
大気を震わす膨大なエネルギーがいよいよ形になろうという寸前、俺は〈
「
まあ見込みが外れて直撃+無効化失敗したら多分即死するが、幸い俺には経験値ペナルティなしで復活する手段が豊富にある。ノーペナ死亡一回で敵の切り札を一枚見られる、と考えればパワープレイヤー的には充分アリな交換レートだ。
「ガァッ!」
手の内を見せることを嫌ったわけでもないだろうが、ツアーは瞬時に爆撃を中止した。そしてわざわざ近接格闘レンジに入ってきた俺に対し、巨体を右回転させながら流れるような肉体武器の連撃を繰り出す。
牙、爪、翼、尾、さらに裏拳気味の翼、爪。竜種の身体能力に頼った力任せではない。モンクめいた技を感じさせる武の舞踏。
フルコンボ空振りというせっかくの隙なので、反撃の代わりに位階上昇させた〈
あの鎖は物理的な拘束力を発揮するもんではなく、〈
そして連続攻撃が不発に終わったツアー氏はというと。
「無傷だと? 非実体か……いや、だとしても半分の威力は通るはず……」
魔法武器で非実体クリーチャーを殴ると半減ダメージが入る、というのは確かにユグドラシルの仕様だ。高位のドラゴンの肉体武器はすべて神秘を帯びたものとして魔法武器扱いになるので、実際ツアーの格闘攻撃は非実体の敵にも有効だろう。
ツアーがわざとらしく推測を口に出してみせたのは、こっちが得意になって無効化のカラクリをベラベラ解説するとでも踏んでのことだろうか。過去にそういう迂闊なプレイヤーがいたのかもしれない。俺はチキンなので種明かしなんて親切な真似はしてやれないが。
「さぁて、どうしてだろうね……ともあれ竜さんよ、何があったのか随分プレイヤーに怒り心頭みたいだが」
すでにエルスワイズからは「準備完了」の連絡を受けている。頃合いだろう。
俺はテレパシーで攻撃開始の指示を出しながら、底知れぬ強者っぽく見えるよう精一杯の虚勢を張り、両手でファックサインを掲げつつ言う。
「他人に〝滅びろ〟とまで言うなら、自分が滅ぼされる覚悟も、当然してるんだろうな?」
俺の真後ろに〈
彼女と入れ違う形で、俺は前を向いたまま背中から〈
「……ボス! あんた何やってんだ、敵の前に一人で飛び出すなんて!」
リーギリウムが美少年フェイスにマジな怒りを浮かべてポカポカ叩こうとしてくる、のだが物理無効がついてるせいで全部すり抜けてしまっている。言うことはもっともなので素直に謝っておこう。
「心配かけてごめんなー。対話の姿勢を見せれば戦わずに済むんじゃねーかと思ったけど、ありゃ覚悟キメて殺しに来てるわ」
おかんむりのショタっ子をひとしきり撫でてやり、俺はふわふわっと飛んで定位置へ。ギルド武器を装備し、ユグドラシル時代から幾度となく仲間たちを勝利に導いてきた
さて。
まさか転移初日から推定現地最強キャラと戦う羽目になるとは思わなかったが、幸いにしてここは自軍のホームであり、相手は単騎。ツアーがどこかに伏兵を忍ばせているか、あるいは本人がよほどの――それこそワールドエネミー級の――化物でもない限り、はっきり言ってこちらが負ける要素はなさそうに思える。
懸念点があるとすれば性能限界不明の
奴がいったい何を思って無謀な単騎特攻に及んだのかは後で訊き出すとして、この戦いはNPCの忠誠心や実戦性能を推し量るいいテストになる。悪いが利用させてもらおう。