OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
ばくり、と竜が
おそらく例の超火力広範囲攻撃が来る。ていうか【破界の吐息】? あの謎ボムそんな名前だったんかい。
竜の顔が向く先は、目の前にいるシズクではなく、俺のいる
なんだよツアー。勝利条件よくわかってんじゃねえか。
お前は迎撃に出てきたNPC全員を律義にボスラッシュで倒していく必要なんてない。俺と『シング』さえ沈めちまえば、うちのギルドは瓦解する。
でも
「〈
呟くようなシズクの声とともに、竜の口内で碧い光が霧散した。
ツアーがあの
「なッ――!?」
さすがの竜王もこれには目を見開く。わかるよ、必殺技を出かかりで潰されると心理的ダメージ大きいよな。
ついでに巨体を覆う竜鱗のきらめきが先ほどまでより陰っており、シズクの〈
たぶん行けるとは思ってたが、やはり三法印スキルは真なる竜王にも効くらしい。さすがに
などと考察するうちにも、視点がぐんぐん竜に接近する。シズクが距離を詰めているのだ。
「〈
ついに辿り着く徒手の間合い。全身から色が抜け落ち、透き通るような白一色となったシズクの細腕が、まっすぐ掌打を繰り出す。〈
肉体武器攻撃に、接触ダメージ系の職業・種族スキルを組み合わせた三重の破壊作用。その全てが防御無視かつ〈
「〈指弾〉、〈
掌打と同時に零距離発射されたエネルギー弾も合わせ、一瞬で四撃を装甲の内側に叩き込まれたツアーが、たまらず吹き飛ぶ。そこへダメ押しの〈
おい何だそのエグいコンボ。ユグドラシルでもそんなAI組んでなかったろ。攻撃力不足を補うためにいろいろスキル積んだのは分かるけど、シズクも微妙に殺意乗ってんな? 俺の知らない文脈で敵と味方が勝手にヒートアップしていてちょっと困惑する。
「いかなる
シズクが構え直した腕は人肌に擬した赤みを取り戻し、纏う着物も白から黒に戻る。〈
もっとも、シズクに
「うえさまへの不敬、暴言、目に余るのです。お覚悟、失礼なトカゲさん」
「その物言い……〝えぬぴーしー〟か!」
あーあー。シズク、怒るとこ
しかしシズクは基本的にタンク兼ヒーラーなわけで、さっきみたいな大技でも使わない限り、まだまだHPが有り余っているボス級ドラゴンと殴り合えるほどの攻撃力はない。お覚悟とは言うものの、どうするのか。
答えは〈集合体〉のテレパシー回線に
「シズクが敵の強化を剥がし、回復もろとも封じた。作戦を第三段階へ移行、
エルスワイズの号令。なるほどここまで中衛後衛が動かないなと思ったが、待ってたタイミングは
基本的に今回、ツアーの迎撃は戦闘可能な一〇〇レベルNPCだけで行うことになっている。
理由はさほど深いもんでもない。そりゃ高レベル傭兵モンスターを何百体もけしかけて圧殺すれば勝てはするだろうが、相手が強力な範囲攻撃を持っていることが分かっていながら物量戦を仕掛けるのは、想定損耗率の高さを考えると避けたい攻略法だ。
感情のレベルで言えば、べつに傭兵モンスターの命なんぞいくらでも使い捨てにできる。なんなら自家製NPCでも同様。だが高レベル傭兵は一体召喚するのにユグドラシル金貨が数千万枚、強力な種族になると補正値の関係で一億枚以上も必要になることがある。実際に使い捨て運用をやるには、いくらうちが黒字経営でもコストが高すぎる。
まあ魔法やスキルでの召喚に限定すればギルドの懐は痛まないんだけど、あんまり大軍を抱えているとツアーに思わせるのも――事実ではあるが――
というわけで、スペック的には対抗できるであろう一〇〇レベルNPCを前に出し、実験も兼ねて少数精鋭のみで対応する。あいつらなら自前の召喚モンスターを出せる奴も多いし、
「お待たせいたしました、カレルレン様。我々をシズクのもとまでお送りいただけますか」
「輪形陣Bでいい?」
俺のざっくりした確認に、エルスワイズから肯定の意思が返る。
「そのように」
「ほーい。そんじゃあお前ら、最後まで油断しないように――〈
発動するのは第六位階のグループ転移魔法。本来は自分を中心とした中距離範囲内で、味方複数の位置を任意変更するもの。キャロルとシズクを入れ替えるときに使った〈
例によって〈集合体〉と組み合わせることにより、メンバー全員がそれぞれどこからでも転移させられる対象になり、かつ再配置範囲の計算起点にもできる。――こうなると、
今回は味方の周りに戦力を集める――ついでに敵も包囲する――というベーシックな使い方。これだって充分強力だが、俺からすると初歩の用法に過ぎない。
この魔法がユグドラシル時代に最も悪用されたのはダンジョン攻略だろう。たとえば隠密特化ビルドの〈集合体〉メンバーが単身モンスターやトラップを全スルーして最奥付近まで潜入したあと、俺がそいつの近くに〈
ともあれ現在。
飛び回るシズクと、それを叩き落とそうとするツアーの周りに、五人の一〇〇レベルNPCが出現する。当然、全員が飛行能力持ち。
キャロルは死ぬと困るので後詰も兼ねて拠点内待機、しかし〈
後方支援も合わせれば、彼我ともに一〇〇レベル帯の九対一。仮に一人の方がワールドチャンピオンでも、ユグドラシルなら完全に詰んだと言える状況。
それでもツアーは弱気の欠片さえ見せない。
「何を狙っているかと思えば――囲めば倒せると思ったのか?
だが、お前たちは
奴ら? 百年前? 誰と戦ったんだ。順当に行けば八欲王だろうが、俺の知らないプレイヤーかもしれないし、
もっと情報落としてくんねえかな……という俺の期待も虚しく、乱戦が始まる。
「〈
初手、追加投入した五人が一斉にモンスターを召喚。創造。解放。とにかく魔法やスキルで場に出しまくる。いずれも七十レベル以上、スキル召喚の上位個体になると九十レベル近い個体すら混ざっている。
そいつらが、シズクと空中戦を演じるツアーに殺到。魑魅魍魎の押しくらまんじゅうで空域が一気にゴチャつく。このカオスの中なんとか戦況を把握しようとNPCどもの視点をぱちぱち切り替えてみるが、さっぱり分からない。てめーら邪魔だよ敵が見えねぇだろ。
とはいえ無理にコントロールする必要もない。現状すでに、カンストプレイヤーでもそのまま死にかねない集団暴行めいた包囲攻撃が完成している。囲んで棒で叩く、古来これに勝る戦術は結局ないのだ。ついでに俺も〈
が――その空中モッシュピットの内側から、光の刃が何本も螺旋状に踊った。
「失せろ、雑兵どもッ!」
包囲を斬り破ったツアーが
見上げればツアーの外皮には陽光の輝きが戻り、四肢と翼の爪はエネルギーの刃で延長されている。野郎あのビームサーベルで全身武装してきやがった。〈
しかしあれだけ囲んで叩かれればツアーも無傷ではない。
繰り出されたモンスターのほとんどはNPCたちのスキルで強化されており、ボス級の竜にも最低限ダメージを与えられるだけの攻撃力はある。さらに前衛モンスターたちの合間を縫って、サティアの光弓とケイスの二挺拳銃が間断なく高火力の矢弾を撃ち込んでいる。
リーギリウムの観測では着実にHPを削れているというし、目視できる傷もいくらか増えていた。ここは逃がさず攻め継続のターンだ。
ツアーを追う召喚モンスターとNPCたち。中・後衛五人は減ったモンスターを補充しつつ遠隔攻撃、シズクは必要に応じて味方の回復と敵の妨害を続ける。
実は俺もNPC経由の魔法転送で
ナイトブレードを一撃で葬った【光爪】はどうやらアンデッド特効のようで、九十レベル級の他種族モンスターなら数発は耐えられるらしい。が、七十レベル程度の魔法召喚モンスターだと、基礎ステータスの差により種族問わず即死してしまう。当然一〇〇レベルNPCとて直撃すればタダでは済まない。
シズクが的確に結界術を挟んで、どうにかツアーの動きを制限してはいるが……
サティアやヘスは信仰系
となると、ユグドラシル時代に
「んん……しゃーない。やるか。
〈
下準備にいくらかのスキルと魔法を発動し、
「死にそうな奴がいたらHP
「了解なのですー」
代替ヒーラーといっても、専業の信仰系
まず〈集合体〉メンバー全員に〈
〈集合体〉に接続しているメンバーは非戦闘員含め数十人、しかもその大半が自前の再生なり高速治癒なりを持つ。それらも合わせた
この余剰HPプールは、〈集合体〉メンバー間でHPを融通するスキル〈
これらを合わせるとどうなるか。
「
「おっけー。〈
前線の状況に応じて、俺が余剰回復プールからHPをシズクに転送し。
「〈
シズクがそのHP回復を、
今にも力尽きて墜落しそうだった、きらめく結晶質の羽毛を持つ巨鳥『
そんな鶏ガラより
しばらく召喚モンスターの延命を続けていると、さすがにツアーも敵がしぶとくなってきたと気付く。
ヒーラーが敵のヘイトを集めるのはユグドラシルと変わらないらしい。自身を包囲するモンスターの間で、飛び回るシズクが何かしていると気付くや、白金の竜は全身に走る脈状紋を発光させ――
「【流火】」
すわ【破界の吐息】零距離発動での自爆攻撃か……と身構える俺の目に入ったのは、竜の口から細く長く吐き出される、白く眩い一本の光線。
それは直撃したシズクをほとんど
防ごうとしたモンスター数体を消し飛ばし、避けそこねたエルスワイズの半身を削り取り、遥か後方の
ちょ、おま……
情報量とツッコミどころが多すぎていろいろ追いつかねえ!
とりあえず致命傷っぽいシズクからなんとかしよう。〈集合体〉の繋がりでメンバー各員の健康状態はおおよそ把握できている。シズクのHPは既にゼロ。通常なら死んでいるが、ユグドラシルでも猛威を振るった二つのスキルが有効なら
「シズク、まだ行けるな」
「――〈
空中に、巨大な蓮華が咲いた。
花そのものは単なるスキルのエフェクトであり、すぐに消えるのでどうでもいい。重要なのは、装備以外手のひらサイズの破片しか残っていなかったシズクが花弁の中心から再び姿を現し、
シズクのHPもしっかり全快していることを確認し、またひとつ重要な検証が地味に終了。〈
パワープレイヤーが手段を選ばずガチ設計したNPCなら、一度や二度の自動蘇生は――シズクのこれは
あれはまだ〈
いやうんざりしたいのはこっちなんですけどねえ????
多少は消耗してたとはいえ、一〇〇レベルNPCの――しかもヒーラー兼業とはいえタンクの――HPを
「ボス、さっきの光線な……撃つときあいつの
リーギリウムの報告で俺は正気に戻る。やはり
まあ本来
しかし本当にそうだとすると、プレイヤーと
……いかんいかん。気を抜くとユグドラシル時代のマンチ技研究モードで思考してしまう。いまは頭をPVPモードに切り替えねば。
「ん、あれもそこそこ大技ってわけか。連発できなさそうなのはありがたいけど、【破界の吐息】より出が早いのは厄介だな」
例のチートビームが掠っただけで半死に追い込まれたエルスワイズを〈
召喚モンスター主体で包囲攻撃。この方針はいいはずだ。問題はツアーの火力が遠近ともに高すぎること。九十レベル級のモンスターですら、ノーガードで殴り合えば十秒も足止めできない。
おまけに
単純にこの世界線が原作よりプレイヤーに厳しいハードモードなのか、もともと純粋なダメージ系の魔法は無効化できないのか、それともツアーの術だけに何らかの耐性迂回手段が仕込まれているのか? 現状判断がつかない。このへん原作にもあんま情報ねえからなあ。
もう何枚か、伏せたカードを場に出すべきだろうか。
第零臓区の
あるいは、
だが――――片鱗とはいえ、見せていいのか。
この世界に来て、まだ一日も経っていないのに。よりにもよってツァインドルクス=ヴァイシオンを相手に。
などと俺が逡巡している間に、ツアーが先手を打ってくる。
「……
ツアーの全身を覆う白金色の外皮鎧が、一斉にはじけ飛んだ。
何か呟いてたな、装甲パージして防御力と引き換えに素早さ上げる系の技か? ――と思ったのも束の間。飛散した甲皮がさらに小片へと分かれ、それぞれが
その数、百以上。リーギリウムが叫ぶ。
「また一気に
アレひょっとして鎧ドローン+浮遊武器の廉価版か? つーか材料てめーの外皮かよ。単体でも強い上に数の暴力アタックまで可能とか、いよいよ隙がねーぞ。
刃嵐が荒れ狂う。最初にツアーを囲んでいたモンスターたちが切り刻まれ、あまりの攻撃密度に七十レベル台は数秒で全滅。八十レベル以上の連中はなんとか刃圏からの離脱に成功するも、ボロボロの有様で即時の再攻撃は無理だろう。
本体周辺の敵を一掃した刃群は、さらに飛翔範囲を広げて拠点NPCたちにも攻撃を仕掛け始める。
最初に狙いを集中されたのはお下げ髪のマジカル☆図書委員・ミハネ。魔力系
「ちょ……っと! こいつら、堅い!」
ミハネは短距離転移で逃げ回りつつ、向かってくる刃を〈
他のNPCたちも、それぞれ自分に差し向けられた刃群への対処に追われ、ミハネの窮地を充分にカバーできていない。長距離援護向きの武器を持つケイスやサティアも、弾幕で自分の身を守りつつ、とてもフリーにはしておけないツアー本体を牽制射撃で釘付けにしており手一杯。
それぞれ本気を出せばもっと善戦できるんだろうが……ツアーに情報を与えないためとはいえ、ちょっと縛りをキツめにかけ過ぎたか? 切り札以外にも、この局面で有効そうなスキルやアイテムを温存してしまっている奴が何人かいる。エルスワイズとサティアは
とはいえ現場がこれで行けると判断している以上、まだ俺が口を出すには早い。基本的に俺より頭の回る連中だから、ちゃんと考えて力をセーブしているのかもしれないし。
などと思っていると、ミハネから
「くっ……カレルレン様、こいつらを
このまま削り殺されるくらいなら、自爆型スキルで一掃してしまおうという魂胆のようだ。
ちゃんと状況判断して、使用可否の微妙な技について許可を取りに来るあたり優秀である。確かに
でもあれはミハネが持つ最強の切り札の一枚だし、
可能な限り、「二度と復活できないように殺す」相手にしか見せたくないのが正直なところだ。――というわけで却下。
「だーめ。そのまま
「仰せの、まま、に……!」
原作アインズだったら、部下が同じ能力持ってても絶対やらない戦法だろうなあ……という雑念が脳裏をかすめる。
でも俺にとってNPCは
ミハネは最期まで精一杯――とくに強力なスキルやアイテムは封じたまま――襲い来る白金の刃を迎え撃っていたが、正面から来た三枚を〈
HPゼロ。墜落していく死に際のミハネから、テレパシーを通じて苦しげな声が届く。
「申し訳……ございませ……お見苦しい、ところ、を……」
「うんうん。いいんだよミハネ。
返る沈黙。
数秒の後、それを破ったのは、もう喋れないはずの少女の声。
「――ッ、う、はぁっ……!
「ん。〈
求めに応じて状態異常除去の呪文を飛ばしてやると、身体にも装備にも問題がないことを確認し、ミハネは再び戦闘空域へ上昇していく。
どうやら転移後も『
「また復活か!? だが――知っているぞ、貴様らの蘇りは無限ではないと」
戦線復帰したミハネの〈
自動蘇生持ちのNPCなんぞ見慣れている、蘇れなくなるまで何度でも殺す――プレイヤーたちと命がけで戦ってきた竜の言葉には、そういう決断的な響きがある。実力的にも、ツアーなら有言実行できるだろう。
装備効果、魔法、スキル、消費アイテム。なんであれ自動蘇生はリソースを消費する有限のカードであり、その点はプレイヤーでもNPCでも変わらない。「死ぬまで殺す」といえば脳筋じみて聞こえるものの、実際有効な手には違いないのだ。
「エルスワイズ……ミハネとヘスに攻撃が集中するよう、
「はい、ヘイトコントロールを少々。あの二人は蘇生コストが
うちの一〇〇レベルNPCどもは
ほぼ全員が何らかの死亡回避手段を持っており、とりわけミハネとヘスに関しては、金貨五億枚という正規のコストを支払わずに復活できる回数が群を抜いている。
これはつまり、当人の苦痛や復活にかかる時間のロスを度外視して考えれば、HPゲージを何本も持っているのに等しい。
かなり変則的ではあるが、シズク一人では足りないタンクの役割を、この二人が臨時の〝死にタンク〟として分担するのは賢い運用だろう。俺が指示するまでもなくゾンビアタックによる擬似物量戦を仕掛けていたとは。やるな、エルスワイズ。
力尽き墜落していくヘスの死体が、ボロボロの黄色いローブだけを残して消失する。
おや今回は
次の瞬間、
「えっ
思わず部下たちの前で素っ頓狂な声を出してしまった。いくらフレンドリーファイア解禁の異世界とはいえ、本来なら敵を操りでもしなきゃ発動しない特殊蘇生スキルが、味方を生贄にして(しかも二十レベルに満たないPOPモンスターで!)任意発動可能になるのは壊れすぎだろ。ユグドラシルでこんな性能だったら間違いなく一週間以内に修正パッチが入るところだ。
ミハネに続いて戦線復帰したヘスが、薄くなった前衛を支えるため、温存していた切り札の一つを解放する。
「〈混沌招来〉、〈混沌招来〉!」
最上位モンスターの召喚スキルを二連発。呼び出されたのは原作でおなじみ『黒い仔山羊』に、常時不可視の特性を持つ触手だらけのデカブツ『
どっちも単独飛行能力を持たないが、召喚と同時にヘスの職業スキルで飛行能力を付与され、触手をざわつかせながらツアーへ突撃する。
あんまり見た目のインパクトが強いモンスターは出したくなかったが、ツアーの能力が予想を何周も上回ってきたので、もはや最低限のカードだけで勝負できる段階ではなくなっている。
ヘスの判断は正しい。
「ミハネ、エルスワイズ、サティア! フィールド変化なしの召喚系スキルは最上位まで使っていい、ヘスに続け! ここから一気に畳みかける……!」