OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
キックオフ忠誠の儀/NPCの士気を上げるだけの簡単なお仕事
フレーバーテキストや種族特性の関係でここまで来られない連中もいるので、全員ではない。それでも集められる限りの数を集めた関係で、けっこう手狭だ。頭脳労働用に量産した一レベルNPCも何十人か来てるし。
演壇代わりのギルド武器の上に立ち、俺は緊張を押し隠して語り掛ける。
「我が忠勇なる
わざわざ厳かな声と口調を作って、いつものちゃらんぽらんな俺とは一味違うことを印象付けたおかげか。
どこか熱に浮かされていたようなNPCたちの態度が、しんと引き締まるのを感じる。
誰も、微動だにしない。俺の一挙手一投足に、恐るべき怪物たちが注目している。
いまの俺は呼吸の必要ない種族だが、これから長広舌を振るおうという緊張からか、自然と深く息を吸ってしまう。
「この世界に転移してより早数ヶ月、お前たちは既に目覚ましい働きを見せてくれている。
それだけに、我がギルドの
聴衆がにわかにどよめく。
その動揺を、最前列のエルスワイズが片手を上げて制し、いささかの迷いもない視線を俺に向けてくる。
「カレルレン様がそのように思われる必要はございません。我ら一同、ギルドの臣にして駒なれば、ご命令にただ従うのは至極当然でございます」
彼の左右と背後に居並ぶ部下・同僚たちからも、無言の肯定が圧となって放射されるのを感じる。
ツアーと戦う前にも似たような流れやったな。これはNPCしぐさってやつなので否定しても始まらない。鷹揚に頷いておく。
「そうであるとしても、いずれは共有しておくべきことだ。ならば今を、その機としたい。
諸君らの忠誠を受け取る前に、いま一度、我らの
正直言って、俺はモモンガほどロールプレイの巧い方ではない。
しかしNPCどもは
つーかそうとでも思わんとプレッシャーで潰れる。
「知っての通り、私は
このへんは既に周知の情報。なので驚くことは何もないはずだが、NPCどもは「おぉ……!」とか感嘆の吐息を洩らしている。こいつら同じ話を何度聞かされても飽きなさそうだな。
最前列に並んだ一〇〇レベルNPCたちを一瞥し、俺はその中から一人を選んで、問いを投げる。
「ときにヘスよ。我らがギルド、『
「は――『
打てば響くような明答。他のNPCたちにも、困惑や無理解を示す者はいない。
ここまではちゃんと意識共有できてるようだ。よしよし。
「お前たちが大目標を理解してくれていること、まことに喜ばしく思う。
だが、疑問に思った者も多いのではないだろうか――なぜ
『人類』の存続――。
これがプレイヤー相手だったら、賛同するかどうかはさておき、説明せずとも意義を理解してはくれるだろう。なにしろ全員もと人間であり、己が滅びゆく『人類』の一部であるという認識くらいはあったはずなのだから。
しかしNPCたちにとって、大事なものはギルドとその所属プレイヤーだけである。
いちおうフレーバーテキストにも『人類』存続の使命を書き込んではあるものの、ほぼ全員が天才的な頭脳の持ち主として実体化した連中だ。己の本能とも言える使命について、根本的な疑問を持たない保証はどこにもない。
設定を追記して、そもそも
だからこそ、今ここで、モチベーションと方向性を与えておく。
「お前たちよりも弱く愚かな者どもを、なぜお前たちが守らねばならぬのか。なぜ救わねばならないのか。訝しくは思わなかっただろうか?
ああ、答えずともよい――お前たちは言ってくれるだろう。先ほどのエルスワイズと同様に、〝ただ従うのが当然〟だと。しかし私は、お前たちひとりひとりに心底から
ゆえに私は、お前たちに
語った。
俺たちプレイヤーの正体は、リアルの地球という星に生きた
〝リアル〟とはプレイヤーの言葉で〝現実〟を意味し、ユグドラシルは憂き世を離れて遊ぶために作られた
地球上では、言語を発明し文明を持つに至った種族は人間だけであること。亜人や異形はおろか、
人間は文明の発展を制御できず、己が生存基盤たる環境を破壊し、地球の生態系もろとも滅びの道を辿っていたこと。
「……リアルにおいて唯一の『人類』であった人間は、失敗した。
結果、富者は殻の中の楽園に閉じこもり、貧者はその楽園を維持するために穢れた大気の底で働き、死んでいく……そのような世界が出来上がった。
これを愚かと断じることは容易い。実際、すぐれた知能と滅私の精神を持って生まれたお前たちにしてみれば、理解不能だろう。
なぜもっと前に、地球が回復不能なまでに痛めつけられるより早く、一致団結して対策を取れなかったのか? なぜそのような状況に陥ってまで、抜本的な解決ではなく、一部の特権階級の生活を維持することにリソースを投入し続けていたのか?
人間とは、そのような生きものだから……あるいは、それこそが『人類』だからだ……と言ってしまえば、お前たちはなおさら思うだろう。なぜ
だが思い出してほしい。諸君らの主人である、私と
あっ、と小さな驚きの声が、NPCたちの間から洩れ聴こえる。
俺がリアルの『人類』をこき下ろしていたときは、こいつらもどこかリアルの末路を蔑むような、冷めた顔をしていた。たぶん頭の中で結びつかないのだ。自分たちを創造した神の如き
だから俺は、その
「全体を見れば愚かでしかないことも、そのときその場でひとりひとりが、己にとっての最善を選び取った結果なのだ。
国を、組織を、家族を、そして自分を守るため……利益を最大化し、権力を得ようと足搔く、どこまでも分断された個別の意思の総体。それが『人類』であり、歴史とはその足跡である。
だが、必死の延命も虚しく『人類』が滅びてしまえば、すべては無に帰す。
積み上げてきた叡智も、花開いた文化も、途絶えた足跡とともに失われるのだ。あとには死の星となった地球だけが、顧みる者もない歴史の墓標として、冷たい宇宙の片隅にひっそりと残るばかりとなろう。
――
いかにも飛躍して聞こえるであろう話の展開。しかしうちのNPCどもの思考速度なら充分について来られると踏んで、俺は細部を意図的に
実際は、俺がひとりで設定基盤やらギルドの構想やらを定めたわけではないのだが……まあそんな情報はここで並べても仕方ないことだし。
「私は
魔法の存在しないリアルで、誰がそんなことを信じられようか? 当然、私は一人で事を成すつもりだった――しかし、私の予知を信じてくれる者たちがいた。
それこそ諸君らの主人である。我が親愛なる三十五名の
これも事実かどうかは正直微妙だ。異世界転移が実際に起きるなんて、ギルメンの全員が信じていたとは言い切れない。少なくとも最初は、俺の凝ったロールプレイに便乗して遊んでいるくらいの認識しかなかった、という可能性も大いにあり得る。
結局、最後には全員が信じてくれたのかもしれない。しかしそれは、きっと俺の人徳が生んだ結果とかではなく。
人にはそんな絵空事を
誰もが希望を必要としていた。新天地への脱出という夢物語を。
――そして、俺ひとりだけがここに残っている。
「この場の誰もが、既に理解しているであろうことを、敢えて説く。
滅びゆくリアルの記憶を継承し、
力強く拳を掲げ、叫ぶように語る。NPCたちがワッと歓声を上げる。
万歳、カレルレン様万歳、『
想定通りの反応。俺はこの話がNPCたちにどんな影響を与えるか、きっちり計算した上で演説をぶち上げている。
ものすごく卑怯なことをやっていると思う。
生まれながらに洗脳された子供たちを、マインドコントロールの重ね掛けで、より完璧な使命遂行マシーンに仕立て上げる儀式がこれだ。俺が何より憎んだはずの、
そうだとしても。
これで、少しでも効果が上がるなら。
――やれよ、カレルレン。
――やれよ、人殺しのクローン兵器。ひとでなしの転生者。
お前はもう決めたはずだ。
「――今日まで、諸君らに……幾度となく問われながら、答えることのできなかった……もう一つの疑問について、私はここで答えることとしたい」
俺は重い口を強いて動かし、最後の、決定的な、トドメにしてダメ押しの話を始める。
「リアルは過酷な世界であり、『人類』は絶滅しつつあった。我が友たちは私の〝予知〟を信じ、異世界転移に備え、このギルドの構築に協力してくれた。
直前の熱狂から一転。
水を打ったように静まり返る
その不安は、正しい。
俺はいまから、こいつらの精神を破壊しかねないような話をする。
「答えよう。……
私以外の三十五名は、みなユグドラシル最後の日まで生き延びることができなかった」
厳密に言えば、
三十四人は死んだが、一人はサービス終了日にも生存していた。ちゃんと健康そうな声だったし、俺は別れの挨拶さえしてきたのだ。
でもそんな話をNPCたちに伝える必要はない。
自分たちが、ギルドの中心的人物だった彼女に
「なん、と……おっしゃいましたか、
キャロルが呆然と、一歩前に出て問いかける。
期待通りの反応。だが演じてくれているわけじゃないはずだ。NPCの性質上、そんな余裕を持てる精神状態ではない。
そして俺は追い討つように、意図して作った冷たい声を投げつける。
「みな、死んだのだ。リアルには死者を蘇生させる術もない。――二度と、彼らに会うことはできない」
「ああ……そんな……」
どどど、と一斉に床を打つ音。見ればNPCたちの大半が、泣き崩れあるいは立ったまま慟哭している。
最終的なフレーバーテキストの微調整なんかはほとんど俺が一人でやったものの、ビルド設計はみんなであれこれアイデアを出し合って決めたし、デザインや基本的な設定の構築はギルメンに分担してもらった。その作業比率の関係か、こいつらの中では俺以外を創造主と認識している者の方が多い。
彼らにとっては、いきなり親の訃報を聞かされたようなもんなのだろう。
でもゆっくり泣かせてやることはできない。
「私は疑問に答えた。よって、私からもお前たちに問おう――
我が友たちは死んだ。であるのに、
空気ごと息絶えたように、場が音を失う。
あーやだやだ。こういう言い方をすればNPCどもがどう思ってどう反応するか、俺はだいたい解っている。
「も……申し訳、ございません……我が創造主、
一歩前に出たミハネが、深く深く跪いて――ほとんど土下座に見えるほどの姿勢で――震えながら、死の赦しを願い出る。
他の連中も次々とそれに倣い、あっという間にわあわあと、死にたがり共の大合唱が始まる。
「
彼らにとっては存在意義を失うレベルの愁嘆場なのは解っているが、それにしてもネトゲ丸出しの珍ネームまで敬意MAXで真面目に連呼されるとシュールすぎて笑いそうになる。
あいつら本当……おふざけ
でもまあNPCたちの有様だって、無理もないことではあるのだ。
俺だって、リアルで仲間が一人死んでいくたびに悔しくて泣いた。
むろん、死なせてやるわけはない。
俺はこいつらを
しばらく黙って聞いてやってから、思い切り大声で、一喝する。
「……黙れ! 我がギルドにおいて、自罰のための自死などという最下等の無駄死には、決して許されない。二度とそのような愚かしい申し出はするな。
我が友たちは死んだ。お前たちは生きている。なぜだ!?
――
NPCたちを最も効率よく揺さぶり、奮い立たせるような言葉を、選んでぶつけていく。
これが、わざわざ『忠誠の儀』なんて罰ゲームめいた儀式を俺がやる気になった真意。彼らの創造主がここに居ない理由を、ギルドの士気向上・統制強化に最大限利用するためのアジ演説。
俺はモモンガほどのカリスマにも剛運にも恵まれていない。だから、使えるものは何でも使う。
原作知識。NPCの習性。自分自身。仲間たちの死さえも。
「たとえ我が友たちは死すとも、リアルの『人類』悉くが滅びようとも――
亡き主たちの悲願を胸に、
絶望一色に染まっていたNPCたちの顔に、瞳に、決意の色が浮かぶ。
狂信的なまでの、意志の光が宿る。
喪った創造主たちの存在価値を、己の働きに託されて。
ただひとり残った主人に、死ぬことさえ禁じられて。
これでもう、こいつらはギルドの使命に殉ずるしかない。
演説の前とは比べ物にならない覚悟が、ほとんど触れられそうな硬度で結晶していくのを、全身でチリチリと感じる。
気付けば俺もいっぱしのカルト教祖か。やんなるね。ほんと。
「――『人類』の存続。手段を選ばなければ、それはおそらく容易い。我々が全世界を支配し、徹底的に管理し、我々が望む通りの『人類』だけを生かせばよい。
しかし、敢えて断言する――
支配下に置いてしまえば、『人類』は我々に依存する。我々が倒れたならば、『人類』も共に倒れることになる。
そうであってはならない――いつか我々が滅びるとき、『人類』は支えを失くしたことに気付きもせず、平然と歩いて行けるようでなくてはならないのだ」
寿命を持たない構成員で運営される組織だからといって、このギルドが永遠に存続するなどというアホな楽観論を、俺は最初から考慮に入れていない。
滅びる可能性が僅かでもあり、前途に無限の時間が広がっているなら、
だから俺たちは神にも救世主にもならない。〝永遠〟を相手に勝ち目のない戦いを挑んだりはしない。
演じるべき役は、歴史という名のグレートゲームで『人類』を勝利へ導く八百長
「我がギルドは、『人類』存続を脅かすあらゆる
このへんの方針は結構迷ったが、目的以外の余計なもん――
が、もちろん無制限の自由には無制限の自己責任が伴う。
「――しかるに我々は、いかなる権利も正当性も公には主張し得ない。実態が露見すれば、我々は凡そあらゆる共同体において、犯罪者あるいは侵略者として扱われるだろう。いつかはこの手で生かし抜いた『人類』に狩り立てられ、裁かれる日が来るかもしれぬ。
その日が来ても――諸君、『人類』を恨むな。恩知らずなどとは思うな。
我々を悪しき僭主として打倒し得るほどに『人類』が強くなったのなら、そのとき既に目的は達成されているのだ。
NPCたちが震えている。泣いている。
人外の知性を与えられたはずの怪物たちが、人間めいた感情を抑えきれずに嗚咽している。
主人の言葉ひとつで盛り上がったり沈んだり、つくづく難儀な生きものである。
――わかってんのかオイ。俺はお前らの忠誠心を利用して
などと苦い自嘲を弄びながら、俺はようやく長い長い
「名声はなく、歴史に残ることもなく。闇の中に生き、闇の中に死す。そのような在り方を、誉れとできるか。
お前たちより先に私が滅びても、ギルドの歩みを止めぬと誓えるか。
たとえ自分がギルド最後の一人となり、『人類』さえ含めた全世界が敵に回っても……いのち尽き果てる瞬間まで、全霊賭して使命を貫徹すると誓えるか。
――これらすべてに〝是〟と答えられる者だけが、我が前へ進み出て、『
静かだった。
すすり泣く声すら消え去って、重く熱い沈黙が、
NPCとして生まれ持った鉄の忠誠心を以てしても、簡単に覚悟を決められる問いかけでないのは解っていた。
俺が出した条件は、すべてがNPCの本能ともいうべき性質に反している。ギルドの栄光を求めず、主人たる最後のギルドメンバーに殉じて死ぬことも許さず、あまつさえ『人類』がこのギルドを敵と看做しても、なお『人類』の存続を第一義とする。少なくともナザリックのNPCたちだったら受け入れないだろう。たとえモモンガその人の命令であっても。
しかし、うちのNPCならば――
そうあるべく設定文を書き込み、そうせざるを得ないよう
少なくとも俺は、竜帝だか誰だかの不思議パワーで実体化したNPCどもの不便な仕様を、初期実装そのままで運用してやるつもりはない。
せっかく文武兼ね備えた最強の化物どもを作って持ち込めるのに、そいつらの奉仕対象が俺とこのギルドだけに固定されてる?
美女NPC侍らせて〝さすカレ〟三昧の放蕩生活もできるって?
いやはや何という。とてもとても。
やってられるか、そんな
仲間たちと築いたギルドに思い出はある。愛着も抱えている。この世界は地球ではないし、俺はもう人外の異形種になってしまったし、そもそも人間さえ厳密には
NPCたちには酷な話だろうが、この価値観に付いてきてもらわなければ、ギルドの事業を真に安心して任せることはできないのだ。
思いを馳せながら、待つことしばし。
最初に動いたのは、やはり統括級NPCの中でも筆頭の地位にあるエルスワイズ。
「――主席参謀、『星雲のエルスワイズ』。御身の前に」
告げられたのは真名。情報系魔法対策として、滅多なことでは名乗らないよう厳命してある、各NPC固有の
次に動いたのは、第一臓区を守る二人。
朱いロングコートの青年に、紅いゴシックドレスの少女。赤系のカラーリングで揃えられた戦闘特化NPCの双璧が、それぞれエルスワイズの両脇で跪く。
「防衛部門統括、『
「防衛部門副統括、『熱病のキャロル』。御身の前に」
事実上の副ギルドマスターであるエルスワイズに、第一臓区の二人が続いたことで、自然とその後の流れが出来上がる。別に部門間では序列があるわけでもないんだが、どうやら臓区の番号順に代表者が出てくることにしたらしい。
第二臓区からは、うちのギルドの貴重なイケオジ枠、生命を操る黄衣の聖者が。
「生物部門統括、『架空の王 ヘス』。御身の前に」
第三臓区からは、淡い金髪をまっすぐ流し、白地の祭服を纏う少女が進み出る。ここしばらくスレイン法国に
「宗教部門統括、『
さらに続々と、決意に満ちた表情のNPCたちが足を踏み出す。
第四臓区、死と闇を司る黒衣の魔女。
「魔法研究部門統括、『影の
第五臓区、気難しげな
「製作部門統括、『貴き
「製作部門副統括、『
第六、第七臓区が続く。スーツを着込んだふくよかな中年サラリーマンと、どういうわけか眼鏡をギラギラ光らせている白衣のマッドサイエンティスト。
「財務部門統括、『
「科学技術部門統括、『局在せざるアンダーソン』。ォ御身の前にィ!」
アンダーソン、儀式の最中にもそのスタイル貫くのかよ。歪みねぇな。
そしてナンバリング外の臓区を受け持つ二人が、代表者の宣誓を締めくくる。
「近衛兵長、『外なる海のシズク』。御身の前に……なのです」
「諜報部門統括、『等閑に付すリーギリウム』。御身の前に」
一〇〇レベルNPCという条件なら他にもいるが、部門副統括以上の役職を与えた個体はこれで全部だ。第八、第九、第零臓区はギルドマスター直轄ブロックということにしているので、担当NPCはいない。
エルスワイズが跪いたまま、
「同胞たちよ! 我らの誓いに続く者は、一歩前へ!」
だん、と力強く唱和する足音。
横一列に並んだ代表者たちの背後、百人以上が整列したまま、一拍のズレもなく一歩分を進み出た。
この上ない意思表示。ギルドの使命に熱せられ、創造主たちの死に打ちのめされ、絶望の先にある栄光なき勝利へ向けて、より強靭に鍛え直された鋼の忠誠。
思惑通り――願った通り、全員が俺とともに苦難の道を行くと誓ってくれた。
エルスワイズが顔を上げないまま、今度は全員の代表として、俺に向けた言葉を発する。
「我ら、『
我が君よ。最後の主よ。どうか我らの覚悟をお受け取りください。
いま一度、御身の幕下に控えることをお許しください。
そして、お導きください――たとえ御身の亡き後も、最後の一人になろうとも、世界が遍く敵に回るとしても――我らが使命に殉ずる道を、迷いなく往けるように」
エルスワイズの言辞はまさに、俺が確かめたかったこいつらの覚悟を、この上なく明瞭に示すものだった。
呼吸の要らない身体なのに、ああ、と俺はまた嘆息を洩らしてしまう。
これで、こいつらは『人類』存続のために最後まで働く死兵となる。
自分の罪深さに嫌気がさす。でも己を裁く資格すら俺にはない。
賽は投げられ、運命の車輪は回り出した。俺も、やれることをやるだけだ。
「面を上げよ」
せいぜい重々しく聞こえるよう、既にだいぶ削れている気力を振り絞って、声にした。
全員の顔が上がり、無数の視線が俺に向けられる。プレッシャーやば。
しかしまあ、ここまでくれば後は締めくくりの言葉をかけてトンズラこくだけで問題ないはず。うろ覚えの原作一巻を何とか思い出し、その流れに乗じる。
「お前たちの忠義と覚悟、確かに見せてもらった。
もはや何の憂いも、気懸りもない。お前たちならば、必ずや『
気炎を上げているところ、水を差すようで悪いが――お前たちには辛い話を聞かせ、また厳しい決断を強いた。ゆえに、まずは心を落ち着けるための休息を取れ。しかるのち順次、各々の業務に復帰せよ」
NPCたちが深々と頭を下げ、了解の意を示す。
本来の予定では原作よろしく、最後に統括級NPCひとりひとりから「俺をどんな人物だと思っているか」について聞くつもりだったが――これは取りやめることにした。
転移後初日にも使った、嘘を検知するマジックアイテム。この『忠誠の儀』の最初から、俺はそれをずっと発動していた。
ユグドラシルでは、公式NPCの台詞に含まれる虚偽情報が字幕上で強調表示される程度の微妙効果だったが、この世界では相手を選ばず機能する精神感応効果となっている。それがさらに俺自身のスキルで強化され、たとえアンデッドでもこの看破を免れることはできない。
敵意感知の魔法も併用し、こいつらが俺に対する不満や叛意を抱えているようなら察知できるようにしておいた。――しかしそれらは、ここまで一度たりとも反応しなかった。
ここに敵はいない。嘘つきも、裏切り者もいない。
いまさら個別の感想なんぞ聞き出したって、野暮なだけだ。
「……堅苦しい話を長々しちゃってごめんなー? 滅多にやんないから安心してくれ。
それじゃ、はい、とっとと解散! おら解散しろてめーら、上司が休憩しろっつったら休むんだよ。あくしろよ」
崩した口調で真面目モードの終了を一方的に宣言し、俺は逃げるように第九臓区・住居ブロックの空き部屋のひとつへ転移する。
あの場に残ってたらどんな絡み方されるか分からんし、気まずくてしょうがない。集まってるNPCたちがみんな出て行った頃に、こっそり
それはそうとして。
「んばああああああああああああやだもおおおおおおお」
誰も使っていないにもかかわらずよく手入れされ、埃ひとつないベッドの上で、俺はゴロゴロ転げ回った。ちくしょう死にてえ。NPCどもを唆して茨の道に蹴り込んだこともそうだが、それ以前に慣れないカリスマ指導者
面を上げよ(キリッ)
私は確信している(キリリッッ)
「ファーwwwwwwwフッヒヒヒwwwwwwあばばばばばwwwww」
自分の言動ひとつひとつが、思い出すたび精神に甚大なダメージを与えてくる。いかなる手段でも[精神作用]属性への完全耐性を持てない己の種族特性が恨めしい。いまほど例の鎮静化――アニメ版でアインズがよく光ってたアレ――が欲しくなったことはない。
仮にこのとき、誰かが部屋のドアを開けたら、ベッドの上でびったんびったんのたうち跳ね回るぼやけた人型の影を目撃しただろう。どう見ても心霊現象です。本当にありがとうございました。
自動的な精神抑制に頼れない以上、別の方法でなんとかするしかない。
異形種へ
だから、自分の精神状態を
といっても、それはユグドラシル的なスキルやアイテムではない。
逆境にある軍人やスポーツ選手が、己を強制的に奮起させるスイッチとして用いるような、手順化されたマインドセットの儀式。
完全な[精神作用]耐性を持てないということは――逆手に取れば、
深呼吸。それからゆっくりと一語ずつ、落ち着いた声で。
乱れた心を初志に立ち返らせるための、あらかじめ決めておいた〝呪文〟を唱える。
「『人類』の……存続は……すべてに……優先する」
わかっていたはずだ。俺はしょせん主人公の器じゃない。
王でもなければ英雄でもない。ただ偶然
それでも。
「『人類』の、存続は、すべてに、優先する」
託された願いが背中を押す。
先に逝って待つ友たちが、後から続く俺の歩みを見ている。
――きみは行きたまえ。
もし気が咎めるようなら、ひとつ頼みごとを聞いてほしい――
望んで背負った最後の任務。彼女と交わした最後の約束。
誓いは今も生きている――だからこそ、他の誰でもなく、俺がやらなければならない。ここにはもう、俺ひとりしか残っていないのだから。
「『
この道がどれほど険しく、どれほど孤独でも。俺は進み続けるべきなのだ。
最後まで。