OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
擦り合わせが難しそうなら「本作の世界線ではこう」で行きます。
エルスワイズと共に母子三人が〈
そこへ、上空から白金色の鎧が降りてくる。
「……これが、お前たちのやりたかったことか?」
鎧の中身は空っぽであり、この全身鎧そのものが〝
ツアーは俺とのオブザーバー契約に則り、新たなプレイヤーとの接触の様子をずっと遠くから監視していた。音声転送のマジックアイテムを渡してあるから、会話の内容もばっちり聞こえていたはずだ。
「まあそうだな。流石に今回ほど上手くいくのはレアケースだと思うが……」
仮に八重樫リナがトチ狂って戦いを挑んでくるようなら、周囲に伏せておいた部下たちを使って鎮圧する手はずになっていた。そうなったらツアーの心証も今より悪かった可能性が高いので、彼女たちがすんなり〝避難誘導〟に応じてくれたのは最良のシナリオだったと言ってもいい。
一滴の血も見ずに事が済んだおかげか、ツアーの口調も心なしか穏やかだ。
「保護した〝ぷれいやー〟をきちんと管理できるなら、私としてもこのやり方に文句を言うつもりはない」
「おや意外。プレイヤーを皆殺しにしたがってたあんたには、不満も不満の解決方法だと思ったけど」
がらんどうの鎧越しに、低く唸る竜の声を聴いた気がした。
「私が〝ぷれいやー〟の絶滅を企図したのは、憎しみのためではない。
忘れるな、カレルレン。お前たちの覚悟が真に問われるのは、決して相容れない〝敵〟と対峙したときなのだということを」
「わーってるよ……」
こんなイージーミッション一回でツアーの信頼を得られたら苦労はない。俺は前言通り、今後百年このぼっちドラゴンの前に粛々と実績を積み上げていくだけだ。
とはいえ機嫌は悪くなさそうなので、ついでに別件の連絡もこの場で投げ込んでおく。
「そういや西の方にスレイン法国ってあるじゃん。六大神の作った国。あそこ人間至上主義こじらせてヤバい方向に進みかけてたんで、うちの部下派遣してちょっと軌道修正してるから。邪魔しねーでやってねヨロシク」
「は???」
いまの反応は素だな。絶対あいつ鎧の向こうでポカーン顔になってるだろ。
高名なる〝
「何をやっている!? 〝ぷれいやー〟が興した国だぞ、勝手に介入するなど――」
「おたくとの契約前から始めてた事業なんだよ。技術供与、自衛戦力の貸し出し、あと国民の意識改革なんかをね。亜人や異形を見るなり無差別で殺しにかかるのは、さすがにこの世界じゃノーフューチャーすぎる」
現地の国家や種族に対し、必要がない限り積極的な介入を行わないのが
しかしスレイン法国は放っておくと原作同様の歴史を辿り、人間の守護者でありながら人間の種族的孤立を深めるという厄介なポジションになっていくことが予想された。もともとプレイヤーの手が入っていることもあり、じゃあいっそ
まあほとんどフリーハンドで任せておいた結果、いつの間にか俺が
ともあれ、本体は大陸東方に戻っていると思しきツアーがそんなあれやこれやの裏事情を知る由もなく。
白金の鎧が、旧式ロボットめいたぎこちない動作で額に手をやった。
「……意識改革とやらはともかく、技術と戦力の提供は
原作でほとんど説明されなかった謎のキーワードがポンと出てきたので、俺はつい前のめりに食いついてしまう。
「それだ。何なん? 世界盟約ってやつ、法国に送った部下が調べてくれてるけど、伝わってる内容が抽象的でイマイチ要領を得ない。対プレイヤー同盟と軍縮条約をセットにしたようなもんだと思えばいいのか?」
世界盟約。断片的に得た情報からして、たぶん八欲王みたいなのが再登場したとき戦力を出し合って迎え撃つための軍事同盟っぽいのだが、その割には法国の保有戦力を制限するような条項があったりと不可解な点が多い。共同戦線張るのに味方が弱かったら意味なくねーか?
これについてはサティアがいくつかの推測を挙げていて、ツアーが渋々の
「契約が抽象的なのは意図されたものだ。どのみち我々には、〝ぷれいやー〟が言うところの〝れべる〟などを具体的に確かめることはできない……ゆえに世界の均衡を崩すような〝強すぎる力〟の保有を禁じ、その線引きと実践は彼らの
盟約に従う意思を示す限り、私たちが彼らを滅ぼすことはなく、また世界を汚す力が現れれば共に戦う……そういう取引を交わしている」
「……竜も中々あくどいこと考えるじゃねーか」
要するに――弱者は余計な力を持たず大人しくしていろ、そうすれば
俺自身にとって身近な類例を探すとすれば……あくまで限定的な部分一致ではあるが……第二次大戦後の日米安保条約が近いだろうか。あれには旧共産圏を牽制する意味も勿論あったが、同時に日本の再軍国化を抑止する意図もあった。アメリカでは日米同盟について、日本の防衛より
ツアーの弁解じみた反論も、その解釈を否定するものではなく。
「悪意の制約とは思ってほしくないな。このような枷でも嵌めてみせなければ、〝ぷれいやー〟の影響力と危険性を思い知らされた同族たちは、即座に法国を滅ぼそうとしただろう。これは、かの国を〝世界の敵〟にしないための約束でもある」
……なるほどぉ?
そういう背景があるとすると、法国が八欲王を〝大罪者〟と呼ぶのも、あながちスルシャーナを殺されたことだけが理由ではないのかもしれない。プレイヤーの興した国が、後世まで最強種たる
一方、プレイヤーに絶滅させられかけた竜王サイドの視点で考えてみると……実はこの世界盟約、運用のゆるさも含めてだいぶ温情的な処置と言えるんじゃなかろうか。
この世界では突出した高レベル・キャラクターが大量破壊兵器に相当する。それさえ持たせなければ、竜王たちにとって人間なんぞ脅威にはなり得ない。レベルや種族格差が存在する世界ならではの、割り切った合理性と言ってしまえばそれまでだが……ツアーの言う通り、「プレイヤーが絡んだものは全部処分しよう」で滅ぼされていてもおかしくなかったはずだ。もちろん「念のため」で滅ぼされる方にとっちゃファックとしか言えない話だが、なにしろ八欲王の実績がヤバすぎた。
しかし実際の法国は、表立って竜王たちの政治的干渉を受けている様子もなく、曲がりなりにも人間種の文明圏を守れる程度の戦力保持さえ許されている。
誰がどうやってこんな好条件を引き出したんだ? 強力なアイテムでも差し出したのか、
非公式かつ基準が明確化されてない軍縮条約とかソッコーで有名無実化しそうなもんだが、六大神亡きあとの法国にとって、竜王の機嫌を損ねることは国の滅亡に直結しかねない。原作の法国が、締結から五百年経っても盟約を公然とは無視できなかったあたり、その
もっとも、四百年後どころか
ちなみにサティアは俺よりだいぶシビアというか悲観的な見方をしていて、仮に八欲王の再来と呼ぶべき危機があっても、竜王が実際に法国を助けてくれる可能性は低いのではないか……と推測していた。
説得力はある。俺が転生前に読めたのは書籍版十六巻までだったが、仮にあのあと怒れる
ことによると神人の秘匿も原作時点のツアーはとっくに気付いていて、いざというとき盟約違反を口実に法国を切り捨てる気だったのでは? なんて予想も成り立つ。竜王を脅かすほどではない、中途半端な強者ならあえて泳がせる使い方もあるだろう。藪蛇が怖いんで、この場でこっちからつついたりはしないけど。
「ふーむ……まあ、あんたらが警戒しなきゃならんような代物は当面持ち込まないよ。提供する戦力はあくまで
「それを信じろというのか? 人間は自衛と称して侵略を始め、生活のための技術で殺し合いの武器を作る生き物だ。口先ではどのようにでも
「さてはおめー人間の理解度高いな??? 心配なら今度いっしょに観に行くか。お忍びの査察ってことでさ」
関係改善のための地道な積み重ねの一環として、ツアーを連れ回す機会はこまめに確保しておきたい。この白金鎧だったら原作モモンよろしく人間国家にも紛れ込めるだろう、と思って提案してみたのだが。
「……私はまだ鎧の操作に慣れていない。もう少し、自然な動かし方ができるようになってから、訪問させてもらおう」
「まだ、ってことはその鎧、昔から使ってるわけじゃないんだ?」
鎧が動きを止める。
内なる空洞から響いてくるツアーの声は、過去を懐かしむように聞こえた。
「これを作ったのは二百年前だが……使う機会が少なかった。
しょせん私の技など借り物だ。どれも他人の魔法の、不器用な真似事に過ぎない。この鎧の原型とて、
「誰のこと? 竜王の知り合い?」
「……友だ。既にこの世にはいない」
十三英雄のリーダー、じゃねえよな二百年後の人物だし男だし。となると原作未登場キャラか? 新しい情報を喋る気になってくれるのは大変結構だが、いちいち脳内で原作情報と突き合わせるのは骨が折れる。
「あのさ、気を悪くしないでほしいんだけど……おめー友達いたんか。けっこう意外ぞ」
「普通の竜は、人のように多くの同族と関わりはしない。だが私は
あの
「いや普通に友達でしょそりゃ」
どうやら同族の話らしい。基本的に群れない竜の中でも、竜帝の血統は特別だったってことか。……こいつひょっとしてマジもんの〝竜の王族〟なのでは? サラといいツアーといい、俺は主人公属性持ってる奴に絡まれる体質かなんかなの?
とはいえツアーが
「俺らの世界じゃ人間も、子供の頃の友達と一生付き合いが続いたりしてたし、別にいいんじゃね? 竜にそういう繋がりがあってもさ。
でも、なんで俺にその話を聞かせてくれる気になったのかな」
「……何故だろうな。久しく使っていなかった術の、本来の使い手を思い出して、感傷的になったのかもしれない。
百年前に、お前のような者がいれば、あるいは……。
……いや。忘れるがいい。戯言だ」
言うだけ言って、白金鎧は音もなく飛び去って行く。
初日のツアーが妙にプレイヤーへの殺意を募らせていたのは、ひょっとしてサバイバーズギルトの反動や八欲王への義憤だけじゃなく、
「せっかく早い時代に来たことだし。あいつの過去、ちょっと調べてみるか……」
新たなタスクを頭の中のTODOリストに書き加えつつ、俺はまた今後のアクションについて考えている。
八重樫リナと子供二人に協力してもらいたい実験はいくらでもあるし、巨人国の動きにも対応しなきゃならない。トブの森で
大陸が思ったより広い上に安全重視で慎重にやっているため、地理的調査はあまり進んでいない。他のプレイヤーや強力なアイテムの情報も継続して集めていく必要がある。八欲王や六大神、竜王についても調べておきたいことは山積みだ。他にもまだまだ。その他諸々あれやこれや。
自分で仕事を増やしてる自覚はあるんだけど、あえて言いたい。
やることが……やることが多い……!