OVERLORD:The Invisible Watchmaker   作:Stormgren

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―第零臓区・████―

 屋内とは思えない広大な空間を、異形の存在たちが埋め尽くしている。

 それらは大小も種族も様々。ねじれた一本角を生やす金毛の兎がいれば、苔むした石造りのゴーレムや、無数の翼と眼球を備えた炎の塊や、輪郭だけはドラゴンっぽい何かもいる。

 

「ようお前ら。元気? 悪いね、長いことほったらかしにしてて」

 

 ざわざわ。

 俺の声に応じて蠢く異形たち。敵意を示す者はいない。これまでに暴れたという報告もないので大丈夫だとは思っていたが、ちゃんと俺を従うべき主と認識しているようだ。

 

「ぼちぼちお前らにも働いてもらおうと思っててさ。元からいる連中に紹介もしたいし、ここを出ることになるけど……いいかな? 外でも俺の言うこと聞ける?」

 

 ぐおおッ――と熱気を孕んだ肯定の意思が押し寄せる。うるせーぞてめーら。〈精神連結(マインドリンク)〉越しに大声で一斉やる気アピールすんのやめろ。

 

 ここにいるのはユグドラシルがサービス終了を迎える直前、〝最後の一週間〟に急遽かき集めた()()()たち。

 拠点NPCでも傭兵NPCでもなく、またラステルミーカたちのようにクエスト随伴ゲストとして連れてきた公式NPCでもない。()()()()()()()()()で手駒に加えた、ギルドの秘匿戦力とも呼ぶべきもの。

 

 本来なら、ワールドアイテムでも使わない限りプレイヤーが使役することはできない連中である。実際俺も、()()()()()が可能になるとは思ってもみなかった。

 運営としては、サ終前のちょっとしたお遊びのつもりだったんだろう。最後の最後に多少ゲームバランスがぶっ壊れたところで、実害など無いに等しい。まさかそれが、バランスブレイカーのまま異世界へ輸出されてしまうなんて予測できるはずもない。

 

 だからこそ、うちのギルド拠点にこんなものが集められていることを知るプレイヤーもいないはず。

 ()()()()()()()()()自体が切り札になるかもしれないと考えれば、来るべき時まで働かせず秘密のままにしておくのが堅実ではある。

 が、まったく使わないというのもそれはそれで、あまりに勿体ない。

 

 というわけで。

 数ヶ月かけていろいろと安全確認をしてみて、ようやくこいつらを運用しても大丈夫だという確信を得た俺は、この化物たちを檻から出そうとしている。

 

 もちろん外界への侵攻に使うとかではなく――何度も言うがうちに世界征服の予定はない――各々が持っている面白そうな固有能力の実験とか、拠点防衛体制への組み込みとか、いまはその程度の話だ。しかしこいつらを戦力としてカウントできるだけでも、拠点の守りは飛躍的に強化される。転移初日の某竜王(ドラゴンロード)襲撃事件で損耗した傭兵NPCたちの穴を埋めて余りあるほどに。

 

 拠点防衛戦力の中核をこいつらで代替できれば、外へ出せる拠点NPCの数も増える。うちの高知能NPCどもには侵入者を待ちかまえてぶち殺すだけの簡単なお仕事ではなく、もっと内政とか研究とか情報収集とかの知的労働を任せていきたいのである。

 

「んで……ヘス、こいつらどう? お前のスキルで強化できそう?」

 

 俺はここにひとりで来たわけではない。

 隣に立つヘスは生物部門統括の職位に相応しく、味方モンスターの能力値をいじったり、新たな器官を発現させたりする能力を持つ。彼のスキルが適用できるなら、ただでさえ強力なこいつらをさらに改造できるのではないか。そう思って、まずは現物を見てもらおうと連れてきたのだ。

 

 そんなヘスのリアクションはというと――()()()を浮かべている。

 うちの統括級NPCの中でも随一の神格レベルを持ち、『聖者殺しの槍(ロンギヌス)』でも使わない限り完殺困難な不死性を誇る、自分自身も化物の一角であるヘスが。

 ()()()()()()()の群れを前にして、気圧されている。

 

「これほどの……これほどの存在を、従えておいでだったとは……」

「普通は無理なんだけどな。閉じ込めっぱなしでも、それはそれでストレス溜めそうだし、適度に運動させてやろうかと思って」

「なるほど、()()……この者たちを動かす必要が、今後出てくると……。

 ――ああ、失礼をいたしました。強化についてお訊ねでしたか。おそらく強制は不可能ですが、わたくしのスキルに抵抗せぬよう御身が命じてくださるなら、可能でしょう」

「いいね~~」

 

 このよくわからんモンスターどもに、自分たちの代わりを務めるほどの実力があるのか――そういう疑問が出るかと思っていたが、ヘスは俺の決定に一切異論を挟まなかった。

 主人の命令だから従ったというよりは、モンスターを扱う専門家として、こいつらの規格外ぶりを一目で看破したのだろう。

 

 なにしろこいつら一体一体が、()()()()()での討伐を推奨される大物たち。いちおう上位プレイヤーならソロ討伐も可能だが、逆にヘボプレイヤーばかりのチームだと、一〇〇レベル六人のフルメンバーでも返り討ちに遭うような難敵ばかり。

 ここに集めた連中のカタログスペックを合計すると――実際どのくらいの戦力になるんだろうか? なにぶん個体ごとの能力傾向がバラバラすぎて単純な計算が成立しづらい。

 

 かつてナザリックに攻め込んだ千五百人と正面からぶつけたら、なかなか面白い光景が見られるとは思うが……所詮それはゲーム時代じゃ不可能だった対戦カードなので、どこまで行っても仮定の話にしかならない。

 そして()()()()が可能なこっちの世界でこいつらを正面会戦に投入するときというのは、もうギルドの事業がどうしようもなく破綻した後の悪あがきフェーズくらいしかない。夢のチート怪獣総進撃は、どうやら今後も夢のままにしておいた方がよさそうだ。

 

 どっちかというと、うっかり暴走させちゃいましたとか敵にコントロール奪われましたとか、そういう方向性のリスクを気にするべきかもしれない。仮に全個体がいっぺんに制御不能に陥った場合、たぶん誰にも止められないし、この世界全体が打ち切りENDの漫画みたいに呆気なく滅びることにさえなり得る。もちろんそうさせる気はないが、それくらいの危険物とは考えておいた方がいい。

 

「とりあえず、俺の隠し護衛として三体連れていく。残りはお前たちに指揮権預けておくから、うまく使ってやってくれ。個体ごとの強化プランは、また後で相談しよう」

「御心のままに……」

 

 日頃から俺に「もっと護衛を厚く」と説教くれているエルスワイズも、流石にこれで黙るやろ。オラッ望み通り護衛付けてやったぞ、とっておきの秘密兵器をな!

 

 でも俺はやっぱりチキンなので、できる限りこいつらの出番が来ないことを祈っている。チェーホフの銃が発射されるべきなのはフィクションに限った話であって、ここはゲームっぽいだけの現実なのだから。

 







◆蛇◆

キャラクター名鑑 #2003

【架空の王 ヘス】

役職:ギルド『盲目の時計職人(ブラインド・ウォッチメイカー)』生物部門統括NPC
住居:ギルド拠点『大いなる主題(グレートシング)』第二臓区・神の卵
属性(アライメント):極悪 [カルマ値:-500(※1)]

種族レベル:(※2)
 旧支配者(グレート・オールド・ワン)祖型神(アーキタイプ):ハスター) 5lv
 ██(███:███████) 5lv

職業レベル:(※2)
 暗黒司教(ダークビショップ) 10lv
 堕ちた聖者(フォールンセイント) 10lv
 進化術師(エヴォリューショニスト) 5lv
 造命主(ライフメイカー) 5lv
 闇の救世主(ダークセイヴァー) 5lv
 黒き太陽王(ブラックファラオ) 5lv
 など

[種族レベル:取得総計10レベル]+[職業レベル:取得総計90レベル]=計100レベル

※1:カルマ値の低さはフレーバーテキストで注意深くカバーされており、彼の悪性は『人類の敵』に対する冒涜的な〝慈愛〟の形で発現する。
※2:世界級(ワールド)アイテム『忘却の壺』を使用した特殊ビルドにより、通常では不可能なレベル構成となっている。

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