OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
意気込んではみたものの、あんまり気合を入れて臨むような工程があるわけでもない。
装備を最適化した俺が自分にバフ積んで、ザイトルクワエを起こしてデバフ喰らわせて、俺の職業スキルを一発ぶち込んで終了――の予定である。
レイドボス化してる疑惑もあるので
というわけでまずは装備の調整から。
うちのギルドが開発したアイテム製作レシピの中には、CMS――クリスタル・モジュール・システムと呼ばれる共通仕様を組み込んだ装備品がいくつも存在する。
これは何かというと、通常であれば「金属等のベース素材+データクリスタル(+職人系スキル等による補正)」で作成時に決定されてしまって後から変更できない装備品の性能を、着脱可能な追加部品の組み合わせで臨機応変にカスタマイズできるようにしようという設計思想の産物だ。
CMS対応レシピには、
じゃあこのサブ装備スロットつきの装備本体と一緒に、あれこれ付け替えるための規格化された機能部品を作って、その組み換えでユーザーが性能いじれるようにすればいいじゃん――というのがうちのアイテム開発チームの結論。
かくして多数のサブスロットを持つ装備本体と、それらに追加機能を与える多種多様なクリスタル・モジュールが一まとまりのパッケージ・システムとして開発され、のちに諸方面で好評を博すCMSシリーズは誕生した。
同じデータ量のグレード帯で比較した場合、最適な素材とデータクリスタルで作られた通常アイテムに対し、CMS搭載アイテムが純粋な性能上限で勝ることはまずない。
しかしCMSの
基盤本体のグレードが
で、俺の本日の武装はというと――頭防具・胴防具・武器(杖)のそれぞれが神器級CMS装備で構成されている。
これらに装備
「……ゆーても事前にモジュール厳選してあるから、カチャカチャカキーンっと差し替えて終了なんだが」
「ボス、大丈夫か? 独り言が多くなるのは病んできてる兆候だって、書庫にある〝りある〟の本に書いてあったぜ」
「うっせーこんにゃろ。
「ひゃめろ~~」
ナマイキ言うリーギリウムのやわらかほっぺをむにむにしつつ、武器と防具の機能モジュール換装が終了。
いまの俺はただでさえクソ雑魚の単独戦闘能力がさらにひどい水準まで落ち込んでおり、仮にこの状態でカンストプレイヤーとタイマン張ったら、一矢報いることすらできずパーフェクトゲームで負けても何ら不思議はない。
しかしその代償に単一のボーナス加算値をひたすら積み上げており、魔法やスキル等の効果計算時のみ参照される〝判定上の術者レベル〟は
なんでそんなピーキーすぎる換装をしたかと言えば、このあと使うスキルの基本成功確率に判定術者レベルが関わってくるからだ。あとでモジュール構成を元に戻せるCMS装備ならではの変態チューニング。普通の神器級装備でこんな勿体ない代物は作れない。
また少しばかり移動し、ザイトルクワエ潜伏地点から三百メートル程度の距離まで近づく。
ここまで来ると周囲は枯れ木の森になっており、いかにもエリアボスが出ますよという雰囲気を醸し出している。悲しいかな俺たちは適正レベル帯の挑戦者ではないけども。
「リーギリウム、目標は地面の下だけど、捕捉してるな」
「ん、ああ――見えてるぜ。聞いてたほどじゃないけど、それでも結構なデカブツだ」
聞いてたほどじゃない、というのは俺の伝えた事前情報が
術者不明の〝封印〟が効いているのか、敵は未だ地上に姿を見せない。が、たとえ相手が地中に潜んでいても、自分の知覚能力で捉えられる対象なら、リーギリウムのスキルは問題なく機能する。
「
「えーと……マイナス三百八十から、三百九十パーセントの間」
いろいろ言葉を省いた問いにも、意味を違えず答える偽装少年。彼が諳んじた数字は、これから俺が使おうとしている〝あるスキル〟の成功確率を指す。
リーギリウムの情報系特化NPCとしての能力は、敵の位置を探ったり遠くを見聞きしたりするだけに留まらない。特定事象にまつわる近未来の確率すら、彼は予知する。
この確率予知はユグドラシルでも便利スキルだったが、それは自分が使おうとしている魔法などの予測成功率を視界に表示してくれるという、あくまで〝ゲーム的な便利さ〟に留まっていた。
転移後は適用範囲が大幅に拡張され、脅威の隠れチート能力と化している。制約もあり万能とは言えないものの、〝行為の結果を実行前にある程度予測できる〟というだけでもきわめて有用には違いない。
まあ
「へー。数字出るんだ。
こんなことを言うとだいたい変なフラグが立つものだが、実際
そもそも成功率マイナスってなんやねん、とユグドラシル未経験者なら思うかもしれない。これは要するに、相手の能力値や耐性から算出されたレジスト率が高すぎるという事実を、攻撃側から見たユグドラシルのシステム的表現に過ぎない。
そのままなら実質成功率ゼロ以下。しかし言い換えれば、装備変更やバフ・デバフなどで符号をひっくり返す余地はあるということ。
マイナス四百パーセントもない程度の抵抗力なら、俺の強化スキルだけで充分にカバーできてしまう。まったく貧弱なイビルツリーもどきめ。どこぞのプラチナム・ファッキン・ドラゴンロードはマイナス
「〈圧倒する思念〉起動、〈確率変動〉、〈精神侵入熟練〉強化最大――どうだ?」
リーギリウムの観測結果は、きっちり計算通りで予想通り。
「プラス百八十から九十。確定成功ライン超えだ」
「なんだ、やっぱ〈
土に埋まったくらいでは、リーギリウムどころか俺の知覚すらごまかせない。頭上に一発、目覚まし代わりの〈
封印あっさり破れてて草。ひょっとしてコレ、一定ダメージ喰らうまで解けない睡眠効果かけて埋めといただけなんじゃねーのか。原作でも埋まってたかどうかは記憶が曖昧だが、こんだけデカければ寝ぼけて身じろぎしてるうちに地上へ出てしまっても不思議はない。
しかし俺が草生やしてられるのも、原作知識と能力的優位があってこその話。現地住民がこんなのを見たら、なるほど破滅の竜王とか呼んで恐れても不思議はない。
大地が割れ、枯れゆく森が隆起し、そして現れる小山のような怪物の影。
それはまさに終末の光景。いまここに、異界から降り立ったプレイヤーと謎のボス級モンスターの死闘が幕を開ける……!
――などという面白そうな展開は、残念ながら俺の仕事ではなく。
「ほい、〈
たった一つのスキル。派手なエフェクトは何も出さない。
それで、終わりだった。
目の前の巨大な生命体との間に、強靭な精神感応の
いま使った〈
ビーストテイマーなんかが持つモンスター従属化能力、いわゆるテイム系スキルの
魔獣など特定種族しか従えられないことが多い他のテイマー職と違い、対象の種族を選ばず使えるのが素晴らしい。しかし属性が[精神作用]なので、抵抗力が高く完全耐性持ちも珍しくない高レベル帯モンスターには、そもそもほとんど通らないという致命的な弱点があった。
おかげでこれの修得クラス『
周囲の人払いを徹底したのも、鎧ツアーを連れて来なかったのも、すべてはこのスキルを見られないため。当然の措置と言える。
ザイトルクワエだって、[精神作用]の完全耐性くらい
枠に限りはあるし、どっかのチャイナドレスほど強力でないとはいえ――
「どうだ、ボス? 制御できそうか?」
「んむ、問題ないね。元がほとんど本能しかなかったところ、俺に掌握されて初めて知性らしいものを持った……って感じだ」
はい、触手A上げ。触手BとD上げ。触手C上げないで、触手A下げ。その場で一回転してワンと鳴け。それから連邦に反省を促すダンス。
いまや俺の忠犬(くさタイプ)となったザイトルクワエは健気に応える。
触手の上げ下げはきっちり注文通り。根を脚のようにごっさごっさ動かして、土砂と枯れ木を蹴散らしながら一回転。なにやら凄い怪音で吼えてたけどあれはワンと鳴いてるつもりだろうか。
反省を促すダンスは流石に無理だったらしく、途方に暮れたように触手をしゅんと垂らす姿が哀愁を誘う。よく考えたら植物系ボスモンスターでカボチャ頭なのは聖剣3の某神獣だったわ。すまんの。これもマフティーってやつの仕業なんだ。
味方判定になったので、指揮官系の職業スキルでザイトルクワエのステータスをざっとチェック。やっぱりHP以外は(カンストプレイヤー目線で)そんなに強くない。ツアーの異常な強さからして、衰退前の竜王たちがこの程度のモンスターを殺し切れなかったとは思えないのだが、わざわざ眠らせて埋めておいた理由は何かあったのだろうか。地味に謎が残る。
まあそんなことは暇ができたときにでも調べればいい。とりあえず、今日一番の山場は越えた。
「念入りに準備したおかげで、ほぼ戦わずに済んだな。スケジュール通り、トラブルなし、ついでに人死にもゼロ。いつもこういう仕事がしてえわ~」
「ボスー、まだコレを向こうに運ぶ作業が残ってるだろー」
それはそう。気を取り直した俺はザイトルクワエに命令し、根や触手をできる限りコンパクトに折りたたませる。
すっかり従順なペットと化したこいつなら、トブの大森林に放置しても勝手に暴れたりはしない。しかし存在するだけで周囲の土壌や植生からぎゅんぎゅん栄養を奪ってしまう生態だけは、如何ともしがたい。
わざわざ育成要員の
「あ、もしもしエルスワイズ? これから
テレパシーで転送先の状況を確認すれば、涼やかな声が頭の中に返ってくる。
「
「気が利くゥ~! でもこっちが準備できたから、ほどほどで切り上げていいよ」
「かしこまりました。整地要員は私が召喚した
極まった
やっぱこの世界、召喚特化ビルドが相当強いよなあ……と事前検討の正しさを再確認しつつ、俺は次の作業に取り掛かる。
「〈
発動したのは〈
それだけだったら単なる下位互換なのだが、〈
つまり〈
……いや、変身系の効果で小さくすれば他の転移魔法でも行けたか? まあ既に発動してしまったことだし、勿体ないので今回は計画通り〈
膨大なMPを注ぎ込んで最大増幅した〈
もちろんザイトルクワエに飛行能力はないから、こちらで〈
いちおう事前に実験して確かめていたことではあるが、〈
「んじゃ、またなザイトルくん。向こうではエルスワイズたちの言うことをよく聞くんやで~」
手を振り振り見送っていると、やがてザイトルクワエの巨体が光の向こうに消え、エルスワイズから受け取り完了の連絡が来る。俺は〈
森に静寂と薄暗さが戻ってくる。災厄は去り、もはや誰も〝魔樹〟に脅かされることはない。
最大増幅版〈
遠方のダークエルフ集落から観測されていたりしないかという心配もあったが、これもリーギリウム曰く問題ないらしい。飛行能力を持たず、木々より高い建造物も作らないこの地のダークエルフには、遠く離れた森の奥で空に消える大樹の姿を目視できる可能性は低い。丘や崖など起伏のあるエリアからなら地形次第で視線は通るが、そういう場所は基本的に魔獣の住処であって、人は住まない。
北の山側からは見えたかもしれんけど、アゼルリシア山脈に棲む文明的種族はドワーフとクアゴアくらいのはずだし、どっちも地下在住だ。たまたま地上に出ていた眼のいいドワーフあたりが目撃してしまったとしても、少人数ならこの世界で稀によくあるマジカル☆
「
「お疲れ、ボス! けっこう
「この状態でも『
いまごろ転送先では、エルスワイズがザイトルクワエを所定の地点へ植樹し、ヘスが職業スキルで当座の栄養を与えているはず。
そして環境が整ったらメイラスが呼ばれ、苦労しつつも運営している自国のすぐ近くにビオランテみたいなのが引っ越してきたことを知って卒倒するだろう。女王様はかわいいですね(ボ並感)
実際んとこ、今後のザイトルクワエの主な役割は〈
耐久力はともかく総合戦闘力は大したことないので、図体のデカさを活かした威圧的オブジェとして
そのうち原作サイズまで成長したら、森の名物として観光資源になったりしないだろうか。ザイクロトル饅頭をぼったくり価格で売りつける露店とか出てきそうだな。
などと雑念を弄んでいるうちに、リーギリウムがどっかへ歩いて行こうとしている。
「あれ? どこ行くの?」
「なに言ってんだボス、ダークエルフの村の連中に成果報告してやらなきゃダメだろ。あんまり戻りが早すぎると変だから、森の測量がてら歩いて行こうかと思ってさ」
あ~~~~、引っ越しキャンセルのお報せね。そういやそんな仕事も残ってたわ。
だっっっりィ。俺だけ戦死したことにして帰っちゃいかんかな。兄者は犠牲になったのだ……犠牲の犠牲にな……。
無論そんなポンコツムーブが許されるわけもなく、俺はリーギリウムと並んで森の中をぶらぶら歩き、地形を調べたり原作キャラを探したりした。
この時代、トブの森には東の巨人も西の魔蛇も巨大ハムスターも存在していないらしい。ザイトルクワエ封印地点の近くにいるはずの
そういや幻の薬草も消えちまったし、十三英雄や後世のアダマンタイト級冒険者たちの功績を一つ奪ってしまったなあ、と今更ながら思い至る。代わりに特大の厄ネタを一つ引き取って差し上げたので許してくれ。もし会えたら詫び石の一つもやろう。
頃合いを見計らってダークエルフの村へ凱旋し、「〝魔樹〟は去りました。もう皆さんを脅かすことはありません」と言ってやると、なんと誰も真偽を疑おうとしない。やはり事前のパフォーマンスが効きすぎたのだ。
案の定というか、半神を崇めるようなイっちゃった目つきの村人たちに包囲され、そのまま宴会に連れ込まれた。
俺もダークエルフに化けてるから飲み食いできるのはいいんだけど、ろくに味付けしてない肉とか葉っぱとか巨大芋虫とかをお出しされるのは勘弁してほしい。最初はこっそり影の中の〝護衛〟に喰わせてたが、村一番の美女だという未亡人ダークエルフに「あ~ん」されてはごまかしも利かず、試しに猪っぽい謎肉を食ってみたのが間違いだった。
硬い! 獣臭い! シンプルに不味い! せめて火をちゃんと通せ!
一口でブチ切れた俺は「本物の〝ごちそう〟ってやつを教えてやらァ!」と第六位階魔法〈
この魔法で生み出される飲食物には多少のバフ効果があり、ユグドラシルでは
重要なことは一つだ。――〈
目もあやな食材の数々。鼻から入って食欲を直撃する香り。鉄板の上でじゅうじゅう肉が焼け、さくりとパンの千切れる音さえも甘美に、村人たちの尖った耳を蹂躙する。
「――どうしました? 食べないんですか?」
俺は唾を呑む彼らの前に盃を掲げ、微笑みを浮かべて唆した。悪魔のように。
そして未知なる〝食〟の暴力が、ダークエルフたちの文化を永遠に破壊した。
圧倒的な味と食感の情報量。もはや彼らの頭の中に、〝魔樹〟やそれを退けた英雄のことなどは残らなかっただろう。
うまい。うますぎる。何だこれは――
こんな食べ物がこの世にあるのか。こっちの酒もすごいぞ――
おいひい、おいひい、口の中が幸せしゅぎりゅ――もう死んでもいい――それともここが神樹の世界なのか――
村人たちのあんまりな痴態にドン引きした俺が、これひょっとして
村の歴史はのちに、この一日を〝涙の日〟として語り継ぐ。
表向きには、遥か遠方から訪れた同族の英雄たちが〝世界を滅ぼす魔樹〟を鎮め、何処かへ追い払った偉業を讃えて。誰もが喜びの涙を流して祝ったと、そう伝えて。
だが当時を知る者は、語られざる陰の歴史を忘れなかった。
ダークエルフたちが泣いたのは、旅人たちの不可思議な魔法で生み出されたごちそうが、あまりにも美味しすぎたからであり。
自分たちがこれまで食べてきたものは
少しばかりフライングをして、さらに遠い未来の話をしよう。
四百年後の民族誌には、こう書かれている。
トブの大森林を支配する種族、
彼らはとてつもなく長寿で、美しく、
◆蛇◆
キャラクター名鑑 #0001
【カレルレン・
役職:ギルド『
住居:ギルド拠点『
種族レベル:
████ 10lv
██ 5lv
ほか
職業レベル:
████ 5lv
など
[種族レベル:取得総計25レベル]+[職業レベル:取得総計75レベル]=計100レベル
※1:カルマ値は特定スキル使用などで変動。
◆足◆