OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
母と娘は泣きながら。父親は呆然として、半ば夢見心地で。
「おかあさんっ……おとうさんっ……わたし、がんばりました! いまもっ、がんばっててっ、そのごほうびにって、か、かみさまがっ」
「これは……どういうことなんだ……俺は巨人どもと戦っていたはず……?」
「……もしかして、これ、
複数の巨大なエルフツリーを支柱として形作られた、優美な純白の木造建築――『
その最上階、玉座の間に彼女たちはいる。
メイラス・レッドゴールドとその母エワ、父サイデルの、およそ四年ぶりになる再会だった。
感動的なシーンに違いないのだが、少し離れた所で待つ俺は「蘇生された両親の反応が対照的で面白いな~」と完全に実験動物を観察する目で見てしまっている。
魔法に関して素人っぽい父の方がまったく状況を理解できず困惑しているのに対し、
死んだのが四年前なら第七位階魔法〈
そういうわけで、蘇生を担当したのは生物部門統括NPCの信仰系
治癒・蘇生のエキスパートたるヘスには、「自分が発動した蘇生効果の経験値損失を
強化された〈
「そう……私が死んだあと、あなたが氏族長を継いでくれたらと思ってはいたけど。一国の
「はい……はいっ!」
「――それで、あなたが〝賢者様〟ですか?」
「エルスワイズと申します。呼び方はご自由に。不肖、
親子三人にエルスワイズも交え、夫妻の死後これまでの経緯や今後の選択肢などが説明される間、俺は少しばかり離れたところでヘスと蘇生実験の話をしている。
「そういや、蘇生魔法でどんくらい過去まで遡って死人を生き返せるかって、まだ検証途中なんだっけ? 〈
「死後経過年数が明確かつ充分に古く、あらゆる面から安全に実験できる死者を確保するとなると、なかなか難儀でございまして……少なくとも〈
ユグドラシルだと蘇生可能期間に制限あるのなんて一部の緊急復活系くらいだったが、どうやらこの世界では蘇生魔法の位階が上がるほど古い死者まで復活させられるらしい。つまり今ならやろうと思えば、スルシャーナとか八欲王とか百年前に死んだ竜王とかを蘇生できるかもしれないってことだ。これは覚えておいた方がいいような気がする。もちろん
信仰系以外の蘇生魔法や、スキル、アイテム、超位魔法による蘇生なんかではまた有効期間が変わるかもしれない。そのへんも魔法研究部門で調べているはずだ。
なんにせよ死者蘇生は現地人に恩を売ったり力を見せつけたり、あとは法国に宗教的覇権を握らせるための武器としても使っていく予定の便利カードである。データを集めておくに越したことはない。
そういう意味だと、今回の二人は難度の高い蘇生実験としてもなかなか有意義な知見をもたらしてくれている。
蘇生受付期間や呪文位階の条件をクリアしていても、死体が現存しない状態からだと、蘇生には死者を特定する詳しい情報――生年月日とか生まれた場所とか、あるいは死んだ日時と場所とか――が必要になる。以前から立てられていた仮説だったが、このたび夫妻のおかげでその検証が一歩進んだのだ。
と言っても、きょう一日の話ではない。
実をいうと、メイラスが望む報酬として〝両親の蘇生〟というのはありそうな部類だと思っていたので、レッドゴールド夫妻の詳細なデータはあらかじめ手に入れてあった。
この調査も意外と大変で、諜報部門が氏族の里の跡地まで行って手がかりを探したものの蘇生に必要と目される情報量を集めることができず、最終的にリーギリウムが
一般人の蘇生に向けた予備調査コストとしては到底割に合わないが、おかげで課題も見えた。これ以降、諜報部門では他部門と連携しての情報収集の効率化に取り組んでいるという。特に科学技術部門統括NPCのアンダーソンが張り切っているとか、いないとか。
ともあれ、メイラスの願いを聞き出してすぐ蘇生イベントの場をセッティングできた背景にはこういった事情がある。
俺がそんなことを考えているうちに話がまとまったのか、エルスワイズがレッドゴールド家の三人を連れて合流してくる。
「女王陛下のご両親の処遇についてですが……当面はご息女の政務を補佐しつつ、権威の序列に混乱を招かぬよう隠居されるとのことです。
公的な社会復帰は、神殿における蘇生事業が各種の制度運用テストを終えるまでお待ちいただくことになります。お二方には不自由を強いて恐縮ですが、なにとぞご寛恕を」
「そんな、とんでもない! むしろご配慮に感謝いたします、賢者様。
娘の邪魔には、なりたくありませんから……」
ひとまず隠居してくれるというのはありがたい。もともと
「お初にお目にかかります、われらが氏族の新たな神よ。多大なる恩義に心からの感謝と、帰依の誓いを捧げます」
膝をつき、深々と頭を下げ、髪をどけて首筋を晒すような姿勢で拝んでくる女性。メイラスも初めて会った日にやってたなこのポーズ。レッドゴールド氏族の伝統的な儀礼だろうか。
メイラスの母、エワ・レッドゴールドからは、娘に似て聡明な女性という印象を受けた。エルフの例に漏れず若々しい美人だが、御年三百歳に近いという。
人口百五十人そこらの隠れ里とはいえ、巨人国の襲撃があるまでの数十年、氏族長として平和に治めていた経験がエワにはある。駆け出し女王のメイラスにとって、エルスワイズに言えないようなことでも相談できる精神面の支えになってくれるだろう。
「あなたが、その……〝神様〟ですか。なんというか、失礼かもしれませんが……気配が
妻と対照的なのがメイラスの父、サイデル・レッドゴールドだ。
氏族最強の戦士長にして、氏族長の配偶者。そんな地位にありながら、彼の所作は儀礼的な面でまったく洗練されていない。上流階級でもなんでもない俺から見てさえそうなのだから、この男の朴訥ぶりは筋金入りと言える。
しかしその無骨さは俺にとって、かえってエワより話しやすい相手と映った。感謝でも服従でもなく、いきなり〝あんたすげえ強いらしいけど影薄くね? ナニモンなの?〟と探りを入れてくる直球の戦士的思考。エルスワイズが笑顔のままピリッとした空気を出してるが、俺はこういう奴も嫌いではない。
「あっ、はい、どうも。成り行きで神様やってます、カレルレンと申しまーす。
この姿は市井を出歩くための変装なんで、いちおう
ステ偽装やら探知阻害やらを重ねた上にモブエルフの顔じゃあ、娘に〝神様です!〟と紹介されても信じられないだろう。そう思い、俺は変身やら情報防護やらを一時的に解除して、その下のフル装備ルックを夫妻に見せてやる。
「あ…………ああ!
「これは……! まるで…………そうか。神とは、まさに……」
娘と違ってオーラを見る
ついでに至近距離でクソデカオーラを直視したメイラスが「へああぁ、目がぁ……目がぁぁ……!」とか呻きつつ転げ回っている。そのリアクションはバルスされるまでとっとけよ。エルスワイズは〝もはや処置なし〟みたいな顔で傍観決め込んでるしよぉ。
真の姿とは言ったものの、仮面やローブやガントレットや靴その他で全身覆っているから、
首をひねっていると、ヘスが耳打ちしてくる。
「カレルレン様……隠蔽を解かれたことで、御身の周りに忍ばせておいでの〝護衛〟たちの気配までも、漏れ出てしまっているのでは……」
「あっ」
そういうことぉ??? まったく考慮してなかったわ。アホか俺。
最近の俺は目に見えるNPCたちの他にも、複数の護衛を秘かに伴っている。そいつらは自身の固有能力で俺の影に潜っていたり、特殊な職業スキルやアイテム機能や種族特性を活かして装備の中に隠れていたりするのだが……この状態では、俺自身の情報的遮蔽が機能している限り、護衛たちもその保護対象に入ることが実験により判明している。
で、いまは俺がその場のノリで遮蔽を全解除しちゃったもんだから、一〇〇レベル・キャラクター
完全に俺のせいじゃったわ。でもまあレッドゴールド一家に勘違いされてても困ることなさそうだし、別にいっか。
情報防護を元に戻し、俺は再び無害そうなモブエルフ男性に変身。顔面が畏怖の形に硬直してしまった夫妻を適度に脱力させるべく、モブスマイルでぽやっと笑いかける。
「……とまあ、気配を隠さずに出歩いてると大変なことになってしまうので、普段は外見的にも魔法的にも目立たない格好してるわけですねー」
「アッハイ」
「かみさまはとてもめだっていません」
駄目だこりゃ。
とりあえず意識が半分どっか行ったままのレッドゴールド夫妻をヘスに任せ、彼らのための住居へ案内させた。メイラスの話を聞いた限り、二人が死んだ経緯も散々だったようなので、回復したらゆっくり第二の人生をエンジョイしてほしい。
そして俺は、床でふにゃふにゃになっている女王陛下を引っ張り起こす。
「ひぃ……なんで……〝ひゃくれべる〟よりおっきいオーラはないって言ってたのに……」
「おーい女王様~。どうする? 今日もう無理そうだったら、続きは後日でもいいけど」
たっぷり六秒くらいは掛けて、メイラスはなんとか正気に戻った。たぶんエルスワイズの冷たすぎる視線が決め手だったと思う。
「は……いえ……大丈夫です! お手数をおかけしました!」
「真面目だねえ……」
今後も彼女には
あるいはもっとレベルが上がって、基礎ステータスが高まれば度胸もつくのかもしれない。眼鏡っ子魔女ミハネの協力のもと、ワールドアイテムを二つ併用した贅沢なレベリング実験もしているはずだし、そっちの成果に期待してみてもいい。
できればヘスの真の姿を見ても難なく狂気レジスト成功するくらいには心臓を鍛えておいてほしい。さあがんばれ女王様。何度か死ぬ目に遭うかもしれんが心配は要らない。両親の復活で
プレイヤー流に言えば、死とは