OVERLORD:The Invisible Watchmaker   作:Stormgren

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[memo]
もう何回か平和な話が続きます。
身体が闘争を求めて仕方がない、という読者諸氏はいましばらくお待ちください。





ミリアベル先生のまるで参考にならん鍛冶教室

「さあ神様、お師匠様! ご視察の続きに参りましょう!」

 

 予定外の両親蘇生イベントをぶっ込んでしまったせいでスケジュール的には遅延気味だが、調子を取り戻したメイラスの意気は高い。アッパー系のおくすりでもキメたの? ってぐらい張り切っていらっしゃる。

 

 もう一度会いたくて、でも二度と会えないはずだった両親との奇跡の再会。もちろんそりゃテンション上がるのは解る。俺だって、もし死んだギルメンをこの世界で蘇生させることができたら嬉しさのあまり発狂するだろう。なお既に発狂している可能性は考慮しないものとする。

 

 そんなわけで、見た目だけエルフ三人のパーティに戻り再出発。

 エルスワイズに〈転移門(ゲート)〉を開かせ、次の目的地へ。

 

 メイラスの案内で訪れたのは、煙突のついた石造家屋が立ち並ぶ街区。

 このへんはドワーフの国民が固まって住んでいるエリアの一つで、煙突のある建物は鍛冶場を備えているという。……ほとんど全部じゃねえか?

 今もあちこちから槌音が響き、石か金属を削るような摩擦音なんかも聞こえてくる。煙突の大半はもくもく煙を噴き出しており、その色も白や黒だけでなく赤や黄色や緑があったり。うるさくてケムい町、というのが全体の印象だ。

 

「入植から一年経ってないにしちゃあ、ずいぶん活気のある工場町だな……?」

「ドワーフにとって、鍛冶工芸は専門の職人でなくとも趣味でやるものなんだそうです。とくに、亜人国家で奴隷として働かされていた人たちは、たいてい大工や職人ですから……」

「なるほど……専門家集団をごっそり連れてきたから、家も道具もあっという間にDIYしちゃったと……」

 

 メイラス曰く、ここを含め何か所かにあるドワーフ街で生産される家具・農具・建材などは、国の急速な発展を支える原動力の一つにもなっているらしい。他種族と新天地に放り込まれながら、さっそく職能を活かして地位を築きつつあるドワーフの逞しさがなんとも頼もしい。

 

「この新しい国で、早くから地盤を固めたいという思いもあるでしょうが……彼らの技術自体も急成長しているそうですよ。なんでも、ときどきミリアベル様が技術指導に訪れてくださるとかで」

「へえ? ……エルスワイズ、なんか聞いてる?」

「この世界のアイテム製作技術を学ぶ対価ということで、いちおうミリアベルに許可は出しています。高度な技術の開示には慎重であれ、とも釘を刺してありますが」

 

 製作部門副統括のミリアベルは、鍛冶師系専業カンストプレイヤーにも劣らない超生産特化型NPCなので、ここのドワーフたちに技術指導というのはわからん文脈でもない。工業力ブーストが国益にかなうのも理解できる。

 

 じゃあ俺はどうしてこんなに不安なのだろうか、と考えてみると――やはり()()()()()()()()、というほかない。あいつはエルスワイズのような論理型ではなく、霊感型・芸術家肌の天才キャラとしてデザインされている。傍から見ると意味不明なことをやらかしながら、()()()()()()()()()()()という怖さがある。

 

 おあつらえ向きにというべきか、大通りの先をメイラスが指さした。

「……あ、見てください、あそこ。大親方の家に人だかりができてます。ああいうときはミリアベル様が来ていることが多いですよ」

「よし、見に行くぞ」

 

 歩きながらメイラスに聞いた話だと、大親方というのは、ここのドワーフ街で職人たちの棟梁みたいなポジションに収まっている長老格の人物を指す。

 

 さらにエルスワイズの補足するところによると、いまは有力者が個人として相談役・調停役を引き受けているに過ぎないが、もう少し同業者たちの序列が定まってくれば自然に組織化され、互助と権益保護を目的とした()()が形成されるだろうとのこと。本来の意味での〝ギルド〟が誕生するわけだ。ただあれは弊害も多いシステムなので、先回りして対策を考えておいた方がいいかもしれない。

 

 そんなことを考えているうちに大親方の家へ到着。

 ここも地上暮らしを選んだドワーフの住居らしく、石組みの重厚な城館といったつくりをしている。実際いざというときは避難所にも砦にもなるという。使う機会はないかもしれんけど。

 そして、そこに群がる髭もじゃ筋肉質の小人たち。正直俺にはドワーフの男も女も若者も老人もあんまり区別がつかない。

 

「すみません! ミリアベル……さん、は来ていますか?」

「何じゃ? こんなとこにエルフなぞ……うおッ、女王陛下に宰相閣下!」

「通せ通せ! ちっこい女王と宰相どのが入られるぞ! ついでになんか影の薄そうなエルフも一人! ……荷物持ちか?」

 

 メイラスの声に振り返ったドワーフたちが、慌てた様子で道を開けていく。

 ここの連中も、テンプレ異世界ファンタジーにありがちなエルフへの隔意といったものはなさそうだ。むしろ親戚の娘でも来たような気軽さで〝女王陛下〟の肩を叩いたりしている。見ている分には微笑ましい距離感。エルスワイズが彫刻めいた作り笑いの下で呆れているのを俺でも感じ取れる。

 

 モブ顔エルフに化けた俺は、重鎮二人の従者かなんかだと解釈されたらしい。

 その勘違いに便乗して大人しく二人の後をついていくと――中庭で車座になったドワーフたちと、その真ん中で何やら熱弁しているミリアベルの姿を発見した。

 

「ですからねぇ~、金属を炉で加熱するっていうのは~、素材を柔らかくして加工可能にするという物理的側面だけではなくてぇ~、その工程自体が魔法的な儀式としても機能しているんですね~~」

 

 額にゴーグルを引っかけた、ツナギ姿のロリドワーフ。素性についてはほとんど明かしておらず、ただ〝謎の凄腕女鍛冶師〟で通っているらしい。ユグドラシルでもこの世界でも、ドワーフの女は本来ああいう姿にならないのだが、いったい何の種族だと思われているのだろうか。

 

 彼女の前には、魔法で作り出されたと思しき即席の炉と作業台。鍛冶屋の青空教室とはまた開放的な。今日は実演形式でいろいろ作ってみせたりもしているようだ。

 

「なるほど……呪文も知らんのに魔法武器が出来たりするのは、そういうわけか……」

 車座のドワーフたちが、ミリアベルの解説を聞いてざわざわしている。みんなマジな職人の顔つき。見た目は人間種っぽいだけの小娘一人に、侮るような目を向ける者が一人もいない。いやむしろ狂信者っぽいのがちらほら紛れている。

「鎚神様! もしかして他の工程もそうなんでしょうか? ハンマーで叩いたり水で冷やしたり、細工を彫り込んだりといった作業も?」

 

 ()()()って何だよ。ちょっと目を離した隙にミリアベルが変な称号獲得してて草生える。

 字面のネタ臭さは別にして、鎚神様は彼女なりの真剣さで教師役を引き受けているらしく。

 

「まさしくですぅ~~! 特に素材を叩く〝鍛錬〟はただ圧力を加えてるだけじゃなくて~、職人の技と魔力をダイレクトに伝える工程なので一番大事なんですね~。練習すれば加熱しなくても~、ハンマーだけでちょっとした小物くらいは作れますよぉ~。

 今回も実演してみせるので~、よぉく見ててくださいねぇ~」

 

 ミリアベルは作業台の上に黒っぽい鋳塊(インゴット)を置き、そいつを仕事道具の神器級ハンマー『諸刃の父(トバルカイン)』で、()()()()叩いた。

 カァン! と鳴り響く快音。飛び散る色とりどりの火花。

 

 次の瞬間、インゴットが震え、身をよじるようにして自ら輪郭を変えた。

 じゃかッ――と音立てて、細長く鋭く成形されたその姿は、一本の短剣。

 

「一度の打撃で必要な圧力と魔力を伝達できれば~、あとはそれが素材の内側でどう反響してどう浸透するかの調()()次第で~、こんなふうに一発成形もできるんですねぇ~~」

 

 いやいやいや。何だそれ。もはや()()の域にある技じゃないだろ。

 ドワーフたちのリアクションも似たり寄ったり。遠巻きに見物している客はただ呆気にとられ、どうやら前にも見ているらしい車座の職人連中は首を捻りながらミリアベルの作品を検分している。

 

「は……は??」

「うごごご……何度見ても意味が分からん……」

「アダマンタイトじゃぞ……柄の部分にこんな、精巧な紋様まで刻まれて……しかも見ろ! この短剣、()()されておる……!」

「鎚神様! せめてこう……秘訣というか……コツを教えてはくださらんか!」

 

 む~ん、と首をあっちこっち傾けながら考えた末に、ミリアベルが思いついた説明はというと。

「そうですね~、楽器を鳴らすようなイメージですかねぇ~? 目当ての音を出すようにして~、望んだ形になるための振動を~、最適な位置・最適な角度・最適な力加減で打ち込んであげれば~、勝手にこうなりますよぉ~~」

 

「駄目じゃ……わからん!」

「なんも参考にできん!」

「クソッ! 目の前で実演されておらんかったら無理じゃと笑えるものを! ()()は実際に、一打ちで、魔法武器として完成しておる! どうなっとるんじゃ!?」

「神代の技か……!」

 

 たぶんユグドラシルの上位鍛冶系スキルを現実に落とし込むとそういう理屈になる……って話なんだろうが、素人目線でもトンデモ技術としか思えん。いっそ「魔法でそういう形にしました」と言われる方がまだしも理解できる。そりゃ鎚神様とか呼ばれるわ。

 

 この世界の職人に真似できるかどうかきわめて怪しいミリアベルの技術講座に、それでも必死で付いて行こうとしているドワーフたち。

 大半がおっさんと思われるその中に、一人だけ髭も生えていない少年がいた。

 

「ミリねーちゃん! このまえ教えてもらった属性金属の作り方、もっかい見せてくれよ!」

「おや~、レオくんは勉強熱心ですねぇ~! それじゃあ、前回はいちばん簡単な土属性の金属生成を見てもらったので~、今回はもうちょっと難しい風の属性金属を作ってみましょうか~~」

 

 誰かと思ったら()()()()()()()()()じゃん。

 以前保護したプレイヤーの母子はこの国でそれなりにうまく暮らしており、子供たちもPC(プレイヤーキャラ)のあり余る才能を活かして職業訓練に励んでいたりする。

 母親のリナは「万一に備えて双子のレベルを上げておきたいが、痛い思いをさせてまでレベリングのために戦わせたくはない」という考えで、双子には生産職や回復職の経験値を積ませようとしているらしい。プレイヤーとしては過保護に見えるが、二十二世紀の日本人的な発想としてはわからんでもない。実際俺たちにとっても有益な話なので、この件はうちのギルドからも人手やアイテムを出して支援している。

 

 双子の片割れ、八重樫レオはドワーフの少年アバターでこの世界に転移して来た。いまは製作判定にボーナスが乗る種族特性を活かし、ここの工場町で職人たちに教えを乞うているようだ。手堅い選択と言えるだろう。彼らの望み通りにリアルへ帰還することが叶わなくとも、この世界で生産職のプレイヤーが食いっぱぐれることはあり得ない。伝説的名工として歴史に名を残すことが約束されているようなもんである。

 

 せっかく低レベルスタートのプレイヤーという逸材なので、そのうちルーンなどユグドラシルになかった技術を習得できるかどうかも試してもらいたいところだ。一〇〇レベルまで成長できるプレイヤーなら、現地人では到達できないような超高位武具を独自技術で作れるようになるかもしれんし。

 

 そんな俺の期待の眼差しの先にいるレオ少年は、()()()()風属性の魔法金属を取り出すというミリアベルの絶技に見惚れていた。

 

「土属性の時と違って形のないものが材料なので~、コツを掴むまではちょっと難しいかもしれませんが~、これは魔力操作と属性元素(エレメント)への感受性が肝心なところですねぇ~。鍛えれば誰でもできるようになるので~、みなさんがんばりましょうねぇ~~」

「すっげー! ミリねーちゃんすっげー!」

「おい見たか今の……鎚神様、ハンマーで()()ブッ叩いてインゴット打ち出しよったぞ……」

「変態じゃ……変態の所業じゃ……」

 

 よく見るとレオ少年の視線はミリアベルの顔でも手先でもなく、ツナギを押し上げる豊かなバストに固定されている。どうやらロリ巨乳に性癖を破壊されてしまったようだ。

 十歳くらいだと聞いていたが……小僧……色を知る年齢(とし)かッッ!

 

 こうなれば、母親(リナ)の方をじわじわ落としにかかっているエルスワイズ同様、ミリアベルにも息子(レオ)との関係を深めるよう指示しておくべきかもしれん。NPCの身体ひとつでプレイヤーの心を縛れるなら安い取引だ。仮にミリアベルと上手く行かなくても、うちにはまだまだ多様多彩なハニートラップの専門家たちが控えている。

 

 この発想はまったく俺の独創ではなく、古典的な政略結婚のカードを肉親からNPCへ置き換えた、いうなればリアル世界史の変奏に過ぎない。愛と血縁を武器にするのもまた『人類』が生み出した戦略の一つ。使えるもんは使っていく。つっても人間種と異形種で子供が作れるかどうかはまだわからんけど。

 

「いかがなさいますか、カレルレン様――ミリアベルにあのままやらせておくべきでないとお考えなら、即刻やめさせますが」

「ん? あー、まぁ止めなくていいんじゃねえかな。最悪やべーもんが出来ても、この森の外に出さなきゃ大丈夫なわけだし……うちの役には立つかもしんないだろ」

 

 訊いてきたエルスワイズもそんなに心配してなさそうなので、俺は現状維持を選択。鎚神様と恋する少年をわくわく顔で見守っていたメイラスに声をかけ、三人でこっそりその場を後にした。

 

 俺もこの一年でミリアベルの扱い方を少しずつ学んでいる。BW(うち)の実験場でもある『霧の王国(ミスティラント)』の中なら、あいつは手綱を放して好きにさせておくのがいい。

 おそらく霊感型の天才をコントロールしようと思うのは間違いで、〝制御された暴走状態〟に置くのがベストパフォーマンスを出させるコツなのだ。油断すると()()()()になりかねないのがああいうスペシャルユニットの怖いとこだが……。

 

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