OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
DMMO-RPG『
当時はさほど注目もされておらず、未だ歴史が浅く手探り状態で珍作駄作凡作が泡の如く現れては消えていく没入型仮想現実ゲーム業界の、賑やかしの一つに過ぎないだろうと言われていた。
ロゴがダサいのはまあいいとして、北欧神話モチーフの世界設定なんか百年以上前から擦り倒されているので目新しくもなんともない。ティザームービーでチラ見せされた世界樹九界のグラフィック的な作り込みは当時として高い水準にあったが、それも目の肥えたゲーマーたちを唸らせるほど飛び抜けていたかと言えばそんなことはなかった。
俺はもちろん定期的にゲーム業界の動向をチェックしていたので、初報が出るや即座に気付いた。かねてよりの
最初のプレスリリースが公開されて数日後、俺たち元少年兵の救い主にして現上司でもあるサラに、俺はひとり呼び出された。
「これは、きみの言っていたゲームじゃないか? ……
サラが見せてきた
タイトルの一致だけじゃなく、九つの世界がどうのこうのといった基本設定まで話していたからこそ、サラも記事の内容と見比べて気付けたのだろう。
「たぶんそうだけど、前も言った通り、未来が俺の知ってる通りになるかどうかは分からんよ。タイトル、設定、発売日がたまたま俺の妄想と一致しただけかもしれない」
「偶然でここまで未発表のゲームの情報を言い当てられるとしたら、その妄想は予知の異能と大差あるまいよ。
例の……開発元への投資で利鞘を稼ぐ、という計画。あれも、やるのかい」
「まあね。廃課金プレイの資金を用意できればいい、くらいのもんだけど」
サラは何かを悩むように、ニュース記事と俺の顔との間で視線を往復させた。珍しいことだった。彼女はいつも決然とものを言い切り、迷いを見せるようなことのない人だったから。
言いにくそうにしていた理由は、意を決したように彼女が口を開けば、おのずと知れた。
「……先に言っておく。これは提案であって命令ではないし、きみが断ったとしても、そのことできみに不利益を与えるような報復措置はいっさい採らない、と誓う。
きみの、その計画に投じようとしている資金だが……運用を、私に任せてくれないか?
このユグドラシルというタイトルが、きみの
おおっと。まさかサラの口からこんな台詞を聞く日が来るとは。
十倍にして返すから金貸してくれって? まるでギャンブル狂いのダメ親父が子供に金を無心するときの物言いじゃないか。
でも俺はまったく迷わず即答する。
「いいよ。大した金じゃないけど、全額あんたに任せる」
前世じゃ凡庸な
彼女が俺を騙して金を巻き上げようとしているだけ……という可能性も、まあゼロじゃないのは解っていたが、
「銀行名と口座番号教えてくれ。入金する。あと、時間くれれば
「……いいのかい? そんなに、簡単に決めてしまって」
ほんの一瞬、サラは呆然として、それから苦しげな顔になって訊いてくる。
あんたがそんな辛そうな顔する必要はないんだよ、と言ってやりたかったけれど、言ったらサラを余計に苦しめるだけな気がしたので、やめた。
代わりに気休めの、理屈っぽい納得の言い訳を並べる。
「あんたのことだからさ、遊びや贅沢のために金が必要ってんじゃないだろ……別に
「――ありがとう」
きゅ、と手を握られた。
温かくて、力強くて。でも細くて柔らかい、女の手が。
血と死臭にまみれた少年兵の手を、やさしく包み込んでいる。
「きみの信頼に応えられるよう、全力を尽くそう。きっと驚かせてみせるさ」
「ん……元本くらいは戻ってくることを期待しようか」
それからの日々、俺は時々またサラに根掘り葉掘り〝原作〟のことを訊かれて、覚えている限りの情報を詳細に書き出したり、それらについて実際にこの世界で生きている人間の視点から考察し、意見を交わし合ったりした。
元手は多い方がよかろう、ということでサラには個人資産のほとんど全てを渡してしまったが、もともと俺は生活や趣味にあまり金を使う方ではない。
レガシーデータ発掘エージェントとして
正直言うと一か月後には、もう金を渡したこと自体ほとんど忘れていたくらいだ。彼女が巧くやるならよし、失敗したならドンマイとでも言ってやればよし。
そうこうしているうちに月日が経ち、西暦二一二六年某日。
DMMO-RPG『
最初期からプレイヤーとしてログインしていた俺は「なんでこんなバランス壊れたクソゲーに人が集まるんだ???」と思わんでもなかったが、そこはやはり何でもできる自由度の高さが多様な客層を呼び込んだということなのだろう。
やろうと思えばプレイヤーは戦闘に一切関わらず、セーフエリアの町中で料理人や職人や大道芸人、果ては酔っ払いや奴隷(!)のロールプレイだけをして過ごすこともできた。それが楽しいという人種も確かに居たわけで、このゲームは現実が終わっている世界における
同じサイボーグ少年兵の境遇からサラに救われた仲間たちとは、同じ施設で暮らし、働き、いまでも一つの大きな家族のように過ごしている。
最終的には
まずはユグドラシルそのものの仕様やイベント、効率的な狩場、金策手段、アイテム製作レシピなどの基礎研究から。
並行してキャラクター・ビルドの実験、ギルド拠点とするに適したダンジョンの捜索、ワールドアイテム探しなど。有名プレイヤーや有力なクラン、ギルド等の情報収集も欠かせない。
さっそく仲間たちとクランを結成し、手広く組織的にやっている。ちなみにクラン名は『
非合法とはいえ軍事作戦に従事していた元少年兵の集団にとって、こういった戦闘込みの連携行動はある意味で馴染みの任務だったと言える。また戦闘用に強化された俺たちの知覚力や運動神経は、ユグドラシルのシビアな戦闘システムにも高い適性を示し、モンスター狩りからPVPまで大いに役立った。
チートツールじゃねえかって? いえいえ、これ自前の脳ミソです。ちょっと軍用強化人間規格の補助脳でブーストされてるだけですよ。
救いだったのは、仲間たちがこのクソゲーにあっさり順応して、仮想世界でしょっちゅう殺したり殺されたりする殺伐ファンタジーライフをけっこう楽しんでいたことだ。
過去のトラウマとか刺激される奴がいるようならやめさせようと思っていたが、その必要はないどころかどいつもこいつも積極的に遊びまくるので、俺は彼らを引っ張っていくよりむしろブレーキを掛けさせる方に注力しなければならなかった。
大人顔負けのハードワークを日々こなす有能データエージェントであるこいつらと一緒に働いていると、つい忘れそうになる。みんなまだ子供なのだ。働かなければ生きられない境遇はそういう時代だから仕方ないとしても、俺の都合で奇怪なロールプレイに付き合わせるからには、せめて楽しんでほしかった。
そういう遊び方さえも許容し楽しませる、ユグドラシルの懐の深さは……まあ確かに〝遊べるクソゲー〟だった、と言えるだろう。PK蛮族の跳梁跋扈はマジでなんとかしろよと思ったけど。
サービス開始から数ヶ月が経った頃。
日本のゲーム業界でいよいよユグドラシルブームが過熱する中、ある休日のこと。俺はまたサラに呼び出されて、彼女の執務室へ出向いた。
そろそろオバロ原作ネタも吐き出し切った頃なので、今回は普通に仕事の話だろうか……と思っていると、彼女がこんなことを言う。
「今日、きみの銀行口座を確認したかね?」
してない、と言いつつ「なら見たまえ」と言われる前に携帯端末を取り出す。
給与口座の預金額が、ちょっと見たことのない桁数になっていた。
「は? なんぞこれ」
「例の件で借りた資金の返済だよ。ささやかだが、報酬に色も付けてある」
「んん? あー、〝十倍に増やしてやるぜ!〟の件か……なんか
「すまないね。全体としては、小ぶりのアーコロジーなら
いや多分これ、浪費を避ければユグドラシルのサ終日まで俺と部隊の仲間たち全員が食っていけるくらいの額にはなるが……充分では??
ていうかアーコロジーを買収って何だ。さすがにゲーム開発元の株を転がしただけで手に入る規模の金じゃないし、元手が俺の渡した分だけだったとも考えられない。ユグドラシルが当たる、たったそれだけの不確かな情報で、サラはどこまでデカい博打をやったのか。
「俺が言うのもなんだけど……正気か? 〝予言〟が外れたらどうするつもりだったんだよ」
「かなりマズいことにはなっただろうねぇ。だが勝算はあったよ。
開発元の申請していた、いくつかの特許技術があってね……理論が難解で、それぞれ単体ではどう活用されるのかピンと来ないような代物だったんだが……きみから聞いていたユグドラシルの仕様を突き合わせると、なるほど従来のMMOでは不可能な処理を解決できる技術だ、と思えたんだ」
たとえば〝非同期リアルタイムレンダリング〟の技術は時間系効果の実装に使われているはずで……とかサラが専門的な話に脱線し始めたので、俺は本題を先へ進めるよう促す。
促しながら、ひとつの疑問も抱く。
難解な特許技術の用途を僅かな外部情報で看破してしまえるあたり、やはり純粋なテクノクラートとしてもこの女は怪物じみている。そんな人間がオカルトめいた〝予言〟を利用してまで大金を稼ぎ出した。……何のために?
「まあ他にもいろいろと、違法にならない範囲で調べてみてね。きみの〝予言〟が当たっていようといまいと、あのメーカーがかなり革新的なゲームを
ここまで来て、その会社が満を持してリリースするビッグタイトルが、
「そこで俺の話に賭けようと思うのがどうかしてるんじゃねえかな……。
俺はただ未来を知ってるだけじゃなくて、〝ここが
密かに恐れていたことを、話の流れに乗って訊いてみる。
サラは一瞬だけ考え込むようなポーズを見せたが、すぐに首を振った。
「ふむ。……〝ここが現実ではないかもしれない〟というのは、それこそ紀元前から繰り返されてきた問答ではある。洞窟の比喩、胡蝶の夢、シミュレーション仮説……だが、仮にそうだとして、
私もきみも、今ここに肉の身を持った人間として生きている。活字でもなければ絵でもない。高次元の世界から見れば違うのかもしれないが……少なくとも私たちにとって、ここは現実そのものだ。それで充分じゃないか?」
当然ながら俺が生きているこの二十二世紀ディストピア日本は
サラはというと、俺とも少し違った割り切り方をしていた。
「ここが
哲学的問題に足を止められそうなときはね、いったん形而上のことは忘れて、
サラ・ブラックが俺に教えてくれたことは多いが、中でもこれは重大な教訓だったと言える。
彼女は行動の人だった。大望を成すために必要な筋道を見極め、時には大胆なショートカットも辞さず、折れず止まらず前進を続ける。ただそれだけの、俺のような凡人には途方もなく難しい〝努力の継続〟という才能が、きっとサラの人生を貫く最大の推進力だった。
「とかく、きみの話を聞いたおかげで私は大金を手に入れ……国の仕事とは別枠で進めている
礼を言いたい。……ほんとうに、ありがとう。きみが居なければ、これほど早く次の段階へ進むことはできなかっただろう」
見てくれは子供でしかない部下の俺に向かって、深々と頭を下げるサラ。その感謝が真摯な心から出たものだと思えばこそ、俺は居心地の悪い思いを禁じ得ない。
俺は彼女に怪しい情報を伝えて、金を渡しただけ。自分では身体を張ってもいないし頭を使ってもいない。何の努力も技術も要さず、肝心なことは全部サラにやってもらっただけだ。俺じゃなくてもオバロ読者なら同じことはできたし、誰のおかげかというならサラ自身の才覚と頑張りのおかげでしかない。
おまけに俺は元手の四十倍という莫大なリターンまでもらっている。感謝すべき文脈こそあれ、
「頭、上げてくんないかな……これじゃあ俺が貰いすぎだよ。
そもそも、あんたのやってる事業ってのが何なのか知らないから、感動を共有もできないし。〝へーそーなのかーおめでと〟しか言えねんだわ。
これ訊いてもいいやつ? ……その金で、何やろうとしてんの?」
万が一、いや億が一くらいだとは思うが。
彼女が稼いだ金でとんでもない悪事を働こうとしていたり、それを誤魔化そうとする素振りが見えるようなら。
俺は選択を迫られるのかもしれない。
そんな、密かな緊張に息を詰める俺の前で。
サラ・ブラックは堂々と胸を張り、一片の後ろめたさも感じさせない笑顔で、言った。
「――私が己の人生に課したミッションは数多いが、究極的には一つだ。
眩いばかりの生の輝き。
目を灼かれながら、俺はまた思った。
やっぱり
話を聞いてみると、サラが参加している〝事業〟というのは、別に世界変革を目論む過激派といった風情のものではなかった。全身髑髏タイツで奇声を上げる戦闘員も、死ぬと爆発したり泡になったりする怪人も所属していない。
最大の武器は銃でも爆弾でもなく、電話やメールやSNS。むしろそれは、地道な活動を根気よく続けていくだけの、言葉にしてしまえば平凡な組織だったと言える。
「貧富の別なく、当代を生きる多くの人が薄々は察している、一つの未来がある――
十年は大丈夫だろう。ひょっとしたら五十年でも。だが百年先はどうだ? 二百年後は?
薄々でも察していながら、富者は己の延命のために
けれど、当然
知性と良識。意志と能力。なによりも、決して諦めない心の靭性。
そうした英雄的素養を持つ人物は、こんな末世でも――あるいは末世だからこそ――あらゆる階級に生まれてくる。歪んだ教育も社会体制も、人間本来の〝生き抜く本能〟を殺し切ることまではできない。見え透いた滅びを座視して待つほど諦めのいい種族なら、ヒトはきっとこれまでの歴史に幾度でも滅んでいた。
「たとえば……欧州第五アーコロジーでは経営財閥の領袖が代替わりして、産業活動に伴う環境負荷の軽減を目的とした法体系の整備が進んでいる。
実を言うと、新しい当主が我々の同志でね。経営権を賭けた御家争いに協力する見返りとして、こちらの事業への協力を約してもらったわけさ。いまさらの感は無きにしも非ずだが、やらないよりはずっといい。
MITでは前世紀から汎用分子アセンブラの研究が続いていて、熱力学的課題さえクリアできれば実用化も視野に入ると聞いている。まあ
旧カザフスタンのバイコヌール遺構都市では、人類をスペースコロニーへ移住させる計画が大真面目に再検討されている。SFみたいな話に聞こえるだろうが、ここ一世紀で材料工学やエネルギー技術も進歩している。政治的課題がクリアされれば、理論上は不可能とも言い切れない。
香港には遺伝子改造やサイバネティクスの巨大なブラックマーケットがあって……この周辺から、〝テクノ超人思想〟とでも呼ぶべき潮流が生まれて来ている。フリードリヒ・ニーチェとは特に関係のない、まあ環境適応型の
ほかにも、様々なアプローチで種と文明の絶滅を回避すべく奮闘する人々が、世界各地にいる。
私たちの仕事は、こうした人々を人脈のネットワークで繋いで、人材や物資、資金や情報といった戦略資源の
いわば人類の生存闘争の
前世の俺なら理解できなかっただろう。
どうあがいたって人類はいつか滅びる。それはもう熱力学第二法則が保証している。五十億年もすれば太陽の赤色巨星化により地球は
だから〝人類の延命〟なんてのは、いつか負け戦に終わることが確定している詰みゲーだ。何の意味があるのか。――前世の俺なら、きっと訳知り顔でそんなことを言った。
でも今の俺には、サラとその同志たちが身を投じる戦いの意義が、理屈を超えた部分で解ってしまう。
手の届くところに全ての終点がある。
だから、普通の人々はそれを忘れようとした。富める者も貧しき者も、自分たちが運命の断崖に向かって行進している事実から目を背けた。そうしなければ、
でもサラと仲間たちは、この状況でもまだ諦めずに戦っているのだ。
サラ・ブラックという万能の超人がこんな時代に生まれたことも、それに肩を並べる同志がいるということも、こうして見ると運命的な符合のように思えてくる。
まるで消えゆく人類史の火が放った最期の光。
環境が崩壊するなら、それを食い止める。修復、再生の道を探る。
叶わなければ、たとえ地球を捨ててでも。ヒトの姿を捨ててでも。
あらゆる手段で生き延びろ、無に抗え、
すごいな――と、素直に思った。
俺はもうとっくに諦めている側の人間だった。まだ抗える、という発想自体ができなかった。毎日あのドス黒い空と荒廃した大地を眺めて、異臭混じりの雨に打たれる名も無き死体を日常風景の一部にしながら、俺はすっかり絶望していたのだ。救いがたいことにその自覚もなかったのだと、このときようやく気付かされた。
圧倒されながら、俺は胸の中に小さな火が灯ったのを感じている。
命の恩人であり、内心では今生の母とも慕う女に、こんな話を聞かされて。
「……あのさ、サラ。そっちの仕事、俺も手伝っていいかな」
「構わない、というか、正直ありがたいが……きみは例の、
ふは、と笑いがこぼれてしまう。
いくらでも人手の欲しい事業だろうに、そんな与太話のために俺を引き止めるようなことを言うのかよ。
あんたはもっとズルい女になっていいんだよ、サラ――とは言っても聞かないだろうから、俺は勝手に踏み込んでいくことにする。
「眠りが短くて済む身体なんでね。普通の人間より使える時間は多いんだ。
それに、
俺はほら、少なくとも肉体年齢はまだ子供なわけだし?
「……危険な仕事もある。もちろん、強いてそういう状況に放り込むつもりはないが……
「〝そういう状況〟こそ、まさに
忘れてない? 俺ら、このナリでバリバリ非合法の軍用兵器だったからね」
サラは一瞬だけ泣きそうな顔をして、誤魔化して笑って、肩をすくめる。ハリウッド映画的な演技じみたリアクション。女優としても通用するプロポーションのサラがやると、陳腐な所作でさえ様になっていた。
「なら、そうだな……きみに手伝ってもらう代わりに、私もきみの
ユグドラシルで、きみたちが作っているクランがあるだろう? 『
こう見えて、アクション系のVRゲームは得意な方なんだ。攻略や探索の助けになれると思う」
「いやいやいやいや。あんたこそ忙しい身だろ。大丈夫かよ」
省庁の官僚なんてただでさえ激務だろうに、そこへ私設の国際互助団体の仕事もしているところに、希代のクソゲー攻略サポートまで加える? いくら万能超人だからってそこまでやれるもんだろうか。サラも強化人間になるなら別だが、お勧めはしないぞ。
「きみのおかげで転がり込んだ大金があるからね。うまく人を使うさ」
こともなげに嘯くサラ。まあ彼女ができるというなら本当にできるんだろう。
ときどき施設内のジムでサラの図抜けた運動神経を目撃していた俺としては、ユグドラシルでも大いに戦力となってくれそうな彼女の加入は歓迎したくもある。なんならクランマスターの席を譲りたいくらいだ。サラのリーダーシップを頼りにできれば、俺たちは戦略目標を共有する部隊として一段階高みへ昇れる確信がある。
互いの仕事を手伝う、という奇妙な取引を交わした俺たちは、その日それからも情報共有に時間を費やした。
話がまとまり、サラの所属団体からの具体的なミッションは後日に共有される……と聞いたところで、俺はもっと早くに聞いておくべきだったことを思い出す。
「そういえばさ、その、人類存続のために活動してるっていう、あんたらの組織……なんて名前なの?」
「おや、言っていなかったかな」
八割の誇らしさと、一割の気恥ずかしさ、そして一割の開き直り。
そんな感情を笑みに含ませて、サラは教えてくれた。
「我々の名は『
歓迎するよ、新人くん」