OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
ギルド拠点『
ユグドラシル時代は課金設備の戦闘シミュレータでPVPの練習をしたり、新しいコンボや連携戦術を試したり。リビルド中の自キャラや作ったNPC、アイテム類の性能試験をやったり。あとは拠点の拡張時に設置するギミックやトラップ類のテスト用にも使っていた。
NPCどもが一通り完成し、アイテムの備蓄や拠点機能の拡充もひとまず目標を達成した頃になると、ギルメンがここを利用することも少なくなっていた。いつしか実験エリアは物置に様変わりし、置き場所に困った雑多なアイテム類や作りかけのゴーレム、PVPで
ここが新たな目的で再利用されたのは〝最後の一週間〟に入ってからになる。
どーせもう全部終わるんだからとネジが外れた運営は、この期間あらゆるゲームバランスを投げ捨て、ユグドラシル全体を巨大な遊び場としてユーザーに開放した。通常の十分の一の課金額でガチャを回せたり、ボスドロップが最高品質のウルトラレア固定になったり、ボスを除くモンスターが(本来不可能なものも含めて)ほとんど
異世界転移のことなど知らない一般プレイヤーたちは「運営はっちゃけたなー」と苦笑しつつほどほどに遊んだものの、どこへ持っていけるわけでもない財産や戦力を今さら本気で溜め込もうと思ったりはしなかった。むしろ自分たちも溜め込んだアイテムを投げ売りしたり、もったいなくて使えなかったレア消費アイテムを蕩尽したりと、散財する側に回っていた奴がほとんどだろう。当然である。
もちろん俺はこの期間を転移後の準備に悪用し倒したわけだが……その余波で捕獲可能になった
なにしろ数が多いし、三百メートル超えのデカブツが混じっていたりする。『シング』はそれなりに巨大な拠点だが、さすがに超巨大モンスター複数体を含む群れの収容となると、充分な空間を確保できるのは第零臓区ぐらいしかない。
かくして物置はバランスブレイカーの化物が犇めく更なる魔境へとランクアップを果たし、そのまま拠点ごと異世界へ転移して来たわけである。
それから現地時間で数年を経て、第零臓区に詰め込まれていた
で、まさに今。
この第零臓区に新たな収容物……あるいは利用者……がエントリーしている。
ヘスの〈
「うちのことは、マハナって呼んだらええで。よろしゅう~」
巨大にして繊麗。きらめく結晶質の翠鱗に覆われた、生ける宝石細工。
そんな印象の竜が、俺の眼前で笑っている。……自動翻訳が竜語における何らかの方言を表現したものか、
ツアーと並んで、かつての法国でしばしば目撃されている
記録によれば、竜としては珍しく人間種に友好的。六大神ともよく交流を持ったという。最期は八欲王のひとりに惨殺されたとのことだが……。
「アッハイ。ドーモ、マハナ=サン。カレルレンです」
「ヘスと申します」
「シズクなのです」
まさかの関西弁ドラゴンに精神的アンブッシュを喰らった俺は、動揺しつつもなんとかトラディショナルスタイルのお辞儀を繰り出す。蘇生を担当したヘスと、
交渉の専門家であるキーレンバッハがいないのは、相手の温度感が読み切れていないため。戦えないこともないとはいえ基本的に非戦闘員である彼の出番は、ひとまず対話の安全が確保できてからとなる。
人数が少ないのは意図的なもの。あんまりゾロゾロNPCを引き連れて囲んでしまうと無用の心理的圧迫を与えるかもしれないということで、初めは俺を含め三名以下で相対することに決めていた。エルスワイズは最後まで危険だと言い募っていたが、危険を排除しようとするあまり相手の警戒感を跳ね上げてしまっては本末転倒である。
まあ仮に戦う羽目になったとしても、即座にフルメンバーを召集できる準備は整えてあるので、最初の数秒に俺が瞬殺されるような無様を晒さなければ問題はない。要は充分な戦力を整えつつ、相手にそれを悟らせないのが肝心だ。
特に必要のない深呼吸を一セット入れ、俺は眼前の竜に語りかける。
「いいですか、落ち着いて聞いてください……あなたが眠っていたこの百年間、『HUNTER×HUNTER』の連載はまだ再開していません」
「何のことやねん???? まず自分が落ち着きーや」
ツッコミ力
漫才もそこそこ、まずは詰め込み気味に状況説明から入った。
いまは
百年前に人間種以外を殺しまくったプレイヤーたちは八欲王と呼ばれ、既に滅んでいる。
だが真なる竜王も八欲王との戦いでほとんど絶滅。現代に生き残っているのは戦に参加しなかった一部と、〝
俺たちは色々あってツアーと契約を結び、今後来るプレイヤーに
ギルドの真の目的や『人類』についてなど、話をややこしくする部分はざっくり省略。プレイヤーと竜王の関わるところだけを掻い摘んで語る。
印象を良くしておくため、ある程度は竜王にとって都合よく聞こえるよう話はしたが……想定されるリアクションとしては「怒るか、疑うか」が有力だと思っていた。プレイヤーの都合で殺されて、またプレイヤーの都合で蘇生されるのだ。基本的に気位の高そうな竜王としては、愉快な話ではないはず。
で、実際のマハナさんの反応はというと。
「え~、つまりアレなん? うちを
関西弁モドキを抜きにしても……テンションがゆるい……!
さてはこいつ竜王の中でもイロモノ枠か? ヘジンマール的なポジションなのか?
とはいえアホの子を装って油断を誘う演技かもしれない。少々危険だが、ずばり対プレイヤー感情はどうなのか、恨みはないのかと訊いてみれば。
「〝ぷれいやー〟に恨み? ――なんやズレたこと訊かれてへんか、うち?
自分のことブチ殺してくれはった張本人に恨みあるかゆーんならともかく、怖いモンも望むこともバラバラの〝ぷれいやー〟全員ひとまとめに恨んでたら、そら頭おかしい奴やろ」
すげー軽いノリのエセ関西弁ドラゴンに、至極まっとうな常識を説かれている……!
嘘検知のアイテムにも反応はなし。これは俺の方で間違った先入観を持ってしまっていたと考えるべきか? 八欲王以後の竜王がみんなプレイヤーを十把一絡げに忌み嫌っているわけではない……? それともプレイヤーとの交流が記録に残されていただけあって、
「そいつはずいぶん理性的なものの考え方で俺も見習いたいけど、いまも生き残ってる他の竜王には、プレイヤー全般を〝竜帝の汚物〟呼ばわりで毛嫌いしてる奴がそこそこ居るみたいでね……」
こっちの世界でツアー以外の竜王とは接触できていなかったので、原作情報から探りを入れてみる。
基本的にこの世界線でも事情は変わらないはずだ。プリキュアや〝
そういうプレイヤー嫌いの竜王にも、マハナは一定の理解を示している。
「んん、あー、いやわかるで? さっき聞いた話がほんまなら、
あのドしょうもない戦に関わらんで生きとった連中にしたら、例の八人もその他も一緒くたにして、〝ぷれいやー〟ふざけんなや! ってなるわな」
なるほど完全に人間種やプレイヤー寄りというわけではなく、竜種としての視点も備えてるわけか。
なかなか良い。ただのアホの子ではない。求めていたのに近いバランス感覚と言える。
「もっともな分析に聞こえるけど……
竜の視線が俺を通り抜けて、どこか遠くを見たような気がした。
「深入りしすぎたんやろなぁ。うちは、あの子ら一人一人を知ってもうてる。
あんたら全部が
ちり、と伝わってくる感情のパルス。不特定多数への好意と、誰か――特定個人への憎悪。
幸いにしてマハナはよく喋る方らしく、ツアーと違って口を開かせるのに難儀しそうなタイプではない。様子を見つつ水を向けてみる。
「アレ……ってのは、あんたを殺した奴のことかな。
そういやツアーも、八欲王の中にとびきりの〝ハズレ〟が居たようなことは仄めかしてたけど……」
「確かにアレも、〝ぷれいやー〟の一人ではあったんやろけどな。種族とか生まれた世界とか、たぶんそういうのとちゃうねん。アレは
こいつは通称の通り、法国でも記録がほとんど破棄されていて――まるで秘史に残すことすら忌まわしいと言わんばかり――八人の中でも極端に情報の少ない方だが、それでも調べれば調べるほど、
八欲王の中でも大戦の鍵を握っていたと思われる人物なので、詳しい話を聞きたいところではあるが……さすがに愉快な話題ではないのか、マハナの気配が剣呑な方に傾いたのを感じる。
敵意の向く先が俺たちでないとはいえ、交渉相手の機嫌を悪くしても益はない。過去の真相究明は急ぎでないこともあり、まずは関係構築を優先。さっさと話題を切り換えることにする。
「さっきも説明した通り、俺たちは見境なく暴れるつもりじゃないから安心してくれ。幸いうちは自給自足でやっていけるし、支配も掠奪も必要ない。
できれば……生き残ってる竜王たちとも穏便にやっていきたいんだが、話し合おうにも伝手がなくてね」
得心のいった様子で、きらめく宝石細工の竜が目を細める。
「はーん、そのためにうちが生き返らされたゆーわけやな。おおかた〝ぷれいやー〟とよう遊んどった変な竜がおる、とか伝わってたんと違うか」
「……話を聞いてくれそうな相手を
プレイヤーだからと問答無用に敵対されるリスクを押してまで
期待する役割のひとつは、味方ないし中立の存在として、現存する竜王たちとの
この世界にはツアー以外にも、のちの〝
現在までのペースで戦力強化が進めば、そいつらを全滅させることもいずれ可能になるだろうが……とはいえ
このための仲介役として、竜王サイドに伝手を持つ協力者がもう一人二人欲しいわけである。
元々これはツアーに頼もうと思っていたのだが、あいつは同族の中で孤立気味だという残念な事実が判明したので、コネを頼る計画は断念せざるを得なかった。役に立たねえぼっち野郎め。まあ〝竜帝の息子〟って立場を考えれば仕方ない。
「そういう期待されるの、好きやで。
でもなー、うちは竜族ん中やと
エセ関西弁のJKみたいな口調とはいえ、
だが話の流れとしては悪くない。〝
俺がうっかり地雷を踏むとかして話がこじれたら、
などと物騒な算盤を頭の中で弾きはするものの、俺だってそんな残念な結末を望んでいるわけではない。いざというときの覚悟などおくびにも出さないよう気を付けつつ、明るく邪気のないプレイヤーを演じ続ける。
「残念ながら〝
「……先生までやられよったんか。ほんまにろくでもない戦争や。
蘇生は……いけると思うで。先生は魔法
なんやて工藤。
シズクを一体舐めさせてやったら満足するだろうか? 幼女ぺろぺろドラゴン事案……おまわりさんこっちです。
しかし〝
土壇場でいい情報が手に入った。これは法国の文献にも書かれていなかったことなので、やはり口が軽……話しやすそうな〝
「あ、せやせや。忘れんうちに言うとくわ。生き返らしてくれておーきにな、カレルレンはん」
「えっ? ああ、うん……まあ打算ありきですんで、お気になさらず……」
普通に感謝されると「いざとなったらKILLでゴザル」とか考えてる俺が超クソ野郎みたいやんけ。精神攻撃やめろや(責任転嫁)
ともあれ〝