OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
ミハネとマハナがいきなりラスボス戦めいた超インフレバトルを見せつけてくれたので、これでトリシュが満足してくれないかな……と俺は一縷の希望を抱いて訊いてみる。
「……えーと、いまのを見てもらったうえで……先生ともやんないと駄目かな?」
「んフフ! わたしはむしろ楽しみになってしまったよ」
駄目だこりゃ。学者タイプのドラゴンが好奇心に点火されてしまっている。もう一戦やらずにお開き、なんて許してくれそうもない。
そんならそれで、今度は誰を出すかという話になるわけだが……
「あっしで良いんじゃあ、ござんせんかね」
「ズルいわよケイス! 〝白金〟のときは消化不良だったもの――あたしもこの世界の
第一臓区からケイスとキャロル、戦闘を専門とする
でも実は、一戦目の途中から二戦目の人選は考えてある。よって却下。
「悪いけど今回お前らの出番は無し。トリシュ先生とは……俺が当たるよ」
「えっ? ちょっ……
「そいつは……危険でござんしょう。お考え直しになっちゃあ、くれやせんかね」
どんなクソ魔法が飛び出してくるか分かったもんじゃない初見の
「まあ聞けって。俺は確かに直接戦闘向きのビルドじゃないけど……そんなことは向こうにとっちゃ関係ない話だ。
いいか? こういうのは効果から逆算して考えるべきなんだよ。
部下を戦わせる後ろでふんぞり返ってばかりのもやもやした不審者と、自分でもカラダ張って戦える不審者。
「不審者なのは変わらねえんでやすね……」
「おいたわしや我が
ケイスとヘスの沈痛なコメント。違う、反応してほしいのはそこじゃねえ。いや二人とも不敬は承知の上で乗ってくれたんだろうけど。
我々は御身にとって最適の距離感を解っております、という非NPC的な仄めかし。その優秀さが頼もしくもあり、心苦しくもある。
冗談交じりとはいえ、俺が言ったことも嘘や単なる方便ではない。
意外なほど理性的だった
他方で――対
なにしろ基本的に竜王と戦うときってのは交渉が決裂したか、初日のツアーみたいにそもそも交渉の余地なく奇襲してくるような奴との命を懸けた決戦になりがちである。多少は関係が改善した今のツアーとだって、俺は気軽に模擬戦なんか申し込めない。
そこをなんと今回は、向こうから非致死レギュレーションの腕試しを提案してくれているのだ。あまりにも希少なチャンス。NPCの誰にとっても値千金の経験にはなるだろうが、俺自身だって不意の遭遇戦とかが無いとは言えない以上、やれるもんならやっておきたい。
「それにな――生存能力って観点だと、ほとんど完璧に不死のヘスやミハネを除けば、俺も最上位の一角ではあるだろ。
すでに霊体ではなく、肉体ごと十全の復活を遂げたミハネが、しぶしぶの
ここでいう〝事故死〟とはプレイヤーにとって状態異常の一種でしかない
レベル喪失なしに復活・死亡回避できるチャンスの多さで言うと、実は俺も結構な水準にある。本体火力の低さからアタッカー向きではないが、しぶとく生き延びる能力の方が
とくに転移後はそうそう気軽にレベルを落とせないので、プレイヤーは
「大丈夫なのです。うえさまはこう見えて意外と
さっきの〝
「そりゃ、極端な有利を押し付けられる相手ならそうでやすけどねぇ……〝
俺の実力について何やら誤解を招きそうなシズクのフォローに、なおも懸念を示すケイス。どっちかと言えばケイスが正しい。
確かに俺はマハナと戦えばノーダメ勝ちも狙えるだろうが、それはほとんど詰みに近い相性ゲーを強要できるからであって、戦闘技術や総合スペックで圧倒しているわけでは決してないのだ。トリシュにも同じ優位性が通じると思うのは楽観が過ぎる。
シズクがそんなことを解っていないとも思えない。先の発言も、俺のことを盲目的に信頼しているというよりは、同僚への気休めを試みた(そして説得ロールに失敗した)ってとこか。毎度のことながら、こいつらの会話を読み解くのは疲れる。
俺が一人で勝手に疲れている間に、エルスワイズがNPCどもをまとめにかかる。
「
我らが
またなんか虚像を作り上げてる……(白目)
いやまあケイスたちの意を汲みつつ説得するなら、結局俺をダシにするのが最適解なんだろうけど。なんというかエルスワイズはそのへん躊躇いの無さが頭一つ抜けている。創造主の影響だろうか?
ケイスはいちおう引き下がったが、説得に回ってくれた奴らも含め、全員が彼の言い分に一定の共感を示しているのは見て取れた。
NPCという存在にとって合理性だけの問題ではなく、絶対的忠誠を捧げる主君が自分の命を軽々しく天秤に載せること自体、本来なら悲鳴を上げたくなる凶行なのだろう。
解っている。でも俺は、そんなNPC的心理を解っていて無視する。
使命遂行のために最善を尽くすなら、こいつらも自分のことも、等しく道具として使い倒す――その程度の覚悟は必要だと思っているから。
崇高なる御意? 馬鹿を言え。
他人を救うために、ひとり自己犠牲を成し遂げるならともかく……少年兵も同然のNPCどもを顎で使ってテロ組織の親玉やるような奴に、何の崇高さが宿るものかよ。
崇高でなくとも、正しくなくとも、目的のためにただ行う。それでいい。
――『
「おや、きみ自身がわたしの相手をしてくれるのかね」
「ああ。俺もそんなに強いプレイヤーじゃないけど、いちおう組織のトップとしてね」
即席試合会場で向かい合ったトリシュから、小さな感心のパルスが伝わる。狙い通り、ちょっとした好印象は稼いだ。
あとは俺が戦いぶりでどの程度アピールできるか。ある意味、こいつは単純に全力戦闘でブッ殺すより難度の高いミッションかもしれない。
すぐに始めるのかと思いきや、トリシュはちょっとした確認を挟んできた。
「そういえば……わたしたちを蘇生した件、〝
「いや? 失敗したときにガッカリさせたらよくないと思って、まだ言ってない」
オブザーバー契約を結んだ相手に事後報告というのも、本当はよろしくないんだろうが……事前に通達しておいてやっぱり失敗しましたとか、交渉が決裂したんでもう一回ブッ殺しましたとか言った場合の関係悪化リスクを考えると、こっそりやって成功した場合だけ教えるというのが結局は最適解になってしまう。
というか本計画に関するツアーの反応は、ターゲット両竜との交渉が成功した場合ですら読めないところがある。「同胞を生き返らせてくれてありがとう!」なんて素直に感謝するちょろいタマなら話は早いが、「あいつがそんな反応するか?」という懐疑の方が強い。
竜族の死生観だと蘇生ってどうなんだろう? マハナやトリシュはこれといって忌避感を示していないし、
「わたしたちは蘇生に応じたし、さいわい出会い頭に殺し合うようなことにもならなかった。
であれば、老婆心ながら……ツアーに伝えてやるのは、早い方がいいと思うよ。
あれもなかなか情の深い子だからね。知るのが遅くなればなるほど、この件は
「マジで? うーん……わかった、そうしよう」
そういや同族の友達(故人)に重めの感情引きずってそうな話もしてたなツアー。ひょっとすると俺はもうあいつの地雷を踏んでいて、足を離したら即爆発みたいな状態だったりするのだろうか。話せば解ってくれると思いたいが。
そんなわけでツアーへの連絡を
ミハネのときもそうだったが、戦闘開始前の
「あー、ボス、聞こえるか? 〝
テレパシーで耳打ちしてくるリーギリウム。こいつが見破れないってのは相当だ。術者レベルや能力値による
「用意ええかー? そんなら――始めや!」
シズクを頭に乗せて回復中のマハナが、元気よく号令を出す。
「〈
未知数の敵に対し、初手でおおよその〝格〟を測る方法というのは色々ある。
たとえば[即死]や[精神作用]といった致命的効果の多い属性に完全耐性を備えているか。〈
時間系効果が通用するかどうかも、同じく重要な指標だ。その意味で、いま俺がやったように「
止まった時間の中で、トリシュがぐるりと周囲を見回した。
「ふむ……そういえば、ユグドラシルにも[時間]へ干渉する魔法があるのだったね」
予想通り、まったく効いていない。ちなみにうちのNPCたちやマハナも動いているので、この場に〈
なんだよ恥ずかしいな……出オチ芸がスベった芸人みたいな気分になるだろ……。
「そんなら物量アタックはどーですか、っと!
〈
何ら成果を上げなかった〈
使ったのは〈
この魔法で作成される
三重化できたことからも分かるように――サモン系呪文との最大の違いは、
それだけなら超強力な上位互換ということになるのだが、残念ながら
調子こいて大量生産するとゴーレムの維持だけでガンガンMPを吸われてしまい、他の魔法に回すMPが確保できなくなる。燃費の悪さに定評のあるサイオニック術者らしいバランス調整と言える。
まあコレの運用に特化した術者なら維持コストを踏み倒せたりするし、MPマネジメントに長けたビルドなら結構な数のゴーレムを長時間稼働させることもできる。俺はというと、二種類のMP消費軽減に加えて回復速度のブーストも掛かっているので、大量展開戦術との相性はかなり良い。
ていうか俺の場合、本体の直接戦闘能力が(カンストプレイヤー基準で)クッソ貧弱なので、ゴーレムばら撒きながら逃げ回るチキン戦法でも使わないと同格以上には勝ち目がなかったりする。拠点に籠って遠隔サポートが本来のスタイルですので……。
「〈
まずは九体、凌げるかな!」
第十位階相当の増幅+職業スキルによる強化で、七十レベル台半ばまで基本性能を引き上げられたゴーレムたちが、トリシュに向かっていく。全機体にオプション選択で飛行能力を与え、残りの能力枠で装甲値を上げたり追加攻撃用の器官を生やしたり擬似呪文能力を持たせたりしてある。
所詮は位階魔法で作れる程度のモンスター。マハナの結晶騎士には遠く及ばない性能。だとしても、無視できるほど弱くはないはず。
さあ、どう出る――〝
「うん……? 招来ではないな……逐一材料を引っ張ってきて、その場で作っているのか?
なかなか新鮮だ。さて、わたしの術は通用するか――【冥氷】」
トリシュの四肢に備わる爪、尾の先に並ぶ氷柱めいた
ただの黒ではない。一切の光を反射しない、完全黒体めいた全き闇。
不可思議なのはその周辺で、黒化部位の動きに合わせてちかちかと輪郭を縁取るような光が明滅したり、残像がチラついたりしている。
ツアーの【光爪】なんかと同じ、攻撃強化系っぽいが……単純に[冷気]属性ダメージ付加、みたいな感じのバフじゃなさそうだな。
その効果を測るためにも、小手調べとしてゴーレム三体を差し向ける。
一体目。殴りかかる。白鱗の竜は、巨体を軽やかに翻して回避。
二体目。ブレード状の腕で斬りつける。トリシュの黒く染まった十枚翅が
三体目。角錐型の槍腕で突きに行く。竜の前肢が霞み、闇の爪が一閃する――それだけで、七十レベル台の
「回避、防御はさすがの
「ボス、あれ単純な
俺より遥かに精細な分析をしてくれるリーギリウム。今更ながら、彼の情報支援を受けながらの戦闘は
で……物理防御力無視の、物理攻撃?
無くはない。うちで言えばケイスの〈
「持続が長いな。〈
手元で第二波のゴーレムを追加生成しつつ、俺は残った第一波の八体に同時攻撃を命じる。物理攻撃だけでなく、擬似呪文能力による元素エネルギー攻撃や無属性ダメージも交えて、耐性や特殊防御を探る狙い。
八対一の攻防から見えてくる情報――魔法は軒並み無効化されているが、物理攻撃は有効らしい。
トリシュはゴーレムの肉体武器を最小限の動きで躱し、いなし、避け切れない攻撃も角度をつけて受けるなどしてダメージを軽減している。そうして数に勝る敵の猛攻を捌きながら、反撃すら返してくる。
学者タイプなら魔法偏重で近接戦は不得手かと思ったが、考えてみれば高レベルのドラゴンが殴り合いに弱いわけはない。つまり動けるインテリだ。ヘジンマールとは違う。
しなやかな後肢での回し蹴り。長い尾の薙ぎ払い。魔剣めいた十枚翅による斬撃。
そのすべてが、初手の爪撃と同じように
そんなえげつない
「期待に応えたいのはやまやまだけど、俺って直接戦闘だと物量戦以外にあんまり手札ないんだよな……」
仕掛けるそばからどんどん破壊され、早くも第一波のゴーレム部隊は全滅。だがその頃には第二波の作成が完了している。
さらに多様な特殊能力をそれぞれ与えられた、
何らかの探知妨害により
当たりさえすれば多少のダメージにはなる。であれば理論上、俺はこのまま延々とゴーレム生産マシーンに徹していても勝てるということになる。MPにはかなりの余裕があるし、維持コストも俺の回復速度なら二十体くらいまでは同時に出しておける。
もちろん実際にこれだけで勝てるとは思っていない。
言ってみれば現状は、相手の対応能力の限界を測りつつ、一枚でも多くの手札を開示させるための
そんな魂胆を見透かしてか、トリシュがスッと目を細める。
「これだけ人形を作り出して、まだまだ余力がありそうなのは大したものだが……同じことの繰り返しでは、わたしも退屈してしまうな。
もっと、他にもあるだろう? ぜひとも見せてくれ、多彩なる技を! ユグドラシルの魔法の真髄というやつを!」
挑発には乗らない。俺が思念で出した命令に従い、
――切り札を出すならそっちが先だ。さあ、何を見せてくれる。
その、瞬きの一刹那に。
「【凍空】」
[memo]
■魔法
〈
・近距離、ゴーレム一体作成、その他系(
呪文としては第一位階。サイオニック増幅で第十位階相当まで強化可能(最大七十レベル、術者レベルを超える個体の作成は不可)。
・基本的な性能は本文で解説された通り。並列展開できるのが最大の強みだが、一〇〇レベル術者でもMP自然回復速度と釣り合いが取れるのは通常四~五体まで。同時に二十体近くを維持できるカレルレンは例外中の例外。
・なお、カレルレンが同時運用可能なゴーレムの数は、ギルド武器装備状態なら更に大きく増える。
〈
・自身対象、瞬間発動、効果時間6秒。魔力系・変成術。第六位階。
・効果時間中、術者の近接攻撃はすべて半実体の透過攻撃となり、防具・外皮・物理耐性をことごとく無視する。特に重装備のタンクや強靭な鱗を持つドラゴン等に有効。
・魔力系魔法戦士の必殺技とも言われ、ローカルルールで禁止する大会すらあった強スペル。相手が物理防御の硬いタイプだと、純戦士職よりダメージ効率で勝ったりする。
・βテスト時点では第二位階だったが、「この性能で第二位階はどう考えてもヤバい」というテストプレイヤーたちの意見が反映され、正式リリース版では第六位階まで一気に格上げされた。