OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
・性的な描写、および下ネタが含まれます。ご覚悟ください。
ツアーがいきなり襲ってくる様子はひとまずない。というか、俺やNPCたちのことは目に入っていないようだ。
シズクのもちもちヒーリングに夢中の雌竜ふたりを、呆然と見つめている。
「カレルレン……これは…………どういうことなんだ?」
短い自失から覚め、この状況の責任者であろう俺を発見すると、ツアーはずんずんと二足で歩み寄ってくる。
一度は破ったとはいえ、推定世界最強の
「詳しく……説明してくれ。
今、私は冷静さを欠こうとしている」
婚約者を拉致されたプロゴルファーかな??
「そんなに凄まなくても一から話すって。とりあえず落ち着け。な?」
そんなわけで本日三度目の説明タイム。
歴史の空白を埋めるため、当時の生き証人として渦中にいた
ぼっちの誰かさんには頼めない、同族への顔つなぎもついでにお願いしようと思っていること。
それら竜王復活計画の意義について説明していくうち、ツアーもだんだん状況を理解したようで混乱の色は薄れてくる。
が、表情は硬く険しいまま。同胞の帰還を素直に喜んでいるふうではない。整理できない感情を、持て余しているようにも見える。
「……お前たちは、いつもそうだ。命を、あまりに軽々しく扱いすぎる。
まるで点けたり消したりできる灯火のように、簡単に殺して、蘇らせて……!」
これは多分プレイヤー全般の悪癖について言われているのだろう。ユグドラシルのノリをそのままこの世界に持ち込んだら、そりゃ死んだり殺したり蘇ったり蘇らせたり、呼吸するように生と死を弄ぶ狂人の集団としか見えないに違いない。
さて何と言ってやるべきか。王道主人公ムーブをやるなら「俺たちは違うぜ!」と命の尊さを熱弁する場面なんだろうが、うちの
迷っていると、シズクを乗せたままのマハナがのしのし歩いてきて、俺の頭上でツアーと向かい合う。
「おひさやな、ツアー」
「……マハナ」
「
ぐ、と返答に詰まる白金の竜。
こいつらの関係がどういうもんだったか知らんけど、そんな訊き方されて「そうだよ」とは言えんやろ。マハナの斬り込み方が直球で容赦ねえ。
「そういう、わけでは……ないが」
「うちはなー、生きられるもんなら生きたかったから、蘇生の呼びかけに応えたんや。カレルレンはんは機会をくれただけ。無理
「わかっている、そんなことはッ!」
ツアーの叫びが、誰とも目を合わせずに吐き捨てられる。
やり場のない憤りを持て余した、一介の人の男のように。何百年と生きた竜には似つかわしくない、生の感情が燃えていた。
「君と先生が帰ってきたことは……よかったさ。そうできたらと、どれほど願ったか。
だが結局、
ツアーを振り回している自覚が無いわけでもない俺としては、口を挟みにくい話だ。理屈でなく感情の問題のようだし、自然に落ち着くまで放っておいてやるのが一番か。
そう自分を納得させて静観に回っていると、今度はトリシュが話の輪に入ってくる。
「彼らはひとりひとり違う存在だ。能力も、意思も、世界の観方さえもね。
だから、わたしたちも個別に向き合うしかない。きみはずっと、それを知っていたはずじゃなかったかな、
「先生……」
白金の竜と、白雪の竜が視線を交わし合う。俺には窺い知れない万感の疎通。この世界でじかに見た竜の眼は、驚くほど豊かに感情を物語る。
二頭の会話もまた、俺の知らない時間に踏み込んでいく。
「ひとつ訊きたい。例の……
「いえ。あの頃の私は、あまりに弱くて。……無力で。最後まで、何もできませんでした。
やったのは…………スルシャーナと、カイです」
相手がトリシュだとツアーも敬語になるのか。原作キャラのちょっと新鮮な側面を見た気分。こいつにとっても彼女は〝先生〟らしい。
そして俺にも心当たりのある名が出てくる。スルシャーナがここで出てくるのも意外だが……やっぱり八人の中にいたのか、
「そうか。カイには辛い役目を負わせてしまったね。
だが、伝え聞く話が本当なら……彼も、死んだのだろう?」
トリシュの声に交じる湿度。過ぎ去った時の無常を嘆くような。
対するツアーは感情を殺した声で、淡々と答える。
「法国の者の話では、同士討ちによる全滅だと。事実、それ以来あの城は沈黙しています」
「やはり、都合の良すぎる結末に聞こえるが……まあ、あり得ないとは言うまいよ。
変節、裏切り、同士討ち。竜でさえ、そんなことばかりやっていた時代だ」
だが……と、続けるトリシュ。
「ある意味で、彼らは……
確かに〝ぷれいやー〟は多くを変えてしまう。失ったものも、二度と戻らないものも、数えきれないほどある。
けれど、
俯いて動かないツアーに、今度はマハナが呼びかけた。もう頭上にシズクは乗せていない。
「実はなー、あんたに看取らせる形になったこと、ちょっと後悔しとってん。
目の前でうちが
でもそんなことはどうでもええねん。百年経ってもツアーが生きとってくれたことの方が、うちは嬉しい」
ツアーが目を開けた。
マハナを見る。眩しく懐かしいものを見るような、郷愁に似た感情。
それを見上げている俺にも、マハナとトリシュがやろうとしていることはなんとなく解った。
彼女たちは、ツアーの
「うちらは〝ぷれいやー〟のせいで死んだ。これはそうや。過去も事実も変えられへん。
せやけど今は、同じ〝ぷれいやー〟のおかげで戻って来た。うちも先生も、救われたと思っとる」
「……何が言いたいんだい、マハナ」
「
ツアーが再び瞑目する。痛みに耐えるような表情、と見えた。
それから、マハナにもトリシュにも言葉を返さず、なぜか俺の方に首を向けてくる。
「――カレルレン、彼女たちを蘇らせたことについては……確かに、私が何かを言う筋ではないから、言わないことにする。
だが、もう
お、おう。もともとその予定だったんで別に構わんが……わざわざ忠告してくれるとは。俺はむしろ「もっと他にも蘇らせてくれ」とか言われる想定で断り方をいろいろ考えていたのだが。
しかしまあ、ツアーが「プレイヤーに言うことを聞かせられた」と思っていい気分になってくれるなら損はない。俺は頷く。
「おっけー分かった。竜王の蘇生は、もうしないよ」
「竜だけではない。あまり軽々に、死者を蘇らせるようなことはすべきでないのだ。
生が一度であればこそ、命は尊く重いものとなる。かつて同族に存在した蘇生の使い手も、蘇らせる相手は〝どうしても必要な者〟に限定していた」
「――あー、ごめん、
「なんだと?」
ツアーが瞠目する。ついでにマハナも。トリシュは逆に目を細めて静観の構え。
こればっかりは
「あのねえ竜王どの。俺はもっと、命の価値を
そのための魔法研究、そのための医療保険だ。死者蘇生の手段が実在して、しかもせいぜい三十前後のレベルで到達できてしまうような環境で、〝死の重み〟なんぞ後生大事に抱えておいて何になる?
どうせだからと、神殿を窓口とした蘇生事業のシステムについて詳しく説明してやろうとしたのだが……ツアーは制度の中身には興味がないらしく、早々に話を打ち切った。
「相変わらず、お前たちの考えることはよく解らないが……何の考えも無しにやっているわけでないのなら、ひとまずはいい。当面は、経過を見守るとしよう。
私はもう行く。また何かする気なら、
脈状紋に碧光を走らせ、転移で出て行こうとするツアー。あれだけ感情の重そうなやり取りをしていた復活組二名と、もっと旧交を温めて行かんのか? 竜族の距離感は相変わらず掴みにくい。
俺は普通に見送ろうとして――ふと思いついた言葉を投げてみる。
「なあツアー。お前も『人類』にならないか?」
「……何を言っている? 百年早いぞ、〝ぷれいやー〟」
リーギリウムが許可した転移ルートを通って、ツアーが姿を消す。去り際の表情は少しだけ、笑ったように見えた。
百年後にもう一度勧誘してみたら答えは変わるのだろうか。それも今後の俺たちの行動次第ではあるんだろうけど。
「あ、ちょっと追っかけてもええか? ツアーと話しときたいこと、まだあんねん。あとで戻ってくるさかい」
ツアーが行ってすぐ、そんなことを訊いてくるマハナ。この場で呼び留めなかったということは、
密談を許すことのリスクを、却下した場合と比較検討してみる。大して悩みはしなかった。
「ええよー」
「おーきに!」
ゴーサインを出すと、リーギリウムのナビを受けたマハナがツアーを追って転移する。
俺はマハナの姿が消えるのを確認してから、脳区へ向けて更なる追加指示のテレパシーを送った。
「リーギリウム、ツアーたちの話の内容、聴けるか……」
「音はちょっと遠くなるぞー、寄せすぎるとバレるからな」
無警戒に密談を容認すると見せかけて、こっちはこっちで勝手に盗聴させてもらう。これが最適解だ。リーギリウムならほとんど準備に時間をかけず、即座に音声・映像でのトレースを始めてくれるはず。
俺がリーギリウムの感覚に〈集合体〉経由でアクセスすると、既に彼の耳目は遠く拠点の外、空中で向き合う二体の竜を捉えていた。
「どれだけの……が生き残っ…………分かっていない」
「…………は始末……たんか? ずいぶんな数…………と同じように……」
「今も…………除している。……の残穢…………どうやら地下……」
音は途切れ途切れだが、断片的に漏れ聞こえる単語からしてシリアスな会話らしい。いいぞもっとやれ。マハナが相手ならツアーの秘密主義も多少は箍を緩めるかもしれない。
「どうしてあんな…………君を……に失っ……」
「……はここに……ええやろ…………寂しかっ……」
だが俺の期待に反して、二頭の竜は話し合いもそこそこに――なんと空中で取っ組み合いを始めた。
「ん!? ……何だ、さっそく喧嘩か!?」
思わず声に出してしまった俺を訝しむNPCたち。非常事態かもしれないと思い、俺は特大の〈
トリシュも寄ってきて、結局は第零臓区に残った全員でツアーとマハナの様子をウォッチする羽目に。
「格闘戦……にしては、攻撃性がございやせんね。爪や牙を使うでもなし、出血も見られやせん」
「むしろ互いに協調して、舞うような動きにも見受けられます。
トリシルリーゼ殿、この世界の竜族には
ケイスとヘスが真面目な分析コメントを述べる一方、水を向けられたトリシュ先生は何故か視線を宙に彷徨わせている。
「いやぁ……あれはその、なんというか……」
トリシュが言葉を探しているうちに、
ツアーの腹の下あたりを覆う外皮鎧がスライドし、どうやって格納されていたものか、象牙色の
「
刺突系の肉体武器? 角みたいなものだろうか。ドラゴンの攻撃手段としては珍しいが……しかしなんであんなところに?
「あっ」
「これは……」
「まあ!」
ミハネが赤面し、エルスワイズが無の表情となり、キャロルが目を輝かせる。NPCたちの反応がおかしいのを見て、俺もようやく自分が何か重大な勘違いをしている可能性に思い至る。
だが、何を?
答えは画面の先の現実が示した。
体格に勝るツアーが背後を取り、前肢でマハナを押さえ込む。
彼はそのまま身体全体をしならせ、雄々しくそそり立つ象牙色の巨槍を、雌竜の尾の付け根あたりに突き入れ――
「ああッ! ツアーの野郎、マジで刺しやがっ……、
……? …………!!?」
雷が落ちるように、訪れる唐突な理解。
すべてが繋がる。知ってはならない真実。
ま、まさか……
あの対艦用パイルバンカーみたいな大得物が……そうなのか!?
竜帝の、息子の…………ムスコ!
「うふふ……なんて素敵な
「やめないか!
俺がギリギリ言わずに踏みとどまった真相を明け透けにぶっちゃけるキャロル。思わず非致死ダメージ変換した〈
とりあえず〈
「先生……あいつらなんで拠点のすぐ外で
「きみもちょっと落ち着いたらどうかね」
けしからん竜王二名がギルドの公序良俗を乱した件について、俺は引率のトリシュ先生に苦情を申し立てたが、のらりくらりどこ吹く風といった答弁を返されてしまう。
「……人間のように脆弱な種族は、迂闊に無防備な姿を晒せないから、安全を確保された場所でしか交尾できないと聞くが……
ま、許してやりたまえよ。卵の殻も取れない仔竜の頃、いっとき彼らは
だ……駄目だ。文化的断絶が大きすぎる! 種族格差がこんなところにまで!
この隔たりを乗り越えるのに、果たして『人類』はどれほどの歳月を必要とするのだろう。現実逃避気味にそんなことを考えていると、真面目な顔になったキャロルが耳打ちしてくる。
「ねえ
「本人はそう思ってないみたいだけど、少なくとも竜王の中じゃ上澄みらしいな」
このタイミングでキャロルが何を思いついたのか、興味を惹かれて耳を貸してみる。
絶世の美少女が甘い声で、密やかに、ある重大な問題提起を囁きかけた。
「世界最強の
「やめないか!」
こいつが真面目な話すると思った俺が馬鹿だったよ!
もう一発〈
おお、ブッダよ! 寝ているのですか!(半ギレ)
――その後。
空中でのどったんばったん大騒ぎ(婉曲表現)が終わると、なにやらスッキリした感じのツアーはそのまま東の本拠地へ帰還していったらしい。お前それでいいのか???
文字通り身体を張ってツアーの傷心を慰めてくれたマハナと、それを見て後方先生面でほっこりしていたトリシュは、まず今後についての話をキーレンバッハたちと詰めた。互いの利害をすり合わせながら禁則や守秘義務を設定したり、連絡手段について説明し合ったり、その他諸々。
そして翌朝、彼女たちもこの拠点を発った。それぞれ別の方角へ向け、あらかじめ合意した通り、世界の現状を確認するための旅に出たのだ。
当然、この時点では予期していなかったことだが――
数年と見込んでいた
とんだ
でも護衛と連絡役(と監視)を兼ねて随行させたシズク
途中から竜族女子&幼女スライムのダブル珍道中配信旅番組みたいになってて、ちょっと面白かったのは秘密だ。少なくともツアーには百年ぐらい教えてやんねー。
結局オチの部分がグダグダで、画竜点睛を欠くどころか竜頭蛇尾に終わった感のある竜王復活計画だが……元々失敗すら許容するフリースタイル
[memo]
■護衛と連絡役(と監視)を兼ねて随行させたシズク
・クッション役(物理)も兼ねる。
・万が一敵性勢力に捕らえられた場合の備えとして諸々の安全策を講じられていたが、幸いにもそれらが活かされる機会はなかった。
■ゲーム脳めいた与太話(あんまり真面目に受け取らないこと)
Q.ツアーくんが「他の竜王では、こうはいかない」と言っていましたが
もし他の
A.こうなる↓
・〝
・〝
・〝
・〝
・〝
・〝