OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
「……何か、来るのう」
サティアに遅れること十数秒。エルスワイズと俺にも、その兆候が察知できるようになる。
南東の方角から、ざわざわと木々の枝葉が擦れ合う音。幹が折れる音。
さほど速くはないが、着実に。巨大な質量が地を踏みしめ、腹や尾を引きずり、まっすぐこちらへ迫ってくる気配。
遠隔で状況を監視しているリーギリウムが、接近する存在についての情報を、テレパシーで一同に共有する。
「あー、ボスたち、聞こえるか? 地形が邪魔で見えにくいけど、近づいてきてる奴な、少なくとも
ただ、生きてるにしちゃ動きが変だし、負のエネルギー反応も出てる。推定質量からして
「ドラゴンゾンビ? 森で出くわすのは珍しいな」
アンデッドの竜ということで、つい一瞬プリキュアを連想して身構えてしまう。が、この時点ならあいつはまだ生き物をやめていないはずなので、別個体だろう。
たぶんサティアの弓で滅多打ちにされた(ついでにタマもぶち抜かれた)デケムの絶叫が、森の奥まで届いて大物の注意を引いてしまったのだ。竜種の成体なら、ゾンビになってもレベルはそれなりに高いと推定できる。もしかすると、原作に名前だけ出ていた大樹海十五王とやらの一角かもしれない。
アンデッドならサティアに任せるか? いやエルスワイズも神聖精霊とか扱えるし、よほど高レベルでなければドラゴン素体のアンデッドが相手でも不足はない。まずは相手を見極めてからだ。
「デケムが流れ弾で死なないように気を付けろよー。
んじゃ一応……〈
敵の接近を早期検知できたことによるタイムアドバンテージを活用し、念のため多少のバフを配っておく。相手がアンデッドなら負のエネルギーに対する完全耐性は鉄板として、あとは不測の事態や事故死に対応できるような保険的効果をいくつか適当に。
そうして準備を整えた俺たちの前に、木々を薙ぎ倒しながら現れたのは……
「え、きっしょ何だアレ」
輪郭だけは、確かにドラゴンのように見えた。
だがその巨体には竜の武器たる爪も牙も、鎧たる竜鱗も備わっていない。黒ずんだ膿汁と腐肉をパンパンに詰め込んだ半透明の水袋が、漲る負のエネルギーで無理やり竜の形となり、動いている――そんな印象。
今は異形種の思考になっているはずの俺から見ても、どこか胸が悪くなるような、ひどく冒涜的な造形のアンデッド。ユグドラシルでは見た覚えがない。この世界の固有種なのだろうか?
「蜉ゥ縺代※!」
そいつは名状しがたい奇声を上げながら、俺たちを質量で轢き潰そうと突進してきた。が――
「ほう、儂のオーラに耐えるか」
前に出たサティアから五メートル弱の距離まで近づくと、黒い嚢胞の竜は弾かれるように退き、苦しみと怨嗟の叫びを洩らした。全身から、焼かれたような煙を薄く上げている。
サティアが展開した〈浄滅のオーラ〉は、神官系汎用スキル〈アンデッド退散〉の効果を球状の範囲に放射し続ける、強力な
レベルが離れた格下のアンデッドにしか作用しないが、その代わり条件を満たした相手にはレジスト判定なしで効果を及ぼす。使い道も含め、〈絶望のオーラ〉系列の対アンデッド版みたいなスキルと言える。
信仰系専業術者であるサティアなら、装備やバフによる強化抜きでもだいたい七十レベル以下のアンデッドは退散させられる。四十レベル以下ならオーラに触れただけで問答無用に消滅だ。
オーラに触れても塵にはならないが、無視もできず飛び退ったあたり、あのグロテスクなドラゴンもどきのレベルはこの世界だとそこそこ高い水準にあると言える。
「谿コ縺励※」
嚢胞の竜が再び突進してくる。今度はサティアもむざむざ接近を許しはしない。
「〈
呼び出されたのは
一体が〈聖撃〉の上位スキル〈必滅の誓い〉を発動させ、嚢胞の竜に大剣で打ちかかる。もう一体は陽動や伏兵に備えてか、俺たちの前で待機。サティアの召喚する
「あるじ殿がいるときに
神人でも出さぬ限り、現地人の手にはちと余る個体のようじゃ。ここで処理しておくに限る」
「確かになー。レベル五十以上のアンデッド、しかも竜種だ。大陸中央の強豪国でも結構きついぞ。おまけにこいつは、
俺の知らないモンスターについて、サティアとリーギリウムがなにやら事情を知った風の会話をしている。
このパターンには覚えがある。ちゃんと報告は上がってきたのに、俺がスルーしてしまっている情報があるときだ。こういう時は素直に訊いてしまうに限る。
「あー、ちょっといい? あの汚い水風船みたいなモンスター何?」
「ボス……また報告書読み飛ばしたな……」
テレパシーにため息が混ざる、リーギリウムの呆れ声。
油断なく周囲を警戒しつつ、サティアがフォローを入れてくれる。
「ユグドラシルに存在したかどうかは分からぬが、あれも〝八欲王の残穢〟の一種じゃ。法国の記録によれば、
奴らには、殺した生者の骸から同族を生み出す能力があっての。我らの脅威にはならぬとしても、この世界ではきわめて危険な類のアンデッドと言えよう」
なるほど放っておくと際限なく増えるタイプか。そりゃ最悪だわ。
ミハネあたりに支配させたら手駒増やすのに使えないかと思ったが、リーギリウム曰く、どうやらそれは前に試したらしい。
結果、
正確には自爆能力そのものではなく、爆発に巻き込まれて死んだ生物までも素体として、
これ対策が周知されてない人口密集地とかに放り込んだら、爆弾アンデッドの発生が無限連鎖して国ぐらい簡単に滅びるやつでは? なるほど
で、そういう能力を持った害悪MOBが単独で出てきてくれるわけもなく。
「これは……ボス、気を付けろ! そいつが来たのと同じ方角、森の奥からアンデッド反応がどんどん湧いてきてる!」
同族の爆発を感知して集まってくる特性でもあるのか、それともデケムの叫びが思いのほか遠くまで届いていたのか。
「おいおいおい。サプライズの爆発物処理祭りか? 子供がいないときにやってくれよ」
リーギリウムの警告に応じて軽口を叩きつつ、俺は〈
逃げるという選択肢は、まだない。見つけ次第数を減らしておくべき
並行して、デケム捜索のため連れてきた傭兵モンスターたちにもマジックアイテムを通じて連絡。
「あーあー、聞こえる? シモベの諸君は全部隊、ポイントE-1まで後退して、敵襲に備えた陣を敷け。黒い水袋みたいなアンデッドを見かけたら、近寄らずに遠距離攻撃で破壊しろ。それ以外の相手は、敵対行動を取ってこない限りスルーでいい」
傭兵モンスター部隊に集合を指示した地点は、いま俺たちがデケムや竜型の
これはもちろんサイゾウたち傭兵MOBの命を大切に思って……などという茶番ではない。うちの部門統括級NPCが戦うところに、費用対効果の関係で使い捨てられない味方なんぞ居ても、足手まといにしかならないというだけの話だ。
あとはまあ、機密保持とかの観点もある。当然、部外者のデケムもどこか安全な場所に退避させるつもりでいた。
「エルスワイズ、デケム坊やはいったん拠点にでも……
エルスワイズが油断したわけではなかった。
ただ、彼が
突発した事態に誰もが注意力のリソースを分散させた一瞬、おとなしく地に伏せているように見えたベヒーモスが、忽然と姿を消していた。
「……下か! 地中から来るぞ!」
エルスワイズの警告が飛んだ直後、俺とNPCたちの足元から、鋭く尖った岩の塊が突き上げてくる。
地中を自在に潜行する〈地潜り〉の種族スキルも同様で、高位の
もっとも〈
だがこの攻撃は、俺たちを仕留めるためのものではなかった。一瞬の隙をさらに広げて、ベヒーモスが本懐を果たすための僅かな時間を稼ぐことこそ目的。
サティアの後ろで地べたに座り込んでいたデケムの、まだ細い少年の腰を。
地中からぬるりと突き出た、巨大な土塊の手が、掴んだ。
「ベヒーモス、よくやった」
刹那の早業。
嗤うデケムの姿が、まるで水にでも落ちるように、地面の下へ引き込まれて消えた。
「やってくれる……! まさか〈
申し訳ございません、カレルレン様。すぐに追跡させます――リーギリウム、支援を頼む」
「あいよー。顔もばっちり見たからな、もう地の底まで逃げても追えるぜ」
自分も即座に
とはいえこれを予測しろというのは酷な話だ。特にユグドラシル産NPCには。
ベヒーモスが
効果は単純。敵を一瞬で地中に引きずり込み、生き埋めにしてしまう。行動阻害耐性や脱出系の能力がなければ自力では逃れられず、さらに窒息対策も持ち合わせていないなら、呼吸ができずそのまま死ぬ。
実際は、レベル八十七の根源精霊と戦うようなプレイヤーが拘束系の対策を怠ることなどまずあり得ないため、特に恐れられていた技というわけではない。
だがこの世界では
デケムの方にも慌てた様子がなかったことから、窒息問題についても解決する手段を持っているのだろう。
なんだよお前ら……三百数十年後の未来より息合ってない??
とりあえず、デケムたちの追跡はエルスワイズの量産
ぶっちゃけデケムはいつでも再捕捉できる。優先順位としては、この世界でも屈指の有害モンスターであろう
「うむ……まあ……想定外の形ではあったが、フルチン小僧を
「言い回しが嫌みたらしいぞ、サティア」
「怪我の功名じゃと言うておる。もっとも……失態を演じたおぬしにしてみれば、当て擦りとでも思っておいた方が、却って気は楽かもしれんがの」
最初に襲ってきた竜型の
「蜉ゥ縺代※」「谿コ縺励※」
二体のモンスターの壮絶な相討ちを合図としたように、森から飛び出してくる黒い嚢胞の獣たち。
鳥もいる。蟲もいる。人のような形さえも。その数は何十か、何百か――あっという間に、数え切れない規模の群れとなって。
すべてがおぞましく、狂った鳴き声を上げて、襲い掛かってくる。
「闍ヲ縺励>」「豁サ縺ェ縺帙※」「邨ゅo繧翫↓縺励※――」
言葉にもなっていない叫び。なぜ、こんなに嫌悪感を掻き立てられるのだろう。
「デケムから最も近くにいたのはお前だ。失態というなら、自分はどうなのだ?
お前の反応速度なら……阻止できたのではないか?」
宙に浮いたエルスワイズが、八十レベル以上の
「小僧を取り戻しに来ると解っていたならともかく、あるじ殿を狙ってくる可能性もあったでな。
直前の〈
「やはり、
サティアは身の周りに半透明な光の螺旋階段めいた力場を発生させ、そこから低位の天使をわらわらと自動召喚している。同時に〈
大量召喚された天使の軍勢が、輝く剣で、弓で、扇で、車輪で、ガトリング砲で、魔法で――膿と腐肉の死せる爆弾たちを、次々と屠り、爆散させる。
天使召喚の合間にはサティア自身も、〈アンデッド退散〉や光のエネルギー弓『
近づきすぎた
「サティア、お前は甘すぎる。デケム・ホウガンの再教育は、どのみち必須だ。
あの局面で逃がしてしまうくらいなら、奴と
「できたであろうとも。じゃが、
作業的に進行する戦闘より、よほど緊張感のあるエルスワイズとサティアの会話。俺はそのやり取りを興味深く傍聴しながら、消耗した
初めは〈心蝕のオーラⅢ〉で操って同士討ちを狙ったりもしてみたのだが、こいつらの自爆は負のエネルギー・ダメージが半分を占めているため、同族間では効きが悪いようだった。
自爆は任意で可能らしいので、誰もいないところで自爆させるなどの方法も試したが――最終的には、サティアの〈浄滅のオーラ〉に突っ込ませるのが一番手っ取り早いという結論に落ち着いている。
それにしても、なんか、こう……大量に襲ってくるモンスターを無心で撃退し続ける作業ってのは……ユグドラシル時代の大群討伐クエストとかを思い出して、ちょっと落ち着く。
これで討伐対象が汚物ぶちまけながら爆裂するクソ袋でさえなければ、もっといいレクリエーションになったのかもしれない。おのれ八欲王。……いや本当、何を考えてこんな狂気の産物をバラ撒いたのやら。
八欲王については、世界巡遊の長旅から戻った〝
雌竜二柱の復活以降ようやく緩み始めたあいつの秘密主義をなんとかこじ開けようと、俺は相変わらず手を変え品を変え、会うたびウザ絡みしに行っては煙たがられているというわけである。
あれ? 関係……改善、してるよな?
ともあれ十年単位の時間があれば、調べが進んで解ってくることもある。
やはり〝消された王〟が鍵だ。こいつが暴れ出すまでの八欲王は、国を作ったり人間種を優遇したりといったプレイヤーしぐさこそ目立つものの、それらは決して理解不能なものではなかった。普通の人が半神めいたチートパワーを急に与えられて、人間がクソザコ家畜種族やってる世界に放り出されたら、まあ
むしろ意外なほど穏健路線だったとさえ言ってもいい。〝正史〟でもこんな調子だったのだろうか? 性格からして
なのにどういうわけか、ある日を境にすべてが壊れる。
そこから世界は流血の暗黒時代へ滑り落ちていく。戦争と虐殺と弾圧と疫病。恐怖と怨念と憎悪と復讐。無限に連鎖する破滅の螺旋。
そして、このターニングポイントに〝消された王〟が深く関わっているらしい。
原因なのか主犯なのか。何を・どのように・何故やったのか。そういう核心部分に近づくほど信憑性の著しく落ちる伝聞や推測しか残っていないにしても、そいつが事態の中心にいたことだけは、おそらく確実。
ひょっとするとデケムからその辺の話も聞けるんじゃないか、と期待していたのだが……これはまたの機会になりそうだな。今日の残りは糞モンスター対応に専念するとしよう。
護衛のシズク分体を途中から遊撃役としてリリースし、
こいつらの巣みたいなものがあれば、そこを大火力でまとめて破壊すればよし。あるいは
何らかの理由で破壊や殲滅が難しいとしても、群れの発生源に何があるのか確認ぐらいはしておきたい。
そんな意図のもと、物量戦で手際よく爆弾クソ袋を撃破していった先で見たものは。
「洞窟……のようですね。傾斜と空気の流れからして、相当の深度まで続いていそうです」
「やはり、ここでも〝残穢〟が来るのは地下からか……」
不浄の気配を湛え、森の中にぽっかりと黒く口を開けた、巨大な洞窟。
いかにもなダンジョンの入り口。エイヴァーシャー大樹海にこんな場所があったとは。
「やはりって言うからには、他でもそうなの?」
これもたぶん報告書をちゃんと読んでいれば訊くまでもなかったことだが、読んでないものは仕方ない。実際NPCに都度こうやって聞く方が手っ取り早いもんだから、なかなか俺の怠け癖が抜けないという面もある。
上司の情けない質問にも、サティアは厭な顔ひとつ見せず解説を打ち返してくれる。
「うむ。過去の文献と、法国へ最近持ち込まれた話によれば……」
彼女が静かに語り出したのは、俺の知る原作にはまったく書かれていない、この世界の影の領域について。
曰く――
「大陸地下の空洞網自体は、儂らの諜報部門もずいぶん前に見つけておってな。
広すぎて探索はろくに進んでおらんが、歩ける地形だけでも、推定総面積は大陸の地表部分に引けを取らぬという。
存在を知る者は、この地底世界を『
せいぜい天然の巨大地下ダンジョン
ダンジョンどころじゃねえ。ほとんどもう一つの大陸が地下に広がっているようなものだ。またも原作で言及されていない拡張マップ。この世界の全容は、未だ見えない。
そんな地底世界『
地上の人間種のクソ雑魚っぷりを見ていると疑問に思ってしまうところだが、どうやら生態系のニッチに上手く適合すれば可能らしい。
文明レベルで競合するような亜人種などが地上に比べて少なく、それ以上に強力な異形種もたいてい縄張りが決まっていて、むしろ異種文明同士が緩衝地帯として利用する余地があったという。
「まあ、それだけではなかったようじゃがの。地下の闇小人と闇妖精は、共通の神を信仰し、その庇護下にあったとも伝えられておる」
「同じ神を信仰することで団結していたくらいならまだしも、
「うむ。八欲王の時代にその加護が失われたという伝承からしても、何らかの強力な上位存在を後ろ盾にしていたことは確かであろう。地上でも、かつてはそうした〝個の強者〟に頼る生存戦略が珍しいものではなかったと聞く。
ちなみに闇小人と闇妖精たちの神は、〝霊樹様〟などと呼ばれておるそうじゃ」
八欲王に殺られたなら
ザイトルクワエみたいな植物系モンスターの類か? それとも大穴で、知られざる植物系の異形種プレイヤーだったりするのだろうか。
なんにせよ二大ダーク人間種の地下文明は百年と少し前、地上の騒乱に巻き込まれて共通の〝神〟を喪う。
これは外敵への抑止力を喪失することと同義でもあった。ほどなくして現れ始めた〝八欲王の残穢〟や、クアゴアのような地中に適応した異種族の進出に圧され、両国は最盛期の版図の大半を切り取られていく。
栄光の時代は時の彼方へ去り、敗北と後退の歳月が続いた。
ついに両種族は地上の人間種と同じく、大陸北西部地下の一角まで追い詰められた。
逼塞の中、緩慢に迫る滅び。それでも闇小人と闇妖精は、同じ神を奉ずる人間種同士で結束し、なんとか命脈を保ってきたのだとか。
「ほへー、地下世界でそんな歴史が展開されていたとは」
「ここ三十年ほどはまた
が……つい先日、状況を激変させる事件が起こった。
「悪魔ね……自然発生じゃあないよな、たぶん。そいつらも〝八欲王の残穢〟か」
首肯するサティア。
空に雲がかかったのか、樹海に射す木漏れ日が、薄暗く
「大量の難民が、周辺の地下都市や
「ふーん……いちおう訊いとくけど、助けるの?」
サティアがまた頷く。至高善の魂を持つ天使の眼差しに、迷いはない。
「法国からは救援を出すつもりでおるよ。地下に住まう者たちも、地上の民と同じ『人類』候補種ゆえな。
じゃが、おそらくユグドラシルに起源を持つ災いであろう〝残穢〟の駆除ならば……我らも陰ながら、手を貸してよいのではないかな?」
「なるほど。八欲王の眷属って伝承が正しければ、推定ユグドラシル案件か……」
ここへ来てようやくサティアの言わんとするところ、クエストの輪郭が見えてきた。デケムの捜索が導入だったにしては、随分あさっての方向に話が跳ねたが……要するにやることはシンプルだ。
急に湧いた悪魔軍団のせいで地下世界の二種族同盟がピンチです。至急いい感じの戦力を送り込んで都市を防衛してください。ついでに悪魔どもを含む〝残穢〟の発生源も突き止めて、潰し切るところまで行けば完全クリア……って塩梅だろう。
いや、現地の歴史への影響も考えると殲滅はマズいか? そこは状況を見て柔軟かつ臨機応変に対処ってやつだな。
いまや懐かしいユグドラシルにもよくあった類のミッション。悪魔とか
もちろんそれらは現実なら洒落にならん残虐非道の数々。〝正史〟でも起きていたなら誰かが何とかしたんだろうが、ユグドラシル絡みの事件かつ『人類』にとって害の方が圧倒的に大きそうなので、俺たちが介入する条件は整っていると言える。
まさしくまさしく、こういう時のための『
大陸中央も北西部も、細々した紛争やら何やらはあれど、全体としては長いこと平和だったからな。研究事業や長期的工作にリソースをぼんぼん投じられて有意義な期間ではあったが、亜人種の大国や
たまにはユグドラ動物園で鍛えた
「……よし。じゃあ、逃げたデケムの追跡は、エルスワイズの仕切りで続けてもらうとして……
地底へ通じる昏い風穴を睨みながら、俺はサティアの提案に頷く形で、ギルドの新たなプロジェクトにゴーサインを出した。
かくして、転移後第一の百年紀における最大の戦い――『
[memo]
■〈必滅の誓い〉
・本文中にある通り、〈聖撃〉の上位スキル。プレイヤーキャラや現地人の場合はパラディン系上級クラスで修得できる。
適性クラス(主にパラディン系)のレベルを一定数積み重ねるたびに一日の使用回数が増える。
・一発撃ったら終わりの〈聖撃〉に対し、こちらは標的に指定した敵が死ぬまで無限に〈聖撃〉の効果が持続する。対象への攻撃時、命中率とダメージにボーナス。
この効果は〈聖撃〉と同じく、悪カルマの対象にしか発揮されない。
・対象が悪カルマの竜/悪魔/アンデッドのいずれかである場合、ダメージボーナスが二倍になる。
■
・八欲王が世界に撒き散らしたとされる〝残穢〟の一種。特殊なアンデッド系モンスター。
・外見は凡そ本編でカレルレンが言及した通り。黒ずんだ膿汁と腐肉で満たされた半透明の嚢胞が、発生母体となった犠牲者の輪郭を大雑把に象る。
・サイズや肉体能力値、レベルなどは母体によって変動。原型種族の固有能力や生前の知識・技能は受け継がない。発話能力は共通して持たず、この世ならぬ奇声を発する。
・攻撃手段は肉体武器での叩き付けと、負のエネルギーによる自爆。これらのダメージで生物を殺害した場合、不浄なる細胞が対象の死体を侵蝕し、新たな
自爆は任意で可能なほか、破壊されても自動的に発動する。第七位階相当の擬似呪文能力であり、その威力は(現地の一般的な種族から見て)非常に高い。
■『
・大陸全域に広がる地底世界。すべてが繋がっているわけではなく、独立した小領域も無数に存在する。
・地下に巨大な空洞群があるのに、地上で大規模崩落が頻発していないのは、リアルに存在しない様々な鉱物が地殻や岩盤の強度を高めているため。
むしろそのような地盤内部の強度差が、地下水等による浸食作用の不均一性を産み、地球ではあり得ない規模の空洞形成を促進している面がある。
・アンダーダークではない。いいね?