OVERLORD:The Invisible Watchmaker   作:Stormgren

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闇妖精の都/霊樹の聖堂

 ドーモ、闇妖精(ダークエルフ)の皆さん。ルーク・スカイウォーカーです。

 などと適当につけた偽名を名乗ってはいるものの、顔までマーク・ハミル風になっていたりはしない。今の俺はモブ顔ダークエルフに変身したいつも通りの潜入スタイル。現地のダークエルフたちの視線はリーギリウムが集めてくれている。

 

 リーギリウムの非現実的な美少年ぶりは転移直後から変わっていないが、この数十年で彼は現地人を魅了する所作・言動に磨きをかけており、おかげでさっきもこの国の女王の姉だという鎧姿の凛々しい美女が顔を赤らめトゥンクしていた。このままだとリーギリウムは行く先々でショタコン覚醒者を量産する大量性癖破壊兵器になってしまう。まあこいつも目立つべきでない任務の時は、ちゃんと変身魔法で一般市民に紛れたりしているのだが。

 

 ともあれそんな弟役の影に隠れることで、俺はゆっくり状況を観察している余裕がある。

 

 まず駆け付けた戦場では、敵が悪魔ということで士気旺盛な法国軍兵士たちが、とっとと戦闘を終わらせてくれた。

 やはりサティアのスキルで作られた天使兵団『聖谺隊(エコーズ)』が強い。人間の兵たちを的確にサポートしつつ、()()()()()()ことでしっかり経験値も積ませている。露骨にラストアタックボーナスを譲ろうとする動きの不自然さにちょっと笑ったが、法国兵はあれを「我々の戦う覚悟が試されている……!」などと都合よく解釈しているらしい。宗教って怖いね。

 

 天使を抜きにしても、法国には軍属の信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)が多く、継戦能力に優れた部隊を編成できる。これは軍隊として大きな長所だろう。多少の怪我なら神殿病院へ後送されるまでもなくその場で治してもらえる、という味方への信頼があればこそ、法国軍の前衛は勇敢に戦う。

 

 んで敵が一掃されると俺たちはダークエルフの軍に先導され、上り坂の地下坑道をまたしばらく歩き……彼らの首都・アムディオルへ入った。

 

 アゼルリシア山脈のドワーフ王国はこっそり見に行ったことがあるが、あれともまた違った地下都市の風情がある。たとえばフェオ・ジュラやフェオ・ベルカナは光水晶と呼ばれる発光性の鉱石を主な光源にしていて、建物も基本的に石造りだった。対してこちらは壁面や天井に自生する巨大キノコが光を供給しており、住居は蜘蛛糸で織られた天幕みたいなつくりをしている。

 

 ダークエルフもいちおう完全な暗視能力を持っているので、照明がなくても生活できるはずなのだが……わざわざ最低限の明かりを確保しているのは、ひょっとして今回のように、地上から暗視能力を持たない種族が訪れたときのためだったりするのだろうか。

 まあそれでも人間の目にはだいぶ暗いが、そこはこちらも魔法大国の法国だけあり、〈永続光(コンティニュアル・ライト)〉を宿された照明器具が小隊単位で配備されているので問題はない。第二位階あたりに〈闇視(ダークヴィジョン)〉の魔法もあるし。

 

 そして住居や照明以上に目立つのが、何といっても蟲である。

 一番ポピュラーなのが、道端でも建物内でも見かける毛並み艶やかな巨大蜘蛛(ジャイアント・スパイダー)。町の要所に立つ歩哨の傍らには、武闘派に人気なのか巨大蠍(ジャイアント・スコーピオン)が多い。背中に主人らしきダークエルフといくつもの布袋を乗せ、車輪の代わりに無数の足で歩く列車めいて運んでいるのは、全長二十メートル近い巨大百足(ジャイアント・センチピード)

 

 ダークエルフに化けているせいで、比較的人間寄りのメンタルになっている今の俺としては、正直ゾワゾワする光景だ。もともとあんまり虫系が得意な方ではない、というのもある。もっとひどい虫嫌いの人とか、ここに連れてきたら卒倒するんじゃなかろうか。

 あれだな。不朽の名作『地球防衛軍』の地下ステージだと思えば少しは気が楽になるかもしれない。……いやならねえか。サンダー! 糸に巻かれて死ぬんだよ!

 

 とはいえ俺は事前情報ゼロで来たわけではないので、ある程度心構えはできていた方である。

 法国に助けを求めてきた闇小人(ダークドワーフ)の話をもとに、当代の漆黒聖典が使者という(てい)で派遣され、この都市アムディオルを訪れたのがおよそ二週間前。法国は彼らが集めた情報をまた精査し、正規軍の派遣計画を迅速に練り上げて現在に至るわけだが、実はこの裏でうちのギルドも独自に密偵を放って地下世界の状況を広く探らせていた。

 

 特にここは王都という重要拠点なのもあり、諜報部門所属の忍者部隊が綿密に調べ上げている。そのため都市の地勢や表面的な文化についてはあらかじめ押さえておくことができた。

 じゃあ今回なんで俺とリーギリウム(+数名)がわざわざ人前に姿を見せてまで正面から乗り込んでいるのかというと、八十レベル台の忍者たちでも()()()()()して潜入調査を見合わせたような場所があるからだ。

 

 

 法国軍の指揮官が女王と謁見したり、王姉将軍と作戦会議を開いたりしている間に、俺たちスカイウォーカー兄弟(偽名)は〝聖堂〟へ向かっていた。

 

 聖堂というと俺はついキリスト教的な有名建築――ミラノとかノートルダムとかケルンとかにあるアレ――を思い浮かべがちなのだが、ここアムディオルにおける〝聖堂〟は一味違う。

 まず都市が築かれた巨大空洞の奥に、天井から床面までを貫く巨大な〝樹〟が聳え立っている。その床側を囲うように張り渡された幾重もの天幕が、蜘蛛糸の砦めいた構造物を形作っており、これが聖堂と呼ばれているのだ。もしかしたら自動翻訳の精度が低くて、微妙な訳語が当たってるのかもしれんけど。

 

 市街地からして木や石の建造物が少ないんで、最初は建築技術があんまり発展してないのかと思ったが……よくよく考えると、地下都市ってのはそれ自体が一個の()()()の中にあるようなもので、テント類の大敵である強風や豪雨を気にする必要はない。天井からたまに小粒の落石ぐらいはあるかもしれないが、その程度なら強靭な蜘蛛糸の布がブロックしてくれる。

 

 壁も蜘蛛糸製で丈夫なので、破って押し入るのは下手な木造家屋より難しそうだし、気温が安定した地下では通気性の良さも長所たり得る。そもそも地下だと木材は手に入りにくいのだろう。柱など剛体が必要な部位には、だいたい黒く磨かれた石材が使われている。

 

 そういった土地への適応を頭に入れて見直すと、住居も店舗も公営施設もそれぞれに色や形や装飾で個性的な天幕のつくりを演出していて、これはこれで一つの発展を遂げた文化的建築様式ってやつなのかもしれないと思う。そりゃ蜘蛛が種族の友にもなるよな。見た目は普通にキモいし怖いが。

 

 などと他国の都市設計に思いを馳せながら、俺とリーギリウムは大樹の麓の大天幕にエントリーする。

 

 ここまで案内してくれたのは、俺たちの世話役(兼おそらく監視)として付けられた文官っぽいダークエルフのお姉さん。キリッとして仕事のできそうな雰囲気を漂わせているが、リーギリウムに上目遣いで〝お願い〟されただけであっさり部外者を国の重要施設へ連れてきてしまうあたり、もしかして中身は結構ポンコツかもしれない。

 

 だが仕方ない。この世界の一般人が、一〇〇レベルのショタ(りょく)を持つ褐色銀髪ダークエルフ美少年(偽)の、魔的なまでの魅力に抵抗(レジスト)できるなどと期待するのは酷な話だ。せめて存分にこいつの可愛さを堪能していってくれ。生み(キャラクリ)の親も草葉の陰で喜んでくれることだろう。

 

「聖堂の中ではお静かに願います。霊樹様は、近くで騒がしくするものがあると、その……()()()()と勘違いされることがありますので」

 案内役の注意に便乗して、モブ顔ダークエルフの兄に扮した俺が素人質問を投げる。

 

「すみません、地上から来たものでこの国の文化には疎いのですが……霊樹様というのは、こちらで祀られている神、なのですよね?

 神様が()()()()()()()()()()()されたり……するものなのでしょうか」

 

 それが当然だと思っていて、それしか知らないようなパターンだと理解してもらえないかもしれない問いだったが……案内役の女性は心得た様子で、こちらの意図をきちんと汲んだ回答を返してくる。

 

「ここへ入る前に見えていた、都市空洞を縦に貫く大樹があったでしょう?

 あれが霊樹様の、現在の()()です。私たちの神は空想上の概念ではなく、()()します」

 ちょっと誇らしげなお姉さん。まあ地上だと基本的に神って()()()()()からね。六大神が実在した法国こそイレギュラーケースだろうし、彼らにしてもすでに世を去っている。

 

 こうなると、俺たちをここまであっさり通したのも、単なる無警戒ではないのかもしれない。たとえ余所者が聖堂で不埒な行いに及ぼうとしたところで、()()()()()に太刀打ちできるはずもなし……という絶対的信頼の表れだったりしないだろうか。

 

 しかし実体ある存在となると、それはそれで「力があって守ってくれる相手なら何でもいい」という安全保障上の必要が先に来てしまい、なんというか信仰の()()みたいな面でどうなんだという気がしなくもない。要するにこの神様というやつは、同じくらいの力を持ったモンスターとかヤクザとかニンジャとか魔法少女とかに挿げ変わっても別にいいのだ……と性格の悪いことを考えてしまう。このへんは俺が宗教音痴の日本人だったからだろうか。

 

 もちろんそんな失礼思考はおくびにも出さず、俺は頷く。

 主根とやらはおそらく彼女たちにとっての()()なのだろうが……同じ神を信仰する闇小人(ダークドワーフ)の国にも同じような施設があるのだろうか?

 案内人が口にした〝現在の主根〟という表現はとりわけ興味深い。生き物だとしたら、どういう構造なんだ? 主根とやらがユグドラシルでいう多部位型巨大モンスターのコアパーツに相当する? それは移動したり生え変わったりするから〝現在の〟と言ったのか?

 

 

 聖堂内部は霊樹を中心とした広い空間が確保されており、そこかしこでダークエルフの市民たちが思い思いに祈りを捧げている。みんなが敬虔に神を崇めているのかと思いきや、端の方では意外とくつろいでいる連中も多い。教会やモスクのイメージだったが、気軽に集まれる公民館的な場としても機能しているのかもしれない。

 

 列柱めいて垂らされた飾り帯には、黒い剣と金色の樹が重ね合わされた紋章が刺繍されている。国か、氏族のシンボルなのだろう。黒き刃(ブラックエッジ)はともかく、樹はなんで金色なんだろうと思っていると、聖堂中央の大樹が脈打つような光を放ち始めた。

 

「……なるほど。これを金糸で表現したわけか」

 

 霊樹の巨大な幹は、その随所に琥珀状の結晶体を析出させていた。それが金色の輝きをゆっくりと明滅させ、どこか生物的なリズムで聖堂内の薄闇を照らす。

「今日は霊樹様のお加減が良いようです。あんなに輝きが強く……」

 案内役の嬉しそうな声は、妙に高いところから聞こえてくるエコーのかかった大声に呑み込まれた。

 

「P……PPUUUUURRRRRRRR……EEERRRR……」

 

 それは老婆のようなしゃがれた声。言葉ではなかった。呻きに近く、意味を成さない音の羅列。

 公民館のスピーカーで流れる館内放送、ってわけでもないだろう。俺とリーギリウムは案内役の女性に視線で問う。なにこれ?

 だが案内役も困惑している様子だった。

 

「これは……久しぶりに聴いた気がします。霊樹様の御声です。でも、何を仰られているのかは……」

 

 サラムたちが保護した闇小人(ダークドワーフ)の少年から聞いた話では、霊樹とやらは八欲王に一度殺され、つい最近復活を遂げたという。だがその復活は不完全で、敵味方の区別もつかんほど正気を失っている時間が長い、とも言っていたらしい。

 

 そうだとすると、まともな会話が成立する状態ではないのかもしれない。もしかしたら()()()かも、と期待しかけたのだが、そこまでは高望みしない方が良さそうだ。あの声もただ唸っているだけなのだろう。

 俺が重低音の霊樹ボイスを早くもBGM扱いしかけたところへ、リーギリウムがテレパシーで耳打ちしてきた。

 

「……ボス、あの霊樹から……始原の魔法(ワイルド・マジック)の反応が出てる。どんどん強くなってる」

「は???」

 

 竜王(ドラゴンロード)たちとの交流はリーギリウムに一つの技術をもたらした。ユグドラシルの魔法体系とは根本的に異なる、始原の魔法(ワイルド・マジック)の気配を識別し探知することが可能になったのだ。

 それが、()()出るってことは……マジか? ()()()()のか?

 

「種族は間違いなく植物系だ。レベルは……はっきり見えない。でも、()()は超えてる」

 おいおいおい。そのレベルで始原の魔法(ワイルド・マジック)の反応あったら、もう十中八九ホンモノじゃねーか。

 

()()()()の真なる竜王……? まさか、()()()()()()()()()()()のか!?」

 

 そんなゴジラ・アースじゃあるまいし……いや、でもザイトルクワエが推定破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)だったか? あの説が当たってるなら、少なくとも現地人の認知として()()()()()ことになる。

 

 そもそも神話やファンタジー作品におけるドラゴンというのはただのデカいトカゲではなく、半分くらい魔法生物だったり神だったりする怪獣めいた存在なので、どれほど生物学的にトンチキな発生形態を持っていようと()()()()()()()()()()()であるとも言える。

 ユグドラシルでも空飛ぶタコみたいな竜やら、体内に生体プラズマ反応炉持ってる竜やら、とんでもないイロモノがちょいちょい出てきた。ワールドエネミーの八竜や、悪名高き〝九曜ダンジョン三大クソドラゴン〟等に至っては、まず()()()()()()()()()()のが結構な割合で混ざっている。

 

「P……PPPWUUUUU……WRRRRR……EEAAAARRGH…………」

 

 やめろよなんだよ怖いな。WRYYYYとか言ってロードローラー投げつけてきそうじゃん。

 しかしさっきから同じような音が繰り返されている。ひょっとすると、こいつは意味のない唸り声を上げているのではなく……何かを、言おうとしている?

 

 あれが本当に真なる竜王の一柱で。

 八欲王との戦いに敗れ、百年をかけて死から蘇ってきた、地底世界の神なのだとしたら。

 そして何故、()()()()()()()()()急に活性化し始めたのか、と考えれば――

 

「PUUU……ウウウ……P、プレ、ェEエ……イィィィ……アァァァアア……!」

 

 ――〝()()()()()〟だ。

 ずっと呼んでいた。呪っていたのだ。

 

 ()()()()()()()()

 










[memo]

■九曜ダンジョン三大クソドラゴン
・DMMO-RPG『ユグドラシル』のメインストーリー最終ステージ、通称〝九曜ダンジョン〟に出没する三種のネームドモンスターをまとめて指す綽名。
・いずれも種族分類としてはドラゴンなのだが、あまりに竜種らしからぬ異質な形態と、「野生のレイドボス」とも評される個体能力により、プレイヤーたちに絶大なインパクトを残した。
・一説によると、三種の合計ではラスボスより多くのプレイヤーを殺している。
・ただ強いだけなら〝クソ〟の称号を冠することはない。彼らはそれぞれが固有のクソゲーを体現する、初見殺しと理不尽調整の塊である。
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