OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
ともあれ『
ここまでの準備日程の裏ではアムディオル側も兵や装備を揃え、
儀式でぶち上げた士気を活かすべく、病床から復帰した兵たちを軍容に組み込み次第、さっそく明日にでも都市を発つという。
そういうわけで法国の兵士や神官たちも、いよいよ迫った決戦に備えて身体を休めることとなった。
最高神官長リーマイヤは、国交樹立に向けたいくつかの約束を女王リフィリスと交わした後、六大神秘蔵のマジックアイテムを使った――という設定だが、実際はサティアの〈
そんな決戦前夜、スカイウォーカー兄弟と〝小聖女〟サヤは、アムディオル郊外の小空洞の一つに呼び出された。つまり俺とリーギリウムとサティアである。
呼び出し人は〝
ツアーの操作する白金鎧も立ち会い、俺たちは小規模な地底湖のほとりで、霊樹が張り巡らせた〝聖根〟の一本と対峙した。
根の先には聖堂で見たのと同じ、コミュニケーション用の擬似器官と思しき〝竜頭〟が生み出されている。
「……なるほどね。じゃあ、
「そういうことだね。俺たちもその、
ツアーも目付役やってくれてるから、安心してよばあちゃん」
「フン、気安いね! アンタら〝ぷれいやー〟には〝ばあちゃん〟なんて呼ばれたかないよ。しょせんアタシの子供たちを狩り殺した、腐れ侵略者どもの同族だ。そこを赦すつもりは永久にない。
だが今回は、アタシが貸しを作られちまった立場だ……おまけに
「あざす! ばあちゃん!」
「ばあちゃん呼ぶなって言ってんのが解んないのかい! 焼いちまうよ!」
木彫りの竜頭がオレンジの雷をバチバチさせて威嚇してくる。だがそれだけだ。聖堂で散々攻撃してきたときとは違い、そのエネルギーはきっちり制御されていた。
プレイヤー全般への憎しみは根深く、個人としての好感度も依然としてマイナスに違いないが、俺はなんとなくベルナドーラとは上手くやっていけそうな気がしている。要は
彼女は戦争で子供を亡くしたためにユグドラシル出身者を嫌っているが、正気の状態ならプレイヤーを見つけても即座に殺しにかかるのではなく、俺やツアーに連絡してくれるぐらいの対応は望めるように思う。もちろん今後の関係構築次第ではあるが。
植物起源の竜王を訪ねるときって、手土産は何を持っていけばいいんだろう? まさか肥料じゃないだろうし……。
「お気楽に構えてるみたいだけどね、カレルレンとやら。何もアタシゃ勢いだけで、この戦に手を出すと決めたわけじゃないよ。
あっちこっちで、アタシの伸ばした根が寸断されてる。こいつは敵の工作だろうさ。だが、いくらアタシが前後不覚の有様だったからって、攻撃されれば末端の根でも自動的に反撃くらいするさね。
この〝
俺の隣でリーギリウムがにっこりしている。これは多分「オレの方が先に調べつけてたもんねー」みたいなマウントが半分、「でも現地人にしちゃ情報の大切さを解ってるじゃねーか」みたいな採点が半分の表情だろう。こいつの顔でやっても可愛いだけだが。
実を言うと、敵の規模については俺たちもここ数日間に裏で調査を進め、それなりの情報を得ている。量も質も
リーギリウムみたいに情報系魔法の専門家というわけでもないのに、ある程度正確な敵の戦力評価を弾き出せるベルナドーラの戦術眼は、じっさい現地人としては驚異的なものと言っていい。
年の功ってやつかね。さすがだよ
「そいつらはこっちでも捕捉してるから、まあ俺たちが
ばあちゃ……失礼、ベルナドーラさんは聖堂で宣言してた通り、ビロモール奪還軍の方を手伝ってもらえるかな? 神様と肩を並べて戦えるとなりゃ、
ベルナドーラの仮設頭部は胡散臭そうな目で俺を眺めた後、打って変わって丁寧な言葉遣いになり、ツアーの
「
「
端的に切り捨てるようなツアーのコメント。リーギリウムが片眉を上げて睨んでいる。
だが俺はなんとなく察している。ツアーが
案の定、白金鎧の科白には続きがあった。
「だが……人格はともかく、群れとしての実力については確かだ。実際に戦った私が保証する」
「
いやそのー、試したっていうか。わりとガチで殺しに来たんですけどねそいつ。迎え撃ちながら殺さないよう丁重に手加減してやったことを恩に着ろとまでは言わないが、〝人格はともかく〟などと抜かすあたり、ツアーも相変わらず
だがまあそんなことはどうでもいい。ユグドラシルで転移に向けた準備を万端整えてきた俺たちにとっては、
「正直に言えば……〝残穢〟が地下から出現しているらしいことは、早い段階で私も掴んでいた。地上へ彷徨い出てくる個体を駆逐し、地下の浅い層にも幾度となく鎧を送り込んで、間引きをしてきた。
だが数が多すぎて、全滅させるのは難しいとも感じていた。ゆえに次善の策として、『
「それ、やったら
俺が指摘すると、鎧は重々しく頷く。
「確かに、多くの犠牲が出ただろう。地上への影響も、甚大なものとなったかもしれない。
しかし私がひとりで戦う前提なら、選べる手段は限られていた。他に方法がないと判断すれば……私は
ああ――そうだよな。お前ならやるよな。
ツアーの考えていた対処法は過激なものだったが、他の竜王にも頼れないこいつが独りで〝残穢〟を何とかしようと思ったら、それくらいやらないと埒が明かないのも確かだ。実際〝正史〟ではそんな感じに片付けたのかもしれない。地下と地上に住む多くの命を犠牲にして。
でも幸い
「――もっとも、今は新たな〝ぷれいやー〟の力を借りることができる。
〝
いずれは伝えてもいいが、確かに今ここでする話ではない。俺も便乗して黙っておくことにする。ツアーは続けた。
「〝八欲王の残穢〟は、この世界に害しかもたらさないものだ。交渉も共存もあり得ない。私は大戦後、あれらの駆除をずっと続けてきたから、確信を持って言える。
滅ぼすか、少なくとも封じなければならない――その結論に変わりはない。だが、無用の犠牲を出すことなく成し遂げられるなら、私にとってもその方が望ましい。
そのために……改めて、両名の力を借りたい」
俺とベルナドーラの根に向けて、がちゃり、と頭を下げる白金鎧。
ツアーにとってはこれも「必要ならやる」程度の儀式でしかないのかもしれないが……いやはやなんとも。
とりあえず、転移直後には単独特攻しか選べなかったこいつが、形だけでも他人を頼るということを覚えたのは進歩だろう。
そうして頼って、助けられて、他人を信じられるようになっていけば、いつかは孤高の最強種たるドラゴンさえ『人類』になるのかもしれない。俺は今でもそんな未来を淡く期待している。先はまだまだ長いとしても。
協力の呼びかけに対し、一貫してツアーを上位者として扱っているベルナドーラは、当然否やもなく。
「あらまあ
「ありがとう、ばあちゃん。……カレルレンの方は、実際どうなんだ」
「どうって、何が?」
「
念押しのような問いかけ。言葉の上では省略されているが、もちろん地下世界を丸ごと崩落させるような手を使わずに、ということだろう。それをやってしまったら、ツアーがワンオペ対応するのと何の違いもなくなる。
せいぜい自信ありげに見えるよう、俺は大きく頷いておく。
「観測できてる限りでも、
むふ、と後ろでサティアが小さく笑う気配。
何を笑われたのかはだいたい解る。
発生プロセスが俺の推測通り――とある神器級アーティファクトの
だが俺たちも、推定百年かけて召喚され続けてきた膨大な数のモンスターを、直ちに全滅させる必要はない。
要は、実害が出ていてすぐ潰さないとヤバそうな群れを応急処置的に殲滅し、その後は
この一万体はリスクヘッジの観点から生かしておけない、〝残穢〟の中でも上位種のグループ。六十レベル台から始まり、強さのランクが上がるほど数は少なくなるものの、最上位層の九十レベル台でも百体前後は居る計算になる。大陸北西部地下の群れだけでこれだ。同規模の群れが最大であと八つ存在し得るというのだから、けだし『
もっとも、数字のインパクトほど絶望的な状況というわけではない。
確かに額面上の戦力だけならユグドラシル基準でも結構な脅威だが、こいつらの大半は地上を目指そうとするでもなく、無目的に地下をうろついては現地人を襲ったり互いに殺し合ったりしているだけである。
プレイヤーの指揮を受けているわけでもない烏合の衆なら、倒しようはいくらでもある。……というか主に生物部門が頑張ってくれたおかげで、ぶっちゃけ
とはいえ俺たちのようなイレギュラーでもいなければ、本当に世界が滅びてもおかしくはなかった。それほどの異常な戦力が〝残穢〟として地下に蠢いている。
ユグドラシルだと一エリア内に存在できるクリーチャー数には上限があったので、マジックアイテムを使った無限召喚ギミックとかで人工モンスターハウスを作ろうとしても、必ずどこかで打ち止めになっていた。しかしこの世界にオブジェクト数制限なんてものはない。消えないモンスターを定期的に生産できるなら、スペースがある限り本当にいくらでも増え続ける。原作アインズやこの歴史での俺たちがやってきたように。
そりゃあ主人公にできることなら、手段さえあれば悪役でもモブでも同じことはできるだろうが……これマジで〝正史〟はどうやって処理したんだ?
やっぱりツアーが地盤ごと崩して埋めたのか? それとも原作の過去にはこんな事件起きていなくて、この世界線に特有の厄ネタだったりするのだろうか。わからん。
まあわからんなりに背景を調べつつ、大ごとになる前に闇から闇へ葬ってしまうのが俺たちの仕事だ。いつも通り処理しよう。
「引き換えにってわけじゃないが……俺たちがこれをうまく解決できたなら、
「……わかっている。いまなら承認者の過半数も揃う。手続き上は、可能なはずだ」
珍しく頭を下げたツアーの良心に容赦なくつけ込み、俺はかねてより提案していた案件に関する譲歩もついでに引き出しておく。実はこのへんのやり口も、財務部門のキーレンバッハに教わって少しずつ鍛えているところだったりする。
まだまだプレイヤーへの根深い不信感が拭い切れないのか、心情的には後ろ向きなのが声音からありありと窺えるツアーだが、マハナやトリシュからもプッシュしてもらえばそのうち折れるだろう。あのふたりを復活させたことで可能になった世界盟約の
ゆくゆくは人間種から
いずれにせよ実現性や効果のほどはまだまだ調査段階。まあ
そうした先々への布石を打っていくためにも、まずは目の前の問題を片付けなくてはならない。
「できれば〝残穢〟の発生源を押さえるとこまで行きたいけど……そこまで行けなくても、
「……具体的に、どう戦うつもりなのだ?」
「へっへっへ、それはまだ企業秘密ってことで……少なくとも、周辺被害は出ないよ」
万単位の大群を薙ぎ払う兵器も用意しようと思えばできるが、地下で迂闊に大量破壊兵器を使うと大規模崩落を招きかねないので、ちゃんとそこは考えた作戦を練ってある。
ほんとにうちのNPCどもはこういうとき切れる手札が多くて助かる。そう作ったのは俺たちだけど。
かくして
三種族連合軍と〝
こっちはあくまで裏方。英雄的活躍は必要ない。
そうして神も運営もいない世界で、ひっそりと『人類』の命脈を保つのだ。見えざる時計職人のように。
そんなこんなで原作開始より遡ること、三百と数十年。
俺たちは早くも、〝世界の危機〟に立ち向かう――
……やはりハードモードなのでは??????
[memo]
『
■タマーラ・アルゼイニ
・
・料理上手で、ボルシチめいたスープが絶品。息子の大好物でもあった。
・芸術品に仕立て上げられた。
■ニーナ・アルゼイニ
・
・歌が上手く可愛らしい、同年代の子供たちの間でのアイドル的存在だった……とは兄の記憶。真相は不明である。
・芸術品に仕立て上げられた。
■エルゴーン・ツァウバー
・
・地下の環境に適応したレンジャー系ビルド。より細かく役割を分けると、弓兵にして
・〝正史〟の世界では、主君とともに討死している。相棒の蜘蛛毒で痛覚を消し去り、HPゼロの状態で二分間戦い続けた。
■フェイノール・アウルダーヴィス
・
・死霊術を専攻し、アンデッドの使役に長ける。一時期は栄達を妬んだ同期に「生命を冒涜する不浄の術者」などと後ろ指を差されもしたが、彼の力が都市防衛に活かされる局面は多く、次第に名声が勝るようになった。
・〝正史〟の世界では、愛する主君も祖国も喪ってなお生き延び、地上世界でズーラーノーンに身を寄せる。ある理由から盟主を滅ぼす機を伺っており、そのために十二高弟まで上り詰めたが、力を蓄える過程であまりに多くの命を奪いすぎていた。最後は魔神戦争のさなか、十三英雄に討たれた。
■リフィリス・ブラックエッジ
・
・魔法剣士としては天才だがテイマーの資質に恵まれなかった姉とは対照的に、専業テイマービルド。地下世界でも珍しい蟲の
・〝正史〟の世界では、滅びゆく国と運命を共にした。