OVERLORD:The Invisible Watchmaker   作:Stormgren

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―第四臓区・魔法研究部門―

 恐るべき一〇〇レベルNPC増殖バグのインパクトを引きずったまま、俺は他の部署にも順次足を運んでゆく。

 

 第四臓区は魔法全般の研究施設。壁際の本棚には魔導書らしい本がぎっしり。魔法薬の実験設備と思しいうねうねしたガラス管や、巻物(スクロール)製作用の製図台が並んでいる。

 行き交う(しもべ)たちは主に悪魔とアンデッド。俺に向かって深々と一礼しつつ、その場に跪いて留まることはなく業務に戻っていく。跪拝無用と伝えたヘスの通達が、さっそく他部門にも回ったらしい。情報共有が早い。

 

 精霊(エレメンタル)系モンスターの生産実験を任せていたエルスワイズは建国事業補佐のため不在。第四臓区を仕切る一〇〇レベルNPC、魔法研究部門統括の死霊術師(ネクロマンサー)・ミハネから合わせて報告を聞く。

 

「エルスワイズのまとめたレポートによると、基本の四大元素精霊は、低位のものであれば自然環境からいくらでも永続個体を生成可能とのことです。中位以上は条件が複雑なのか、まだ安定生産には成功していないみたいですね。

 複合精霊になると、低位でも定着化に成功しないケースあり。神聖精霊や不浄精霊については媒体を絞り込めておらず、現在まで成功例がないもよう」

 

 てきぱきと他人の研究成果をまとめるミハネ。その外装は人間の女性(を模した姿)で、外見年齢は高校生くらいか。つばの広いとんがり帽子に、繊細な刺繍が袖や裾を縁取る黒ローブ、腰回りに浮かんだベルトからは複数の短杖(ワンド)小物袋(ポーチ)がぶら下がり……といった具合の正統派魔女ルック。

 

 眼鏡と黒髪お下げのせいで、死霊術師(ネクロマンサー)というより魔法学校の図書委員って感じに見えるのは外装をデザインしたギルメンの趣味だろう。ホグワーツだったら帽子をかぶった瞬間にレイブンクローへ組分けされるタイプだ。いやそもそも()()()()入学できるかわからんけど。

 

「ふーん、上位精霊の定着条件はなんだろうねえ。対応する属性の大規模な〝現象〟が媒介となるのか、もしくはパワースポット的な土地が必要なのか……?

 まあこっちはエルスワイズの手が空いてから進めるんでもいいや。お前自身の報告も聞こうか、ミハネ」

 

 俺が促すと眼鏡魔女っ娘は頷き、〈水晶の画面(クリスタル・モニター)〉に自分のまとめたデータを表示していく。

「アンデッドの生産については、ほぼカレルレン様の記された〝予測〟通りの結果となっています。周辺地域の生物の死体を媒体とした創造では、いまのところレベル四十以下のものしか永続化できておりません。……あのメモは転移前に書かれたのですよね? どうやって閾値まで割り出されたのですか?」

 

 ()()()で読んでたラノベ(おばろ)に書いてありました、などとはむろん言えない。

「そこは()としか言いようがないなー。転移自体が起きるかどうか半信半疑だったところもあるし。――そうそう、ヘスの方で高レベルの蟲や魔獣が何種類か永続化できそうなんだって。使用許可が出るようならいくらか回してもらって、上位アンデッドの素材になるか試すのはどうかな」

 

 ポロッと言ってしまってから、「その発想はないわー」とドン引きされないか心配になったが、ミハネは平然と頷いている。

「それは……ありがたいお話ですね。私からもヘスに打診しておきましょう」

 気にしていないようなので、俺もすかさず便乗。

「もし渋られたら、ギルマスが乗り気だったって言っていいよ~。高レベルアンデッドの永続化は、ぜひとも早期に確立したい技術の一つだからね」

 

 ヘスにも仄めかしたことだが、ぶっちゃけると生物系モンスターより、飲食睡眠不要で疲労も寿命もないアンデッドの方が雑に管理・運用できて楽なのだ。これは天使、悪魔、精霊なんかの異界種(アウトサイダー)にも言えることで、俺にとってはその辺の種族こそが戦力増強の本命だったりする。

 

 原作でアインズがやってたように、死の騎士(デス・ナイト)魂喰らい(ソウルイーター)程度の中位アンデッドをひたすら量産していくだけでもそこそこの戦力にはなる。が、真なる竜王や他プレイヤーとの戦いでは賑やかしにしかならないであろうことを考えると、上位アンデッドの生産条件くらいは解明(アンロック)しておかねば安心できないというのがチキンプレイヤーの偽らざる心境なわけで。

 

 そのために自家製のモンスターが素体として使えるんなら、やはり多少の心理的抵抗は押し切ってでも生産ラインを組むべきであろうと俺は思う。少なくともどっかの鬼畜デビル眼鏡みたいに、()()()の牧場なんぞを経営し始めるよりはだいぶマシなはずだ。

 

 ミハネと話しているうち、他部門と比べて分かりやすい成果が出ていないことを負い目に感じていそうな様子が散見されたので、俺はその辺のフォローも入れつつしばらく報告を聞いたり雑談に興じたりした。

 

 

「その他の系統……天使や悪魔、妖怪、魔法生物といったモンスターの生産については、まだ媒体の方向性を模索している段階です。せめて低位のものでも成功例が出れば、そこから当たりをつけていけるのですが」

「そいつらは確かに、ナマモノやアンデッドと比べても、どういうメカニズムでこの世に留まるもんなのかイメージしにくいね。リアルの神話や伝承が参考になるかな? 書庫にいろいろ資料があるから、関連記述を探してみるといいかも」

「お心遣い、感謝いたします! のちほど閲覧させていただきます」

 

 

「カレルレン様よりご下賜いただいた、()()()()の魔法学者の研究資料は興味深いですね。こちらでの位階魔法はまだ歴史の浅い技術体系ということでしたが、すでに私やリーギリウムでも知らない呪文がいくつか開発されているようです」

「第()位階とかもうあるんだっけ? あのブロジンラーグって国は八欲王の没落以降、国策として位階魔法の使い手を保護したり、研究を支援したりすることで成り上がった魔法大国なんだってさ。火巨人(ファイアー・ジャイアント)のおっさんの人生録(ライフログ)に書いてあったよ」

「〈綴じられる人生録(ライフログ・バインディング)〉ですか。あのような扱いにくい魔法で、拷問も精神支配もせず大量の情報を得るとは……さすがは至高の御方。この未知なる世界への転移を見越して、あえてユグドラシルでは有用性の低い魔法も準備なされていたのですね。

 それにしても、オリジナル呪文(スペル)の開発……とても胸躍るテーマです……!」

 

 

「ワールドアイテムの機能確認は一通り終わっています。とくに不具合もなく、正常に動作しているようです。

 特記事項はそちらの報告書にまとめておきました。『忘却の壺』が現地住民に使用可能であること、『三十枚の銀貨(ハンサムプライス)』がユグドラシル金貨以外の貨幣取引にも適用できること、この二点が判明したのは大きいかと。早期に調査しておいてよかったです」

「なるほど~。『銀貨』の方はうちが全部持ってるわけじゃないんで、よそに使われた場合の対策とか考えといた方が良さそうだねえ……。

 ちなみに『大彗星の杖(ギャラクティック・ウィッシズ)』使った実験はどんな感じ?」

「あれは……()()()()()()()()()()ので、無害かつ定量的なオーダーで限界を測るところから始めています。さしあたり一年先までの実験計画は立案しましたが、ご覧になりますか?」

「おう、見せて見せて。優先度上げた方が良さそうなやつがあったら順番入れ替えて前倒しにしよう」

 

 

「ユグドラシルでは持続時間に制限のあったいくつかの魔法およびスキルが、この世界へ来てから永続効果になっていることは、以前ご報告申し上げた通りです。あれから検証を進め、さらに数種類の魔法で効果の変質を確認いたしました。性能が変化したものについて、詳細な新旧対照表がこちらとなります」

「資料化してくれてんの助かる~。どれどれ……消費魔力は全体的に増大傾向、付与(エンチャント)系は素材のグレード次第、術者レベルや基礎技能値で効果が変動するやつもあるって? Excelもないのによくこんな細かい条件分類までやったねえ……」

 

 

 こんな具合である。

 よく考えると魔法効果の永続化をいくつも見つけてる時点でミハネも大戦果上げてるんだよなあ、と本人に伝えてやったら赤くなって嬉しそうにニマニマしていた。ちょろいぞ図書委員。ともあれケアできたようでなにより。

 

 しかし事前に報告受けてた永久石化も結構ヤバかったが、今回の追加分の中にもなんか凶悪な使い方できそうなやつがいくつか混ざっていて俺は震える。過去のプレイヤーはこれらの差異を見つけていたのだろうか? 条件つきとはいえ〈物体変身(ポリモーフ・オブジェクト)〉や〈魔法道具強化(エンハンス・マジックアイテム)〉の永続化は絶対マズいだろこれ。もうバランスブレイカーを下方修正(ナーフ)してくれる運営はいないのに。

 

 

 いようと思えばここだけで一日潰せるが、俺が居座ってるとそれだけで気を使わせるし部門統括の貴重な時間も浪費してしまう。次だ次。名残惜しそうなミハネに手を振り振り、俺は第四臓区を後にする。

 

 防衛部門以外は今日中に全部回り切る予定だが、時間が足りるか微妙だ。サクサク行こう。重大インシデント報告はどの部署からも上がってきていないので、基本的に良い報せだけ聞いて回れるのは心の救いというべきか。

 






[memo]

綴じられる人生録(ライフログ・バインディング)
・接触距離、単体対象、変成術。信仰(ドルイド)系第十位階。
・対PCの場合は即死+相手の能力・装備・百科事典(ユーザー追記部分除く)などの情報取得。既に瀕死の相手にしか成功しない。
・対NPC(モンスター等)の場合は本型アイテムに永久変身させ、ステータスや設定を閲覧できる。百科事典への転記も可能。
・モンスター情報収集などに重宝されたが、変身効果に完全耐性を持つモンスターも高Lv帯には多く、パワープレイヤーには捨てられがち。
・ユグドラシルではこれを使用する際「〈天国への扉(ヘブンズ・ドアー)〉ッ!」と叫ぶのがお約束だったが、元ネタを知らないプレイヤーからは、単に偽の呪文名をコールする(くち)プレイの一環としか認識されていなかった。
・上述の効果はユグドラシル時代のものであり、異世界ではまったく別の効果に変質している。
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