OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
第四の大空洞には古代の都市遺構が広がっている。
これはかつて地上に存在した、
「なんといっても保存状態が素晴らしいよ、ここの遺跡は。魔物が荒らしていなければ、もっと完璧な形で残っていたかもしれないね。
建物の形状からして地上にあったはずの都市が、なぜこんな大深度まで埋没したのかは理解に苦しむが……」
俺たちと共に建物の合間を縫って隠密行軍しながらも、互いを繋いだ
いちおう彼女も耳の上に青い結晶体で出来た角を生やしているのだが、サイズが控えめなのと装飾が凝っていることもあり、遠目にはそういう髪飾りとしか見えない。おそらく狙った造形だろう。〝
「ぬわ~~人っ子の身体やっぱ柔らかすぎて怖いわ~! これちょっと地面とか木とかに擦ったら、すーぐお肌破けてまうんちゃうのぉ? 身を守れる外皮もなしに、よー生きていけるわホンマ」
一方キラキラ翠髪ガールに化けているマハナはというと、まだ人化の素人だからか人体の小ささ・柔らかさ・脆さに慣れない様子。ユグドラシルの変身呪文だとそのへんの違和感はあんまり無いが、
リーギリウムによると
「そうだよ~転んだだけで死んだりするよ~。だから人間種は鎧とか着ないと近接戦闘めっちゃ弱者なんすね~。
マハナもそのへん気を付けて、極力そのまま敵と殴り合いとかしないようにね。ここなら広いし、敵とドンパチ始まったら変身解いていいから」
「おーきにカレルレンはん。でもこの姿やとうちもお肌ぷにぷにやから、シズクちゃんのもちもちをより堪能できてええわ~」
「心頭滅却すれば火もまたもちもち……なのです」
抱えたシズク
できれば都市遺構の中心部まで気付かれずに侵入したかったのだが、不可知化しているとはいえ隠密の専門家ってわけでもないパーティがぞろぞろ市街地を行進していけば、さすがに気付く奴も出てくる。完全不可知化を見破れる強化視覚持ちの高位モンスターすら徘徊しているのだから当然だ。
「貴様ら……何者だ!? どこから入ってきた!?」
おっとマズった。敵が建物の死角にいたせいで、発見が僅かに遅れた。
通りの向こうからこちらを見咎め、どかどかと肥満体を揺らして走ってくるのは
ゲームだと距離を取って延々と砲撃してくるのが鬱陶しい敵だったが……慢心からか、得意レンジの遠距離戦を捨ててわざわざ近づいてきてくれるようだ。
「我が眷属のエサにしてくれるわ! ゆけィ、蜥蜴どもッ」
さすがにそのまま殴りに来るのではなく、
現れたのは四体の
これを安全に処理するなら中立カルマの俺かシズクだ。そう思い前に出ようとしたが、エルスワイズの方が早かった。
「わが君よ、頃合いです。イスカンダルの招来を進言いたします」
目の前の敵には一瞥もくれず、もう見つかったのだからここで始めてしまえと上申してくる主席参謀。その周囲の空間が歪み、四色の元素光を帯びた巨大な
エルスワイズは
その圧倒的な手数から、信仰系純魔ビルドにもかかわらず、こいつは専業戦士すらタコ殴りにする接近戦の鬼としての側面も持つ。
一瞬で召喚モンスターを片付けられ、油断の吹き飛んだ
「あれはわたしがやろう。【氷泡】」
トリシュ先生が、すらりと長い女の指を鳴らす。
遁走する
俺との模擬戦では見せなかった技だ。さては〈
第九位階魔法〈
じゃあ動き出しと同時に殺せるようトドメの攻撃を準備しておくか、と先生にタイミングを相談しようとして……
泡はそのまま真っ黒になると、音もなく消えてしまった。内部で動きを止められていた巨漢の悪魔もろともに。
「え、何だ今の。怖ッ」
今まで見た
種を明かしてくれるとは思っていなかったが、トリシュ先生はこれも講義のつもりなのか、ちょっとだけヒントをくれる。
「時間の止め方にもいろいろあってね……さっきの悪魔が戻ってくることはもうないから、安心したまえ。彼の[時]は、あの瞬間で
「…………あー、うん、まあ無力化できたんならいいや」
……多分だけどこれ、ワールドアイテム持ってない状態で喰らったらヤバい奴だな?
解析はあとでリーギリウムにじっくりやってもらうとして、
「それじゃ、デカいのを呼ぶからな。みんな踏み潰されないように気をつけろよ――来い、イスカンダル!」
ギルド拠点『
所有者の意思に応え、戦略級攻城ゴーレム『イスカンダル』が古代の都市に出現した。
激震。
ユグドラシルに数十機存在した戦略級攻城ゴーレムの中でも、イスカンダルは最大級の巨体を持つ。全高およそ五十メートル、城砦が人の形を取って動き出したような石と金属の塊は、ただ着地しただけで大地を揺らし、建造物を破壊する。
遺跡を盛大にぶち壊しながら登場したイスカンダルに、トリシュ先生が「あぁぁぁ……」とため息を洩らしている。全ての考古学者にごめんなさい。でも遺跡の保存に気を遣ってられない程度には危険な敵を一掃しなきゃならないんだ。許してね。
「何だアレは!?」
「大きすぎる……幻術なのか!?」
「何にせよ侵入者だ、敵が来たのだ! 血祭りに上げてくれようぞ!」
「宴だ! 愚か者どもを狩りの獲物とするのだ!」
戦意旺盛な声が叫び交わされ、悪魔や
一斉に投射される魔法、矢弾、
イスカンダルの装甲はそれらのほとんどを弾き、無効化し、まるで寄せ付けない。素の防御力が高いのもあるが、それ以上に拠点でサラムとミリアベルに施してもらった対物バフの盛り合わせが効いているのだ。
今のイスカンダルは主要な元素ダメージ全種の完全耐性に加え、物理ダメージの固定値カットと割合軽減を組み合わせて武器攻撃にもきわめて強くなっている。おまけに高速治癒まで与えられており、生半可なダメージなら放っておくだけで自動修復されてしまう。
……などと余裕こいていたら、ズズドドンと腹に響く衝撃。見上げればイスカンダルの装甲に小さな傷ができている。
「
リーギリウムの解説を聞きつつ遠方の空洞内壁付近を見ると、確かに超重装甲の移動要塞めいた悪魔が高台に陣取り、矢継ぎ早に砲弾を撃ち込んできていた。
こいつの砲撃はさっき先生が始末した
本来の予定なら、もっと奥まで入り込んでからイスカンダルを召喚し、すぐに次のフェーズへ移行する計画だった。しかし発見されるのが思いのほか早かったせいで、まだ敵群をあまり引き付けられていない。こりゃもう少し時間を稼ぐ必要がありそうだ。
「シズク、エルスワイズ、敵が充分に集まるまでイスカンダルを守れ。リーギリウムは誘引状況を随時モニター、そろそろだと思ったら教えてくれ。
ツアーたちも、できれば協力してくれると嬉しいんだけど!」
指示を受けてぱっと飛翔し、攻城ゴーレムの巨体に雲霞のごとく纏わりつくモンスターどもを蹴散らし始めるNPCたち。指示に従ってくれるかどうか不安だった竜王チームも、これまでに築いた友好関係のおかげか快諾してくれる。
「是非もない。奴らを引き付ければいいのだろう?」
「よっしゃ、出番やな! 相手がこいつらやったら、遠慮なくどつき回したるで!」
「マハナ、天井が崩れない程度には遠慮したまえ」
遠隔操作端末と変身形態、人間サイズに身をやつした竜王三人が散開する。打ち合わせたわけでもないだろうに、それぞれ別方向から敵の注意を惹いて、誘引に協力してくれるようだ。
ツアーの鎧の内側からどろりと白金色の液体があふれ出し、初日に見せた【嵐花】の自律ブレードを思わせる武器へと
白金の大剣は高位の悪魔を一撃で仕留めるほどの威力こそ発揮していないものの、しっかりヘイトは稼いでおり、ヒットアンドアウェイを繰り返す鎧の後ろには追いすがるモンスターの列がどんどん伸びつつある。自分の性能と役割を理解した高効率の立ち回りだ。功を焦らない安定感は熟練のタンク職プレイヤーに近い。
トリシュ先生はドラゴンの姿でも操っていた十枚の氷刃を呼び出し、縦横に回転させて斬撃の結界を生み出しながら飛び回る。その飛行速度と旋回性能は竜形態と比べても遜色なく、彼女の魔法的飛行への熟練度が窺える。
おまけにあの【氷泡】とかいう設置技を機雷みたいに使って、悪魔を丸ごと消し去ったり魔獣の胴体に球状の大穴を開けたりしている。高い魔法抵抗を持つはずの種族も、〈
マハナは外皮がどうのと言っていたので、竜形態と比べて防御力の低下が心配だったが、そもそも敵を寄せ付けていないので関係なかった。【璧晶操兵】で生み出された結晶騎士の一群は、マハナが人化していても性能を一切低下させず操作できるらしい。ミハネを一度は殺したほどの高レベル
しかもよく見たら、マハナの操る結晶騎士が
遠くギルド拠点の
「
イスカンダルにはまだ攻撃させない。こいつが本気で戦うとクソ火力で空洞を崩壊させかねないので、いまはまだ巨体で敵を引き付ける囮の役割である。
その周りでは、エルスワイズが風の障壁で飛び道具を掻き消し、シズクが敵の懐に潜り込んで無属性ダメージ付加の掌打を連続で叩き込む。次々と撃破され、塵に還っていくモンスターたち。
だがその数は集まり増える一方。俺も中位以下の敵を〈心蝕のオーラⅢ〉で操って手駒にしたり、敵が密集したところに〈
むろん問題はない。過剰な火力で敵を殺し過ぎれば、劣勢と見たこいつらは逃げ出してしまうだろう。そうならないために俺とNPC組は反撃を手加減しているし、
「このまま数に任せて押し込めば嬲り殺しにできる」……そういう勘違いを誘発するのは、もともとユグドラシル時代から俺たち『
ここの主群にも統率個体がいるらしいことは聞いていたが、仮に指揮を執っていたのが熟練プレイヤーなら、こうも見え透いた誘引戦術に戦力の大半を投入するなんて愚は犯さない。物量戦で
「ボス、
「オーケー。待たせたな、シズク。
外へ出て戦っていた方のシズク三十九号……ではなく。
俺の懐でずっと機を待っていたシズク二号が、もぞりと蠢いて、唱えた。
「〈夢幻楼閣〉」
本日三度目――いや、サティアが使ったはずの技も含めれば四度目の。
領域隔離型スキルが、世界を塗り替える。
[memo]
■戦略級攻城ゴーレム
・ユグドラシルに存在した攻城兵器の一種。都市や城砦、ダンジョン等を攻めるときのみ起動できるという魔法的な縛りがある。
・ひとたびターゲットを定めて起動されると、システム・アリアドネの導きに従って攻略対象拠点の中枢へ至るルートを辿り、自動的に進撃する。
・放っておくとボスユニット級の性能でどんどん拠点内部に侵攻し、そのまま中枢部を破壊して拠点機能を停止させてしまう。基本的に防衛側が有利な攻城戦において、「いかに攻城ゴーレムを守るか/破壊するか」という攻守逆転の戦局を発生させるゲームチェンジャー。
・モデルにより性能は様々だったが、総じて破壊されると修理費用がとても高い。
■〈
・円錐形に広がるサイケデリックな色彩のエネルギー波を放つ範囲攻撃。[精神作用]属性。
基本ダメージは低いが、それ以外の性能が全てにおいて凶悪。出が早い、弾がデカい、弾速が速い、と「避けにくい要素」が揃っている。
追加効果も「ノックバック大」「レジスト失敗で数秒間の
・MP追加投入で「威力」と「射程」を伸ばせる。最大増幅時は基底値の十倍の威力で、二倍の距離まで届き、さらに「狂気状態付与」も追加される。狂気はレジスト成功で無効化可能。
擬呪なので〈上位魔法無効化〉等で止められるが、増幅によって判定位階も上昇する。(通常時は第一位階相当、最大増幅時は第十位階相当)