OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
※ユグドラシルのメインストーリーや背景設定に踏み込んだ話が出てきますが、ほぼ本作独自要素であり、今後原作やオバマス等で明かされる設定と食い違う可能性が常にあります。
実際相違が発生した場合は、本作のリアル側ではユグドラシル開発チームの顔触れや性癖が異なっていた、ということにでもしておいてください。
「く、ハハ……! 我が幾万の軍勢を悉く滅した貴様らが相手となった時点で、こうなることは読めていたとも」
「さっきと言ってることが全然違うやんけ。負け惜しみにしても情けなさすぎじゃねえ?」
最後に一体残った
おそらくまだまだ『
すっかり勝った気でそんなことを考えていた俺は、ここから相手が何かできるなどとは思っていなかった。
モンスターとしての
だから対応が遅れた。
魔法でもスキルでもなく、ただ肉体武器の爪を
「愚か者どもめ……解っていないな。
勝とうが負けようが、
してやったり風の狂笑を浮かべ、
同時に赤い池が輝きだし、水底に沈む
おいおいおい。ここまで動かさなかったから最後まで何もないかと思ってたのに、結局そいつ動くのかよ。通常モンスターの全滅がボスの覚醒トリガーになる(おまけに最後の一体が自殺してフラグを強制的に立たせる!)とか、ユグドラシルでもあんまりなかったパターンだ。
輝く池から放射状に光が走り、大神殿の床に、さらには壁面や天井にまで広がっていく。
よく見ればそれらの光はただの線ではなく、細かい文字がびっしりと石材に刻み込まれたものだった。
リーギリウムが、常になく切迫した
「これは……!? ボス、神殿全体が何かの魔法陣の支持構造になってたみたいだ。やられたぜ、魔力が通るまでただの装飾にしか見えないよう隠蔽されてやがった!
ユグドラシルの技術じゃなさそうだけど、たぶん〈
赤い光が描き出す紋様は大神殿の構造物全体に広がり、激しく泡立つ池からは巨大な球状の物体が現れつつある。
ツアーとマハナがわかりやすく戦慄しているそばで、トリシュ先生だけがしげしげと、神殿に刻まれた魔法の構成を読み解いていた。
「察するに……
「仮に本拠地たるここが攻められ、自分たちが滅ぼされるようなことがあっても、
エルスワイズの合いの手に、トリシュが頷く。
「解呪しようとしていたのは、
ツアーの鎧が、がちゃりと反応を示した。
「
人化形態のトリシュは長い睫毛を伏せ、かぶりを振った。
「わからない。少なくとも、〝ぷれいやー〟ではないと思う。
あれらは一体一体が恐ろしく強力なうえに、話も通じず、おまけに何度殺しても蘇ってくる個体が混ざっていた。だからこそ、途中からは封印という形で処理するようになったのだけど……。
それを解呪するために誰かが後付けしたと思しい、この神殿の魔法陣も不思議だ。ユグドラシルの技術でないとすると、あの悪魔が考えたものではないな。しかしこの構築は……どこかで……」
ぶつぶつとトリシュが展開する、眼前の状況への危機感に欠けた考察。いろいろ初出の情報があって正直めっちゃ気になるものの、その話題を膨らませる余裕はもう俺にもなかった。何万というモンスターの死を食らって封印は破られ、目覚めた
それは本物を完璧に写し取ったかのような……特徴的な
「…………
マジで? ここでか? 嘘だろ?
リーギリウムの事前観測で捉えられた奇妙な欠落。その正体について、何かユグドラシル製のレイドボスくらいは出てくるかもしれないと予想していた。それでもこいつは流石に、あまりにも予想外でありすぎた。
「カレルレン? ……あれの正体に、心当たりが?」
興味大有りといった声でトリシュが訊いてくる。うんまあ……心当たりというか……サーチャーズの考察班と一緒にさんざんフレーバーテキストとか漁ったからね。
だからこそ、危機感が際限なく膨らんでいく。
こいつ以外に覚醒してる奴は何体いる? まさか
いや、いや。今は待て。後にしろ。思考をフリーズさせるな。
今できることは何だ? 現有戦力での撃破は……おそらく可能。だが
増援を……たとえば他の統括級NPCとかを……呼べばもっと楽に勝てるか。勝てるだろう。でも根本的な問題はそこではない。
もともとボスユニットというのは、倒されてもプレイヤーユニット同様の蘇生処理なんか挟まず、イベントに連動してリポップするだけである。しかし凝り性のユグドラシル製作チームは、そこにわざわざ設定とスキルの裏付けを与えることで、一部の強力なボスの不死性を表現しようとした。
その結果がこれだ。普通にプレイしていたら見えもしないボスの保有スキルなんか、本来フレーバーテキストと変わりないはずなのだが、この世界ではしっかり効果を発揮するらしい。なにしろうちにも劣化版とはいえ
だからこそ
もしかするとザイトルクワエも、同じタイミングでこの世界に来たから
さて、さて、どうする――浮かぶ手はいろいろある。しかし手当たり次第というわけにはいかない。コストや実現性を鑑みて、最良の対処を選ばなくてはならない。
いっぺんボコって仮死状態にして拠点に運び込み、隔離区画で封印担当を張り付けて殺し続けるか。はたまた、現存する
そこで俺は、ユグドラシルというゲームでは不可能だったことをまた思いついてしまう。
設定上は可能、だったか? でもシナリオ的には
微量の後ろめたさを押し殺し、俺はギルド拠点の一角へ〈
「あ、もしもしケイト? ちょっとさー、いま地下にいるんだけど。なんか
話を聞いたケイトは「すぐ行く!」と答え、だいたい九十秒後に転移でやってきた。
どうも自室で寛いでいたところを大急ぎで飛び出してきたらしく、肩に引っ掛けたシャーマン風のポンチョがズレていたり、頭に乗せたデニムっぽいキャスケットが傾いていたりする。
やろうと思えばリーギリウムはもっと早く彼女を転送できたはずなので、もしかすると寝間着やジャージ姿の状態から慌てて着替えてきたのかもしれない。いきなり休日出勤を頼んですまんのう。
「おまたせ! 状況は?」
「来てくれてさんきゅー。
俺が指で示した先には、地下の神殿内部という環境にそぐわない、ドーム状の濃霧の塊。エルスワイズが魔法で作り出した霧だ。視界を遮ると同時に、術者と敵対する相手に対してのみ働く粘性の空気抵抗が、あらゆる移動と行動を減速させる。
ボスエネミーとしての
まあ地上で復活されるよりは万倍マシだったので、こいつを地下深くに封じた誰かの判断は悪くなかったとは言っておこう。〈崩壊の魔眼〉は本当に視線が届く限り
ユグドラシルじゃ床も壁も破壊不能地形の九曜ダンジョンでしか戦わなかったから、実質ダメージ系フィールドエフェクトの一種ぐらいに考えていられたが……この世界で野放しにするには危険すぎる無差別大量破壊兵器だ。何としてもここで再無力化しておかなければならない。
「もっと結界の重ねを厚くしろ。破られるぞ」
「わかってるのです……!」
「エルスワイズこそもっと離れるのです。危ないのです」
霧の中からは断続的に白い光が瞬き、ガラスの割れるような音が響いてくる。シズク
ここでまともに戦うつもりはないので、シズクたちにはケイトが来るまでの時間稼ぎに徹してもらっていた。下手にHP減らすと別の魔眼がどんどん追加されて面倒、というのもある。
現況を見てもらったところで、俺はケイトに向き直る。
「で……なんとかできそう?」
「いけると思う。今はラーフがいないからね。まあ……やってみるよ」
緑髪の少女が屈託なく微笑む。胸を刺す小さな罪悪感。
「……悪いね。
「そんなこと気にしてたの? やだなあ! やっときみの役に立てて、ボクはうれしいよ」
そう言って、ケイトは霧の中へ歩み入っていき、見えなくなった。
相変わらず俺の知らないところで、謎の好感を持たれているようなのは解せない。何か恩に着られるようなことをしたっけか……?
ケイトがユグドラシルでの
霧の向こうを睨んでいると、後ろからツアーの鎧が近づいてくる。
「カレルレン……さっきの、彼女は何者だ? まるで何の力も感じられない、
約束通り、想定外の危険がPOPしちゃったから先生たちと避難してていいよ、って言っておいたんだけどな。まあ俺たちがしくじったら後のことを対処する羽目になんのはツアーだから、状況の推移を見逃したくなかった気持ちは解らんでもない。
しかし……ケイトが何者か、ねえ。どう説明したらいいんだコレ。
「うーん……あいつの素性について語るには、まず
「何を言っている???」
「いや本当なんだって」
そもそも世界樹とは何だったのか。なぜ滅びに瀕していたのか。その辺の文脈を説明せず、いきなり
「ならば素性は問わない。重要なのは、この状況で彼女に何ができるかということだ」
「あ、それなら明白だね。ケイトはあの丸いやつ……『
がち、と白金の鎧が固まる音。
「…………制御? あれを? 何故そんなことができる……魔物の支配に特化した〝ぷれいやー〟なのか?」
「どっちかといえばNPCだが……そいつも説明の難しいとこでね」
俺がツアーとそんなことを話すうちに、霧の中では
「ありがとう。もう大丈夫だよ。結界も霧も解いていい……
「ほんとです。結界の崩壊が止まったみたいなのです」
「……いいだろう。では、客人に任せるとしよう」
エルスワイズが魔法の霧を消すと、
見上げるケイトが両手を差し伸べ、眼前の惑星に語り掛ける。
「戻っておいで、ボクの心臓。――〈
星がねじれた。
細く、宙を流れる川のような光帯となって、
渦巻く光を呑み尽くすと、ケイトは控えめに息をついた。
「んく。……ふー」
つーか本当に
「おつかれ。大丈夫? 身体の調子とか悪くなってない?」
恐る恐る近づいて状態を確認する俺に、緑髪の少女は普段通り、快活な笑みを返した。
「平気だよ。ちょっと多めのうどんを一杯、食べた後みたいな満腹感はあるけどね」
「うどん???? ……で、
「うん。機能は活かしたまま、ボクの一部として吸収したからね。
でも、代わりにボクが、
不安げに見上げてくるケイト。こいつが何を心配しているかは予想がつく。
自分が
まったく取り越し苦労と言うほかない。自分でラスボスを再生産してしまうなんて、俺がそんな目に見えた失敗パターンを踏むと思うてか。
「お前が
「……! ふふ、そうかい? じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
ぱっと表情を明るくしたケイトに、俺はさらなるご機嫌取りを試みる。
「今回はめちゃくちゃ助かったから、報酬っつーかお礼ってことで、なんか欲しいもんとかあったら可能な限りで用意するけど……リクエストある?」
「ほんと? って言ってもなぁ……この世界に来てからのボクは、美味しいもの食べてゴロゴロしてるだけで、けっこう満足しちゃってるから……」
「堕~落ゥ~」
「うるさーい! きみが甘やかしすぎるのも悪い!」
ケイトの感情表現はいちいち眩しくて、微妙に直視できない俺は自分がもやもやしているのをいいことに、視線を斜めにずらしてしまう。
「いや……いいんじゃねーの? ユグドラシルでずっと……何千年だか何万年だか……クソ真面目に働き続けたわけだし。人に迷惑かけない範囲で、いくらでもぐーたらセカンドライフを満喫してくれよ。
それはそれとして、今回のは俺が個人的に感謝を伝えたいってだけの話だからさ。難しく考えず、物でもサービスでも、気軽に注文したらいいよ」
ケイトは思いのほか真剣に考えだし――かなり本気で悩むそぶりも見せ――それから名案を閃いたというように、ポンと手を叩いて、言った。
「じゃあカレルレン、きみのことをもっと教えてよ」
「俺のことぉ?」
こいつはなんで急にそんなことに興味を示しだしたんだ?
いや、『
「そう。きみのこと、きみたちのこと。この世界でどんなことを、何故しているのか。
ボクはあの日以来……人の子が生まれて、大人になって、また新たな子を成すほどの時間を過ごしてきたのに……きみのことも、この世界のことも、ほとんど何も知らない」
それは俺たちが意図的にケイトの活動範囲や手に入る情報を制限していたからであって、ある意味当然というか狙い通りではあった。ふらっと外の世界に出て行かれて、何かの事件に巻き込まれてフリークアウトしちゃったとか言われたら洒落にならん。
だがその方針をそろそろ改めるべき時期なのかもしれない。少なくとも、この世界で自由意志らしきものを得たケイトの人格は安定しているし、これまで暴走どころか揉め事ひとつさえ起こした様子がないという。信用に値する人畜無害ぶりと言えた。
「まあ……話していいことなら、話すよ。今度どっかで時間取る、ってことでいい?」
「いいとも。待ってるからね」
まるでデートの約束でも取り付けたように上機嫌のケイト。謂れのない好意。
あいにく俺の中にラブコメ的なときめきは無かった。後ろめたさが、胸の中で小さな痛みを疼かせただけ。
ケイト、お前がなんでいつもそう、無防備なまでにやわらかな笑顔を向けてくれるのかは知らんけど――
俺にそんな価値はない。
ないんだよ。
まったく悪気なく地雷を踏み抜かれ、ついでにちょっとしたトラウマのフラッシュバックにも襲われ、俺は柄にもなく自己嫌悪ぐるぐる。
そこへ近づいてくるツアーの鎧。まあ当然だ。こいつの立場上、明らかな異常存在として力を示してしまったケイトを、無視はできない。
「やあ。はじめまして、だね。私の名はツァインドルクス=ヴァイシオン……この世界での、カレルレンたちの活動を
あっ、この野郎。未だに俺に対しては使わない対人やわらかモードで話しかけやがった。何が見守るだテメッコラー! 女子の前でだけ紳士ぶるオッサンかッコラー!
「あ、うん。どうもはじめまして。ボクの名前は、『導く星のケイト』――
ケイトはケイトで、ユグドラシルのチュートリアルクエストで大抵のプレイヤーを困惑させたポップな挨拶をキメている。腰に手を当て、もう片方の手でピースサイン、上体を傾け胸を張る謎のポーズ。俺は未だにこれが何を表現しているのかよく解らない。
「ていうかお前……
「えっ、そうかな!?」
本当にただのチュートリアル用ナビ役キャラがラスボスのサブユニット(いちおうレイドボス規格)を一発退場させたあげく、その能力を吸収するような無法スキル持ってたら、そりゃゲームとして何かが壊れすぎてると思わんのか。……いやごめん、こいつゲームの登場人物側だったな。そういうメタ判断を要求するのは筋違いか。
「うーん……きみが
「うん? いや、まあ……お前がよければ、それでいいけど」
なんでそんな重大決定を俺の判断に委ねるんだよ。と思いつつ、止める権利もないので頷いておく。
ケイトはツアーに向き直り、背筋を伸ばした。
「なら、改めて名乗ろう。カレルレンの
「とも……」
確実に本体が渋い顔をしていそうなツアーの呻き声は、ケイトの雰囲気の変化を察して、途切れる。
ナビゲート役だからケイト・ナヴィ。そんなのは嘘だ。
安直なネーミングというメタ視点の文脈さえも、ユグドラシルという物語の核心に触れる正体を隠すための、ミスリードに過ぎない。
彼女は胸に手を当て、また名乗った。一度目とは別の名を。
「ふたたび、はじめまして――ボクのもう一つの名前は、ケイト・
『
いざというとき、己を殺して世界を救うために生まれた、
……まあ、たった一つの存在意義だった
てへ、と戯画的に舌を出して見せる少女。
俺は思わず口を挟んでしまう。
「失敗してねーよ。最後にはちゃんと、使命を果たしただろ。お前は」
「……ありがと。きみは相変わらず、やさしいねえ。
でも違うよ。成し遂げたのはプレイヤーだ。あれは、
突如として挿入されたプレイヤーとNPCのユグドラトークに、白金の鎧が首を傾げる。この世界の住人には、やっぱりピンと来ない話だろう。
俺はというと、ケイトの自虐ネタのえげつなさにドン引きしている。
こいつの
それは全部ゲームの設定であり、シナリオであり、つまりは
だが、この世界で
その可能性が含意する残酷さに気づいたとき、俺は足元に広がる奈落の深さをいまさら思って、震えた。
自分は
俺たちの事業や、この世界にとっての危険性ゆえにではなく。
「…………フゥー」
敢えて、強いて、必要のない深呼吸。
落ち着け。優先順位をはき違えるな。
懊悩は後にしろ。今は。非人間的になれ。目的遂行のための機械に。
『
「……まーアレだ、ツアーにはよく解らん専門用語もあっただろうが……とりあえず、こいつが悪いやつじゃないってのは俺が保証するよ。なにしろ世界を救うために生まれた、言ってみれば
ケイトはもうユグドラシルで充分働いたから、この世界では基本的に、退職後のスローライフを楽しんでもらいたいと思ってたんだけど……とはいえ
「それは……構わないが」
俺はツアーの鎧をじっと見ていた。
今度こそ、自分が彼女にとってどれほど残酷なことを言っているか、分かっていて俺はべらべらと軽薄な科白を並べ立てた。カレルレンという
ああ――俺にはまったく想像もできない。
すべてを救うために生まれた。救世主たれと望まれて。
その後しばらく大神殿付近を漁ったが、〝八欲王の残穢〟の主要な発生源と思しき『
どうやら大陸北西部地下の群れは、『函』そのものを押さえているわけではなかったらしい。俺は統率個体の
その間ケイトはというと、トリシュやマハナとも顔合わせを済ませ、シズクのもちもち触感について熱く語り合っていた。お前ら共通の話題がそれでいいのか。
「じゃあね、カレルレン。これからはもっと、ボクのことも頼ってくれていいんだよ?」
そうして最後にはそんなことを言って、ケイトはエルスワイズの〈
せっかくの申し出だが、俺はあいつの『計都』としての力が必要になる事態など、もう二度と起きなければいいと思っている。頭では「所詮もとゲームのNPCなんだから適当に煽てて利用すればいいだろ」くらいのことは考えられているのに。ただ、感情がついていかない。
疲労無効のはずなのに、どっと疲れた。久々に現実ってやつを突きつけられた気分だ。
俺の脆弱な精神は結局、サイボーグ忍者クローン兵器を経由して神格レベル持ちの怪物にまで生まれ変わっても、肝心なところは未だ一レベル
いったい何を思い上がってたんだ。当然だろ。
俺は主人公でも、精神の異形種でもないんだから。
覚悟ガンギマリのふりをして、一〇〇レベル狂人の真似でもしなきゃ……やっていけないよな。
[memo]
■
・DMMO-RPG『
・イベントと連動して編制が変わる特殊な群体型レイドボスであり、「最弱にして最強のワールドエネミー」と言われる。これは『九曜の世界喰い』の本体外殻および体内そのものであるラストダンジョン(通称〝九曜ダンジョン〟)を攻略していく中で、〝心臓〟と呼ばれる七体の中ボス(※性能的には通常のレイドボス級)を倒しておくかどうかで討伐難度が激変するため。
・七体すべての〝心臓〟を事前撃破した場合、ダンジョン最深部で戦うコアパーツは九曜の〝脳〟にあたる『
が、道中で撃破しなかった〝心臓〟は最終戦に合流してくるため、一体も倒さず最深部へ直行すると、レイドボス九体を同時に相手取る超高難度の最終決戦に挑むことができる。全ワールドエネミー中でも最強とされる、この〝完全体〟九曜に勝利することは、それを成し遂げたパーティやギルドが運営からも称えられるほどの偉業だった。
・なお〝心臓〟をすべて撃破すれば楽勝かというとそう単純な話でもなく、九曜ダンジョン全体の攻略には突入からのタイムリミットが設けられている。愚直にパーティ全員で〝心臓〟を一体ずつ潰していくと、確実に最終戦の時間が足りなくなるような設計である。
このため全員で安全に少数の〝心臓〟を倒してから最深部へ向かうか、チームを分割してリスクと引き換えに多数を倒しておくか、あるいは消耗を最小限に留めて全員で最終戦へ直行するか……といった討伐戦略を、パーティごとに工夫する余地が生まれる。
・NPCの発言やダンジョンの碑文、キーアイテムのフレーバーテキストなど断片的な情報をつなぎ合わせていくことで、プレイヤーは徐々に九曜の正体が推測できるようになっている。
このようにプレイヤー自身が探求しなければ開示されない設定は、ラスボス関連の他にも膨大な量に上り、こうした謎多きユグドラシルの背景設定群を好んで考察する物好きなプレイヤー層も一定数存在した。その筆頭が、探索ギルド『ワールド・サーチャーズ』の考察班と呼ばれるグループである。