OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
久々にリアル側の話です。
誓って言うが、当初俺は自分のギルドを目立たせるつもりなどなかった。
ユグドラシル時点で環境に大きな影響を与えすぎれば、それが転移後の世界の歴史にも予測不能の影響を与える可能性がある。原作チャートを知っているという情報的アドバンテージはそう簡単に手放していいもんではない。
まあナザリック出現時点より未来に出てしまったら原作知識もあんまり役に立たないかもしれんが、それでも「過去に何があったか」を大まかに把握した状態で現地活動をスタートできるのは有利に違いない。
だから俺はそれなりの拠点レベルがありつつも目立たないダンジョンを根城にして、金やアイテムを溜め込みながら原作を壊さぬようひっそりとサービス終了までやっていく、という無難な方針を考えていた。
その方針が早々に破綻したのは、ぶっちゃけると俺がギルメンを制御し切れなかったせいである。
つーかあいつらを制御とかマジで無理。一軍メンバーじゃない奴ですら散歩みたいな気軽さでダンジョン落としてくるし、なんか異様にデータ量の多い武器を拾ってきたと思ったらPKを返り討ちにした勢いで奪った他所のギルド武器だったりするし。ワールドアイテム発見の連絡から三十分もしないうちに「PK強盗に持ってかれた~」とギャン泣きしながら帰ってきた奴がいれば、それを聞いた他のギルメンが「カチコミじゃー!」とまた三十分もせず復讐戦を仕掛けに行く始末。
俺以外の元少年兵組はまだ子供なので仕方ない面もあったが、ストッパー役に回ってほしかったサラがゲームになると意外なほどはっちゃける性質で、面白そうなものを見つけると率先して飛び込んで行ってしまうのは勘弁してほしかった。何の準備もない状態でわけわからん高難度隠しクエストを掘り当ててパーティメンバーみんな脱出できず全滅したり、異形種狩りの現場に乱入して突然PKK祭りをおっ始めたり、ネタビルドで公式PVP大会に乗り込んで優勝を掻っ攫ってきたり。エトセトラエトセトラ。責任ある立場の成人女性にしては落ち着きがなさすぎる。ストレス溜まってたんだろうか。
結果的にクソ目立つギルド拠点となった『
この時点で彼女には俺の基本方針も伝えてあったはずなのだが……どうして……(猫並感)
とはいえサラが俺への悪意から事前通達をガン無視したわけはない。後にして思えば、これは俺の消極的計画がいろいろと手ぬるいのを察して、異世界転移に向けた準備をより効率的に進められるよう上方修正してくれたのだろう。
俺も途中からは潜伏路線に見切りをつけ、多少目立ってもいいから多くの情報と力を集める、という拡大路線へのシフトを承認している。どうせ何やっても目立つ連中の集まりなのだから、諦めてバックアップに回った方が建設的だ。開き直ったともいう。
実際リスクを恐れずガンガン探索や戦闘をこなすようになったことで、うちのギルドは戦力も財力も飛躍的に高まっていったと言える。
アイテム開発やNPC設計のノウハウ、膨大な戦技・戦術データ、果ては全ギルド中第二位の保有数となったワールドアイテムなどなど。いずれも未知に挑む積極性なくしては手に入らなかったものだ。
そうして強力なエンジンとなりギルドの躍進を主導する一方、サラは持ち前のコミュ
探索・検証メインのクラン『
代表的なところでは探索勢筆頭の『ワールド・サーチャーズ』と提携して護衛や留守番など傭兵みたいなことをやったり、最強ギルドの呼び声高かった『セラフィム』とパワープレイヤー的な戦技研究の成果を取引したり。どっちも相手のギルマスに渡りをつけたのはサラだ。あとから『
仕方ない。そりゃ誰が見てもサラの方がリーダーシップに溢れてるもの。俺がギルドマスターをやることになったのは、サラが多忙かつ異世界へ
原作でおなじみ『アインズ・ウール・ゴウン』とはどういう関係だったかというと……後の世で『Perfect†Human公開暗殺事件』と呼ばれたDQNプレイヤー追放作戦をきっかけに、サラが向こうの女性メンバーと上手く打ち解けて、そこから連絡を取り合いつつ異形種狩りへの共同戦線を張るくらいには良好な関係を築いていた。
うちのギルメンは俺が多様なビルドを試してみるよう頼んだこともあり、異形種アバターを使っている奴がわりと多い。異形種狩りは対岸の火事ではなかったのだ。
実はこのとき、異形種ギルド繋がりで『セラフィム』も巻き込んだ
連合不成立を一番残念がっていたのはたっち・みーだが、たぶんこれは『セラフィム』のエースである
異形種狩りのブームはそのうち下火になったが、
サラ以外の仲間たちも
……もっとも、転移後を見越してモモンガと仲良くなっておこうという作戦は、ちょっと俺がウザ絡みしすぎたせいで失敗している気がしなくもない。
むしろ基本的に温厚なあいつが、俺に対してだけ「るし★ふぁー2号」とかいう最低の綽名で呼んでくるあたり、ひょっとして俺個人は相当嫌われていたんじゃなかろうか? いくらなんでもアレの2号扱いは流石に人の心がない。
あの温度感からして、異世界で精神的にもアンデッド化したモモンガが、俺をAOGギルドメンバーに準ずる〝友人〟として扱ってくれる可能性は……残念ながらあんまり高くはない、と見ておくべきだろう。
まあ、ナザリックの連中と仲良くやっていくのは俺にとって
思えばそのへんの大物ギルドと積極的に交流していた時期が、ユグドラシルにとっても『
永遠に栄え続けるゲームはない。人類史が末期戦に突入したような時代にあっても、技術は年々更新され、ゲームもまた進歩していた。ローンチ当初は革新的な特許技術で他社に十年の差を付けたと称されたユグドラシルも、そこ以外の部分で競合コンテンツに負ければ勢威に陰りが出てくる。
より優れたハード。そのハードに対応した次世代のソフト。よりユーザーフレンドリーで、快楽中枢を巧みに刺激するゲームデザイン。尖った作りにしすぎて治安が最悪だったユグドラシルは、そうした新興勢力に次々と顧客をかすめ取られ、緩やかに過疎化が始まっていた。
まずライト層から潮が引くようにログインしなくなり、続いてガチ勢も少しずつ引退していく。それでも残ったのは、別ゲーへの移行を面倒臭がり惰性でログインし続けるものぐさな連中と、ユグドラ動物園の殺伐とした空気に慣れ切ってしまって平和な世界には戻れない中毒者ぐらい。前者はともかく、後者のような濃縮された戦闘民族の割合が高くなるほど、エンジョイ勢や新規参入者はお断りの空気が出来上がってしまう。
公式は課金コンテンツを拡充したり、世界間をますます混沌とさせるような大型アップデートを打ったり、他社コラボのイベントを積極的に開催したりして、なんとかユーザー数の減少に歯止めを掛けようとした。だが結局はプレイヤー人口を回復へ向かわせるには至らず、減少傾向は緩やかになりつつもサービス終了まで続いていくことになる。
むろん俺たちは〝最後の日〟まで
ギルド『
ずっとそれを、続けられると思っていた。十二年目のその日まで。
だが悲しいかな、人は意志だけでゲームを遊び続けることはできない。現実世界にある肉体がそれを許さなければ、人の精神は仮想の世界に逃れることさえできないのだ。
最初の異変は、ギルドメンバー中サラを除けば最年長の一人だった少年――プレイヤーネーム『
「うわ、おい、なんだ。どうなってる?
クエスト中に突然アバターがラグって消失し、それ以降チャットにも電話にも応答がなくなったヴェルヌを心配して、俺と数人のパーティメンバーは一旦ゲームを中断。サラの下で働く同僚として、同じ箱の中で官舎暮らしをしているヴェルヌの様子を見に行くことにした。
インターホンを鳴らしても、扉を叩いても応答なし。サラに連絡して上長権限でバイタルサインを確認してもらうと、なにやら意識がないという。
ぶっ続けでユグドラシルをやりすぎて、寝落ちしただけならいい。でもそうじゃなかったら?
駆けつけたサラがマスターキーで部屋の扉を開け、踏み込んだ居室で俺たちが見たものは、
白目を剥いて気絶し、痙攣している。明らかにまともな状態ではない。
すぐに救急車を呼び、病院へ搬送してもらった。
幸いそのときはヴェルヌもすぐに意識を取り戻し、二日後には退院してきた。意識を失った直接の原因は貧血だったようだが、根本原因の大量出血についてはよく分からないままだという。
それで終わりの一時的な体調不良なら、どんなによかったか。
だがもちろんそんな甘い話はなくて、悪い予感を否定しようと信じてもいない神に祈り続けた俺の努力はまったく無駄だったことが判明する。
病院までヴェルヌに付き添ったサラが、後日俺たちに重苦しい顔で報告してくれたのは、俺と元少年兵の仲間たち全員の運命を変えてしまう話だった。
「話すべきか、迷ったが……きみたちは幼く見えても、自己決定権を備えた一人の人間だ。そう信じて、打ち明けることに決めた。
落ち着いて聞いてほしい。何があっても、私はきみたちの味方だ。
クローン兵器『MTCN-ロータス・シリーズ』の一、十、二十番台ロット製造個体は、
俺と何人かの仲間は、もうここまでの内容を理解した時点で先が読めてしまって、小さな両手で顔を覆っていた。
――神様。信じちゃいないが、そんなのってあるかい。
要するにこれは、
「耐用年数と言ったが、もちろん十五年が経過した瞬間にバッタリ死ぬわけじゃない。しかしこの時期を過ぎると、強化された再生能力は急速に衰え、代わって細胞分裂時RNA転写エラーの確率が指数関数的に増大していく。
免疫機能の低下やタンパク質異常など、様々な悪影響が予測されるけれど……最も致命的なのは、
先にこの話を聞かされていたらしいヴェルヌが、ひび割れた笑顔で告げる。
「おれ、今年で十五歳になったばっかだ。……いきなりガタが来ちまったなあ」
このあたりで察しが悪い方の仲間たちも完全に文脈を理解したらしく、みんながワッとヴェルヌのもとへ押しかけて抱き着いたり引っ張ったり揉みくちゃにし始めた。参加しなかったのは沈痛な顔のサラと、俺だけだ。
俺は無意識に
ユグドラシルのサービス終了までは、まだ四年以上ある。ヴェルヌがこの期間を生き延びるのは……
他のメンバーはあと何年残ってる? 俺自身はどうだ? 十五歳になるまでは発症しないのか? たとえば鎮静剤で眠らせておくとか、なんかコールドスリープみたいな方法で寿命を延ばせたりはしないか?
数年でいいんだ。それだけ命を繋いでくれれば〝向こう〟へ行ける。身体は別物になるが、意識だけでも……そもそも転移なんて本当に起きるのか、厳密な条件も分かっていないとしても……行けると信じる。
でなきゃ、こいつらは。……俺は。何のために。
「……この事実をもって、私は今日限り、きみたちの任を解く。余命数年の病人だと解っている子供を、部下として働かせ続ける気にはなれないのでね。
きみたちが一緒に入れる病院は手配した。信頼できる医者が営む、ターミナルケアも充実した施設だ。
そこで、共に…………
子供たちを集めた部屋から、足早に出ていくサラ。
咄嗟にその後を追った俺は、あっという間に彼女の姿を見失い……あちこち探して歩き回った末、建物の隅の誰も使わなさそうな女子トイレから洩れてくる、押し殺した慟哭を聴く。
「
誰でもいい……誰でもいいんだッ……!」
何か、言ってやるべきだったのかもしれない。
でも俺はこんなとき、心から悲しみに打ちひしがれる人を慰める言葉なんて知らなくて。
何も聞かなかったことにして、何も言わず、逃げるように立ち去ることしかできなかった。
ユグドラシルと、『
そして、祈りながら亡くし、喪いながら走った日々が。
長い夜が、始まる。
[memo]
■
・『
・ギルドメンバーの中では比較的年長(=〝製造〟されてからの年数が長い)。また、負傷の多い役割ゆえに細胞活性による治癒加速が頻繁に稼働しており、このことが残りの寿命をさらに短くしていた。
・プレイヤーとしては、変身能力と装備切り替えを駆使することで疑似的なビルドのスイッチングを実現しており、
また、短時間限定の切り札として、これら三役の能力を統合した決戦形態に変身することができた。各種ボーナスを通常あり得ない形で累積させることができるため、瞬間火力では極振り脳筋ビルドの純アタッカーをも圧倒する。
・基本的にメンタル面の幼いメンバーが多い『