雪は自身が純白である理由を忘れてしまった   作:らびっとちゃんす

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半年ぶり。お気に入りと評価ありがとうございます。


episode1「雨が降ったら雨が浴びるのを楽しめ」

 雨が降ったら雨を浴びて楽しめと言ったのは誰だったろうか。

 農業的にはありがたいものなのかもしれないが、日常生活においては雨に降られればあまりいい気分になれない。

 

 バイクで目的地に向かっていた俺は見事なまでに雨に降られ、バイクヘルメットの視界を邪魔されながらも流れていく景色を見る。

 近代的なデザインのせいで現代だと勘違いするが、ここはれっきとした異世界だ。

 

 異世界転生。本来生活している世界とは別の世界で、失敗した人間が人生をやり直したりその世界にない力や技術で有利に進めていく物語。

 ただ、残念なことに以前の世界にあってこちらの世界にないものはほとんどない。

 むしろ、学園都市といったこの世界の当たり前が以前の世界には存在しないから有利に立ち回れることはない。

 

「軍隊生活には辟易してたからいいけどな」

 

 毎日朝早くに寝て、交代で見張り。装備品はゲームなどで想定されるような多種多様さはなく、共通化された兵装と装備品で固められる。

 そこには死んだ人間すらも有効活用しようとする戦争の涙ぐましい努力はあるが、流れるのは涙ではなく血。

 

 連邦捜査機関、シャーレにおいてはこの共通化概念は存在しない。一人ひとりが別の装備だし、弾薬すらも共通化されていないから倒れた人間から装備を剥ぎ取ることもない。

 装備支給の際に共通装備から選ぶと答えたのにそんなものは存在しないと言われたときは驚いた。

 その理由はひとえに彼女らキヴォトスの人間が()()()()()()()()()()だ。

 

 以前の世界では生身でハンドガンの9mm弾丸でも一発当たれば即終了。

 西側規格の5.56mmなど食らおうものなら場合によってアーマーすらも貫通し、スナイパーライフルであれば肉体越しに向こう側の景色が見られる疑似的な望遠鏡の完成。

 穴が小さすぎて見れないとか、望遠鏡内部の景色が気になって正気じゃいられないとかそういった問題はあるが些細なものだ。

 

「そこのバイク止まりやがれぃ!」

 

 コミカルな──まるでアニメの中で聞こえるような妙にくぐもった声。

 ああまたかと嘆息するのを堪えきれずに吐き出す。

 

「ここらはあたいらヘルメット団のナワバリだ!」

 

 ああ、これはあれか。半グレとかそういうのが集まって組織されたチームがヤンチャしてるパターンか。

 ゲヘナ郊外とはいえ、割と近場なのによくやるものだ。

 

 眉をよせて停車してから周囲を観察してみると、いつの間にか妙な集団に囲まれていた。

 全員もれなくヘルメットを被っており、スカジャンなりのアウターを身にまとい、各々が違う意匠を凝らしてこちらの睨みつけている。

 ヘルメット越しだから視線に関してはほとんど分からんが、明確にこちらを害そうとする意志だけは強く感じる。

 

 そんな集団が、こちらを取り囲って銃を向けながら近付いてくる状況に思わず両手を挙げてお手上げの体勢を取る。

 屋内戦に持ち込めればどうにでも出来るが、開けた場所で一切の遮蔽物(しゃへいぶつ)もないここではどう足掻いても逆転の可能性に乏しい。

 

 それに加えて彼女らは銃で撃つことが拳を放つよりハードルが低いとんでも世紀末な考えに支配されており、銃なんて撃たれようものならバッドエンド待ったなしなこちらとしては出来ることはない。

 

 シャーレ支給の防弾ジャケットは貫通こそしないものの、衝撃を殺すわけではない。

 前面はジャケットのボタンを開いているから防御面に関してはないようなものだ。

 

「あ~……Uターンするから穏便に話し合わないか?」

「ダメだね!」

「そうかい……」

 

 面倒くせぇなぁ、と溜息を吐く。

 死ぬかもしれない恐怖が背筋を撫でるが、口もとだけ笑ってやる。

 

「おいあいつ……シャーレの先生の部下じゃねぇか?」

「ん……? おいマジじゃねぇか! こりゃあいい交換材料が出来た!」

 

 ──良くない流れだ。

 このままでは人質として使われる可能性があるとしたら先生に迷惑がかかる。

 彼女は人のためならば自分のことを捨ててしまえる人物だし、出来ることなら致命的な迷惑をかけたくない。

 

 思考を巡らせているうちに、ヘルメット団が包囲するように近付いてくる。

 キヴォトスに生きているだけでこうして面倒が近付いてくるのはそういう星の下に生まれたからだろうか。

 戦場だったら死んでいるような時間考えても結論が出ない事実に全身に悪寒が走り、冷や汗が滲み込む。

 

「────?」

 

 その時だった。私は以前の世界ならありえない状況に、さらにありえないものを見た。

 路面に隣接している建物の屋上のふちに、女の子立っている。

 なにをするのかと自分の状況すらも忘れて見入っていると──なにを考えていたのか屋上から飛び降りた。

 

「女の子……?」

 

 なびく長髪に太陽をひっさげて落ちてくる女の子は傍から見れば自殺志願者だが、踊るように空中を滑る姿からは絶対的な自信以外のものを感じない。

 そのままレッグホルスターに収めていた拳銃を正面に持ってきて射撃体勢を取って数発射撃する。

 

 通常拳銃の交戦距離は10mない程度とされている。今の彼女と彼我の距離はおおよそ20mあり、前提としておかれていたものを無視するような距離感。

 しかも、彼女はあろうことか空という射撃どころか姿勢を保つことすらも難しいような状況。

 

 これだけ不利な条件ばかりにも関わらず、彼女の弾丸は魔法のようにヘルメット団に吸い込まれていく。

 

「ひぁぁぁぁ!?」

 

 割れたバイザーから漏れる声がまるで悲鳴のように一帯に響く。

 彼女らヘルメット団にとってヘルメットは命らしく、倒れて動かなくなる。

 

 肝心の助けてくれた少女はビルから飛び降りたにも関わらず上手く受け身を取って無傷で近付いてくる。

 

「スカウトさん、あぶないよ?」

「危ないのは君だよ……」

 

 普通に考えたらビルから飛び降りる人間なんておおよそ自殺する人間だというのに正体が知れた瞬間に出来ないはずはないと安心出来てしまった。

 大人としては子供の心配をした方がいいのだろうし叱った方がいいのかもしれないが、この場においては肉体強度の違いという不条理に対するイヤミになるだろう。

 

「助かった。だが……」

 

 射撃姿勢に入ったバイザーの割れていない団員を見つけすぐに行動する。

 

 ショルダーホルスターから愛用のコルトガバメントを引き抜いた。

 そのまま片腕で彼女を背面に回しながら上体を大きく横に逸らしてやり過ごして、銃を前に構え──六発撃ちこむ。

 

 放った弾丸はヘルメット、心臓、両腕両足にそれぞれ着弾してそのあたりの少女の仲間入りしたのを確認してショルダーホルスターに収める。

 

 真っ当な人間ならば死んでいる箇所ばかりだというのに気絶で済んでいるのはどういうことなんだろうと溜息を吐く。

 

 こちらは一発で死ぬってのに耐久度が違いすぎる。そりゃあ拳が出るよりも先に銃を抜くような価値観が根付くのも当然の帰結だろう。

 

 そんなことを考えながら腕の中に収まっている少女に視線を合わせる。

 

 月を思わせる銀髪に束ねた髪の暗い黒。力強さすらも感じる眼光が見える赤い瞳は魔性の魅力があり、まるで陶器のような美しい肌が彼女を可愛いではなく、美しい大人の魅力を感じさせる。

 

 鬼方カヨコ。それが彼女の名前であり、便利屋68においての私と彼女らの窓口役でもある。

 

「周囲確認は怠らないようにしろ」

「……スカウトさん、そういうところ直した方がいいと思うよ」

「そういうところ」

 

 はて、と首を傾げる。他力本願で事態が瓦解するのを祈っていたことだろうか。そんなこと、撃たれれば死ぬ一般人なのだから仕方がないのではないだろうか。アクション映画に出てくるスーパーヒーローではないのだから限度はある。

 

 今に始まったことでもなし、わざわざ注意されるようなことでもないだろう。

 

「まさか、分からないの?」

「あぁ、まったく」

 

 そんな様子の私を見てため息を吐いて視線を逸らされてしまう。

 

「スカウトさん、そのうち襲われるかもね」

「もう襲われたあとなんだが、これ以上襲われるのか?」

 

 それは勘弁願いたいものだ。身体に穴が開けられるのは戦場で懲りてる。

 

「言って分かるなら苦労しないか……」

「そういうのは襲ってくる方に言ってくれないか」

 

 好きで襲われているわけではなく、向こうが勝手に目を付けて襲ってくるのだ。

 どこぞの生徒全肯定お姉さんのように危害を加えられても許しているわけでもなし、襲われる理由に見当がつかない。

 

「「はぁ……」」

 

 二人してため息を吐く。

 微妙にため息の種類が違ったような気がするが些細なことだろう。

 

 雨が降りすぎればただ困難な道だというのに、どうして雨は降るのか。

 星が降れば天変地異が起こったとなるのに雨が降ってもいつもの事かと思えるのが不思議な話だ。

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