雪は自身が純白である理由を忘れてしまった   作:らびっとちゃんす

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episode2「女子高生は爆発物で出来ている」

「またやったな……」

 

 結局銃を抜いてしまった銃撃戦のあと、少しばかりの自己嫌悪とともに便利屋68の事務所に向かっていた。

 

 軍人は勤続年数に応じて階級が上がっていくほか、一定の武勲に応じても上がっていくことは民間と変わらない。

 その上で一定数、前線に立ち続けるおかしな人間が存在する。

 傷モノであったり、前線に立っていないと死んでしまうような人間であったりと様々だが、ワケアリ物件であることには変わりない。

 

 私の場合は盤面掌握能力に問題があるせいで前線に立ち続けることになった。

 盤上遊戯ならいいが、上官として戦場を操ろうとしたときに多い犠牲でなければ許容して実行に移す傾向にあるのは指揮官としては有能だろうが、外から見た際にいい気分ではないだろう。

 

 

 二人目の先生として戦場を掌握することが出来ないのはそれが原因で、請われたとしても消極的になってしまうのもこのことが関係している。

 先生と呼ばれる彼女は人命ばかりでなく、その心すらも救おうとするほどのお人好し。

 害意を持っている人間ですら生徒であれば救おうとするのはいかがなものかと苦言を呈したいところだが、今のところ針の糸を通すような所業であろうとも通っている以上なにを言えることがない。

 

 あるいは、期待しているのかもしれない。

自分の持たないモノ(理解できない他人)を通して、自分の新しい姿を理解(己の理解を得ることが)できるかもしれないと。

 

 なんだかキヴォトスでは人のことばかりで頭を抱えているなとそっと溜息を吐く。

 そんな私の様子に、カヨコが目敏く気が付いた。

 

「どうしたの?」

「ああ、いや……君たちが問題児なのを思い出していただけだ」

 

 便利屋68は、その名の通り便利屋だ。

 依頼をこなし、日銭を稼ぐその様は生粋のアウトローに思えるが、実情としては四人分の食事も満足に確保できない部活となる。

 

 ここまでくると零細企業もビックリだが、驚くべきは別に儲けが一切出せないわけではないこと。

 単純に依頼内容の純粋とリスクリターンの換算が上手く出来ずに結果的に失敗する、ないしコストが上回ることが多い。

 これはリーダーがみんなを引っ張って発言を勘違いしたメンバーがやらかすというギャグ漫画もびっくりのすれ違いを起こすからこうなっているらしい。

 

「ああ……あれは社長が調子に乗るせいだから私にはどうもできないかな」

「努力してくれねぇ……?」

 

 とりあえず爆発でどうにかしようとするのはやめてくれないだろうか。

 何度シャーレにクレームが飛んできたか分からないせいで対処に慣れてしまった自分が怖い。

 

 彼女らは一応ゲヘナ所属になっているが、授業や活動には一切参加していない。

 それだけに留まらず、学内の風紀委員会から目をつけられた挙句に銀行口座を閉鎖されてしまったらしい。

 学園が銀行に影響を及ばせる力に驚けばいいのか、目をつけられるような行動をしている彼女たちに呆れればいいのか分からないが、そういうことらしい。

 

 頭の中で概要を整理しながらもバイクを走らせること数分。

 愛車のフルカウルからは今日も軽快なリズムが鳴り止まず、憂鬱な心とは裏腹に空気を切り裂いていく。

 

 これが一人ならば心も安らぐが、今日は後ろに人が乗っているから落ち着きとは無縁。

 それどころか学生とはいえ女性を後ろに乗せていてなにも感じないほど枯れていないせいで微妙な居心地の悪さがある。

 ミラーで後ろを見れば風に合わせて長い髪が舞うようにたなびいているのが見える。

 

 残念ながらその顔はフルフェイスヘルメットのスモークグラスのせいで見えないが、居心地が悪くなければいい。

 

 自分という存在が有機交流電燈だとすればみんなと一緒に忙しく明滅しながらも灯り続けると詠った詩があるが、まさにその通りで相手は自分の合わせ鏡。

 なにせ居心地が悪いと態度に出ると相手にも伝わる。

 

「ねぇスカウトさん」

「なんだ」

 

 先程ヘルメット団の襲撃から助けてくれた女の子がバイクの速度に振り落とされないよう、背中に抱きついている。

 

「このヘルメット、スカウトさんのにおいする」

「……我慢しろ」

「ん、我慢するよ」

 

 なんの抗議か身構えて損をした。

 いくら普段車載しているだけのヘルメットとはいえ私物なんだからにおいがしない方がおかしいが、これ遠回しに親父臭いと言われているのかもしれないと思い至る。

 

 だからといって、別のものがあるわけでもないし安全性を捨ててまでヘルメットなしで走行するわけにもいかないのだから我慢してもらうほかないのだ。

 

 我慢、という言葉とは裏腹に特に気にした様子もないカヨコに首を傾げていると、目的地周辺に到着する。

 

 雑多なビル街の割には治安が悪い区域に存在する便利屋68の事務所は奇跡的にも襲撃を受けていないようで外観を見る限りは修繕痕もなさそうに思える。

 ただ、キヴォトスにおいては逆に地雷である。

 

「随分綺麗なんだな……」

「社長が言うには、アウトローっぽいらしいよ」

「それアウトローよりはマフィアとかじゃないか……?」

 

 見える地雷を踏みぬく豪胆さに一瞬感心しそうになるも、彼女の()()の性格を鑑みるにあとから面倒が起こるのだろうとあたりを付けてどうか自分の居ないときに爆発してほしいと内心で祈っておく。

 

「そういえば、どんな用事で来たの?」

「……爆弾処理」

「ああ……その、ごめんね。スカウトさん」

 

 シャーレは爆弾処理をさせられすぎだ。

 先生がしっかりと休める環境くらいは年上として作ってやりたい。

 仮に上司であっても年齢以上のことなど出来ないんだからな。

 

 

 

「スカウトさん仕事を回してちょうだい」

「自分で営業くらいかけろ」

 

 ようやく辿り着いた便利屋68の事務所でお茶請けをいただいているとき──ため息が出そうなくらいの清々しさで助けを求めてくる哀れな子羊がいた。

 あるものは額に手を当てて困惑し、あるものは面白そうだと事態を眺め、あるものは命乞いをするようにぺこぺこと頭を下げている。

 

 そんな様子に座っていたソファから微動だにすることなく一蹴する。

 

 遮光シャードの近くで社長椅子に座ってふんぞり返っていた女がひっくり返っているのを視界の端で確認して茶をすする。

 

「なんでよーっ!」

 

 ギャグ漫画のように盛大な声を出す彼女の名前は陸八魔アル。便利屋68のリーダーであり、カヨコの話に出ていた社長である。

 特徴的なピンクとも赤とも言えない絶妙な色合いの髪は育ちの良さを伺わせ、視線の鋭さはアウトローと言って差し支えない、とここまでは勘違いを交えた話。

 

 実際のところは彼女は一般家庭の出だし、視線の鋭さも元々付けていたメガネをイメージチェンジで外してから見えにくくなったからというしょうもないオチだ。

 

 ただし、彼女についていきたくなるカリスマ性は嘘ではなくなかなか苦しい生活を時折させられているわりには従業員3名は彼女から離れようとはしないのは驚かされる。

 

 学生時代の友人が一生の宝になることはあるかもしれないが、同じグループが長く続くことは学生でも大人でも難しいことだろう。

 

 ようやく絞り出したかと思えばそんな言葉を吐かれて苦笑する。

 救援を要請した内容書を懐から取り出してカヨコに渡す。

 

「社長……これはないと思うよ……」

 

 絶句。ただただ絶句だった。

 アウトローさを微塵も感じさせない筆遣いはまるで天賦の才を与えられたかと見紛うほどに達筆──というほどではないが、美しい字で関心するほどだ。

 

 内容を要約すると、『お仕事くださいおねがいします』であることを除けば。

 

「くふふ……今月の事務所の家賃、払えないかもしれないもんねぇ」

「ううっ……それは……どうにかするわよ!」

「どうにか出来ないからこうして連絡してきてるんじゃないのか……?」

 

 銀色のサイドテールを揺らして楽しそうに笑っている浅黄ムツキは陸八魔アルの一番の理解者だ。

 彼女が虚勢をはって見栄を張りたいことを誰よりも理解しているのに配慮は微塵もせず、むしろ理解した上で煽って起きる一連の騒動を楽しんでいる小悪魔っ子だ。

 共学に通えばたちまちファンクラブと勘違い男たちが集う魅力的な女の子だが、一度火を付けると手を付けられない面倒さがあることはあまり気が付かれない。

 

「わっ、わたしっ。今からっ、臓器を……」

「それはマジでやめろ」

 

 身体を小動物のように縮こまらせてテンパったような裏声を出すのは伊草ハルカ。

 いかにも自信のなさそうな表情は愛玩動物やメンヘラ女を想起させるが、困ったことに彼女が一番の大地雷であり、彼女らが依頼を受けているはずなのに資金がなくなる主原因である。

 

 極端な思考の持ち主であり、内気で自尊心が異様なほどに低く卑屈でさらには思い込みが激しい。

 ただ、これらは自分を認めてくれた人に対して尽くしたいという健気なこころからであり悪意があるわけではないのでタチが悪い。

 

 毎回なにかしら吹き飛ばすのだけは本当にやめてほしい。

 

「どう説明したものかねぇ……」

 

 タバコを吸いたくなるような面倒な状況にジャケットの内に手を伸ばし──学生の、それも女の子の前だったことを思い出して後ろ髪を撫でる。

 

 女子高生は爆弾だが、彼女らは本当に爆弾を出してくるのだからままならないものだとため息を吐いた。

 

 

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