噓企画2024(フォーゼ反転物)   作:大島海峡

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2.

「ブワッカじゃないのアンタ!?」

 僕の前で、所謂オネエと呼ばれる類の人間が吼えている。

 

 もっとも僕が怒られているわけじゃなく、当の叱られている零星天火はどこ吹く風と言わんばかりに、用途不明の機械の排熱を利用して靴下を干している。

 

 今、僕らがいるのは、バンの中。

 見た目こそ、そこそこ大型の自家用車のようだけど、中には違法性のありそうな機材が搭載されて、むしろ人よりもそれらの占めるスペースの割合が大きい。

 状況判断もまともにつかないまま、校外の路上に停めてあったそこに、半ば強引に連れてこられた。

 

「何をどうしたら初日から目ぇつけられるワケ!? ゾディアーツスイッチは壊す! 虎の子のエクステンドライバーは使う!! ほんとアンタはトラブルを巻き起こす天才ね! こないだの燦都(さんと)も、なんかダブルもどきに自分から絡みに行くし、こんな変なのは連れ帰ってくるし!」

「ハハッ、ミチルちゃんの声、狭いからめっちゃ響く。ウケるー」

 

 物凄く適当な感じでいなされて、キーッと更なる奇声をあげて歯噛みする。

 ……こんな連中に変なヤツ呼ばわりは、心外極まる。

 

「……嫌な目」

 僕の視線に気がついた『ミチルちゃん』が、鼻白んだ。

 端正な顔立ちの、見た目は若い男。白い詰め襟の制服は諍う彼女と同じだけど、色々と洒落っ気というか無駄な装飾が多い。

「まるで親の仇かなんかみたいに、悪様に見てくれるじゃない? お嬢ちゃん」

「似たようなもんだろ、犯罪者」

 

 財団X。

 いわゆる死の商人、と先輩方からは聞いている。

 死人の兵士。地球の記憶を引き出して人を異能の怪物に換える魔性の小箱。そして天高ではアストロスイッチ……奴らの力添えで生み出された悪魔の技術は数知れない。

 

「いったいこの学園で何を企んでいる」

 とうめくように僕が言えば、まるでこちらの理解の浅さを嘲るように、挑発的な表情を浮かべた。

 

「なに? 『悪の組織』らしく世界征服でも企んでるって?」

「違うのか?」

「んなことしたって、何の得にもなりゃしないわよ」

 

 思いがけない答えだった。いや、僕にしたって又聞きで漠然としたイメージでモノを言っていたことは確かだけど。

 

「でも、世界を破滅させかけただろ。それも、一度は二度じゃない。その度に、仮面ライダーたちがお前たちの野望を打ち砕いてきたはずだ!」

「そりゃ一部の頭おかしい身内が組織裏切ってやってること。私らの思惑とは関係ないよ。我々至って優良な企業ですことよ」

 天火が足をぶらつかせながら、口を挟んできた。それを無視して、ミチルは言った。

「アンタらに倒されたカンナギ先生だって、地球上のエネルギーの枯渇を憂える気持ち自体は本物だった」

 そう嘆息したミチルは、さらに言う。

「でも仮面ライダーだって、正直敵視してないわよ。アンタらみたいなのが一方的に突っかかってくるだけでね、その気になりゃライダーなんて搦手からどうとでも潰せる。やらないのは、金と時間の浪費だから」

 それが事実かどうかはともかくとして、入学初日から僕の経歴を天火は知っていた。情報収集能力は確かなものなんだろう。

 

「じゃあ、何してるっていうんだ? ここで」

「『ユーナイト』」

「は?」

「さっきみたいな怪物のコト。つい一年前から、この界隈でそんな名前で呼ばれる怪物たちによる騒ぎが起こっててね。で、その出処と力の由来を最近ようやく知り得たわけだけど」

 

 思いがけずそんなことを切り出した天火は、僕の握りしめるそれを指で示した。

 気づけば、握り込んでいた。

 ドリルスイッチ――に近似した、何者か。すでに力を失っているのか、ナンバーが刻まれた表面に大きく亀裂が入っている。

 

「それ。ユーナイトが変身に使うものは、君らの大将が使っていたスイッチに酷似してる。つまり、あの仮面ライダーフォーゼのものに」

 その名を聞いた時、僕は身を硬くした。

 

 遠く銀河の果ての存在『プレゼンター』との、友好的交信を目指す宇宙仮面ライダー部、その前身となる部の中心人物が、仮面ライダーフォーゼこと如月(きさらぎ)弦太郎(げんたろう)先生だった。

 もっとも、僕が部に入ってきた時には、もうとっくに卒業して、そのフォーゼのシステムも廃棄されてしまっていたけど、顧問として関わり続けてくれた。

 

「逆に聞きたいんだけど……君こそ何にも知らないの?」

 目を眇めて問いただしてくる天火に、首を振った。

「残存するスイッチは歌星先輩によって厳重に管理されているはずだ……そもそも、僕にはもう関係ないし」

 

 素直に答えた。けどその奥にある何かを見透かされそうで、僕は彼女から目を背ける。

 フゥン、と天火は相槌を打つ。それ以上の追及は無かった。

 

「それを作っているモノは、多分アタシらが十年前に取り逃したモノと、同類。だからその縁で調査と確保に行けって、お達しなワケよ」

「……だから、僕を助けたのか。近づいたのか。情報を知ってるかもしれないから。それとも体良く利用するためか?」

 

 自身を庇って負った、天火の傷。今は白い袖の中に隠されているけど、その部分を見て僕は尋ねた。

 返ってきたのは、皮肉げに鼻を鳴らす音だった。

 

「アンタのことは、そこのバカが勝手に連れてきただけでしょ」

 ……思い返せば、そもそも天火の手を引いて関わったのは僕からだった。今となってはその行動を猛烈に後悔しているけれど。

 

「ヒドイなぁ。私は、つくしちゃんを助けたいから助けたってのに」

 そうあどけなく口を尖らせて、彼女はバンから出て行った。

 

「……なんなんだ、アイツ」

「本人から聞いてんでしょ? ミュータミット」

 

 細胞内のミトコンドリアを操作して、人為的な突然変異を引き起こした改造人間。それが、ミュータミットだと言う。

 

「一から生み出された人造人間なのか、どっかしらから赤子を拉致ってきたのか。それは当時の資料が失われてて定かじゃないけどね。ともかくアタシが、『カンナギ事件』の事後処理中に生き残ったのを押し付けられたのよ」

「じゃあ、あいつも怪人……」

「もっとも、常人に毛が生えた程度の身体能力と、コズミックエナジーの受容性しか取り柄がない失敗作だけどね……あーあ、ホントハズレ引かされたわ」

 

 運転席で足を投げ出してそう嘆くミチル。人としてどうかという『彼女』に冷ややかな目を向けていると、

 

「ハイ、説明はおしまい。分かったら、邪魔だけはしないでよね。()》仮面ライダーのお仲間さん」

 

 と辛辣な皮肉と共に、僕は特に何かをされたりすることなく、バンを追い出されたのだった。

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