噓企画2024(フォーゼ反転物)   作:大島海峡

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5.

 子どもの頃、一度だけフォーゼを生で見たことがあった。

 空を自由に飛び回り、人々を救うその姿に、僕は魅せられた。

 最初は親や周りの大人たちは鳥か飛行機かと見間違えたんだろうと言った。

 だけど成長してからもその時の憧れが捨てきれず、調べた時に、それらしき都市伝説を見つけ、そしてその縁を辿って天高に入った。

 

 如月先生は、一年の時の僕の担任だった。

 訊いてみると、大っぴらにはしていないもののあっさりと自分がフォーゼだって認めて、逆に僕が呆気にとられたぐらいだった。

 

 そして彼に自分の情熱を訴えて、宇宙仮面ライダー部に入れてもらった。

 部はその活動の不明瞭さから常に部員不足状態で、入れてもらうこと自体は簡単だった。

 それどころか、フォーゼのシステム復活のための、テストパイロットにさえ選ばれた。

 

 別に僕が特別だったワケじゃない。

 むしろ特別じゃないからこそ、僕は選ばれた。

 限られた資質を持つ人間だけじゃない。一人一人が個人的に宇宙へと旅立てる新時代。そこへ行くための先触れが、たまたま熱意を持って踏み込んできた僕だった。

 

「けど僕には――覚悟も素質も努力も、まるで足りていなかった」

 彼のように高く飛ぶことができない。彼のように、皆を引っ張るだけの器量もない。

 

 日々を重ねるごとにそのことを自覚していく。やがてそれは重しとなり、苦痛となった。

 そして熱を注ぐことを諦めた錬鉄は、ただの冷たい瓦礫でしかない。

 

 いつしか部から足は遠のき、そんな自分を恥じて学校も辞めた。

 そんな折に、いつかの再起を祈って、その象徴として託されたのが、あのドライバーだった。

 

 ――思い返してみれば要するに、どこにでもあるありふれた挫折のハナシ。

 

「ふぅん? だから、出逢ったばっかの相手に肩入れしてんだ?」

 ……そう、だからこそ、飛口結奈の回顧が、その経歴が刺さる。狂ってはいても、その苦悩が理屈ではなく感情に刺さる。

 

「お前相手に言ったところでしょうがないけどな」

 そう天火に語るのは、屋上。おそらくは、正気を失いつつある結奈は、ここから飛んだ。

 最後に心に残った、高く飛びたいという願いとともに。

 

「うん、ぜんっぜん理解できない」

 あっさりと、情緒もなく天火は認め、一息にフェンスの上に飛び上がった。

 

「君たちの行動はデタラメだ。自分で好きでやり始めたことを、わざわざ苦しみながらやってる。それとも、それが青春ってヤツなの?」

「……分かるわけないだろ。お前みたいな人間に」

 

 一歩でも踏み外せば、結奈の後追いとなりかねない危険な足場。そこを恐れもせず、飄々と一本足で彼女はステップしている。

 

「たしかに。私みたいな化物(ミュータミット)には、よく分かんないね。正直、青春ってのもテキトーに言ってるだけで理解なんてまるでしてない」

 それは、そうだろう。

 組織の都合で根無し草の生活をしている改造人間。当然ここの身分も暮らしも、紛い物。到底、真の学園生活や青春なんて、知るべくもないだろう。

 

「でもだから知りたいんだよね。どうして君は、高く飛びたかったの? なんでそこまでして、フォーゼになりたかったんだい? 宇宙に行ってプレゼンターに出会うことが君自身の願い? 皆で楽しくワイワイ同じものを目指すことだけが、青春?」

 揶揄するでもなく、善悪もなく、無垢に重ねられる問い。

 答えず俯く僕の頭上で、彼女は声を落とす。

 

「つくしちゃんは自由に飛べばいいんだよ、きっとね。低く飛ぶことも、遅く飛ぶことも、全速で逆走するのも君の自由。なんなら落下することさえも、楽しめば良いんじゃない?」

 

 そう言って彼女はくるくると回る。

 曲芸のように。平然と大きな一歩を踏み出す。

 

 でも、どれほど身体能力が秀でていたとしても。

 そんな危うい立ち振る舞いをすれば、どうなるか。

 当然のように足を滑らせた。「あ」と抜けた声を漏らしながら、その身体が校舎の外へとずり落ちる。

 

「おいっ」

 僕は慌ててフェンスをのぼって越えた。

 そして自身も危地に立って、彼女が落ちた下を覗き込む。

 瞬間、その僕の手首が掴まれた。

 驚いて見れば、しっかりと自身の脚でもって、天火は校舎にしがみついていた。もう一方の手でスカートの裾を押さえながら。

 僕が底へ引っ張られる、というわけではなかった。むしろ彼女自身の力で、僕が落ちそうなところを押し返されている。

 

「ほら、落ちても戻って来られる。そして君は、飛び越えていけるじゃない」

 自身の宣言通り、落ちる瀬戸際でさえも彼女は笑う。

 

 上昇する気流を浴びながら僕は、その胸に詰まった泥ごとに、風穴を開けられた心地がしたのだった。

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