別の棟の屋上にて。
弓束葉月はその戦いの様を見守っていた。
そして、空へと向けて上昇していく教え子の姿に、歓喜の咆哮をあげた。
「やったじゃねぇか結奈!! オレたちの夢のため、飛んだんだんだな!? オレは今、モーレツに感動しているっ! よーしそのまま、宇宙〜行けぇー!!」
一度屈み、バネのように全身を跳ね上げて両の手で天を衝く。
その横を、高速で鏃の如きものが、下から迫りそして通過していった。
「……あ?」
葉月が目を振り向けたときにはすでにその影すら通り過ぎて、ただ風だけが、彼のグレーのスーツをすり抜けていく。
〜〜〜
校舎の外へ落ちた僕を、高速で滑空してきたそれが拾い上げる。
シャープなシルエットを持つ、グライダーともパラグライダーとも呼べる白銀の代物。僕が、フォールが身を屈めてペダルに相当する部分に足裏をつけると、先端を真紅のライトで輝かせて、手にしたレバーを操縦桿として吸い上げ、接合させる。背に取り付けられたジャイロが本格的な稼働を始め、ロケットユーナイトを急追する。
セイリングジャンパー。
それが、フォールとローゼで共有する、特殊ビークルだ。
雲を突っ切り程なくして、あのオレンジの機体が見えた。
レバーを握りしめると四枚羽の戦輪が二枚、両翼から射出されて、僕らに先んじてユーナイトに追いついて、叩き込まれる。
もちろん、それは足止めと牽制だ。
そして速度を緩めて迎撃に入った彼女を、僕は一旦通り抜けた。
けど、そこまでだ。ほんの少しだけ、今この時だけ、結奈を超えられればそれで良い。
――もう宇宙に、夢は持たない。
〈Gyro・Aero Limit Break〉
その先にある銀河に背を向けた僕は、本来のフォーゼドライバー側についている方のレバーを前後させて、セイリングジャンパーの上で立ち上がる。
僕を乗せたままにビークルはひっくり返る。重力が働く前に、僕はその裏を蹴った。
飛んだ。いや、落ちた。
脚部からの噴射を追風に、雲を消し飛ばして音の壁を突き破り、地上へ向けて。
そして空中で身体を横たえる。自分自身で大きく旋回しながら、脚先に充溢させたコズミックエナジーをロケットユーナイトへと叩き込んだ。
濃く暗い緑色を発する光はそのまま僕もろともに、鉄人を校庭へと叩きつける。その硬く閉ざされた重装を、刈り取った。
~~~
火をあげて、墜落していくロケットが校舎の横をすり抜けていく。
慈白展葉は、宇宙、高みへの未練を吹っ切り、只今の本懐を果たした。
電気の怪人を鎬を削り合い、武器同士で競り合いながら天火はそれを認めた。
「どうする? あれがあんたらの言う『実験』のサンプルだろうけど……潰れちゃったねぇ」
『だったら、貴様らを潰し返すまでだ』
ユーナイトからのの返答の隙間に、一瞬の逡巡はあったが、語気自体は強く頑なだった。
「だったら、仕方ない、ね!」
と、レムノスギアを両腕で抱えるように持ち替えながら、気を吐いた。
その指先に、ピックのように別のスイッチを手にして。
半月系に『no』とも読み取れる紋様のそれを、スコーピオンのものと換える。
〈Step2:Projecting Capricorn〉
そんな音がベルトより流れると同時に、彼女の髪型、もとい頭部装飾が変容した。
蠍モチーフのポニーテールより、山羊の角を模倣したようなおさげ型に。
だが注意すべきはそこではなく、手に、そして彼の装甲に触れる
その胴には光り輝く弦が張られ、彼女の指先がそれを烈しく爪弾けば、空気を震わす音波がエレキユーナイトを直撃した。厚い守りを打ち崩す、音撃であった。
しかし相手も考えが同じで、かつ機敏であった。
スタンロッドがその電流が、天火に叩き込まれた。そして磁石のように、相手に向かい合った力は双方を吹き飛ばした。
お互いがお互いに、痺れたといったところだろう。
だが、元より継戦の意志は、エレキには薄かった。
力量を肌身で感じ、容易に倒さざる敵と知るや、
『大義の何たるかも理解しない、小悪党どもが』
と捨て台詞とともに、彼もまたフェンスを突き破って下へと落ちた。
見下すも、すでにそこに異形の騎士の姿などない。あるのは逃げ惑う教員生徒たちと、おそらくはそれに紛れたエレキユーナイトの正体だけだ。
最後にたわむれに一鳴らししてから、天火は変身を解いた。
~~~
外殻の破れた、ロケットスイッチが転がっている。
それは、飛口結奈を救った証、という単調なものではなく、敬愛すべき宇宙仮面ライダー部との決別を意味するかのようだった。
「……ひどいわ、慈白さん」
落下地点で仰向けになって四肢を投げ出し、その体勢のまま人間に戻った結奈が、うっすら目を開けながら僕を呪った。
「あなたは、ヒーローなんかじゃない……人の青春を、奪った悪魔よ」
「……そうだね」
それは僕も、認めるところだ。
自分の行為が100%正しかったとは思えない。たとえ洗脳されていた結果だったとしても、偽られた記憶だったとしても、この学園で孤立していた彼女にとっては、救いだったはずなのだから。
それでも、と。
「僕はもう道を改めることはしない。顧みない。墜ち続ける。それが僕のライダーとして守るべき、自分の意志だ」
真っすぐに倒した相手を見下ろして伝える。
「絶対に、許さない……いつか、必ず……あなたから、あんたからも、すべてを、奪って……」
そして最後まで言い切ることができず、彼女は意識と力を手放した。
聞く必要もない、知れ切った恨みだったけれども。
僕は、遠く果ての空を、最後に仰いだ。
前はどこまでも遠く感じて、見ることさえ億劫になっていたその高みは、人々を裏切ってすべての荷を下ろした今となっては、馬鹿みたいに澄み渡っていた。