始業式が終わると、早速他の女子たちに質問攻めに遭った。もしくは、派閥形成の一環の取り込みか。
曰く、前はどこの学校に居たのだとか。どういう家族構成なんだとか。部活は何していたのだとか。つけている香水がどこのブランドなのかとか。本当にそれは今知らなければならないことなのか、本当に興味があることなのかは知らない。
ただ彼女たちの言葉は耳に入って来ず、ただ幻聴が鼓膜の内側で鳴り響く。
――わわ、大丈夫!?
――おそらくスイッチが体質に適合していなかったんだろう。調整してもう一度だ、展葉。
――あなた自身が言い出したことじゃない。だったら最後まで貫き通しなさい。
――おい、言い過ぎだぞ。あまりルーキーをいじめてやるな。
――次は少年同盟との戦闘訓練だ。
――大丈夫だ。展葉。
――オマエナラ、デキル……
……気がついた時には、トイレの個室に籠っていた。
胃の中が空だというのにえづく。
毒の蜜が、身体を、心にまとわりついているようだった。
そして純善たる善意に、間違っていると承知でも、どうしようもない部分でそう感じてしまう僕は、きっと健全じゃない。
そしてそんな陰気は、何か良からぬものを寄せつけてしまうらしい。
「テメェ、なにハヅセンに色目使ってんだよ」
「抜け駆けすんなっての、当たり前だよなぁ、あぁ!?」
「ち、違っ……そんなつもりは」
締め切った戸の向こうで、派手な物音と甲高い怒号。咳き込む声。次いで漏れ聞こえるのは絶え絶えの息遣い。
つまりは、言葉にすることさえ躊躇われる、学生生活の負の面。
直接的に出会したことはこれが初めてだったけれど、天ノ川学園にも、少なからず何処かしらで起こっていたであろうこと。
どうするか、扉の先には二つの選択肢がある。
ごく一般の生徒なら、まず関わり合いにならない。この先にどんな悲劇が待っていようと、嵐が通り過ぎるまでやり過ごす。
そしてもう一つ……僕が所属していたクラブなら……あの人たちなら。
決して目の前の理不尽を許さない。断固として立ち上がるだろう。
そのどちらも、選ぶことはできなかった。
だから僕は、ドアの前で自虐の溜息を吐く。そして自然を装って開けて、その現場を目撃する。
一目して
そのうちの一人、茶色のソバージュのリーダー格らしいのが、メガネの女子生徒の長い黒髪を掴んでいた。
「あの、邪魔なんですけど」
そして僕はそれを見て、小市民的な抗議をする。
まぁ、幸いなことに。
僕の身の丈は、その場にいた誰よりも上回る。ちょっと前まで鍛えていたから、
アクシデントとそれによって変化したポジションと戦力。それを鑑みたのか、髪を放り出した女は、その鶴の声でもってトイレから退散した。
後に残されたのは立ち尽くす僕と、その足下で啜り泣く同じ学年らしき女の子だった。