仮面ライダー。
それは伝説。それは正義の象徴。それは自由のシンボル。
僕らの学園では、少なくともそうだった。
宇宙時代の若者たちの青春を守り、ゾディアーツと戦う戦士たち。それが、仮面ライダーだった。
それとは似て非なるモノだ、これは。
「さぁ、星に願いを」
決め台詞らしい口上を言うと同時に、戸惑うドリル怪人に指を突きつける。
……と、その瞬間に。
不意打ち気味に蹴りを飛びかました。
アンクレットのついったその脚部で強かに打ち付けられた怪物は、ドリルではなく己自身が転がる羽目となった。
だが体勢が整う前に、素早く間を詰めた天火、もといローゼが、追い討ちに蹴り付ける。
それでもなお起きあがろうとする怪人の下肢に潜り込み、絡み取り、そして再び自身ごと引き倒して何度も拳を打ちつける……楽しげな、童女のような笑い声を弾ませながら。
それでも今まで優勢を誇っていた鉄人はその猛攻の圧力を強引に突き破り、ローゼのマスク中央に向けて、ドリルを突き出した。
が、そこに彼女の空いた右手が挟まれる。
掴み取る。まさか。そんなことをしたら回転に巻き込まれて五本指はバラバラだ。
だがその半開きの指先の間に、暗雲と星座の閃きが宿る。そこから生じたのは、ボディと同様に真紅、いやバラ色か。銃床のような造形をしている、鉄器。それとドリルとが衝突する。火花が散る。そして押し勝った。
「レムノスギア」
呟かれたのが、その武装の名であるらしい。
何に使うのかいまいち仕様を掴みかねるものの、それでも明瞭な使い道は分かる。
「どかーん!!」
そしてその予想通りに、ローゼは両手でそれを握りしめるや、おおきく振りかぶってガードが開いた敵に踏み込み、そして側頭部を殴りつけた。
重厚な装甲を持つ相手には、斬撃や刺突よりも、むしろ鈍器による衝撃が効く。
「どかーん、どかーん! かーらーのー? どっかーん!」
と、つんのめる相手が膝を屈そうとも完全に倒れようとも、その
単純な機動性で較べるなら、スコーピオンゾディアーツと大差ないだろう。
だが、それでもなお、戦況が覆しつつあるのは、溌剌さ、もとい戦闘にテンポやリズム感を得たせいだろう。
……僕の知る、『彼』も。
もう戦うような場面はなかったが、その様を実験の際の映像で見ることは出来た。作業用ロボットパワーダイザーと組み手をするありし日のあの人も決して洗練された動きではなく、不良のケンカ殺法の延長線といってところだった。
だけど、これとは違う。
『彼』の戦いには、うまく言葉には出来ないけれど……熱があった。敵であれ、相手と本気で向かい合い、判ろうとするひたむきさがあった。
こいつは……戦いを、そして痛めつけることを、楽しんでいる。
こいつが、こんなヤツが、仮面ライダーであるはずがない。
……だけど、それでも。
『おのれぇっ……!』
時代錯誤な呪詛を絞り出し、距離を取ったドリル怪人は、再び両手の掘削機を揃えて射出した。
上下に分かれてローゼに向かって飛ぶそれに、『棍棒』をくるりと逆向きに持ち替えた彼女は、取手にしていた部分を敵へと傾ける。
……鈍器じゃない。その本質は銃。短く銃身を切り詰めた突撃銃のようなものだ。
そこから撃たれたのは、男の指を上回る太さの、針。それが、二発。
ドリルの軌道上に被せるように射出されたそれらは迫り来るものたちを迎撃し、撃ち返した。そして星をなぞる直線を描きながら、その本体に命中する。
そして撃たれた箇所は、まるで酸でも浴びたように、周囲を巻き込んでどろりと融解していた。
『せっかく……せっかくあの方に頂いたこの姿を……もう許しませんッ! ドテッ腹、ブチ抜いて差し上げますわァァ!』
もはや最低限の
迎え撃つは、再び鈍器として得物を持ち替えた天火。
両手で握りしめた彼女は、フルスイングで、掬い上げるようにドリル怪人を下から狙い打った。
備えていない箇所へと攻撃、それを受けて制動できなくなった彼女は、床を跳ね、天井に弾かれ、打ち捨てられた机などを壊しながら勢いは失墜する。カーテンに引っかかる形で、窓際で止まる。
「じゃ、トドメね」
と言うが早いか、
〈Orion×Scorpion Limit EXtend〉
ドライバー両サイドのスイッチを強く押し込むとともに女の声が、幕引きを告げる。
と同時に駆け出した少女ライダーは、跳んで再びドリル怪人を左脚で蹴りつけた。
窓やガラスを突き破る。今度は背面をもって、怪人は穴を穿つこととなった。
破片飛び散る虚空に、人外の少女たちは放り出される。
起死回生の反撃がために、ドリルがフル回転を始める。
だがその彼女は見ただろう。自らの上にあるものを。今まさに、自らに終焉を告げようとするその回転を。
より烈しく、より速く、より強く。そして紅く、巻きついた蠍の尾のように、全てを焼き尽くす蠍の火のように、自らを押さえつける左脚部にコズミックエナジーの華を咲かせるその螺旋を。
そして加速をつけたライダーキックは、オリオンとスコーピオンの輝きを重ね合わせた刻印を敵に刻みつけ、地表へと叩き送った。
爆発が起こる。熱い風波と断末魔が、僕の頬にまで届く。
ローゼもまたその下にあった校庭に降り立つと、勢いのままにくるくるとその身を回す。
「ごめんあそばせ」
そして敵への当てつけか。令嬢のスカートよろしく腰布を摘み上げて誰にともなくお辞儀をする。
エネルギーの残滓が薔薇の華のように散るというシチュエーションも相まって、ヒールそのもののファイトとは裏腹に、その締めくくりを流麗に飾ったのだった。