噓企画2024(フォーゼ反転物)   作:大島海峡

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8.

 土御門璃瑠香は、身を這わせて敗走していた。

 自慢の髪もボロボロに乱れ、肌は焼けるように痛い。

 

 ……だが、不思議なことに。

 何か、憑き物が落ちたような心地がした。常にまとわりついていた暗い苛立ちが、抜け落ちていた。

 

 だが、肉体が相当に痛めつけられたことには違いない。

 校舎の壁にもたれて、力なく腰から崩れ落ちる。

 

「璃瑠香!?」

 そこに、駆け寄る男の姿があった。

 そのグレーのスーツを見て、あぁと憧憬の声を漏らす。

 

「おい、一体どうした!?」

 弓束葉月先生。困窮する自分に救いの手を差し出してくれた、困難を突破する力を授けてくれた、愛しき御方。

 

 だがふと、自身を抱え起こす彼の姿を見て、疑問が過った。

 

(わたくし、何故、いつこの方をお慕いするようになったのでしょうか?)

 そう思うと、その違和感はどんどん強まってくる。

 

「……そうか。負けちまったんだな。でも、もう心配は要らない。あとはオレに任せろ」

 力強い抱擁も、声援も、どこか恐ろしいもののように感じてしまう。

 

 そして目線をあげた時、彼女は本能的に悲鳴をあげた。

 胸襟が開かれている。心理的にではなく、物理的に。もっと厳密に言うならば、空間的に。

 その男の胴体は上下左右に開かれて、その中には臓腑など詰まっていない。銀色の流動物が蠢いているだけだった。

 

 その姿も、素性も、記憶も、そしてそれに基づく互いの感情さえも紛い物。

 そう気づいた璃瑠香はさらにオクターブを上げて絶叫した。

 だが数秒後に、彼女の声はプツリと途絶えた。まるでリモコンで番組を切り替えるように。そして彼女の姿も影も、跡形も無くこの学園から消失していた。

 

 後に立っていたのは、若き学年主任のみである。

 

「……お前に蓄積されたコズミックエナジーを通じて感じるぜ、璃瑠香。お前の愛、苦しみ、悲しみ、辛さ、恐怖」

 

 彼女を取り込んだ胸をギュッと拳で押さえた彼は、天を仰ぎ瞑目し、静かに涙を流した。

 だが次の瞬間にはその涙もかき消えて、さっぱりと笑ってその拳を胸で叩いて虚空に突き出した。

 

「これでお前も、オレと同一(ダチ)だ!」

 

 ~~~

 

 爆発の間際、一つ飛び出て転がったモノに、僕は気づいていた。

 そして慌てて二人の後を追って校庭に出てきた時、草むらの中に転がるそれを見つけて拾い上げた。

 

 ――そう、予感はあった。あの怪物の姿、特徴を目撃した瞬間から。

 そしてそれは的中してしまった。

 

 ドリルスイッチ。あの人が使っていた、メインウェポンに相当するモジュール。

 それと瓜二つの装置が、今僕の手元にある。

 

「……なんだ、これ……? なんでこいつがここにある!? いったいここは何なんだ!? ていうか、お前いったい何者なんだ!?」

 

 事がいったん収まってみれば、沸いては尽きない謎の数々。

 穿たれた穴から、彼女のものらしき白い詰襟の上着が、まるで彼女自身の意思か運命のように、その手元に舞い降りてくる。

 それを羽織りながらそのうちの一つにだけ、少女の姿に戻ったそいつは答えた。

 

「零星天火。正式名称ジュバ 。ID:KA10。財団Xアンノウンエネルギー部門の第十級戦闘要員……ミュータミットだ」

 

 淡々と、なんてこともなさげに、とてもシンプルに。

 そしてその自己紹介とは似つかわしくない、晴れ晴れとした笑みを称えて、僕に向かって手を差し伸ばす。

 

「ようこそ、織機()学院へ! 新入り同士、仲良くやってこうよ……元天ノ川学園宇宙仮面ライダー部、慈白展葉ちゃん?」

 

 ……少し長めに揃えたスカートの裾を、荒ぶる風が薙いでいく。

 

 ――仮面ライダーは、正義のヒーロー。自由のシンボル。

 あんな戦い方をする奴が、死の商人の手先が、決して名乗って良い名前じゃない。

 

 だけど。理屈じゃないのは分かっているけど。

 素足で草を踏み締め、楽しげに笑う零星天火に、何者にも縛られない彼女の在り方に。

 この時確かに、僕は自由を感じていた。

 止まっていた風が、ふたたび吹き込んできた気がした。




後編は昼12時より順次公開予定です
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