【完結】じゃんじゃかジャンカードーザー傭兵 作:白河童小鼠(人間)
「おい、まじかよ、夢なら覚め 」
『ある金は生かすべきだ……』
『贈り物をくれるのですね……素敵だ……』
『我々の計画が……』
『なるほどな。そういうこともある』
落ち込んでいた所に警備終わりのコールドコールの通信が響く。
揃いも揃って落ち込んでいたのには理由がある。
アイボールを相手にした後。
予想以上に被弾が少なく済んだので谷底のカタフラクトらしきものを倒しに行ったら、それはカタフラクトではなく変な形の岩だったのだ。
追加の収入だと思って意気揚々と通信しながら潰しに行っていたので、期待の分ダメージが大きかったのだ。
うーん、悲しい。
悲しいが、ここまでだ。
めぼしいところは襲撃し終えてしまったのだ。
ゲームでのステージでまだ行ってないところは洋上都市ザイレムとエンゲブレド坑道。
洋上都市ザイレムはECMで座標がわからない上に海を挟んだ孤島のような場所で遠く、そしてエンゲブレド坑道は広域レーダーの探査結果ではコーラルの流量観測をするセンシングデバイス以外は何も見つからなかった。
帰りに適当に探査機を飛ばしておいたが……何も見つからないだろう。
つまり、ここらが潮時ということ。
帰宅の時間だ。
ブルートゥの輸送を丸一日手伝ってから全員船に集合する。
何を輸送したかと言うと、ヨルゲン燃料基地にあった燃料タンクだ。
この燃料タンクは揺れには耐えることができるが、ACなどの兵器の攻撃には耐えることはできないので扱いには細心の注意を必要とされている。
タンカーの中で漏洩しても困るので012に輸送しておいたのだ。
これで今回の仕事は終わり。
お疲れさまだ。
「いやー、あっという間だったなあ」
「思っていたよりもスムーズに事が運んだな」
帰りの船の個室でノーザークと言葉を交わす。
今回の遠征でノーザークは船の護衛が仕事だった。
コールドコールと交代での護衛だったとはいえ、C兵器を4機も撃破してみせたらしい。
元はと言えば今回の遠征はノーザークが話をつけてきてくれたおかげでもある。
コールドコールを身近に置いたことで苦労させたこともあり、存分に労わないといけないだろう。
「しかし、親友が本当に強かったとは思ってなかった」
「なんだとぉ」
ノーザークが唐突にカミングアウトする。
なんだ失敬な。
確かに活動実績は少ないが、俺の実力を信じてBAWSとの交渉をしていたくせに。
「そう怒らないでくれ。私はこれでもACを駆ってきてそれなりに敵と戦ってきた」
「だいたい10年ぐらいだったか?」
「そうか、もうそれぐらいになるのか。その傭兵として過ごしてきた中で、戦ってはいけない者を見極める力は磨いてきたつもりだった。しかし、なんというか君は……」
「君は?」
「死にそうに見えた」
「おい」
「だってそうだろう?子供が一人前ぶってドーザーと組んで、まともな自衛手段も持たずジャンカーをしていたんだ。いくら何でも周りを信じすぎだ」
「でもよ、けっこう上手くやれてただろ?」
「そう、何故か上手くいっていた。まるで平和な経済圏で育ったかのような性格の坊っちゃんが、一時期ドーザーの集団を率いていたと聞いた時は耳を疑ったよ」
ノーザークがグラスの中身を呑み干して口を湿らせる。
高そうな酒に見えるが、その実ただの紅茶だ。
ノーザークは酒を飲まない。
いつでも逃げることができるように、そして弁舌を鈍らせないためにも人前で酒精はとらないのだ。
「だけどね、君と直接会う直前に動画を見て、納得ができた」
「それってキレキレ大豊マン?」
「そうその頭のおかしい動画……って違う違う。コヨーテスとの信用の証として貰った動画で、君はほぼ全ての弾幕を避けて的確に敵を破壊していた。要するに親友が戦闘においては天才だと納得できたのさ」
「そうかなあ?」
「まあ、私よりは強いと確信できた。それならそうそう死ぬことは無いだろうと思えたんだ。それだけの話さ」
カラン、とグラスに残った氷が鳴る。
涼やかな音は、それだけで話題の転換を示した。
やっぱりノーザークは演出が上手だ。
こういうそれっぽい雰囲気を醸し出して交渉の席を設けることで、BAWSとも交渉を成功させていたのだろう。
容易に想像がつく。
「んで、コールドコールはいつ殺す?」
「殺さなくて良い。少なくとも利害関係は築くことができたのでね。もう敵じゃない」
「そう思わせて殺しに来るかもよ?」
「それは無いな。既に大豊経由でベイラムとは話をつけておいた。依頼が無ければ動かないだろうさ」
「ふうん、凄いね」
手元のスイッチを握り潰す。
このスイッチはコールドコールに組んだAC、ジャンクスレッドのジェネレータが起爆するスイッチだ。
起動させればアサルトアーマーの要領でパイロット諸共機体を灼き尽くす仕掛けだったのだが、使わないなら無くすべきだ。
爆弾の方もデッドスレッドに戻す際に取り除いておこう。
ブルートゥも何か仕掛けてそうだから、一応後で言っておこうか。
「松の葉かじる?」
「要らないが」
「そっかあ。なあ親友、ちょっと相談に載ってほしいことがあるんだけど良い?」
「聞こうじゃないか」
「昔の仲間で妹分みたいな娘が俺のクソコラをネットにばら撒いててさ」
「……それで?」
「独立傭兵としての最初の依頼が、そのクソコラで知り合った縁だったんだよね。この場合礼をしにいくべきだと思う?」
「勝手にしてくれ……」
そっかあ。
今度、お菓子つくって持っていこうかな。
「なあなあ、聞いてくれよ。ノーザークってば大豊と伝手があるんだってよ」
「おや?それは意外ですね」
「だよなぁ。自分はてっきり人の繋がりを使い潰してるのかと思ってた」
手元の機器を操作してコールドコールの機体をアセンブルし直す。
大まかな機械の操作を俺が行い、接続されるパーツの調整をオーネスト・ブルートゥが担当する。
壊れかけの、俺達が攻撃してついた傷のある胴体と頭部を繋げていく。
流石に戦闘はできないだろうが、帰り道に乗用車として使う分には十分保ってくれるだろう。
「今回は本当に助かったよ親友。俺が騙されることをずっと警戒していてくれてたからもんね」
「ええ、子供の冒険は見守るべきですから」
最初の出航前にブルートゥが遅れてきたのは、事前に相談を受けていたことだった。
万が一、ノーザークが徒党を組んで裏切ってきた場合、もしくは第三者から襲撃を受けた時のため。
即座に援軍として動けるように、少し遅れてから来ると連絡を受けていた。
なにせミルクトゥースは非常に鈍足で武装構成……というか諸々の噛み合わせに欠陥が多い。
真っ向勝負では分が悪いので、常に奇襲できるよう待機してくれていたのだ。
その援軍がどちらに対してのものかはその時次第だったであろうことはさておき、実際に最高のタイミングで最高の働きをしてくれたので文句はない。
むしろ褒め称えるべきだ。
「ブルートゥ凄い!よく頑張りました!報酬以上の働きだった!助かった!」
「こちらも良いものを見ることができました。特徴的なスウェイでしたよ」
スウェイ。
ダンスの身体を傾ける動作の事だったか?
ブルートゥはこの場であの動画の事を言及しなさそうだし……なるほど、ACのサテライト回避だろう。
あれは上下のジャンプと左右の細かな揺さぶりで相手のFCSを騙す特徴のある挙動だ。
相手の周囲を旋回しながら行うことから衛星になぞらえてサテライトと呼んでいた。
自分からすると奇妙な動作に見えるが、彼には踊っているように見えたのかもしれない。
だけど、動画のことかACのことかわからないので濁しておこうか。
素直に聞くべきか迷う。
「それはどうも。見苦しくなかったなら幸いだ」
「とんでもない。あなたらしい演舞で生命力に満ちていました」
演舞ならあっちか。
「……それってキレキレ大豊マン?」
「はい」
あの動画では身体能力のゴリ押しで無理矢理踊っているように見せていたに過ぎない。
どこが気に入られたのか俺ブルートゥのことわかんねえよ。
そんなに特徴的なダンスだったか?
せいぜいがノコギリ槍をぶん回してドタバタしているだけだったと思うんだけど。
まあ良いか、気に入ってくれるやつが居るなら踊った甲斐があったというものだし。
「あの動画、相棒に贈ったものなんだけどさ。なんかネットに公開されてたんだよ。あれ誰の仕業か知らない?」
「可哀想なご友人……素敵な贈り物でした」
贈り物って知ってるって事はそういうことだよな。
やっぱりかあ。
やっぱりオーネスト・ブルートゥが関わってたかぁ。
下手人かどうかは別にして、おそらく相棒を唆して公開するよう行動させたのはこの奇人の仕業だったのだろう。
これで謎が一つ解けた。
割とどうでもいい話ではあるが、少し気になってはいたのだ。
相棒は悪知恵が働くほうじゃないからな。
それはそうとして本題に入ろう。
ブルートゥがこっちを向いたので、USBみたいな記憶端子を投げ渡す。
「これは?」
「ジェネレーターに挿して10秒経ったら抜いといて。あと、ノーザークは恨んでないっぽい」
「素敵だ……彼にとっては友人同然なのですね」
端子は熱を帯びた目で眺められたあと、ジェネレーターに挿しこまれた。
これで爆弾解除完了だ。
ブルートゥがデッドスレッドの脚部を調整している間に物思いにふける。
ベイラムのFCSはデッドスレッドのFC-008 TALBOTで初めて触ったのだが、ファーロン・ダイナミクスの規格と若干似ていて助かった。
特にミサイルの誘導制御システムが自分の知っている第1世代FCSや第2世代FCSと酷似しており、おそらくはファーロンの技術提供を受けて開発されたことが推察できる。
いやまあ、類似性を解明したのは俺じゃなくてプログラムなんだが、FCSのプログラムを記録しているデータベースとかなり一致している所があってびっくりした。
未知のものを解析するつもりで調べたら、知っているものが出てきたんだから驚きもかなりのもの。
技研製のFCSであるIA-C01F: OCELLUSは技研のハッキング装置を使ったから上手くいったのだが、今回は簡単にいかないと考えていた。
航行中に余裕があったのもあり、だから暴発させるプログラムを仕込むことができたのだ。
ここまでくるとアーキバスのFCSも触ってみたくなるが、アレはACの基本思想であるコア理論に真っ向から反している遠距離特化型FCSなせいで、独自路線を突っ走っていると思われる。
中距離〜近距離での旋回戦を行う自分とは相性が良くないFCSだから、無駄な出費は抑えるためにも買わないほうが賢明だろう。
ここまで考えたところでブルートゥから作業再開の催促をされた。
ブルートゥの爆弾は脚部に仕掛けられていたらしい。
知っている部品に仕込む辺り、自分と似ているのかもしれないと思った。
輸送タンカーの看板。
時代錯誤な西部劇風の恰好をした男が紫煙をくゆらせている。
今どき珍しい葉巻だ。
手慣れた気怠げな背格好から常習していることが伺える。
煙草なんて嗜好品、このルビコンではほとんど手に入らない筈だが、わざわざ高値で仕入れているのだろうか。
あの葉巻一本で自分の何食分になるかな。
「物陰から覗くな。撃ってしまうぞ」
「普通の拳銃ぐらいなら効かないって」
嗄れた声がかけられたので、大人しく出ていく。
右手にノコギリ槍、左手に散弾銃を握って。
「いまさら始末しにきたか?」
嘲弄するかのようにこちらに向き直るコールドコール。
「いや、コールドコールさんなら、これの格好良さわかってもらえるんじゃないかって思って……」
右手を勢い良く振って仕掛けを駆動させる。
小回りの利くノコギリ形態からリーチのある槍形態へと。
軽快とも言える金属音が響き、二つ折りのように持ち手と刀身が別れていたのが真っ直ぐ槍となる。
自慢の武器だ。
外連味があり、過度に残酷で、恐怖の象徴になってくれる。
ジャンカー時代は襲ってくる暴漢相手に警告として振るってよく威嚇していたものだ。
手癖で何回も変形させていると、腰のホルスターに伸びていたコールドコールの左手が離れていくのが見えた。
ひとまず警戒は解いてくれたらしい。
良かった良かった。
「なるほどな。それで何人斬った?」
「やだなぁ、そんなことするように見える?」
「血痕が残っているぞ」
「これね、豚の血痕」
「ルビコンに豚などいないだろうに」
耳朶を打つ風が強まる。
やはり甲板は風が強い。
コールドコールもここが一番気持ちよく葉巻を吸えると判断したんだろうな。
自分は肺も弱いから煙草のことがよくわからないけど。
「噂には聞いていた」
「へえ、どんな噂?」
「無駄に重い宇宙服を買っていったやつがいたと」
「安かったからね。慣れれば快適だよ」
「実物ははじめて見たが、甲冑より重たかろう」
葉巻の煙に反応して、大豊製の空気清浄機が音を立てて作動する。
なるほど、そんな事まで情報として仕入れてるとは流石は殺し屋。
確かにこの天槍マン空調服は重たい。
だけど慣れれば楽だし、特に不便はしていない。
男は煙を吐き出して海の向こうを見つめる。
俺はその隣まで歩み寄った。
「やけに年代物の散弾銃だな。どこかからの盗品か」
「ジャンク市で見つけた骨董品。水銀の散弾銃でね、獣狩りの散弾銃らしいよ」
「獣狩りに水銀弾。獲物を食えなくする狩人がいるとはな」
「説明書によると本当は水銀に使用者の血を混ぜて使うみたい」
「ふざけた銃だ」
「でしょ?でも、そこがおどろおどろしくて買っちゃったんだよね」
「他に来歴はあるのか」
「めっちゃある。槍も銃も地球の産物みたいでさ、それも科学技術が発達する前のやつ」
「……どうだかな。そういうものは、得てして新しいものだが」
「実際のところどうなんだろうね。槍は血痕がとれないからって安売りしてたけど」
「血の汚れは落ちにくい。材質が鉄ならヤスリで削り落としてしまえ」
「それが血痕の上からコーティングされてて落とせないんだ。おかげで錆びることは無いけどさ」
「なるほどな。そういうこともある」
「あるある」
こうして話してみると、コールドコールは意外と話しやすい。
老成して達観した佇まいと煙でやけたゆっくりとした声が、これまたとても良いのだ。
でも、殺し屋なんだよなあ。
怖い怖い。
あっそうだ、武器の自慢のついでに言っておかなければいけない事があるんだった。
「今回の護衛任務、皆に相談したら報酬で40000 COAM払ってくれるってさ」
「邪魔をしにきた独立傭兵、しかも殺し屋にか?」
「みんな人殺しだし今更じゃない?」
「豪胆だな」
空調服の頭部パーツが小突かれて鈍い金属音がする。
中身まできっちり金属が入っているから重いんだよねこの頭部パーツ。
それでいて空調完備を管理しているのがこのヘッドパーツなので取り除くことができない。
余裕ができたら新しい空調服買おうかな。
「デッドスレッドも組み直しておいたから。ベイラム製FCSの良い勉強になったよ」
「お前のACのFCSはファーロン製だったか」
「そうそう。俺も近接特化のABBOTが欲しいんだけどね」
FC-006 ABBOT、ベイラムが開発した近距離特化型FCS。
ミサイル関連性能は妥協されているが照準アシストが非常に強力なACパーツであり、近接戦闘を行うとなると真っ先に候補に上がるFCSだ。
かなり昔からある製品でもあり、入手しやすい部類のパーツのはずが、ルビコンが惑星封鎖されている影響で供給が少なくなってしまっている。
そのせいで自分が独立傭兵となった今では、傭兵支援システムオールマインドのショップに中々並ばないパーツとなってしまった。
ゲームでは傭兵支援プログラムという教習にて無料で貰えたはずなのだが、悲しきかな今の自分にはそんな事ができるというお知らせは届いていない。
情報交換サイトだとベイラム側に与する独立傭兵はショップを介さず直接購入できるらしいので、この状態もベイラムの戦略の内なのだろう。
ここまで思案したところで、コールドコールも何か考えるような素振りを見せる。
「……なるほど」
「どうかした?」
「確認だが『キレキレ大豊マン』で踊っているのはお前だったな」
「はい?」
「お前で合っているかと聞いている」
「うん、勝手に流出させられただけだけど合ってる」
なぜここでその動画の話になるのだろうか。
内心困惑しつつも真面目な面持ちのコールドコールに向きなおる。
「大豊核心工業集団の上層部はあの動画にかなり注目していた」
「はい!?」
「一時的だが、広告塔の大豊娘々を上回る人気となったからな」
「え、あの大豊娘々をあの動画が!?」
樹大枝細を体現するチャイナ服の美少女「大豊娘娘」。
前世ではプレイヤーの二次創作に過ぎなかったそれだが、この世界では本当に大豊の広告で存在している。
一部の層に熱狂的な人気を誇る大豊娘々は、大豊経済圏において無視することのできない経済効果を叩きだしていると聞いたことがある。
その凄まじい大豊娘々の人気を、一時的とはいえ自分のダンスが?
訳がわからない。
頭が混乱してきた。
「かくいうベイラムの傭兵にも依頼が提示されていた。お前の事を特定すれば金一封だそうだ」
「……俺を売るのか?」
煮え切る前に思考のスイッチが切り替わる。
足場と障害物を確認し、何も見なくとも動けるように地形を頭に入れる。
ノコギリ槍をノコギリ形態へと変化させ、いつでも始末できるように構える。
冗談じゃない。
星外企業とはいえ、大豊という大企業を相手に逃げ回るなんて芸当自分にはできない。
何が目的かは知らないが、場合によってはここで口封じをして、独立傭兵から足を洗う事も考えなければならないだろう。
「お前にとって悪い話ではない。楽に聞け」
「それを判断するのは俺だ」
威圧的に、この場を握っているのは自分だと脅しをかける。
その為のこの武器だ。
たとえコールドコールがこの脅迫を毛ほども気にしていないとしても、言葉を選べという意図は伝わる。
それで良い。
俺はドーザー上がりの独立傭兵。
危険人物と思わせられれば良いのだから。
「……大豊は既にかなり特定を終えていた。オールマインドを介しての発注ゆえ、個人の特定まではできてなかった様子だが、独立傭兵であることまでは候補が絞られていた」
「……それで?」
「『あの欠陥品を纏ってあの動きができるのなら、ACのパイロットができるほど頑健に違いない』『是非とも我が社のパーツを使って宣伝してほしい』だそうだ」
「は、え?」
うん?
なんか流れが思っていたのと違うな。
てっきり、『既にお前たちは包囲されている』とでも言われると思っていた。
コールドコールを人質に交渉ができればとも考えていたのだが、自分の早とちりだったらしい。
「取引だ。こちらはお前を大豊に売り込み、多少の金銭と大豊との繋がりを得る。お前は大豊との伝手を得て、ベイラム側のパーツが購入できるようになるだろう」
「OK、俺の早とちりだった。まずは謝罪しようコールドコールさん。刃を向けて本当にごめんなさい」
「楽に聞けと言っただろうに」
「悪かった。言い訳になるけど、殺し屋が依頼内容を漏洩するのは殺害宣言だと思ったんだよ」
「創作の読み過ぎだ」
「返す言葉もない」
一気に肩の力が抜ける。
もし、あのままコールドコールに襲いかかったとしても、死んでいたのは自分だっただろう。
自分の重装甲はあまり小回りが利かない上、ここは船の甲板なので突き落とされると海中に沈んで戻ってこれなくなる。
勝ち目があるとすればノコギリ槍や散弾銃で殺傷するか、コールドコールの身体を掴んで握り潰すぐらいだが、どうあがいても生け捕りは難しかった。
右腕を胸の近くでほとんど動かさない特徴的な歩き方から察するに、おそらく何らかの心得がある。
ACに頼らず生身でも殺しができる殺し屋なのだろう。
恐ろしい男だ。
「じゃあ紹介をお願いするよ。こっちとしても大豊製のパーツが幾つか欲しかったんだ」
「商談成立だな」
灰皿代わりに葉巻を天槍マンの皿頭に擦りつけるコールドコール。
やめてくれませんかね。
そこ制御機器あるので洗いにくいんですよ。
「痒いところはどこですか〜」
『左腕の調子が悪いので確認してください』
「ほいきた任せな」
はしご車を運転してIA-27: GHOSTの左側に回り込む。
自分は今、ケイト・マークソンからの依頼で無人ステルスMTゴーストのメンテナンスを行っている。
というのもヨルゲン燃料基地において、ゴーストにはアイボールへ無線電力供給を行っていたエネルギープラントへの破壊工作を行ってもらっていたのだが、その際に爆風に巻き込まれてから機体の調子が悪いそうなのだ。
今は海上の船の中でケイトが遠隔操作しているため修理できず、ゴースト自身も手先の器用な機種ではないらしく、多少C兵器の知識がある自分に応急修理を依頼されたのだ。
実のところ、自分はC兵器については最初に手に入れた無人ACのIA-C01: EPHEMERAぐらいしか弄ったことがない。
なので、応急処置を頼まれても困るのだが、『ベスティー・ナイトシェイドは凄腕のジャンカーと聞きました。その神業の一端を披露していただけないでしょうか?』とまで言われてしまい、自分が修理することになってしまったのだ。
おのれオールマインド。
俺が褒められることに弱いところまで情報収集は完璧らしい。
工具箱を抱えてはしごの先に乗り、はしごをのばしてゴーストの左腕に近づく。
「ん〜」
『いかがでしょうか』
「とりあえず磨いてくぞ」
わからん。
わからないので汚れの掃除でお茶を濁す。
いや、どこがどういう構造なのかは大体推測はできているのだ。
ジャンカーとしての経験があるのでそこは抜かりない。
ただ単に、不調の原因がわからない。
エネルギープラントの爆風を受けたと聞いたから装甲でも歪んでいるのかと思っていたが、別に装甲に損傷は見当たらない。
とすると、内部に問題があるのだろうか。
「セルフチェックでは問題ないんですよね?」
『はい。機体に備わっている自動診断では特に問題はありません。ですが、どうにも左腕の反応が鈍いのです』
「動かした時の各種アクチュエータの数値は貰えますかね」
『送信します』
工具箱の側面に備え付けたタブレット端末に機体の情報が表示され、端末に内蔵されたプログラムが異常を診断していく。
掃除を続けていると数分ほどで照合結果が表示され、あまりにありきたりな不調の原因が判明した。
「これメンテナンス不足だね。潤滑油が少なくなって摩擦が増えてるみたい。関節が摩耗気味だから帰ったらきちんとメンテナンスしておくと良いよ」
対処できる原因だった安心からとってつけた敬語が外れてしまう。
まあ良いか。
無理に敬語にして説明が伝わらないよりはマシだ。
『C兵器は半世紀は稼働し続ける耐用年数があるはずなのですが』
「これは相棒の受け売りだけど、コーラルは多少の傷は埋めて直してくれるとか。だからコーラルジェネレーターを使用している機体は長持ちするんじゃないかな」
コーラルは非常に細かい生体物質だ。
生体物質なので液状だったり蒸発して気体だったりと、割と不安定な性質をしている。
群れから孤立したコーラルはそれぞれが好き勝手に動いているため、機械の傷の中などの閉所に潜り込んでそのまま不活性化して定着することがある。
制御の効かないナノマシンみたいなものだ。
それで機械が動作可能な状態まで回復してしまい、故障中のC兵器が暴走してしまう事もあるのだとか。
相棒の食器が割れた時に聞いた話だ。
ドーザーの間では持ち物を修理するライフハックとして有名である。
『では、何故摩耗を?』
「推測だけどエネルギー兵器の運用の為に還流ジェネレーターや内燃ジェネレーターを増設しているからかと。コーラルの流れる量が少ないから修復が間に合っていないのが原因だと思う。待機中の経年劣化はだいぶ遅らせてくれてる筈だけどね」
IA-27: GHOSTはかなり珍しいタイプのMTだ。
コーラルを用いているC兵器ながら、ブースター部分に内燃動力、武装のジェネレーター出力確保の為に還流動力、そして機体制御に使われていると思しきコーラル動力の3種類もジェネレーターとして使用されている。
これらを一つの機体にまとめて使い分けている設計は、まさに変態の所業としか思えない。
コイツは様々な情報を収集し高性能なACを設計できる技術力を持つオールマインドでもないと保守運用ができない機体と言っても過言ではない。
今回の不具合は先入観からくる不運な見落としだったのだろう。
C兵器には機体を維持するだけの休息が必要なんて、自分もこの機体を見るまで知らなかった。
諜報兼戦力として使い倒し過ぎていたから起こってしまった不幸な不具合だったということ。
そりゃあゴーストって便利だし仕方のないことではある。
『有意義な知見を得ることができました。ベスティー・ナイトシェイド、あなたに感謝を』
「どういたしまして。AC用の潤滑油ならあるけど注して良いか?」
『ではそのように』
「あいよ。関節に巻き込まれたら危ないから30分ぐらい左腕を固定するか電源を切っててくれ」
梯子を伸ばしてメンテナンスを開始する。
さて、真面目な仕事の時間だ
ベスティー・ナイトシェイド:意地とハッタリと真っ赤な嘘でルビコンを生き抜いてきたクソガキ。古巣の関係でエルカノとは太いパイプを持っている。好物は松の葉と炒り豆。OSチューンをリバースエンジニアリングによってマスターし、航海中に身内用の教本を執筆した。頭が馬鹿。
ノーザーク:それいけ借金王〜大豊交渉編〜は秘密裏に幕を閉じた。パーツを巻き上げることは出来なかったが、大豊側からすれば特に価値の無いコールドコールの身柄を利用して一部の指名手配を解除することに成功した。交渉の化け物。
オーネスト・ブルートゥ:大嘘つき。キレキレ大豊マンを流出させようと目論んだ張本人。この時代はまだシンダー・カーラと仲良しなので、彼女からベスティー・ナイトシェイドへの報復として動画流出を提案した。なお、オリ主は既にネットミームになった経歴があることを彼等は知らない。
コールドコール:仕事をやりきった仕事人。面倒見が良く、己を捕虜にしていたクソガキにも仕事を斡旋した。デッドスレッドの修理費が目的だった模様。後日、大豊からえげつない額の仲介料を支払われて問い合わせた。
ケイト・マークソン:ドーザーから生活の知恵を学んだ。クソガキが褒められることに弱いとは知らず、無意識に大正解を当てている。ゴーストの整備方法を学んだことで暗躍により一層磨きがかかった。