【完結】じゃんじゃかジャンカードーザー傭兵   作:白河童小鼠(人間)

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後編です


厚生と諜報

 苦難の道のりだった。

 頭がおかしくなったドーザーに襲われること二回、解放戦線のMTに遭遇して説得すること一回。

 

 こっちは総勢八機にも及ぶACの軍勢なのに、それでも襲いかかってくるドーザーが居るとは思ってもみなかった。

 

 当初は1時間の道のりのはずが、警戒を重ねたせいで既に六時間かかってしまっている。

 

 しかし、もうすぐ到着だ。

 あと少しで大豊のルビコンIII支部に辿り着く。

 

「よしお前ら、もうすぐ到着予定だ。マジでよく頑張った偉いぞ」

『軍人さまなのにへばってるんじゃないっすよ』

 

『この星は地獄か……?』

『くそっ、頭がおかしくなったかもしれない。あのガキに母性を感じてきた』

『正気を取り戻せ!あいつは男だぞ!』

 

「おう、仲間になるなら歓迎しよう。D&JはAC乗りを絶賛募集中だ」

『やめてくれよ!俺の心が揺らいじまう!』

 

『おっ、新人っすか?ウチは読み書きとMT操縦が必須技能のエリートドーザー集団っすよぉ〜?訓練してばっかの軍人さまが耐えられるとは思わないことっすね!』

『この女が威張れるなら俺もやれそうな気がしてきた』

『だろ?絶対楽しいだろうなぁ……』

『隊長、勧誘を止めないで良いのですか?』

『……一応聞くが、福利厚生はどうなっている?』

『隊長ぉ!?』

 

「あっははは!もし本当にウチで働きたいなら大豊から出向できるように交渉してみようか。コーラルを呑まない一般人向けの福利厚生はなにかあったっけ」

『D&Jは大体年間休日120日以上っすよ。産業医と契約してるし割と健康的なドーザーが多いっす』

「コーラル中毒は健康的とは言わないだろ」

『それもそうっすか?』

 

「微量のコーラルに耐えられるならけっこう食事は美味しいぞ。元々D&Jは技研の食糧生産プラントを保守点検するジャンカー集団だったからな。でも大豊の方が美味いもん食えるか?」

 

『それとは関係なくお頭が調味料に凝ってるせいで皆舌が肥えてるっす。醤油と味噌を食えるのは生産プラントを修理したお頭の功績っすね』

「俺はコーラル混じった食べ物をまったく食べられないからクソほど嫉妬してるけどなぁ!」

『いやあ、お頭のおかげでミールワームが美味いっす!』

「がああああぁ!ちくしょおぉおお!!なんっでこの星だと俺はレーションしか食えねえんだよぉおおお!」

 

 そう、俺の身体は体内に入ってきたコーラルに対してとんでもない過敏反応を示す。

 だから、せっかくネットの海からレシピをサルベージしても、微量のコーラルが含まれるルビコンの食材を使った料理を自分で食べることができない。

 ク、クソ女が……!

 今度、地獄辛薬膳カレーを食わせて悶絶させてやるからなぁ!

 

『隊長、これ俺達より良いもの食べてませんか』

『言うな』

『お前、昨日何食べた?』

『任務中に吐かないよう塩と栄養剤だけ』

『真面目だな』

『そういうお前は?』

『こっそり持ってきてた最後の火鍋玉お湯に溶かして飲んだ。ルビコン支部は飯が不味いらしいな』

『おまっ、ズルいぞ!』

 

『大豊の火鍋玉っすか〜?たしか傭兵支援してくれるオールマインドが売ってたはずっすよ』

「えっマジ?」

『本当か!?俺達にも買えるか!?』

『ざんね〜ん!オールマインドのショップは傭兵じゃないと使えないっす』

『クソ女がぁ……!』

 

「お前たち、大豊経済圏の火鍋に興味があるからあとでこっそりレシピを教えてくれ。ルビコンの食材で再現できるレシピに変えて火鍋玉といっしょに職場に贈ってやるよ」

『『お頭ぁ!』』

「お礼なんて必要ないさ。俺達は同じ任務という苦難を共にした友情でつながっているじゃないか。もはや俺達は親友!困ったことがあればいつでも俺を頼ってくれよな」

『うおおおお!最高だぜ親友ー!』

『俺も親友の力になるから頼ってくれよなー!』

 

 ロビンから秘匿回線で通信が届く。

 なんだ?

 今良い感じに煽ってるところなんだけど。

 

『お頭?それ睡眠時間削れないっすか』

「何言ってるんだ。大豊と組むと決めてからもう既に粗方の文化は調べてある。ルビコンで火鍋玉が買えるとは知らなかったが再現レシピはほぼ完成してるぞ」

『キッモ』

「酷いな!?」

 

 ここは用意あれば憂いなしを体現する俺を褒めるところじゃないか?

 なんで罵倒されなきゃいけないんだ。

 あれ、むしろこの罵倒は褒め言葉なのでは?

 やったぜ、褒められちゃったよ。

 

『お頭、気づいてるっすか?』

「大豊からの迎えが無い、だろ?」

 

 そうだ。

 さっきから大豊ルビコンⅢ支部に向けて迎えを寄越すよう通信を送っているのに対し、まったく反応が返ってきていない。

 

 これを訓練生達に伝えると混乱を齎す可能性があるので話を逸らしていたが、これは万が一を考える必要があるだろう。

 

『どうするっすか?』

「輸送ヘリからの広域レーダーでは施設が探知できている、ECMは無いと考えて良い。となると襲撃者だろう。ロビンは護衛対象を頼む」

『了解っす。説得は頼むっすよ』

「ああ、任せろ」

 

 秘匿通信を辞め、大豊の訓練生達へと通信を行う。

 

「よく聞けお前たち、緊急事態発生だ。さっきから支部に通信を飛ばしているが何も返答が無い。俺は調査に行ってくる」

『……わかった。我々はどうすれば良い?』

 

 隊長の冷静な返答。

 護衛対象が冷静なのは良いことだ。

 自分も話を進めやすい。

 

「ロビンと共に周辺で待機。万が一襲撃された場合はロビンを殿に撤退せよ。撤退先はここから20分ほどの廃グリッドでRaDというドーザー集団の縄張りの一つだ。俺の名前を出せば便宜を図ってくれるからそこで一晩待っていろ」

 

『もしもの一晩の後はどうすれば良い?』

「俺の輸送ヘリ経由で大豊と通信を繋げて指示を仰げ。そこまでなったらミッション失敗だ」

『わかった。無事を祈ろう』

「ああ、行ってくる」

 

ーーーーー

 

大豊ルビコン支部調査

 

作戦領域:ベリウス地方大豊ルビコン支部

依頼者:−

作戦目標:通信途絶の原因調査、原因の排除

報酬:−

 

詳細

 

・護衛任務の一部につき報酬未定

 

ーーーーー

 

『メインシステム 戦闘モード起動』

 

「ミッション開始、ロビン聞こえるか?」

『聞こえるっす。ACの中でオペレートなんてはじめてっすよ』

「だが、不足の事態に対する対策だ。頑張ってくれ」

『ちゃんと真面目にやるから安心してほしいっす』

 

 そう規模の大きくない生産工場。

 先ほどからACの機能の一つである長距離巡航ブーストを使い大豊支部を上空から偵察しているが、敷地内に幾つかの武装集団が見える。

 

 MT部隊の画像データをロビンに送信して解析を任せておこう。

 

『識別データを確認、これはアーキバスのMTっすね』

「アーキバスだと?どの部隊か判るか」

『これはたぶんV.Ⅲの諜報部隊じゃないっすか?ほらここ、施設に接続してるMTがいるっす』

「ヴェスパー部隊の番号付きか。あまり相手にしたくないが……」

『あっ、四脚ACを確認したっす』

「確定か」

 

 長距離巡航を切り、ロビンから送られてきた解析データを確認する。

 どうやら降伏に近い形で制圧されたらしく、建物内に多数の生命反応がある。

 

 一先ず大豊の社員や工場は無事らしい。

 なら、あまり手荒な真似はしない方が良いだろう。

 下手に大豊支部に被害を出すと大豊本社から反感を買いそうだ。

 

 それにしてもV.Ⅲオキーフか。

 アーキバス情報部門の特殊情報局員にして、第9世代強化人間の番号付き。

 元々は第2世代強化人間としてオールマインドに協力していた一人であり、そして人間であることにこだわりオールマインドを裏切ったと思しき男。

 

 まあ、交渉の余地はあるだろう。

 

「少し秘密の話をする。こっちからの通話を閉じるぞ」

『ちゃんと相手の尊厳には配慮するっすよ?』

「善処する」

 

 長距離巡航を辞めた機体が降下し、敵陣のど真ん中へと降下していく。

 多少落下地点を調整し、V.Ⅲオキーフの前に舞い降りて通信回線を開く。

 

『て、敵しゅ「久しぶりだなぁ!元気にしてたかお前!今はえーと、オキーフだっけ?ルビコンに来てるって聞いたからこの親友自ら会いにきてやったぜ!」』

 

 コーラルで錯乱した狂人のように、自分の異名とオキーフの背景へのある程度の整合性を演じながら親しげに吠え立てる。

 困惑した周囲は攻撃を中止してこちらの様子を伺っていた。

 よしよし、好都合だ。

 このまま騙しきれそうだ。

 

 あとは、この演技にオキーフが乗ってくれるかどうかなのだが。

 

『誰だ、お前は。いったい何のことを「つれないなあオキーフ!お前にコーラル呑ませたらリリースしやがった時に介抱した俺の事を忘れたかぁ!?」……ッ!』

 

 小さく息を呑むV.Ⅲオキーフ。

 

 予想通りだ。

 オキーフのコーラルリリースに対する驚愕の音は、周囲からすると恥部を晒された焦りの声に聞こえることだろう。

 

 狂人の戯言の裏で、ひっそりと秘匿回線へ通信を試みる。

 通信申請の題名は直球に『コーラルリリース』。

 これで察してくれるはずだ。

 

「あの時は愉快だったなあ!知ってるかお前、ぶっ倒れたお前の下半身剥いたらケツの穴から赤いコーラルがリリー『狂人の真似事はもういい。報告は秘匿回線で聞こう』ース……なるほどぉ?オキーフと俺の秘密の逢瀬!いやぁんこんな衆人環視の中で恥ずかし『早く開け』……うぃ」

 

 オキーフの駆るAC『バレンフラワー』が奥の物陰を指すと同時、双方向の秘匿回線が拓かれる。 

 

「正直すまんかった」

『もっと穏当な手段を選んで欲しいものだな』

 

 物陰に隠れると同時に謝る。

 こういう謝罪は早ければ早いほど良い。

 特にややこしい話をするなら尚更だ。

 

『それで、オールマインドの遣いなのだろう。いったい何用だ』

「違う。コーラルリリースを阻止する。今回は情報共有に来た」

『……ほう』

 

 低く、唸るような声。

 強い猜疑と警戒に満ちた感情が通信を通して伝わってくる。

 おそらくここから先は言葉を選べという警告。

 そして、僅かな希望を見出す期待が漏れる。

 

 これは推測だが、V.Ⅲオキーフは一人でオールマインドの計画を挫こうと奮闘してきたのだろう。

 それは自分一人で完結させるべきという責任感と、外部に漏洩するわけにはいかないという機密が原因であると推察する。

 

 だからこそ都合良く現れた協力者の存在に対して警戒と疑念、そして僅かな期待をしているのだ。

 それには応えてやらねばなるまい。

 

『何故、そう思った?』

 

 過程を数段階飛ばした疑問。

 ちょっと待ってくれ、俺はそこまで頭が良くないから順番に説明させてくれ。

 

 この質問を解釈すると、何故『俺がオールマインドと敵対していると知っている』、そう思った『理由についてすべて話せ。不審な点があれば殺す』。

 

 ひえっ、怖い。

 まあ、ほとんど真っ赤な嘘をつくから別に気にすることはないんだけど。

 

「俺の部下が中途半端な強化人間でな。頭の中に脳深部コーラル管理デバイスを埋め込んでるからオールマインドから暗号通信が来たんだ」

 

『それで』

 

「だけどアイツ馬鹿で暗号通信の複合方法を聞きにきたんだよ『さっさと解読しろ小童ァ!』ってね。そしたらびっくりコーラルリリースを暗示する内容が含まれてるじゃん。居合わせたソイツに記憶が飛ぶまでコーラル呑ませてから考えたわけよ。これ実行されたらルビコンどころじゃなく人類滅ぶくね?ってさ」

 

『……』

 

「ああ、元々コーラルリリースについては知ってたんだよ。ドーザーのインビンシブル・ラミーって知ってる?オールマインドのランキングだと最下位のやつ」

 

『……ああ』

 

「それが俺の育ての親でさ、コーラルを常飲してるからその性質について色々詳しいんだ。例えば『コーラルに色つけてとばすと一定の方向にとんでいく』、『キメすぎると幻聴が聴こえることがあるからそこがデッドライン』、『デッドラインを超えるとコーラルの海にとけそうになる』、『コーラルは増える生き物』って感じでさ」

 

『そうか』

 

「その相棒の証言と近しいことが書いてある帥父ドルマヤンの随想録を元に俺の育った場所にあったC兵器の残骸を弄くり回してたら『コーラルは真空で増える』って判明したんだ。それで一番大きい真空がどこかって考えたら宇宙だったわけよ。幼かった俺は震えたね。『コーラルよ、ルビコンの内にあれ』ってね」

 

『だが、少量のコーラルを宇宙空間に持ち出しても意味はない』

 

 そうだ。

 もし少量のコーラルが大量増殖するのなら、宇宙空間で撃墜された旧世代強化人間の脳深部コーラル管理デバイスからコーラルリリースが発生してしまうだろう。

 

「ならば宇宙船ですら載せ足らない大量のコーラルに指向性を持たせれば良い。その指向性は幻聴とされている『コーラルの声』とドーザー以上に安定した脳内コーラル濃度をしている『旧世代強化人間』が持たせる。違うか?」

 

『なら改めて聞こう。何故オールマインドと敵対していると思った?』

 

「中央氷原に出稼ぎに行った時にオールマインドと協働してさ。思ったより人間くさかったんだよね。だからアリーナの説明文も元カレ未練文に見えたしオキーフは離反したんじゃないかと思ったわけ」

 

『そうか。お前はオールマインドが何をしようとしているのかわかっているのだな』

「大雑把だけどね」

 

 これで俺の言い訳タイムは終了。

 

 レイジ・レックにオールマインドから連絡が来た下りは本当のことだ。

 昨晩唐突に相談されたから本当に驚いた。

 

 話した通り記憶がトぶまでコーラルを呑ませたし、上書きする為に一晩中昔話をし続けた。

 だから宇宙服の電池が消耗してしまったわけで、普段の俺が充電ミスをするはずがない。

 

 今は徹夜明けなせいで話し方がおかしいしそこからオキーフに疑われないと良いが……

 

 なお、オールマインドには『申し訳ありませんが暗号解読に失敗しました』と俺名義で返信しておいた。

 他人にメールを見せる馬鹿に対して二度と暗号通信を送ってくることはないだろう。

 

 ふふん、完璧な対応だ。

 

『なら最後に一つ質問しよう』

「なんだ?知っている限りは答えるけど」

 

『何故コーラルリリースを知っている』

「さっき言ったじゃん。証言を元に検証したって」

『違う。何故コーラルリリースという名詞を知っていると聞いているんだ』

 

 嫌な沈黙が広がる。

 

 あっ、そういうことかあ。

 やっべ、オキーフ鋭すぎないか?

 

 たしかに俺はコーラルリリースの作用について知っていると説明をした。

 

 だがそれは、『コーラルリリース』という現象の名前を知っている理由にはなっていない。

 なるほど、これは俺のミスだ。

 ちゃんと説明ができていなかった俺のミスだ。

 

『お前は何者だ』

「俺は俺さ。弁明しても?」

『言ってみろ』

「普通に俺の説明漏れなんだよ。実はコーラルリリースって名称自体推測でさ」

 

『ほう。だがお前は確信を持って話していたが……』

 

「オールマインドとACカードゲームをした時に『コーラル』、『リリース』、『旧世代』、『パルス』、『KRSV』って言葉にめっちゃ反応してたんだよ!ならオールマインドとの関係者との用語だとコーラルをリリースするコーラルリリースなのかなって推測したわけ!俺は悪くねえ!」

『何を言ってるんだあの馬鹿は……! 脳味噌が頭に詰まってないにもほどがあるだろう!』

 

 怒号。

 そして嫌な沈黙が広がる。

 

 いや、だって仕方ないじゃん!

 オールマインドって冷静な声の印象に反して意外とノリが良くてさあ!

 船の中での暇つぶしにカードゲーム大会を開催したら意外と強くて読み合いにまで発展したんだよ!

 

 知らなかったよオールマインドがあんな面白いやつだったなんて。

 

『……念の為聞いておこう。お前とオールマインドのデッキはなんだった』

「お、俺がハンミサLCDの迎撃デッキでオールマインドがKRSVロマン偽装アサルトアーマーダガーのワンパンデッキだった」

 

 あれは卑怯にもほどがある。

 1ラウンド目にゲームみたいなマインドβのロマンデッキと思ってたらKRSVからのレザダガAAレザダガの即死コンボを突き刺してきやがった。

 

 俺もうオールマインドのことがわからねえよ。

 

『勝敗はどうなった!』

「俺は負けてない!」

『負けたんだな馬鹿め……!』

「ちくしょう何故バレた!?」

『どこからどう見ても負け惜しみだろう』

「だって仕方ないじゃん!ノーザークの借金取りスタンピードデッキを相手にして疲れてたんだよ!」

『なんだそのデッキは……』

「機体購入時に莫大な借金をすることで第三勢力の借金取りMTを大量召喚するデッキだった」

 

 あれはやばかった。

 重MT含む40機近い同時展開を許してしまった時はさすがに負けるかと思った。

 

 最後の最後にノーザークが隠密判定に失敗してターゲットが向かなかったら圧殺されていただろう。

 

 数の暴力というものを思い知った一戦だった。

 

『はぁ、カードゲームはもう良い。それで情報共有だったな?何を知りたい』

 

 ウンザリした声色のオキーフが本題に入るよう促してくる。

 

 おお、そうだったそうだった。

 情報共有するんだった。

 

「いや、俺から共有と提案をしに来た」

『聞こうか』

「オールマインドのコーラルリリース計画はアーキバスがコーラル集積地点を掌握することが前提のシナリオだ。だが、俺はそもそもどの陣営もそこに到達させる気はない」

『ヴェスパー第3隊長に言い放つとは随分自信があるようだな』

 

 にわかに殺気立つバレンフラワー。

 その手に握るプラズマライフルを向けてくる。

 

 おお、怖い怖い。

 

「自信なんて無い。道なき道を進む暴挙だから、少しでも確率を上げるために布石を敷くんだ」

『……銃口を向けられて全く動じないとはな』

「続けて良い?」

 

『続けろ』

 

 おっかないプラズマライフルを突きつけられたまま話を続行する。

 

「ヴェスパー第3隊長オキーフ。もし俺の思惑通りに進んだ場合、解放戦線と内通しているらしいV.IV ラスティと共にアーキバスを抜けて欲しい」

 

『ラスティと共にか』

 

「というか勝手に抜けると思う。抜けるタイミングは誰でもわかるぐらいの大事件を起こす。そうしたら企業勢力は一気に劣勢に陥るからアーキバスに残るメリットも無くなる。最善はその後協力してくれることだけど、無理強いはしない。どうだろうか」

 

『……そうだな』

 

 プラズマライフルに光が灯り、段々と紫電を滾らせていく。

 最大までチャージされた凶器に対して、Potooooooooの頸元を差し出す。

 

 ここまで密着した状態だ。

 もし発射されたらACSなど機能せず一気に消し飛ばされることだろう。

 

『良いだろう』

 

 紫電が綻び消え去る。

 

『V.III オキーフはお前の計画が成就するまでお前達に関与しない。その後協力するかは時と場合によるぞ』

「それで良い。ありがとうオキーフ」

 

 四脚を悠々と動かして背後を見せるオキーフについていき、直々に出口まで見送られる。

 

「まったく、身元のわからない相手に背中を見せるなんて油断しすぎだぞオキーフ」

『お前のことは既に調べがついている。ドーザーの親友を名乗る少年、ベスティー・ナイトシェイド』

「そこまでバレてた?」

『お前はアーキバスとベイラムと敵対しないように動いているだろう』

「請けてる依頼まで完璧じゃないか」

 

 こちらを見守るアーキバスのMTに対してポテイトーズの右手を振ってみると少しだけ得物を掲げてくれた。

 なんだよ、アーキバスも良いやつ居るじゃん!

 嬉しくなってブンブン腕を振った。

 

『ならば、企業陣営と敵対する理由はない。お前もそこまで愚かではないだろう』

 

 そこで通信が復旧した。

 

『お頭、大豊支部を取り返すんじゃなかったんすか?』

「あっ、いっけね。どうしたものかねぇ」

 

 うーん、思いつかないな。

 このままアーキバスが大豊支部を放棄してくれるはずもない。

 せっかく仲良くなったんだ、敵対せず追い払える方便は無いだろうか?

 ……頭が良さそうなオキーフのことだ、適当に嘘をつけば狙いを察してくれるだろう。

 別に気負う必要もないか。

 

「まあね。そういえばさっきバルテウスと遭ったんだ。ヘリアンサス型に誘導されていたみたいだけどたぶんオキーフ狙いで来てるよ」

『……はあ。ウンザリするが、これがドーザーか』

 

 諦めた声で部下に指示を出しはじめるオキーフ。

 

『V.III オキーフより通達。 上位隊長の権限において指示を出す。近傍にて惑星封鎖機構の無人特務機体バルテウスの出現が報告された。現時刻を以て大豊支部は放棄し速やかに撤退する。必要なデータは手に入った、これ以上は無駄だ』

 

 撤退準備で慌ただしくなったアーキバスMT部隊を尻目に、キーボードから精密な値を入力しACから大豊支部の端末に向けてハッキングを行う。

 

 大豊に対してアーキバスがなにか工作をしていたら、ひょっとすると俺の計画がバレてしまうかもしれないからウイルスとかを除去しておくのだ。

 

 カウンタープログラム無し、バックドアの形跡無し……あっ、コイツら情報送信用のスパイウェア忍ばせてやがる。

 大豊の人達が解放されたら伝えておこう。

 

『オキーフ長官、そちらは一体?』

『そいつは独立傭兵として潜入させている馬鹿だ。聞いての通りあまり頭は良くない。ウンザリするが、これも仕事だ』

 

 おっ、そういう設定か。

 なら乗っておこう。

 

「先ほどは失礼いたしました。ドーザーとして独立傭兵をしております"Bestie" Night Shadeというものです。アーキバスが○○年にルビコンIIIに降下する作戦でオペレーターをしていましたので知っている方も居るのではないでしょうか」

 

『オキーフ長官。この声、聞き覚えがあります』

『……そうか』

 

 秘匿回線が開く。

 

『おい。アーキバスの依頼を受けたことがあるなど初耳だ』

「いやだってあの頃は違う名義使ってたし。ワキシーって名前だから調べてみてくれ」

『なんだその名前は。……チッ』

 

 苛立ちからの舌打ち。

 

 うん、わかるよ。

 自分も自分の相手していたら絶対に苛つく。

 むしろこの交渉をよく受けてくれたものだ。

 

 たぶんオキーフは使えそうな駒を一つ増やすぐらいのつもりで抱きこんだら頭ドーザーだったことに苦労するのだろう。

 

「大変だね」

『お前が言うな』

「申し訳ない」

 

 しかしまあ、思った以上にV.IIIオキーフは友好的だった。

 厭世的に見えて今を必要としているという評価からある程度人間味を感じていたのだが、本当に人間性に溢れる人物でびっくり。

 こんな良いやつが組織の暗部とも言える諜報を担っているなんて、アーキバスとはとんでもない組織だ。

 

「そろそろ俺もお暇させてもらおうか。また会ったらよろしくな」

『二度と来るな』

「酷い!」

 

 V.IIIオキーフからの罵倒を受けながら正面入口からでていく。

 困惑した様子のアーキバスMTに手を振ってから大豊支部から撤退した。

 

『お疲れ様っす』

「おう、なんかなんとかなったわ」

 

 数分ほど移動し、岩陰に隠れているロビンと訓練生達と合流する。

 ロビンから帰還の報告を受けてワチャワチャと出てくる訓練生達。

 おうおう、動きにくいから取り囲まないでくれよ。

 

『何がどうなってアーキバスが撤退していくんすか?』

「わからない。データ取りが目的だったらしい」

『大豊の設計図面でもすっぱ抜きに来たっかね?』

「大豊の人達は置いていくみたいだから何が目的だったのだか聞いてみれば良いんじゃないか?」

 

 あの大豊支部もベリウス地方にあるから合流地点として使われただけで、多少工場としての機能を持つ以外はそう規模は大きくない。

 

『独立傭兵、大豊ルビコンIII支部の方々は無事なのか?』

「生命反応は多い。たぶん無事だろう」

『そうか、それは良かった……』

 

「アーキバスが撤退した後、お前たちを送り届ければ任務完了だ。短い期間だが濃い一日を楽しませてもらった」

『はっ!お世話になりました!』

 

「良い返事だ!俺は疲れたから1時間ほど寝る。それだけ時間があればアーキバスも撤退するだろう。ロビンは見張りを頼む」

『護衛任務中に寝るっすか!?……よーし出番っすよ軍人ども!円陣組んでお頭を守るっす!』

『はっ!了解です姐御!』

 

「いやいや、護衛対象をこき使うんじゃ……待て、いつの間に仲良くなった?」

『お頭が内緒話をしてる間に暇つぶししてたら仲良くなったっす』

『ロビンさんにはルビコンの常識について教えてもらいましたね。思ったよりも教養深く、とても興味深い話をしていただけました』

 

「へえ、例えばどんな話だ?」

『お頭があの動画のキレキレ大豊マンってことっす』

「バラしてんじゃねえよ馬鹿ロビン!」

『あーっ!馬鹿って言ったほうが馬鹿っすよ!』

『ま、待ってくれ。姐御は馬鹿だからただお頭さんの事を自慢したかっただけなんです!』

『こっちを馬鹿にするとは良い度胸っすねそこの軍人ヤロウ。夜道には気をつけるっすよ』

『はっ、夜道には気をつけます姐御!』

『ソイツは純粋に敬意を持っているのに無意識に毒を吐くからルビコンに左遷されたんだ』

『それ初耳なんだけど!?』

 

「あーもう!俺は寝るぞおやすみ!」

 

 見張りを馬鹿どもに任せてシートに身体を沈める。

 ほぼ徹夜明けに頭を回したから疲れた。

 今夜はしっかり寝よう。

 




オリ主:実は多数の敵との戦闘でバーストマシンガンの弾切れが近かった。V.IIIオキーフと戦闘する場合は基地内を逃げ回りながらMTを殲滅し一時撤退、訓練生達の持っている大豊製マシンガンを借りて戦うつもりだった。長年倫理感がイカれたドーザーと生活していたせいで多少論理破綻している。料理は好きだが大抵のものはコーラルアレルギーで食べられない。頭が馬鹿。

V.IIIオキーフ:アーキバス諜報局員にしてヴェスパー3の座を持つ元エージェント。通称オキーフ長官。大豊が最近不審な動きを見せていたので支部に攻め入り情報収集していたが、いきなり襲来した訳のわからないドーザーと対話する羽目になった。一切の証拠を残していないコーラルリリース阻止計画がバレていることから、ベスティー・ナイトシェイドに対して異様な深読みをしている。

大豊の訓練生達:捨て駒同然の装備でルビコンIIIに投下された可哀想な奴等。大豊ルビコンIII支部にもこの突入作戦を知らされておらず、受け入れの際にも一波乱あった。このミッションの1週間後、大量の火鍋玉とレシピ集を贈られお祭り騒ぎになっている。そこそこ馬鹿だが有望な新兵たち。

オールマインド:暗躍ガチ勢。訓練生達のアセンブルがゴミな理由は大豊のルビコン突入作戦を察知したオールマインドの情報工作が原因。バルテウスをヘリアンサス型で誘導していたのもオールマインドだが、降下した大豊の訓練生達と遭遇したのは完全に偶然。大豊支部に攻め込んだオキーフにバルテウスを突っ込ませる予定が狂った。
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