【完結】じゃんじゃかジャンカードーザー傭兵   作:白河童小鼠(人間)

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連続投稿最終日になります。
今日は8:00にもう一話投稿する予定です。


老爺と傭兵と仇討ち

 

「そんな訳でコイツらの面倒を頼んだ」

「愚か極まりない小童がまた馬鹿どもを拾ってきおった……ええい、忌々しい!」

「レックさんもお頭に拾われてD&Jに来たじゃないっすか」

 

 いつもの輸送ヘリの中。

 しかし、いつもとは違い窓から見えるのは岩壁。

 ここはD&J元本拠地、旧技研食糧生産プラント。

 

 山一つの中身を改造して作られた農場だ。

 

 海賊の虜囚を受け入れてから一晩が経った。

 

 結局あの後、非番のロビンに輸送ヘリを運転してもらいD&J旧拠点、食糧生産プラントに運搬してもらった。

 

「相も変わらず騒々しいわい」

 

 輸送ヘリの片隅で相棒とコーラルを啜っていた老爺が顰め面で文句をこぼす。

 

「お変わり無いようで、先々代」

「先々代の爺様ちーっす。お頭の次はこっちが継ぐ事になったっす」

「ふむ?ロビンや、お前が次なのかい」

 

 目を丸くして眼鏡を直す老爺。

 このお爺さんは自分の先々代にあたる7代目D&Jリーダー、オルコスさんだ。

 

 ドーザーとしての通り名は"Bolster"Orkos。

 ドーザーにしては珍しいギリシャ風の名前が特徴的なオルコスさんは、ドーザーにしては珍しい穏健派の好々爺で食糧プラントの管理人。

 隠居していたところに押しかけたD&Jの戦闘員希望の奴らの世話を引き受けてくれた面倒見の良い爺さまだ。

 

 ちなみに自分が9代目でロビンが10代目。

 8代目は既に故人だ。

 なんでもケツから直で生コーラル突っ込んだら多臓器不全で逝ったってさ。

 面白い人だったが、俺がD&Jに入ってから3ヶ月でそうなったので8代目がどんな経歴の人なのかは知らない。

 話してみたかったような、みたくないような。

 

「そうか。あの鼻垂れコマドリがここまで立派になって……うん?物理的に背丈が大きくなっておるのか?」

「今190cmぐらいっすね」

「ふうむ、健康診断は引っかからなくなったのかな?」

「おかげ様で体内コーラル濃度が平常値まで下げられたっす。爺様には感謝してるっすよ」

 

 タブレットで健康診断の結果を表示し、オルコスさんに渡すロビン。

 

 ……ここだけの話、昔D&Jにやってきたばかりのロビンはかなり酷い状態だった。

 

 そもそもロビンはエルカノのお嬢様だ。

 エルカノのミールワーム養育用コーラルタンクに転落し、意識混濁状態の治療の為にD&Jにやってきたのが最初の経緯だったはず。

 

 数ヶ月かけて自意識を取り戻したことは懐かしい思い出だ。

 あの頃はまさかこんなイタズラっ子だとはおもっていなかった。

 懐かしい。

 

「そうかいそうかい。それに比べてそこのノッポは相変わらず騒々しいのう?頸を刎ねたら少しは静かになるだろうに」

「爺は棺桶で寝ていることだな」

 

 オルコスさんとレックが皮肉の応酬をする。

 この二人の会話はいつもこんな調子だ。

 よっぽど気が合うのかオルコス爺さんが逆鱗に触れるようなことを言ってもレックから鉄拳がとばない。

 レックの鉄拳は老若男女問わず落ちるが、オルコス爺さんは別らしい。

 

「減らず口を。棺桶と言えば鉄の棺桶だが、デュラハンに乗りこなせているのかどうか心配でのう。ラミーや、レックは上手くやっとるかな?」

「へへ、レックは中々見所ありますぜえ爺さま」

 

 鉄の棺桶……アーマードコフィン……AC?

 レックがACで戦えているのか心配なのだろうか。

 

 相棒がコーラルでへべれけになりながらレックを褒めている。

 これは社交辞令、なのか?

 ……いや、相棒のことだ。

 本当にレックに見込みがあるのだろう。

 

「そうかいそれは残念。それでベスティーや、また人を拾ったと聞いたが。儂のプラントは学校ではないのだぞ?」

 

 話題が自分に向く。

 オルコス爺さんは良い人なのだが、口が達者だ。

 何を言われるやら。

 

「申し訳ない。爆殺するのは面倒でさ」

「極端なことを口走って煙に巻こうとするのは変わらずかい」

 

 おっと。

 

「バレた?」

「お前は昔から得体が知れないからのう。そもACの操縦などどこで習得してきたのやら」

「前世」

「見え透いたような嘘を本気で嘯くな」

 

「本当だってば」

「お前の前世は平和ボケした一般人よ」

「あっはっは。なら可哀想な人達に情が湧くのも納得できる?」

「馬鹿はこれだから手に負えん。吐いた言葉がどこまでが嘘なのか自分で把握できてないのだろう」

 

「それはそう。聞いてよ先々代、実はこの前実害出ちゃってさあ、大豊の任務で……」

「言わんで良い。巻き込むな、そして試すな」

 

 心底嫌そうに眉を寄せるオルコス爺さん。

 この人リスクに対する勘が冴えてるんだよね。

 

 今回はオキーフと遭遇した際の話をしようとしたら断られてしまった。

 

 昔に酔いの口上で話した前世についても覚えているとは恐れ入る。

 

「まあ良いわ。爺は己がボケた時に介護してくれるよう育てるだけよ。それで、傭兵団を組織するのだったか……正気か?」

 

「正気だと思う?」

「お頭は最初から正気じゃないっすよ」

「気狂いの類よ」

 

「うるさいぞお前ら。……ちなみに相棒はどう思う?」

「ドーザーだろ」

「つまり仲間と。ほほ、良い仲間ではないかベスティー」

「いやぁ、俺には勿体ない仲間達で」

 

「もう少し若ければ弑して首魁の座を奪ったものを」

「心の声漏れてるぞ先々代」

「ベスティーや、飯はまだかのう」

「爺さんや、介護士はこれから育てるのでしょう?」

 

「おお、そうだったわい。して、その傭兵団は儲けられそうかな?」

「あ、それ団長になる身としてこっちも気になるっす。実際のところどう見込んでるっすか?」

 

「オール・オア・ナッシング。生きるか死ぬか、生き残れば儲けも残る」

「ならば良い。どうせアレだろうて、またアイビスの火が起こるとかそんなところか?いや、言わんで良い不吉な言霊になる」

 

「不吉と言えばベイラムのレッドガンにさあ……」

「首だけの、蹴落とせ」

「ドラァ!」

「お、お頭ぁ!」

 

 胸部をレックにドロップキックされ仰向けに倒れ落ちる。

 背中に凄まじい衝撃の連打、階段を滑り落ち下の階に降りてようやく止まる。

 何だよもう、つれないなぁ。

 

「それじゃあな、9代目。心配せずとも1週間後には家事手伝い程度には仕込んでおこう。任務もあと2日頑張りな」

 

 俺をわざわざ踏んで去っていった7代目のオルコス爺さん。

 酷いなぁ!?

 わざわざ踏んでいかなくたって良いだろうに。

 

「死亡確認ヨシ!これが今回の実験体っすか」

「ああ、資料では元独立傭兵だとか」

「なるほど、例のルートからっすね。負債は相当な額だったそうっす」

「夢破れたり、か。ざまあないな!だがこの実験で生まれ変わるだろう」

「生きていれば、っすけど」

「まあ、そういうことだ。では始めようではないか」

「ヒャッハー!もう我慢出来ないっす!強化人間手術ギュイーンずどどどーん!」

「まあ待てコマドリ、確か手術を受けた時の脳内ノイズを再現した教育用音源があってだな……」 

「随分と楽しそうだなお前ら」

 

 周りでガキみたいにはしゃぎはじめた馬鹿どもを引き倒して立ち上がる。

 

 痛てて、後で肩に湿布を貼っておこう。 

 宇宙服を着ているとはいえ、流石に階段を滑り落ちると身体がキツい。

 

 さて、気を取り直してミッションに移ろうか。

 

ーーーーー100%

 

『やあ親友。君の善き隣人ノーザークだ。

この一ヶ月、君に斡旋したミッションの仲介料で随分と儲けさせてもらったよ。

 

 積もる話もあるが本題に入ろう。 

 ここ最近は封鎖機構による好景気の影響で借金取りの活動が活発化していてね。

 数が多くなってきたのでそろそろ間引いておきたい。

 

 そこで今回、こちらの名義でおびき寄せた借金取りを一網打尽にしてもらいたい!

 ……ああ、報酬についてはあの忌々しい医者崩れに先払いさせられたので信じてくれて良い。

 とにかく、報酬以上の働きを期待しているよ』

 

ーーーーー

 

取り立て屋殲滅

 

作戦領域:ベリウス地方中部 平原地帯

依頼者:独立傭兵ノーザーク

作戦目標:敵部隊殲滅

報酬:100,000 coam

 

詳細

 

・借金減少額に応じて報酬を加算

・仲介人による報酬保証あり

 

ーーーーー

 

「借金減少額に応じて報酬加算ってどういう意味っすか」

「ノーザークの債務額が大きい奴ほど報酬が上がるってこと」

「変な報酬設定っすねぇ」

「俺もはじめて見た」

 

 画面に映る胡乱な詳細欄に二人して首をひねる。

 

 なんだよこの報酬設定。

 そもそも取り立て屋を潰したところで借金を減少できる訳が無い。

 

 貸付けを行った本人を消すならいざ知らず、取り立てを代行する取り立て屋をどうこうしたって借金は減らないだろうに。

 

 ……ははぁ、なるほど。

 難癖をつけて報酬を渋ろうとしているのか?

 

 ノーザークは金に関して独特の経済感覚を持っている。

 オールマインドのアリーナにすら『ノーザークは自分の金と他人の金を区別しない。独特の経済感覚を備えており、借金を抱えては踏み倒すことを続けている』と明記されている有様だ。

 

 ありえない話ではない。

 

 だが、それにしてはお医者さんという仲介人による報酬保証がある。

 あの人を通した依頼なら、報酬が支払われること自体は間違いないだろう。

 

 ……よし、やろう。

 

「あっ、そうだお頭」

 

 ロビンが少し申し訳無さそうな顔で話しかけてくる。

 そんな殊勝な顔をするなんてどうした?

 なんか嫌な予感がするな。

 

 面倒事じゃなきゃ良いんだが。

 

「こっちはこっちでエルカノの依頼を受けるんで今日は協働できないっす。クソドーザーの殲滅がてらお頭の言ってた試験兵器とやらの試運転をしてくるっす」

「エルカノ……俺の言ってた試験兵器……ニードルミサイルか!あれを使えるのか!?」

 

 なんだと、エルカノのニードルミサイルがもう形になっているのか?

 あれはとても面白い兵器だ。

 ニードルミサイルTRUENOはミサイルとしての誘導性能と弾丸並の超高速の発射を併せ持つ初見殺し武器の一つ。

 

 そういうサプライズは最高だ!

 

「うへへ、羨ましいっすか〜?」

「羨ましい!良いなー!俺もニドミサの試験やりたい!」

「そうっすよねぇ〜!羨ましいっすよねぇ〜!うへへへ、ぱっと見た感じあれは最高の兵器っすよぉ〜!」

「そうと決まればアセンブルを見直さないとな」

「急に落ち着くんじゃないっすよ」

 

 ニードルミサイルは少し癖の強い武器だ。

 FCSにミサイルロック性能を要求し、誘導を機能させるには多少の時間がかかる。

 

 ミサイルという題目にも関わらず、二脚では反動による射撃態勢を取らなければならない。

 試験という性質から機能不全を起こすことも最悪視野に入れなければならないだろう。

 

「よし決めた」

 

ーーーーー

 

右腕武器 DF-BA-06 XUAN-GE

左腕武器 HML-G2/P19MLT-04

右肩武器 EL-PW-01 TRUENO

左肩武器 BML-G2/P19SPL-12

 

頭部 AH-J-124 BASHO

コア DF-BD-08 TIAN-QIANG

腕部 AC-2000 TOOL ARM

脚部 LG-022T BORNEMISSZA

 

ブースタ ─

FCS FCS-G2/P10SLT

ジェネレータ DF-GN-02 LING-TAI

 

ーーーーー

 

「お頭?」

「お前もそろそろガチタンデビューする時が来たようだ」

「こっちまだ機種転換訓練済んで無いっすけど!?」

 

「知ってるぜロビン。お前、オールマインド正規の中等傭兵教育プログラム4:タンクをクリアしてるだろう」

 

「それはそうっすけど流石にあれだけだと不安で」

「大丈夫大丈夫!中等傭兵ならいけるいける!」

 

「……あ、わかったっす。お頭、何故かオールマインドの傭兵教育プログラム受けさせてもらえなくて嫉妬してるっすか?嫉妬してるっすかぁ?」

 

「それもある」

「あるんすか!?」

 

 そりゃあ嫉妬は当然ある。

 俺はオールマインドに嫌われるような真似をした覚えが無いにも関わらず、何故か傭兵教育プログラムを受けさせて貰えない。

 ロビンやレック、それに相棒のラミーも受けることが出来たにも関わらずだ。

 

 だからオールマインドのシステムにハッキングをかけて諸々のシミュレーションデータをぶっこ抜いたわけだ。

 

 それはそれとして、別の理由もある。

 

「まともな理由もあるぞ。グリッドって地形が複雑だろ?だから丁度良い操縦訓練になると思ってね。タンク脚部の難点は立体機動の難しさだし」

 

「あー、お頭は機動力に難のあるタンクだと二人で囲めば押し切れるぐらい弱くなるっすからね」

 

「生憎と俺は生粋の二脚使いでね」

 

 震えそうになる声を抑えて余裕を装ってみせる。

 屈辱的なことに自分はロビンとレックのコンビに敗北したことがある。

 シミュレータによる模擬戦で自ら仮想敵を演じて戦っていたのだが、使い慣れていないタンクを用いたところ完膚なきまでに叩きのめされてしまった。

 

 ……いや、使い慣れていないという言い訳は訂正する。

 喜ばしいことに、あの二人は自分を乗り越えるだけの力を身に着けることができたんだ。

 

 それをどうして否定する必要がある?

 悔しかったのは事実だが、その努力と結果に敬意を表するべきだ。

 表するべきなのだ……!

 

 ちくしょう、未だに負けが悔しい!

 

「とはいえ、そっちの勝ちは勝ちだからな……!」

「あー……こっちは安物の中量二脚で重量AC二機を圧倒できるお頭がおかしいと思うっす」

 

 見え透いたおべっかが今はありがたい。

 賛辞は良い。自分にはそれが必要だ。

 

 気を取り直していつも通り威張ろう。

 

「聞いて驚け、俺はまだ本気機体を残している」

「それ何度も聞いたっす。でもその本気機体ってまだ未開発のパーツを使うせいで、シミュレーター上でも組めないって言ってたっすよね?」

 

「うん。悲しいね」

「元気出してほしいっす」

「ごめん、自分で思ってたより気にしてた」

 

 今現在俺はアーキバス側に伝手が無い。

 一応、V.Ⅲ オキーフを経由して購入許可を出すように要請することも出来なくはないが、それをやると折角アーキバスを刺激しないよう動いている努力が無駄になる。

 

 ゲームだった頃に愛用していたストーリー用のACも対戦用のACも、アーキバスがまだ開発していないパーツを使うので組めないことが困りものだ。

 

 できない事は気にしても仕方ない。

 今あるものを活用するのがジャンカーの流儀だ。

 

「さて、そろそろ準備にかかろうか」

 

ーーーーー

 

 作戦地点の荒野に赴くとそこにはかなりの数のMTが集まっていた。

 衝突防止の為、ブーストを切って徒歩でMTの群れを歩く。

 

『よっ、そこのAC。お前も借金王に貸したクチか?』

「そうなんだよ。ギャンブル代に使うって話だったが見事に騙しとられちまった!せっかく同好の士ができると思ったんだけどなぁ!」

『わっははは!ギャンブルさせる為に人に金を貸すなんざ酔狂だなぁ!』

 

 通信してきた奴に適当に話を合わせつつ中心部のMTが密集している箇所へと向かう。

 それにしてもこれ全員借金取りなのか。

 

 BAWS製四脚重MTが3機、2脚MTとガードメカが大雑把に20機以上。

 RaD製の腹筋爆発ダンゴムシが1機、4脚『クラッチ』が3機、キッカーが6機。

 

 おまけにこれは……どうしてACが居る?

 黒に紫をあしらった角張った機体、ベイラムのメランダーを基礎に安いパーツで軽量化を施しているように見える。

 

 ノーザークはそこまで多方面に喧嘩を売っていたのか。

 この敵の物量で報酬10万COAMは詐欺だろう

 これらを纏めて相手取るのはかなり骨が折れる。

 一先ず情報収集をしてみよう。

 

「COM、機体構成と所属を照合してくれ」

『解析完了。開示します』

 

ーーーーー

 

所属タグ:独立傭兵パール

ランクF/-

AC:アーチスラグ

 

機体構成

 

右腕武器 WS-1200 THERAPIST

左腕武器 WS-1200 THERAPIST

右肩武器 FASAN/60E

左肩武器 −

 

頭部 HD-011 MELANDER

コア BD-011 MELANDER

腕部 AA-J-123 BASHO

脚部 2C-2000 CRAWLER

 

ーーーーー

 

「コイツは少しヤバいな」

 

 正直に言ってかなり巧い構成だ。

 軽量〜中量気味に機体重量を纏め、耐弾・耐爆性能を上げた高速機体。

 左肩に武器を装備しないことでEN負荷と機体重量を減らしている。

 

 FCSの補足限界距離に近い遠距離から、FCSの性能に頼らない放物線軌道を描いて攻撃することのできるTHERAPISTで接近のリスクを減らし、重MTにはEN武器のFASANで効率良くダメージを与えるのだろう。

 

 恐らく仮想敵をMTに絞っている。

 逃げるも攻めるも使い手次第のまさに巧い機体だ。

 

 相当ACに精通しているか、もしくは腕の良いアーキテクトにアセンブルを依頼したのか。

 とても厄介そうな奴だ。

 

 情報収集のため世間話を装って話しかける。

 

「こんにちは先輩。あんたもノーザークに金を?」

『……僕か?』

 

 気怠げな若めの男性が応答する。

 声に疲労が滲んでいるが、警戒を怠ってはいない。

 会話の経験が少ないのか自分に話を振られたのか自信がないらしい。

 こういうタイプは会話を嫌うか会話が苦手なだけ。

 前者であれば早々に会話を断られるだろうが、応答してくれた以上後者だと考えよう。

 

「そう、貴方。まさかこの場に同業が来ているとは思わなかったから話したくなってさ」

『……ああ、そうだね。僕も他の傭兵が来るなんて思ってもみなかった』

 

「それで先輩、あんたはどうしてここに?」

『そこのTOYBOXの護衛依頼さ。報酬は安かったがノーザーク自身が出てくる公算は低いと見てね』

 

 近くにいる腹筋爆発ダンゴムシに視線を向けると、肩をすくめるような動作をするACアーチスラグ。

 参ったな。

 ACで滑らかにこんな動作ができるなんて相当熟練の傭兵らしいぞ。

 ますます相手したくなくなってきた。

 

「へえ、そんな依頼が出てたのか。最近立て込んでて依頼掲示板見れてないから知らなかったよ」

『このまま依頼の時間まで過ぎてくれれば良いんだが』

「……ちなみにノーザークが襲ってきたら元は取れそうですかい?」

『……どうだろうね。君やそこら辺の四脚が前衛をしてくれれば修理代は浮きそうかな』

「とすると積極的には戦いたく無いと。そこまで金にならない依頼だったのか……」

『ああ、全くだ』

「断言するとは難儀だねぇ」

 

 この男、パールは依頼として護衛を請け負っただけで、ノーザークに恨みは無いらしい。

 そして任務自体も端金であり、もしヤバい襲撃があれば逃げ出すことも視野に入れていると。

 

 これは良いな。

 よし、やるだけやってみよう。

 

 回線に暗号化による秘匿を施し、擬似的な専用回線にする。

 これで外部から傍聴することは難しいだろう。

 

「ちなみにお幾らで?」

『……わざわざ秘匿回線を開くとは下世話な話が好きなんだね』

「独立傭兵としては新米だからこういう依頼の相場が気になるんだ。先輩の気に障ったなら申し訳ない」

『はぁ、先輩として後輩に特別に答えてあげようか。僕はそこのTOYBOXに30000 COAMで雇われている。とはいえあまり身入りは良くないから真似しない方が良い』

 

 安っす!

 えっ、襲撃の見込みが少ないにしても安過ぎないか!?

 30000 COAMなんてあの武装構成で少し戦闘すると修理代込みで赤字になる。

 全体的に弾薬費が高い構成なのによくやっていけてるな……

 

 でもその程度の金額なら俺のポケットマネーでも出せる。

 ちょうど良い価格帯だ。

 

「なら先輩、60000 COAMで俺に雇われない?」

『……なんだって?』

「報酬は60000 COAM半額先払い、内容はここに居る奴らを殲滅する手伝い。俺は先輩が一番の脅威だと判断したから、ここから撤退してくれるだけでも半額の30000 COAMを支払おう。できれば依頼を受けてMTを間引いてくれれば助かるけどさ」

 

『一応聞いておこう。僕はあくまで間引き程度で良いんだね?』

 

 おっ、予想以上の食いつき。

 これは相当不満が溜まっていたらしい。

 

「そうそう。逃げ出すやつを間引きしてくれるだけでも良い。もし戦いたくなったら突っ込んで来てくれても良いけど?」

 

『それは勘弁してくれ。僕はルビコンでまともに戦う気はもう無い……君に勝算はあるのかい?』

 

「真正面から行って全部倒す。と言いたいけど、BAWS製四脚MT三機相手はキツいから不意討ちする。一機落とせたら後は有象無象だ」

 

 そう強がってはみるが、この大群を一度に相手どっては苦戦は免れないだろう。

 しかし、ここが先輩が依頼を受けてくれるかの瀬戸際なのだ。

 多少ホラを吹いてでも強がらねば見限られて裏切りを招いてしまう。

 

『まったく、とんでもない後輩が居たものだ』

「それで先輩はどうする?」

『……そうだね。そこのトイボックスを見逃してくれるなら僕は依頼を受けよう。護衛対象はそいつだけだ』

「先輩に免じてそこのトイボックスは見逃すよ。巻き添えを食わないように全力で撤退させてくれ」

 

 待つことやや暫く。

 ノロノロと去っていくトイボックスを見送る。

 

 MTに共通した特徴だがこれらは瞬発的な移動手段を有してこそいるものの、通常時の移動速度自体はそこそこ止まりだ。

 

 それでもACの速度を基準にしているから遅いのであって、50km〜100kmぐらいの移動速度が出るのだからMT技術というものは凄まじいものがある。

 

 気がつけば既に地平線の彼方に小さな点が一つあるのみ。

 ここまで離れればもう大丈夫だろう。

 

「始めるぞ」

『手早く片付けよう』

 

 パール先輩のACアーチスラグが集団から距離をとり、自分のポテイトーズはBAWSの四脚重MTの内背を向けている一機に向けて緩慢に歩を進める。

 

 この世代の機体にはレーダーに死角となる場所がある。

 昔は自分を上から俯瞰するように表示する形式のレーダーが多かったらしいが、ターゲットアシストの発展により前面の方向だけを表示する簡素なものになっていったとかなんとか。

 

 より戦闘に特化したレーダーになったのはジャンカーとして複雑な気分だ。

 

 複雑な気分をそのまま晴らす為にも狙いすましてレーザースライサーを一閃。

 無敵のラミー直伝の辻斬りだ。

 

『ああ?なんだテメッ……!?』

 

 四脚の内一脚を破壊し、追撃のブーストキックでBAWS4脚重MTの背部砲塔を地面に叩きつけてへし曲げる。

 一機無力化。ここからは時間との勝負だ。

 

 機体のクイックターンに併せてガードメカに四連ミサイルのマルチロックをつけて発射し4機撃破。

 

 そのままレーザースライサーをバーストマシンガンに持ち替えて銃撃して一機、ブーストキックからの銃撃で一機。

 RaD製四脚MTクラッチを二機破壊したところで、独立傭兵パールのACアーチスラグが撒き散らした電撃を帯びた鉄片が残りの一機を刈り取る。

 

 そこでようやく襲撃を理解した奴が公開回線に叫んで戦闘開始。

 さて、ここから頑張ろうか。

 

『なんだおい敵襲だ!』

『は?AC二機ともかよ!』

 

「打ち合わせの通りに」

『了解』

 

 二脚MTの密集している地帯にチャージで広範囲化されたプラズマキャノンが着弾する。

 

 素晴らしい働きだ!

 大量のMTが一網打尽にされる光景を背に、こちらも次の四脚重MTにターゲットロックを定めて機動による撹乱を実行する。

 

『駄目だ!捉えきれねえ!』

『なにがどうなってんだよぉ!』

 

 悲鳴。

 四脚MTは真上への攻撃を行い難い。

 ぴったり頭上に張り付くようにしていれば大きな攻撃を受けることは無い。

 

 戦意を喪失した雑なレーザーブレードによる斬撃を余所を見たまま回避。

 視線の先は群れから外れた逃亡者達だ。

 

 ……思ったより逃げ出す数が少ないな。

 最初に逃げ出したやつにつられてある程度の集団になってはいるが、それでも5機程度。

 

 これは先輩のプラズマキャノンの戦果だろう。

 

「先輩、東南に逃げた奴等を始末してくれ」

『プラズマキャノンは冷却中だ。しばらくかかる』

「わかった。その代わり討ち漏らしは無いよう確実に頼むよ」

 

 先輩に指示を出して視線を下に戻す。

 ターゲットアシスト無しで銃撃を加えていたBAWSの重四脚がスタッガーを起こし、レーザースライサーからのブーストキックで蹴り飛ばして撃破。

 

 こちらを背部バズーカで狙い撃とうとしていた最後の四脚重MTに衝突させて射線を潰す。

 

『なんだあっ』

 

 すぐに残骸は振り解かれるが、その僅かな時間があれば距離を詰めることは容易。

 先ほどの焼き直しのように頭上で射撃し続けてスタッガーからのコンボで撃破した。

 

 残りは残党の掃除だけ。

 大したことも無い雑魚掃除だが、攻撃だけは強いので気は抜かないように気をつけよう。

 そう意気込んだところで通信が入る。

 

『こちらパール。敵性AC一機視認、そっちに向かっている』

 

 は?ACとか聞いてないが?

 目まぐるしく変わる状況に思わず目の前のMTを蹴り飛ばす。

 ノーザークはそこまで恨みを買っていたのか?

 独立傭兵パールの援護があれば楽に終わらせられそうだが……

 

『契約はここまでで良いな?』

「あー……手伝って貰えたりは?」

『これ以上戦闘はしない。そういう契約だ』

「OKわかった。被害を受けないよう気をつけて帰ってくれ」

『理解ある後輩を持てて嬉しいよ』

 

 仕方ない、今回はノーザークの親友である自分が代わりに相手してやるとするか。

 

 殲滅を終わらせて向きなおると丁度通信が入り、その内容に顔を引き攣らせる。

 

『二度も婦女に手を掛けるばかりならず、集団拉致という蛮行……断じて許すまじ。三途の渡しの六文銭、しかと受け取れい!』

 

 エルカノ製の軽量二脚FIRMEZAをベースにオールマインド製の堅牢なコアパーツを組み込む事で接近戦に耐える調整をされた機体。

 独立傭兵『六文銭』、機体名『シノビ』。

 ルビコン解放戦線に身を寄せる殺し屋が強襲を仕掛けにきていた。

 

「誤解だ六文銭!後者は完全に誤解だ!」

 

 開幕の号砲は六文銭の繰るAC:シノビが放った散弾。

 ベイラム製短距離ショットガンSG-026 HALDEMANに対しバックステップで距離をとることによって機体装甲で弾くが、後方に跳ぶ事を読まれたのかブーストキックを受けて距離が潰れる。

 

「俺は天を怨みず人を尤めずを実践しているつもりだけどなぁ!?」

『過ちては改むるに憚ること勿れ。愚かなりドーザー』

「人を以て言を廃せずって言うだろ!?話を聞いてくれぇ!」

 

 抜き打たれるオールマインド製プラズマ機雷投射を事前から動いたジャンプQBによってシノビごと飛び越し、ターゲットロックを切ってABを発動しジグザグに逃亡する。

 

 あの言動、ノーザークじゃなくて完全に自分を狙ったもののはずだ。

 六文銭と戦うのは構わないけどなにか壮絶な勘違いをされている気がする。

 ああいった誤解をされるともしかすると後に尾を引くかもしれない。

 

 なんとかして誤解を解かなくては。

 

「俺はドーザー集団D&Jのリーダー、ベスティー・ナイトシェイド!前者は人違いじゃないか!?後者については海賊の根城から救出した行く宛の無い奴等に仕事を教えているだけだって!後で見に来てくれても構わない!」

 

『己達せんと欲して人を達せしむと?』

「そうだ!俺には野望があるけど、それはそれとして世の為人の為に動くから親友って呼ばれてる。だから前者の婦女?についてもなにか助けになってやれるかもしれないから教えてくれ!」

 

 追ってきたAC:シノビのバーストライフルを左右への揺動で散らし、更に忍び寄る45-091 JVLN BETAを軌道が確定した瞬間に跳び退ることで回避する。

 

 相手の武装で気をつける必要があるのは爆導索と呼ばれるデトネーションミサイルとヨーヨーと呼ばれるプラズマ機雷投射機。

 オールマインド製のこの2つの武装は対単体において凄まじい効果を発揮する武装だ。

 

 加えて警戒すべきはブーストキックからの近接戦闘への移行。

 

『面妖な動きを……油断まかりならん!』

「チッ、キッツいな」

 

 ショットガンは少し離れて装甲で弾く。

 デトネーションミサイルは前世のNESTで飽きるほど対面したので、軌道が確定し発火がはじまったタイミングで機体をずらせば被弾はしない。

 ヨーヨーは今のところ射程内から逃れるように動いているので一撃も受けていない。

 

 ダメージトレードはこちらの圧倒的有利だが、恐ろしいのはあのヨーヨーだ。

 

 あれをスタッガー時に二発とも直撃してみろ、一気に形勢が逆転してしまう。

 

 だが、何が起こったのか射程外でショットガンが吠えた瞬間紫電が閃く。

 

『士は以て弘毅ならざるべからず。任重くして道遠し』

 

 スタッガーで機体の制御を僅かな間に失う。

 

 なんだ!?

 完璧に攻撃は避けた筈なのに死角からの一撃だと?

 追撃の軽ショットガンとブーストキックに吹き飛ばされつつ態勢を立て直し向き直る。

 推測だが、44-143 HMMRことプラズマ機雷投射器の巻取りを受けてしまったのだろう。

 

 なるほど、これは知らない攻撃だ。

 警戒度を上げ、ACシノビの射程ギリギリで立ち回るとしよう。

 

 しかし、いったい何なんだ。

 自分はそこそこ恨みを買っているとは思うけどその婦女とやらに心当たりが無い。

 

 何度でも言うが本当に心当たりが無いのだ。

 

『既往は咎めず。だが忘れたとは言わせぬぞ。この六文銭を慕ったチューギー・マーゴの名を!』

 

 チューギー・マーゴ?

 

 ………………?……ああ!確かジャンカー・コヨーテスを抜けた奴等に雇われていたAC乗りがそんな名前だった気がする。

 チューギー・マーゴってあいつ女性だったのか。

 少しばかり騙くらかして脱出させた筈だが、ちゃんと生きていてくれたようで何より。

 どういう経緯で六文銭と関わったかは謎だが上手くやってそうだな。

 

 いや待て、二度もだって?

 一回目は恐らくはあのACを奪った一件だ。

 だが二回目はいったいなんだ?

 知らない、まったく知らないんだが!?

 

「独立傭兵チューギー・マーゴだよな?あいつとは最初の交戦以来会ってない。なんで俺が犯人になるんだ」

『斯道の益友より野巫医者に掛かる後消息を絶ったとの報せあり。なれば懇意の首領こそ諸悪の根源ざるべし』

 

 自分と親しい医者と言えばあのお医者さんか。

 最近は依頼の斡旋が多いとはいえあの人は強化人間手術以外はかなり腕が良いし、外科医なのに内科の事でも診察してくれる良い人だがまさかなにかあったのか?

 

 藪医者呼ばわりされるなら強化人間手術関連か。

 そこまで考えたところで俺に閃光の如き回想が巡る。

 あれはそう、大豊の新人達の護衛を行う直前だったはず。

 

"実はACを騙し盗られたという間抜けな実験体が手に入りまして。本人の希望もあり強化人間手術を執り行ないました"

 

"失礼な。少し呼吸が止まっているだけですよ"

 

"いいえ。生きていないだけですから失敗ではありません"

 

「……あんの人面獣心のヤブ医者め!おい六文銭、推定チューギー・マーゴは恐らく1週間前に強化人間手術を受けて冷凍保存されてる!保護者の同意無しの本人確認のみで手術するなんてインフォームド・コンセントどうなってんだよ!」

 

『なんだと?』

 

「詫びは後でする。まずは医者を問い糺すからしばらく待ってくれ!」

『……匹夫も志を奪うべからずか』

 

 機体を止めてハッキングプログラムを起動する。

 六文銭も動きを止めてくれたようで何よりだ。

 

 お医者さんのヘリに忍ばせたスパイウェアから送られてくる電力使用状況から手術中では無いことを確認。

 

 ついでに一ヶ月分の使用履歴を探り、1週間前に強化人間手術と思しき消費があったことを確認する。

 その電力消費記録から手術時刻を割り出して監視カメラを参照、被験者の写真を入手し六文銭に横流し。

 

 今のお医者さんはどうやらオートパイロットで飛行中らしい。

 お医者さんと回線を繋ぎ、秘匿通信で六文銭にも通信内容を流す。

 

「ナイトシェイドだ」

『医者です。依頼内容に不備でも?』

「お医者さん。あんたとんでもないことしてくれたな」

 

『いったい何の話ですか』

「正直に話せば悪いようにはしない。1週間前の強化人間手術の患者の名前はチューギー・マーゴで合っているな?保護者代わりの独立傭兵が俺に詰めかけてきてる」

『なるほど。関連資料を送りましょう』

 

 手術承諾書からチューギー・マーゴの名前を発見。

 住所不定保護者無し、お医者さんの筆跡以外の本人同意あり。

 滅茶苦茶で辿々しい筆跡だが……もしや文盲か?

 六文銭に文通で確認し文字は書けないはずと同意を得る。

 

「お医者さん。チューギー・マーゴは文盲らしいが口頭で説明したか?」

『勿論しましたが。資料の中に証拠となる音声データがあるはずです』

 

 音声ログを再生し、確かに口頭確認を怠っていないことを聞き届けた。

 だが、頭の痛くなる会話を理解してしまった。

 恐らく、お医者さんはこの慣行を知らなかったのだろう。

 

『チューギー・マーゴ、成人済で間違いありませんね?』

『べらぼうめぇ!このチューギー・マーゴさまはドーザーの一員であるからしてとっくのとうに成人よお!』

 

『成人ということは保護者確認は要りませんね。念の為の確認ですが後見人や保護者は居ませんね?』

『あたぼうよ!』

 

『ではこちらの強化人間手術同意書にサインを』

『血判ついてやらあ!』

『いえ、血判ではなくてですね』

 

 一部のドーザーは成人という概念を導入していないというのは昔言った気がするが、稀にそれを真に受けたドーザーが無意識に年齢詐称してしまうことがある。

 宴の席で聞いた噂話だが、まさか本当にこれでやらかす奴が居るとは思わなかった。

 

 どうしよう、これ凄く悲しいすれ違いだ。

 誰も悪くないタイプの、常識の違いが産んでしまった事故でしかない。

 ……まずは彼女の無事を確認しなければ。

 

「お医者さん。チューギー・マーゴは生きているか?」

『ええ。つい先日心肺機能を蘇生いたしまして。レイジ・レックの頭部限定手術に着想を得た最新の旧世代強化人間手術です。骨格置換と内臓強化に脳深部コーラル管理デバイス以外は生身の人間と変わりません』

 

「そうか良かった。死んでたら取り返しがつかないからな」

『手術後も元気過ぎて既に退院していったほどです』

 

「えっ、なんだって?」

『ですから、既に退院済です』

 

「ナイスジョークお医者さん。強化人間手術をしてすぐに退院?そんなこと人間にできるわけないじゃないか」

 

『貴方の事ですからどうせ監視カメラをハッキングしているのでしょう?意気揚々と帰っていく患者の姿が残っているはずですが』

「それはいつ頃で」

『昨日の昼頃です』

「……暫しお待ちを」

 

 監視カメラの記録を精査し、該当の時刻を映す。

 

『驚異的な回復力です。もう退院できるほど回復するとは』

『てっきりすこびるだけのいじばるかと思ってたらすこぶる腕っこきときた!よっ、大将!』

 

『それはどうも。では代金ですが……』

『おおっといけねぇ大被り。こちとらお手ちんよ』

 

『そんなところだとは思いました。出世払いで良いので10年以内に20万COAM返してください』

『いきちょんだねぇ。御国の松が見えたら直ぐにでも返してやらあよ!』

 

『では、お大事に』

『大将も達者でなあ!』

 

 小躍りしながら車両に乗り込み去っていくチューギー・マーゴ。

 念の為偽装されていないかチェックしたが、そういった痕跡は見つからなかった。

 

 医者からの通信が鳴り響く。

 

『それで無実は証明できるでしょう。では、またいずれ』

「……ああ。後で顛末を送っておくよ」

『それはどうも』

 

 医者との通信が閉じ、六文銭との通信のみが残される。

 どう説明したものかなぁ!

 

「あー、独立傭兵六文銭。これはどう説明したものかな。とりあえずドーザーの言う成人とは概念が無いって所からかな」

『……委細承知した。女子と小人とは養い難し……』

「同情するよ。決死の襲撃をかけたら空回りだったなんてね」

 

 ACとは安い兵器じゃない。

 おそらく六文銭は依頼すら受けず、下手人を始末しチューギー・マーゴを救出しようと突っ走ってきたのだろう。

 よくよく見ればこちらから攻撃を加えていないにも関わらず、シノビの機体が煤けているように見える。

 六文銭が絞り出した声に沈痛な面持ちが容易に想像できた。

 

 軽く見積もって赤字が20000 COAMぐらいか?

 解放戦線に身を寄せているのであれば、資金繰りはかなり厳しいことは想像に難くない。

 

 自分も自分で機体の修理費と独立傭兵パール先輩を雇った費用で儲け分が凄まじく減っている。

 

 今回の依頼で儲けたのは先輩ぐらいのものだろう。

 

 よし、ここは自分が俠気を見せるべきだな。

 

「六文銭さん、明日暇か?」

『……何か』 

「明日は大きな依頼があってな。D&Jの訓練生の奴らの様子を見に行けないんだ。機体の修理費と多少の依頼金を出すから訓練生を扱いてくれないか?」

『だが……』

 

 渋るような様子の六文銭さんに畳み掛ける。

 この声色は負い目を感じているのか?

 真面目だなぁこの人。

 

 言動に惑わされがちだが、六文銭さんは独立傭兵でも有数の実力者だ。

 彼との訓練はD&Jの馬鹿どもの良い経験になるだろう。

 あわよくばD&Jに入ってくれたりしないかな。

 

「頼む、この通りだ!俺は貴方の人機一体の猛攻に面食らったんだ!見ればわかる。貴方の忍に恥じぬその努力、その操縦は至高の領域に近い!素晴らしい……!D&Jに来い六文銭、お前の力でアイツらを鍛えてくれ!」

 

『む、ぬう……』

 

「なにも解放戦線を裏切れと言う訳じゃない!D&Jでルビコン解放の為に戦う烈士を育てるのだ!素晴らしきかな忍の業前!偉大なる忍者六文銭の勲は後世に語り継がれるだろうさ!」

 

『しかし、一飯千金!同志ツィイーへの恩に報いねばならん!』

 

「おお一飯千金!ならば尚更のことD&Jの伝手を得るべきだとは思わないかな?我らD&Jは尊きルビコンの恵みを甘受する農耕集団でもあった。それはコーラルを愛好するドーザーとしての側面のみならず、食糧すら自給自足を行うジャンカー集団ですらあるということ。我らのもとで同志ツィイーの前に飢える子供に救いの一食を与える術を学ぶが良い。そも原始の忍者とは寸暇を惜しんで農耕をしていたという。いわんやその意義、わかるな?」

 

『おお、雄々……!』

 

「力足らざる者は中道にして廃す。今汝は画れり」

 

『徳は孤ならず、必ず隣有り!』

 

「そうだとも、もはや俺達は親友!ここに六文銭とベスティー・ナイトシェイドの友誼は成った。困ったことがあれば力になろう、親友!」

 

『之に先んじ、之を労す友はまさに得難きもの。仁者として難きを先にして獲るを後にしようぞ』

 

「安心してくれ、俺はちゃんと報いる男だ。タダ働きはさせない」

 

 六文銭の言葉が難しくていまいち理解できてないけど勢いで押し切れたからヨシ!

 忍者の親友ゲットだぜ!

 




ベスティー・ナイトシェイド:ほぼ詐欺師。自他を騙すことに呵責が無い。論語の体現とは程遠い俗物だが、期待に応えようとする見栄っ張りな性格のせいでドーザーや身内からの心象が良い。借金取りとの戦闘中に六文銭から襲撃を受けた場合は多勢に無勢で死んでいた。頭が馬鹿。

チューギー・マーゴ:トラブルメーカー。六文銭を慕い、己の計画のため強化人間手術を受けた。手術後に六文銭の拠点で寛いでいたらお仕置きされている。天性の盗人であり手術後にまたどこからかACを盗み出して撃墜され、這々の体で六文銭の家に転がり込んだ。強化人間になってもパイロットとしての腕は悪いものの、マニュアルを直接頭に叩き込んだのでACが操縦できるようになった。頭が馬鹿。

六文銭:今回の被害者。珍妙な言動とは裏腹に、トリッキーな武装と堅牢に組んだ軽量機で敵を奇襲するルビコンデスニンジャ。ルビコニアンではないが解放戦線に与している。襲撃時点で一週間近く各所を探し回っていて精神的にかなり疲弊していた。衰弱したところに無駄に人当たりの良いベスティー・ナイトシェイドと会話したのが運の尽き。正気に戻った頃には趣味に理解ある親友が出来ていた。

パール:一番得をした傭兵。安いプランでルビコンに密航した一般独立傭兵。あまりにも物騒なルビコン情勢に嫌気が差しミッションを半ば隠居している。実力はノーザークぐらいあるが、簡単な依頼のみ受けておりオールマインドからの評価は低い。臨時収入を得たので一年ほど休んで情勢を様子見することにした。

ボルスター・オルコス:またの名をシンダー・オルコス。温厚篤実な元一般技術者であり、若かりし頃から放棄された食糧プラントの保守と人材育成を生きがいにしている枯れた人物。D&Jのリーダーをしていた理由はギャンブルで負けて押し付けられたからに過ぎない。趣味で書物や文献を収集しており、この時代の個人としては異様な蔵書量を所有している。頭が馬鹿。
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