【完結】じゃんじゃかジャンカードーザー傭兵 作:白河童小鼠(人間)
私事になりますが日間ランキング13位となっていました
お気に入り評価ここ好き等ありがとうございます
2025/03/04編集、作中のCOAM表記を大文字に統一
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通信記録:ドーザーの談話2
サーバーから抜き取った通信記録
仲間との雑談がログに残っていたものと思われる
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おい聞いたか?
あのクソガキがなんか企んでるらしい
聞いた聞いた
なんでも僕達を独立傭兵にしようって話だろ?
その為にACをくれるなんざ何考えてるんだろうな
だけどこれはチャンスだ
俺もあのチビみたいに強くなってこの名をルビコンに轟かせてみせる!
そんな上手くいくかねぇ?
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強化人間C4-621に依頼を発行してから数ヶ月が経った。
あの後の彼は武装採掘艦の護衛を全うし、ガリア多重ダムでは敵味方を全滅させる凶行に出たらしい。
なんか自分の知っているストーリーと違うんだが。
知っている筋書きでは武装採掘艦護衛はC兵器の襲撃によって失敗するし、ガリア多重ダム襲撃ではベイラムの依頼通りダムの変電施設を破壊するか解放戦線に鞍替えしてレッドガンのG4ヴォルタ及びG5イグアスを排除するものだった。
もしかして自分の介入で621の行動に変化が起こったのだろうか。
しかし、壁越えや強制監査妨害、捕虜救出は自分の知識と同じように推移したと伝え聞いているし、この程度で計画を中止する訳にもいかない。
ここからが正念場だ。
なにしろ災害への対応と計画を同時進行しなければならない。
これは時間との勝負だ。
『お頭ぁ!本当にベリウスの北西ベイエリアが消し飛んだっす!余波の地震のせいでしばらく食糧プラント復旧に人手を割く必要があるっす!』
「解放戦線への食糧支援を対価として職工連中の派遣を約束させた。解放戦線のインデックス・ダナム率いる職工達が向かうからオルコス爺さんに折衝を任せろ。ロビン達はD&Jの傭兵業務に落ち着いて集中してくれ」
『対応が早くて助かるっす!あっ、あとウォッチポイントでの回収は完了したんでBAWSに運び込んでおいたっす』
「助かる。独立傭兵スッラの乗機エンタングルは回収できたか?」
『その件っすけど、実は中に死体が見つからなかったっす。先に開けられた痕跡やコクピットが脱出したとかも無かったんで操縦席も割と綺麗だったっすね』
「なんだって?……続けてくれ」
『機体ログを正規の方法で解析してみたら、一応直前まで搭乗してバイタル管理されていた記録があったっすね。手動で強心剤っぽい薬剤を投与してるログがあったんで、たぶん泳いで逃げたんじゃないっすか?』
「あの冷たい海を泳いで逃げたと。……こっちでも探ってみよう」
コーラル局所爆発に伴う地震については予測していたことだった。
グリッド等をはじめとする建築技術の発達によって倒壊は免れているが、それでも経年劣化による設備破損の恐れはあった。
そこでBAWSを介して職工達に連絡をとり、もし設備が破損した場合の修繕を事前に依頼しておいた。
ここで多重ダムでレイヴンが起こした一件でAC『バーンピカクス』を失ったインデックス・ダナムを紹介されたことは僥倖。
彼はAC乗りとしてはパイロット適性に劣ると評価されているが、それでも我らが無敵の相棒インビンシブル・ラミーより上位のアリーナFランク28位に喰らいつく勇猛な烈士だ。
そして今はACを失ったため本業に戻ったが、彼はグリッドの職工としては一流の職人らしい。
破壊された多重ダムも負傷を押した陣頭指揮によって一月以内に修繕し、ライフライン寸断によって発生するはずだった死者を少数に抑えてみせた。
D&Jの生命線である食糧プラントを修繕するにあたってこの上ない適材といえるだろう。
それにしても独立傭兵スッラが安否不明か。
強化人間C4-621に敗れてすぐに機体回収できるよう向かわせていたのだが、それでも機体はもぬけの殻だったのか。
泳いで脱出するなど無理だと思う。
ウォッチポイントの海は比較的浅瀬とはいえ、ベリウス地方の海は夜中の海水温が氷点下を上回ることはない。
オールマインドがスッラを回収したのであれば、まだ理解はできるだろう。
だが、今回のジャンク漁りはウォッチポイント襲撃と間髪入れずに行っているためオールマインドの介入は考え難い。念の為オールマインドに潜入しているレイジ・レックに確認してもらうか。
『ナイトシェイドさん!大豊からコーラル局所爆発について原因の調査依頼が!』
「原因については既にレポートを書いたから提出しよう。参考文献として本棚の『コーラル局所爆発について地中支脈からの集積コーラル規模概算』って論文を持っていけ」
『あっはいわかりました。失礼します!』
ベリウスの北西ベイエリアが消失するとわかっていたので、被害状況を試算し対策するためにかなりの文献を漁っている。
何しろコーラルをほぼ神格化した教義を掲げるルビコン解放戦線を説得する必要があったのだ。
最も話が通じると思われるミドル・フラットウェルを説得するため、アイビスの火以前から書物を集めているオルコス爺さんの書斎を自分がD&J加入した幼少期から漁りまくり、電子・書籍問わず資料を集め続けたのだ。
そして解放戦線は、ルビコン解放戦線総司令サム・ドルマヤンというコーラルの危険性を警句として残した先達が存在する。
捕虜となっていた彼を救出した今、自分が提示した資料の答え合わせは既に行われているはずだ。
そうそう、C4-621が受注した捕虜救出については、整備中のACディープダウンをテストに奇襲させてG2ナイルが出撃できないように破壊工作をさせておいた。尊敬するレッドガンを攻撃することにテストは複雑な顔をしていたが、意図を説明したら渋々やってくれたのでたぶん大丈夫だろう。
大豊には黙っていて悪かったが、現在実際に発生している災害を例示に使わなければ大豊という大企業を説き伏せるに値する説得力を示せない自分は考えた。
そして、この好機に大豊を説き伏せるのは自分ではない。
『ノーザークだ。それで親友、話とは?』
「突然だけどRaDに潜伏してるよな?しばらくしたらRaDにヤバいのがカチ込むから今すぐ逃げろ。護衛はコールドコールに依頼してあるから詳しくはそっちに聞いてくれ」
『待て、なぜ私の潜伏先を知っている?』
「RaDの相棒から聞いたんだ。悪い、忙しくてあまり時間無いから早く合流して手伝ってくれ。それと報酬は手付金で10万COAMな」
『待ってくれ頼むから会話をしてくれ!何がどうなっているんだ!』
「コールドコールさんによろしくね!」
借金王ノーザーク。
彼が俺をプロデュースしてくれた時に確信した。
大豊核心工業集団を説得するには、ノーザークの協力が必要だ。正直な話、自分は利得をチラつかせた交渉は多少できても、相手を納得させるに適する口達者ではない。
その証拠としてこの前大豊のテスト相手に洗脳紛いの説得を試みたものの、結局彼を動かしたのはレッドガンに相応しい実力を得ることと軍人として従わざるを得ない任務だった。
後で本人から聞いたから間違いない。くっそぉ……
それはそれとしてノーザークを計画に巻き込む方法だが、今回は実力者による護送にした。だってノーザークに口で勝てる気がしないしまともに会話したら丸め込まれるじゃん。
暗殺請負人であるコールドコールも既に先の見えたベイラムを少ない被害で撤退させる為に動いてくれている。
コールドコールは企業の暗部に精通している人物だが、その彼をもってしても『既にルビコンの戦乱は理想的なビジネスを行える環境ではない』と判断していた。
集積コーラルに向けて動き出した現状は小競り合いを繰り返し少しでも有利を得るべく粛清請負人を必要とする状況ではない。
先の見えた現環境の星外企業は、将来に向け企業の機密を知り過ぎたコールドコールを切り捨てる段階にある。
勿論、熟練した独立傭兵として強力な戦力になるコールドコールは劣勢のベイラムから頼られるだろうが、それは暗殺請負人としての安定したビジネスモデルからは外れている。
故に殺し屋コールドコールはルビコンから撤退して仕切り直す必要があるのだ。
アーキバスが壁越えを成功させた辺りで計画を説明して協力者として引き込めたので、今回はコールドコールにはノーザークを迎えに行ってもらった。アリーナランク10位をただの護衛に使うのはもったいない気もするが、護衛する前にノーザークが逃亡しようとした場合は情報が漏れないように捕縛してもらう必要がある。
そういう意味でも実力者であるコールドコールを送り込むことは有用なのだ。
『医者です。現地入りし臨時診療所を開設しました。ベイエリア消失以前からの強行退去が功を奏して負傷者は多くはありません。いつからこれを読んでいたので?』
「ウォッチポイントの流量制御記録にヤバそうな記録があったんだ。昔アホほど試算しまくったからすぐわかったよ」
『そういうことにしておきましょう。忙しくなるのでしばらくは定期検診は行えません。体調にはお気を付けを』
これはお医者さんからの業務連絡。
彼は闇医者でマッド気質だが、それでも人命救助を職務とする医者だ。コーラル局所爆発の試算に基づいて被災地の被害予想を伝えたら嫌そうな顔で現地入りできるように備えてくれた。
因みに医療費は一旦自分が負担することにした。
自分も資金繰りに余裕がある訳じゃないけど、これまで散々お医者さんにお世話になっているんだから、金の無い奴の治療費ぐらい立て替えておこうと思ったからだ。
この災害を起こしてしまった強化人間C4-621を計画に利用する以上、自分の方でケジメはつけておきたい。環境の乱れは風紀の乱れ、要らぬ怨恨は精算しておかなければ今後に響く。
それにこれは打算だが、この災害で仕事を失ったやつを臨時でD&Jに雇えれば人材不足を補える。
現在のD&Jはそこそこの人数を抱えた傭兵集団だが、主力兵器であるアーマード・コアの数に対してそれを支える後方要員の数が足りていない。今は傭兵支援組織オールマインドの支援によってある程度業務を回せているが、ここ半年で急激に勢力を拡大したツケとして保守・点検のための人材が足りずジャンカーとしての経験を持つパイロットも修理に駆り出している状況だ。
一応、ACの修理・点検は海賊から助けだした元捕虜組の奴等を専用の技術者として教育することでなんとかなる見込みが立っている。
しかし、修理に使う資材などの手配は半分ほど自分が担っていて圧倒的に事務員が足りていない。
なんならもう半分は潜伏中につき休業しているブランチに所属している『レイヴン』のオペレーターさんに泣きついて捌いて貰っているので、早急に事務員不足をなんとかしなければならない。
なぁにが「輝ける星に狙いをつけた頃に連絡します」だ!格好つけた手前助力を依頼するのは恥ずかしかったが背に腹は代えられねえんだよ!
というかルビコンは戦禍の影響が大きすぎて教育不足が恐ろしいほど深刻だ。親しい関係にあるエルカノや大豊にヘルプを求めてみたが、向こうも事務員の確保にはやや難儀しているらしい。
世知辛ぇ……!
せめて大豊は星外企業なのでしっかりと教育された人材が居ると思っていたが、星外から来るやつなんて肝の据わった軍人ばかりということを忘れていた。そして、その軍人の大半はレッドガンに所属するので大豊は戦力も足りていないらしい。
大豊は金だけは沢山持っているので傭兵に様々な依頼を出してはいるけど、本当は自前の精鋭戦力を持ちたいという野心が存在する。
大豊核心工業集団とベイラム・インダストリーは建前上はベイラムグループとして団結しているものの、実のところあまり仲がよろしくない。
両社共に独立独歩できるだけの広大な支配領域と経済圏を持つメガ・コングロマリットではあるのだが、近年は安定した強化人間技術を開発したアーキバスグループとの戦争に押されて已む無く本格的にグループとして連立したのだとか。
それ以前も親密な同盟企業の関係だったものの、共通の敵に団結して更に仲を深めようとするならそれなりの軋轢も出る訳で。対アーキバスの戦力をベイラムへと一本化させた結果、大豊の戦力は自前の経済圏を防衛する以上のものを持てなくなったと聞いている。たぶん政争に負けた結果なんだろう。
だから大豊は戦力を求めているわけで、ベイラムが使い潰そうとしているレッドガン部隊を取り込もうとしているのだ。ノーザークがそう言っていた。
話が逸れた。
どこも人材不足でこんな調子なので、お医者さんの医療費を払う代わりに臨時診療所に事務員募集の広告を出してもらう契約を結んでもらった。
治療費を盾にした人身売買?人聞きが悪いなあ、被災者の就労支援と言ってもらおうか!
というかこうでもしないと自分が過労死してしまう。D&Jに配備されているACが増えるにつれて事務作業が増えているので、ここ最近の睡眠時間が6時間を割ってきてしまっている。
傭兵業務には集中力が必要なので睡眠不足は致命傷に繋がりかねない。ちきしょう!なんで独立傭兵になってまで事務をしなきゃならねえんだ!自業自得だよ馬鹿野郎!うわーん!
さて次。
『小童ァ!第一世代の傭兵が消えてからオールマインドが喧しくてかなわん!このままでは封鎖機構に突貫させられかねん!機体はオールマインドに都合させる故、強いアセンブルを教えろ!」
「機体費用がオールマインド持ちならCOAMは考えなくて良いな?なら弾薬費も多少度外視したアセンブル案を送るからレック自身で選べ。死ぬなよ」
『事を成した暁には小童の奇っ怪な名の機体を撃墜しに征こう。頸を洗って待っていることだな!』
「楽しみにしてるよ。そうだレック、第一世代といえば独立傭兵スッラだが、そいつが消えたって認識で合っているか?死亡確認はある?」
『知らん知らん。消えたとしか聞いておらん』
「念の為確認を頼めるか?死亡か失踪のどちらかを知りたい」
『馬鹿が方策を巡らせると碌なことにはならんぞ!』
「そこをなんとか頼むよ。大事なことなんだ」
『チッ仕方あるまい。ならばアセンブルに妥協しないことだ』
「任せろ、とびっきりの案をくれてやる」
自分を撃墜してみせると啖呵を切るとはレイジ・レックも相変わらず威勢が良いな。
D&Jの傭兵業を遂行しつつオールマインドからの依頼も達成する忙しい毎日を送っているようだが、変わらず元気そうでなにより。
アセンブルはオールマインドの伝手をフル活用できるなら遠慮はしない。資金面やパーツ入手が無制限であれば自重するだけ損というもの。
ハイエンドな理想のACを組むことができるなんて願ったり叶ったりだ。レックの能力や用途を鑑みるに、重量級で火力を出せるが扱いは多少難しい機体でも問題ないはず。
オールマインドを介してアーキバス製品も使えるとなればここは背部拡散レーザーキャノン『VP-60LCD』を主兵装とするのが適当だろう。角度をつけた上昇と下降を高頻度で繰り返し、回避や偏差ずらしを行う通称エレベーター機動ができるように、ブースタには上昇推力に一番優れたRaD製『BC-0200 GRIDWALKER』以外の選択肢は無い。
欲を言えば技研が開発した有人AC向け試作ブースタなんかを使った方がクイックブースト性能も上がって使いやすくなるだろうけど、公表されていない技研のパーツをオールマインドに要求すると知識の出処を怪しまれそうか。
機体フレームも良い感じに組んでおけば強いACに仕上がるだろう。
3分で組み上げたアセンブル案を送信して、次は本命の人物に通信を行う。
「ベスティー・ナイトシェイドです。フラットウェルさん、避難民の方々は無事到着しましたか?」
『長旅の疲労は否めないようだが受け入れは完了した。事前の避難誘導並びに食糧等の人道支援について、ルビコン解放戦線を代表して感謝しよう』
通信相手はルビコン解放戦線の実質的戦争指導者として、ルビコニアン反抗の要となっているミドル・フラットウェル。中央氷原遠征を行う打ち合わせを行う中で知り合った人物で、今まで接した中でわかった彼の人となりをを端的に言い表すと、『大抵のことに秀でた傑物』だ。
ルビコン土着の兵器開発企業BAWSに対して、顧客を選ばず商品を売って資金調達することを指示したのはこの人。
鍛造を得意とする軽量ACメーカーエルカノに対して、競合他社となるシュナイダーからの技術提供による新型機開発を了承させたのもこの人。
ミサイルで有名なファーロン・ダイナミクスが表向きに中立の立場を貫き、密かに協力関係を結ぼうと交渉しているのもこの人の功績。
なんならこの人、ファーロン・ダイナミクスを通してルビコンを侵略してきているベイラムに渡りをつけようとしているし、これだけでも政治的に優れていることは明白だ。
政治的にルビコニアンの要となる人物であることはここまで述べた通りだが、ミドル・フラットウェルという男の才覚はこれだけではない。
先に述べたように戦争指導者として軍事作戦にも明るく、ガリア多重ダムをレッドガンと共に襲撃してきた独立傭兵レイヴンに、離反してレッドガンを迎撃するよう依頼したのもこの人だ。
ACのパイロットとしてもかなり優秀であり、オールマインドがルビコンに居るAC乗りを評価したアリーナランクでは13位とかなりの上位。これはルビコン解放戦線の中でもここ数年活動を減らした英雄サム・ドルマヤンに次ぐ2番手の実力を持つことを意味していて、戦力面でも隙がない。
だが、そもそもルビコン解放戦線は企業に対してゲリラ的に対抗するしかない程、慢性的な戦力不足に悩まされている。
そこで、俺たち傭兵集団D&Jの出番ってわけだ。
「いえ、打算在りきのものですので。……本題に入りましょう」
『大豊核心工業集団からの資金援助並びに傭兵集団D&Jの雇用についてだな』
「それとジャンカー・コヨーテスとの同盟です」
『……ああ、そうだったな』
ジャンカー・コヨーテスについて無かったことにしないでくれ。ならず者は傍から見て信じられないのはわかるけどさ。
今回の議題は大豊からの援助とD&Jの雇用、そして加えてジャンカー・コヨーテスとの同盟だ。
なんで俺がこの3つの組織から解放戦線への交渉を一度に委託されているかというと、これは不幸なブッキングでしかない。
大豊からは板挟みになった重圧で体調を崩してしまった窓口担当の
D&Jからは前リーダー兼現事務責任者として内情を知悉している当事者として。
そしてジャンカー・コヨーテスからは中央氷原に居てRaDとの軋轢を起こさないようベリウス地方に帰ってこれない上に、コミュニケーションが独特ですぎて一度対話を断られたらしい頭領オーネスト・ブルートゥの代理として。
そもそも自分はD&Jについてだけ交渉するつもりだったのだ。それだけのはずだったのにどうしてこうなった。
この三組織から政治的な細かい調整ができてミドル・フラットウェルと渡り合えるだけの人物として信頼されていることは今までの努力が実ったようで嬉しい。それはそれとして、なまじ権力と立場が強まった分、交渉はやりやすくなっているので断ることが出来ずにこうなってしまっている。
責任が重いなあ!
やれるだけやってみるけどさぁ!
「ええ。以前よりエルカノ・ファウンダリィを通じて打診していましたが、この提案は受けていただけるでしょうか?D&Jも戦力として申し分ない筈ですが」
『こちらとしてはまたとない好機と捉えている。だが、一つ聞いておかねばならないことがある。例えば大豊はレッドガンという武力とコーラル利権を目的に。D&Jはエルカノの流れを汲んで動いているようだが……単刀直入に言おう。ベスティー・ナイトシェイド、お前の目的はなんだ?』
おっと、自分個人に矛先を向けてきたか。
答えても良いが、ここは代理を請け負った者として面子を優先しよう。
「先ずはジャンカー・コヨーテスについても無視しないで欲しいですね」
『謝罪しよう。ジャンカー・コヨーテスは頭領が代わって以降動静が理解できなくてな。この後改めて議題にさせてもらう』
嫌なのはわかるけどさ、そこまで無視しなくても良いじゃん。後で話せる事を言質にとれたから問題は無いけど。
いや、これは何かすれ違いがあるな。
少し突いてみようか。
「頭領のオーネスト・ブルートゥが解放戦線の回線に対して平和的に直接対話を呼びかけていたにも関わらず無視されたと聞いていますが」
『なんだと?確認するが、ジャンカー・コヨーテスは少し前からジャックされている通信帯域の下手人として身代金を要求しているのではないのか』
あー、なるほど完全に理解した。
ジャンカーの文化の違い案件ねこれは自分向きだわ。ブルートゥが自分に依頼してきた時に色々と語っていたのはこういう事だったのか。
身代金の要求なら応じる訳にもいかないからこういう態度にもなるよね納得した。
「違います。独特の文化すぎて齟齬が起きているみたいですね。一定の勢力を持つジャンカー集団は交渉相手の重要な何かをハッキングしてから対話を始めようとするんです。技術比べで事前に優劣をつけておくことで、その後の主導権争いでの煽り合いによる事件を減らす生活の知恵を部外者にもやってしまっているのかと」
『あくまで文化の違いだと?そんな馬鹿な』
ミドル・フラットウェルの困惑した様子が伝わってくる。
わかるよ。ドーザーって物忘れが激しいせいで文化や習慣なんてコロコロ変わるから、最新の動向を追うのめっちゃ大変だよね。
この技術比べの習慣ってここ半年で編み出された手法だし、おおかたルビコニアン相手ならこのローカルルールが通じると勘違いして実行してしまったのだろう。
平和的で良い習慣だと思っていたけど、改めて考えてみれば余所者には迷惑だよなこの慣行。
「馬鹿なんですよ。頭領のオーネスト・ブルートゥは誤解を恐れずに言うと頭のおかしいドーザーですが、それでも今回は対話を望んでいました。それにこれは個人的な分析に過ぎませんが、解放戦線に害を為すならもっと悪辣な手段をとりますよ」
『……そういうことだったのか。わかった、こちらからも改めて対話を試みてみよう。ジャンカー・コヨーテスとの同盟についても先に提出された内容の通りであれば問題はない。加えて、解放戦線への危害も禁止させてもらうが構わないな?』
「あくまで解放戦線が敵対しないのであれば、ですがね。それとジャンカーは独特の文化がややこしいので、理解できない行為で困ったら俺に連絡してください。個人の奇行ならともかく、組織単位の行為なら解説できる程度には長くジャンカーやってたんで大抵はわかると思います」
『すまない、そうさせてもらおう。ジャンカーについてはこれで良いとして』
「その前にジャンカー・コヨーテスの代理としてこちらも謝罪させていただきます。誤解を招く行為をしてしまい申し訳ありません。後ほど通信帯域を解放させます。……それで話は戻りますが、俺個人の目的、ですか」
『そうだ。コヨーテスとの折衝をしてもらう義理で助言しておくが、過去に密偵をしていた私ですら過去の足取りが辿れないのは異常だ。特にジャンカー集団だったD&Jに拾われる以前については何一つ情報が無い。その情報の少なさは些か信用に欠けるぞ』
努めて穏便に諭してくるフラットウェルさん。
忠告痛み入るが、それでも信用に欠けるなんて酷いなあ。
別に個人情報を隠している訳ではないから、良識がありそうなフラットウェルさんなら知られても良いか。
少し情報を開示しておこう。
「最近似たことをよく言われるんですよね。そうですねえ、フラットウェルさん。俺、今は何歳だと思いますか?」
『成人していると聞いている。活動の痕跡から22歳程度の青年だと推測しているが』
「10歳です」
『……もう一度言ってくれ』
「10歳です。種明かしをするとドーザーの成人って自称なんですよ。俺は1歳で捨てられてから見世物小屋に居て、3歳から7歳まで前のD&Jに居ました。そこから9歳まで相棒と一緒にフリーのジャンカーとして色々やってそれ以降は独立傭兵やってます。3歳の時に15歳の成人を自称したので計算は合ってますよ」
情報が辿れないのは非常に簡単な理屈。
前提となる公証の年齢が大幅に間違っているので、産まれていない時期を探られても痕跡がある訳ないというカラクリだ。
馬鹿みたいな誤解だが、子供の頃から少し成熟した精神を持つ転生者だからこそ起こせた対外的なミスリードでしかない。
嘘だけど。
『……道理で、足取りが辿れないわけだ』
実はもうすぐ11歳だけど。
大きな溜め息でマイクにノイズが走る。
やだなあ、勝手に詮索して誤解してるのはそっちじゃないか!ドーザーを相手にしても大した理由なんて無いのに。
ミドル・フラットウェルさんには迷惑をかけてるから溜め息ぐらい別に良いけどさ。
『失礼。気を取りなおして、では目的を聞こうか』
話が戻る。
目的。目的ね、それは簡単だ。
「そうですね、二つの目的があります。まず一つ目はD&Jを率いた者として、彼等の生活の安定を。これはコーラルを巡る騒動が近いうちに一つの結末を迎えるという予想の下、ある程度の社会的地位を与える事を目的としています」
転生前の知識に基づいての判断だ。
ルビコンが存続する可能性に賭けて、D&Jを始めとするドーザーが過剰に悪い立場へ置かれないように影響を与えるという漠然とした方向性。
この世界に産まれてからドーザーには随分と迷惑をかけられているが、それと同様に世話になっていることはれっきとした事実。
であるならば、可能な限り彼等への恩に報いたいのが人情というもの。自分がドーザーに味方しているのは、これまでの境遇と人情の結果としか言いようがないのでミドル・フラットウェルに伝わるかはわからない。
それでも、勝手に恩を感じて勝手に恩返ししているだけなのでこれで良いのだ。
ドーザーとはいいかげんな生き物だから。
『武装勢力として存続するつもりか?』
当然の疑問だ。
自分が戦後の損益を考えて動いていると示したのだから、ルビコン解放戦線を代表する帥叔フラットウェルとしてはD&Jのその後が気になって当然。
「いえ、その辺は現在率いているナスティ・ロビンに任せるので決めていませんね。ただ、ルビコンの解放に貢献することで、反社会的とも言える逸れ者のドーザー達が排斥されない事を願っての行動です。俺はドーザーの親友ですから。でも、フラットウェルさんなら悪いように扱わないとも考えているので、彼らに対してフラットウェルさんが望む形があるのなら俺が仲介しますよ?」
だけど、それは自分の決めることじゃない。
自分はあくまでもドーザーの友であって厳密にはドーザーではない。コーラルは好きじゃないしキメた事が無い上にキメる予定も無いので真にドーザーとは言い切れない。
そこは本人たちが決めるのが筋というものだろう。
体質上、戦後まで面倒は見切れないことだし。
『……そうだな。その時が来れば仲介を頼もう。二つ目の目的はなんだ』
「二つ目は極個人的な目的として、俺の健康の為にルビコンを脱出することです。コーラルアレルギーのせいでルビコンに居ると20歳まで生きられるかわからないんで、生きるために意地でも惑星封鎖はこじ開けます」
競馬を見るため、とは戯けない。
手袋を外して右手をカメラに見せる。
まだ小さく、色素の薄い肌に所々薄紅と実ったアレルギーの徴。蕁麻疹、またの名をアナフィラキシーショック。
数年前まではもう少し症状が薄かったのだが、ここ1年ぐらいで一気に症状が悪化してきている。昔はコーラルの残り香で気絶することなんて無かったし、清潔な部屋に居れば症状もかなり治まっていた。なのに今はこんな状態だ。普段から熱に浮かさたような陽気を装っていたが、それは単に思考に余裕が無いだけだ。
死にたくないという生存本能は人間が持ち合わせて然るべきで、自分は死にたくないからルビコンを出るというだけ。星外でやりたい事があるから解放戦線や星外企業と関係を持っているのだ。
そもそも仮にルビコンが惑星封鎖なんてされていなかったらドーザーへの恩返しは良いところで切り上げて、さっさとコーラルの災禍が届かないところまで逃げていただろう。
自分はこんなアレルギーで死にたくない、辛いのは嫌だ。
「俺は生きるためにルビコンを脱出する。その為に惑星封鎖をぶち破る。そのついでにドーザーに恩返しをする。それだけの簡単なことですよ」
言の葉では戯けたように、しかし至極真面目に言葉を言って。熱を持ちはじめた手指を手袋に収める。
宇宙服の中は本当に快適だ。
重い程度のデメリットは気にもならない。
『……すまない、とは言わない』
「責任感が強いんですね。それに、それは要らない感傷のはず。話を戻しましょうか」
『ああ、そうしよう。大豊、D&J、コヨーテスのそれぞれの申し出は承諾を返してくれ』
「わかりました。コヨーテスへの帯域封鎖解除についても付け加えて承諾の返事をします」
無事に話がまとまってくれて良かった。そもそも先に議題を通して何回か文面で調整した上での会談なのだから変更点は少ないといえば少なかったのだが、ジャンカー・コヨーテスについての誤解が解けただけでもこの会談は意義があったはず。
身の上話は少し重くなってしまったけど、この程度で信頼が買えるってんなら安いものよ!
ワッハッハ、勝ったな。完全勝利だ。
『何か他に議題はあるか?無いなら通信を閉じさせてもらうが』
他に議題ねぇ。
予定の議題は全部終えたし社交辞令だと思うけどダメ元で言ってみようかな?
「そうですね。ところでフラットウェルさん。話は変わるんですけど事務員の派遣ってやってたりしません?」
『派遣などしていないが』
「今なら事務員の体でD&Jにスパイ潜り込ませ放題ですよ。解放戦線に見られて困るような物は置いてませんしこちらも問題はないんでお願いできませんか!というか事務員不足が俺からすると死活問題で睡眠時間が減ってきたせいでアレルギーが酷くなってると思うんです!D&Jの事務って俺と臨時で雇ったオペレータさんの二人だけで今は回していてもうすぐ契約が切れちゃうんでマジでヤバいんすよ事務員の派遣は無理でもフラットウェルさんが仕事を片付けてる手腕の一部でも教えて頂けたらと思っているんですがあっ報酬!報酬は出せる物が少ないですけど俺が一回依頼を遂行することでなんとかできたりしませんかねぇ!雇える人材ならD&Jで雇うんで頼むからお願いしますぅ!」
頭を机に擦り付けながら捲し立てる。
駄目で元々、でもここで事務作業に援軍がないと限界が近くってぇ!
『……存外だったな』
「お願いします見捨てないでください!」
いやもう本ッ当に事務員不足が死活問題で!
旧D&Jの事務員たちは自分が紹介したまともな就職先で定着してカタギになったから誘い辛くって!
ブランチのオペレーターさんも臨時だから契約更新してくれそうになくってえ!
助けて自分死んじゃう!
『やむを得まい、たしかD&Jは六文銭と交友があったな。アレは仕事柄多少事務ができるので1週間ほどそれで保たせろ。1週間以内にジャンカーの文化学習の名目で事務員を向かわせよう』
「ありがとうございます!ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
九死に一生を得た気分だ。
もはや地獄に仏、ルビコンに相棒とフラットウェルさんと言っても過言ではない。
神、フラットウェルさんマジ神……!
「その賽は投げるべからず……!放り出さなくて良かった!」
『待て!その言葉を知っているのか!?』
「うわぁビックリしたぁ!」
怒声。
落ち着き払っていたフラットウェルさんが急にドーザーみたいに大声を上げるものだから後ろにひっくり返ってしまうかと思った。
なんだなんだどうしたんだ、もしかして気軽に言っちゃいけなかったのかな。
「まあ、大体はわかってます。小さい頃はこの言葉を手がかりに色々研究してたんで」
『研究?いや、そこではない。頼む、知っている限りその句を教えてもらえないだろうか』
「良いですけど、なんでですか?サム・ドルマヤンさんがいつも言ってるかと思っていたのですが」
『……外部に聞かせるには恥ずかしい話ではあるが、帥父サム・ドルマヤンは時折警句と思しき言葉を発するものの詳しくは説明しない悪癖があってな。最初の句のみ団結のスローガンとして使用されているが、極めて抽象的故に誰もその真意を知らない。私もその例外ではない』
……うん、これはやらかしてしまったやつだな。
本人以外に理解していない警句を俺が知っているとは、出処を探られると信頼に関わる。
『リング・フレディが言うには帥父は言葉が伝わらない失意の底にいるらしいが、我々としてもどうにかその句を理解して帥父の失意を晴らしたいのだ。だからどうか、頼む……!』
画面越しに頭を下げるフラットウェルさん。
これはもう仕方がない。解放戦線がこんなことになっているなんて思いもしていなかったし、なんなら俺はフラットウェルさんが真意を理解した上で意図的に歪めたものだと疑っていた。
しかし、真実はそうではないらしい。
そもそもルビコン解放戦線が独自にコーラルを神格化した信仰体系や教義を築いるにも関わらず、歪んで伝わっていることから俺も察するべきだったかもしれないな。
フラットウェルさんは事務員を派遣して救ってくれる神だし、それなら俺の解釈ごと伝えちまってもまあ良いかぁ!
D&Jの奴らにも伝えてしまってることだし。
「条件が幾つか『呑もう』あります。一つめは出処を探らないこと。二つめは誰が話したかは秘密にすること。三つめは幾つか俺なりに検証した論文を受けとってもらうこと。改めて聞きますが差し当たってこの条件で如何でしょうか」
『確約しよう。むしろ3つめに関しては情報の対価として報酬を払わせてもらおう』
「いえ、元々フラットウェルさんへの説得材料として使うために研究していたことなんで、信憑性を持った状態でこの論文を渡せる事が報酬になり得ます。かなり信じ難い要素が多いので」
当たり障りの無い程度の口約束だが、これは裏切られないと確信できる決意を持ったフラットウェルさんの態度。目線と僅かな震えから判別したが、この冷静な傑物がこれだけ真剣に考えていた事柄なのだ。本当に重要だったに違いない。
この際全部ゲロっちまおう。そもそも俺だけで背負うには重すぎる事柄だったんだ。
推測も含めて全部喋ってしまおうか。
一人で背負い込むのに疲れたんだ。
頭の中のもの全部吐き出して巻き込もう。
「コーラルよ、ルビコンと共にあれ」
「コーラルよ、ルビコンの内にあれ」
「その賽は、投げるべからず」
「……コーラルを解き放ってはならん。そこを越えれば、人間世界の悲惨が待つ」
「以上です。俺の研究では、この賽を投げた場合の事象をコーラルリリースと呼称しています」
背後の本棚から該当する資料を取り出してカメラに向けて開示する。大豊に渡したものとはまた別の、気が遠くなるような破滅の未来を回避するためのプレゼン資料。その草案。
本来は根拠が出揃った後に開示する予定だったが、コーラルリリースを取り巻く事象を説明するのならここで躊躇う必要はない。
「コーラルリリースの条件は幾つか存在し、一つ目はアイビスの火を熾せるほどの大量のコーラルを、バスキュラープラントのような一つの容器で大気圏外に持ち出すこと」
「バスキュラープラントとはかつてルビコンでコーラルの吸い上げを行っていた超巨大構造物です。これは残骸すら見当たらず所在が不明なのでたぶん集積コーラルの近くに隠されていますね」
ルビコン外の資源吸い上げ機構を根拠に作成した漏斗のような形状の巨大構造物の再現図。
前世の記憶が間違っていなければ、バスキュラープラントは集積コーラルが存在する地下空間に存在している。大雑把に知っているからこそ逆算して資料を確保しているのだ。
この説明機会を逃すわけにはいかない。
「二つ目の条件はコーラルと交信が出来る者、主にコーラルに被ばくした旧世代型強化人間がCパルス変異波形と揃い、共振をさせることです」
「Cパルス変異波形とは平たく言うとコーラルの意思です。コーラルはFCSに使えるぐらい情報導体特性に優れているので、コーラルの波形が意識のような波形として安定しているのではないかと推測しています。高い知性と機器類に干渉する特性から、極めてハッキングに優れていることは確定と見て良いでしょう」
フラットウェルさんにも理解できるCパルス変異波形との更新例として、解放戦線の帥父サム・ドルマヤンの随想録を表示する。
『「声」を見るようになってどれほど経つだろうか
「尽きることはないから心配は要らない」
いつものように恵みを摂る私に、彼女はそう言った
「私が君なら許さないだろう」
私はそう言って、それから己の欺瞞を恥じた』
『これは……!』
「この交信は極めて稀にドーザーでも条件を満たします。伝承によれば帥父サム・ドルマヤンはこのパターンに合致しており、何らかのCパルス変異波形と交信を行っていました。最終的に賽を投げないことを決断したようですので、詳しくは本人に確認してください」
息を呑み表示された文章を注視するミドル・フラットウェルさん。
これは前に中央氷原を訪れた時に置いてきたドローンがエンゲブレト坑道で入手したログであり、情報導体特性を持つコーラルを加工したグレネードで朽ちたACを復旧したことによる情報だ。
数十年前に散逸し、本人が黙したことによって若き頃の随想録しか残存していないからこそ、アイビスの火以前から存在するエンゲブレト坑道を漁ることによって当時のログを入手できた意義は大きいだろう。
「事象としてのコーラルリリースの解説ですが、トリガーを引いた二人……便宜上二人と呼称します。この二人がトリガーを引いた結果、制御不能な状態でコーラルが宇宙に溢れます」
「実験結果からコーラルは真空状態で爆発的に増える事が確認できています。また、技研はコーラルジェネレータを作っていたので散らばる威力も確かです。つまり、コーラルリリースは人類が観測できる全ての宇宙に広がり人間は死滅します」
試算によるデータを開示。
最初に自分が手に入れた技研ACの稼働ログから抽出したコーラルジェネレータの記録。
旧D&Jで検証した増殖特性の検証結果。
この2つから算出したコーラルリリースの検証は、これが限りなく絶望的な結果を示していた。
「ここで何故サム・ドルマヤンがコーラルリリースを悩んでいたか気になりませんか?これだけならデメリットしか無いと。メリットはトリガーを引いた二人の意識が情報導体特性を持っているコーラルに転写され宇宙に広がることです。これも人類とコーラルの共生らしいですよ二人以外絶滅する試算ですけど」
「これは確かな情報ですが、アイビスの火はバスキュラープラントのコーラル潮位が上昇してコーラルリリースの条件を満たそうとしたのを技研が防ごうとしたものでしょう」
ここで更にデータ開示を行う。
サム・ドルマヤンの随想録と同じくエンゲブレト坑道で入手したログ。
これにはルビコン調査技研所長、ナガイ教授の口述筆記が記されている。
『まずい
コーラル潮位が異常な速度で上昇している
この共振は相変異の……
計算しろ、猶予は?
47時間2分16秒
間に合う、アイビスを出せ!』
「このログからの推測ですが、そもそもコーラル潮位はウォッチポイントで監視されているように、50年前にも観測されていたはずです。コーラルリリースの条件を満たす前の小規模段階で焼いてしまえば起こらなかったはずなのでは?なので、ここには犯人がいます」
ここで資料を閉じる。
草稿は終わり、後は完全にアドリブだ。
「であれば、このコーラル潮位を上げた下手人は誰か。そこはわかりませんが、三人容疑者が居ます」
「一人、サム・ドルマヤン。直前で思いとどまったが、それまでコーラル潮位を上げていたのではないか」
「二人、ドルマヤンと交信したCパルス変異波形。共振がどんなものかはわかりませんが、コーラルの意思なら急上昇させることも不可能ではないでしょう。以上の二人についての確認はフラットウェルさんに任せます。本人に聞けばわかるはずなので」
本人に聞けばわかるとは言うが、今までサム・ドルマヤンと意思疎通ができていないと思しい解放戦線ではもしかすると聞き出すことはできないかもしれない。
せめてこの資料が合っているという証言が欲しいところだが、期待はしないでおこう。
数時間前にナスティ・ロビンが破壊されたゴーストから入手したログを表示する。
観測データ:変異波形反応はこのタイミングなら入手できると踏んでナスティ・ロビン率いるD&Jに回収させたがドンピシャだった。
『変異波形反応を確認
やはり生じています
トリガーにはあの老兵が適任でしょう
計画の第3条件を取り込むのです』
「そして三人目、オールマインド。こちら現在コーラルリリースを画策して奔走している諸悪の根源です。複数の筋から裏取りはできているのでコーラルリリースを計画していることは確定ですが、さっきようやく開示できる尻尾を掴みました。オールマインドがいつから存在するのかわからないですが、コイツを元凶とした方が角が立たないはず。最近は手駒の第一世代強化人間スッラが死んだと思って別の者にターゲットを変えていますが、スッラはたぶん逃げ延びています。スッラについてはBAWSに納品したACエンタングルの件を問い合わせてください」
『待て、話は逸れるが確かルビコン入植前のコーラル湧出は非常に安定していたという研究があったはずだ。それを踏まえた上でアイビスの火にまつわるコーラル潮位の上昇は技研の人為的なコーラルの集積で起きた事故と考えられないだろうか』
「その研究は俺も知ってます。ですが、一応試算した限りでは集積コーラルで定期的に焼き払っておけば問題無い程度の潮位上昇しかありえないのと、そもそも技研が見落とすほど急激にコーラル潮位が上昇するに足る環境条件が自然に揃ったとは到底思えません。自然に条件が揃うならこの星はとっくに人類の居住が不可能になっています。よって下手人の存在を考えるべきです」
『そうか……すまない、続けてくれ』
「はい、過去の話は置いておいて、問題はオールマインドです。オールマインドはアーキバスを戦争の勝者とすることでバスキュラープラントを大気圏外まで延伸させる計画を立てています。今のところ実現しそうなので俺からとある人物に依頼を出すことで妨害してますね」
「それで別のターゲットこと、ある人物についてですが、それは親友の強化人間C4-621です。ウォッチポイントのセンシングデバイスを潰してコーラル被ばくしたので完全に条件を満たしています。Cパルス変異波形側も存在していることをオールマインドの操っていたC兵器から裏取りしたんで状況証拠から確定です」
「Cパルス変異波形のハッキングが怖いんでまだ彼には連絡していません。この通信が終わったらこの端末と周辺機器を物理的に破壊して閲覧不可能にします。フラットウェルさんもそうするかルビコン解放まで完全にオフライン環境に置いてください。後で文字に印刷して物理媒体で届けるので機器類は破壊してほしいですね」
「もう一つ情報を出しておくと、実は技研の残党がコーラルの完全焼失を目指してオーバーシアーという秘密結社を組んでいます。一部の構成員は判明していて、ハンドラー・ウォルターとシンダー・カーラの2名です。数年前にシンダー・カーラと共にRaDに加わった技術者たちもおそらくは仲間です。強化人間C4-621はハンドラー・ウォルターの部下なのですが、たぶん彼等はCパルス変異波形仮説を知りません。結果的にコーラルリリースは阻止する側ですが、アイビスの火を熾す恐れがあるので警戒だけしています」
「彼等に手を出さない理由は極めてシンプル、親友のC4-621が最強の個だからです。戦いでは勝てないので絶対に味方にしたい。ハンドラー・ウォルター及びシンダー・カーラはまだ滅茶苦茶強いの範疇ですが、C4-621はヤバいです。俺が本気の機体を整えた上で三人になって連携攻撃してやっと互角だと考えてください」
「前提として俺の強さはこのルビコンにおいてC4-621に次いで2位です。機体と十分な補給さえあれば俺だけで一勢力を壊滅に追い込めますが、C4-621は文字通りルビコンを滅ぼせる戦力です。極めて強い戦闘能力に加えてコーラルリリースとアイビスの火を起こし得ますね」
「そこで俺は諸々全部ひっくり返す計画を組みました。ひっくり返した後のことはわかりませんが、完遂できればルビコン全土の滅亡は回避できます」
「封鎖機構を打破し、アーキバスを壊滅させ、オールマインドの計画を挫き、オーバーシアーに過激な方法を取れなくする」
「簡単に言うとアーキバスを潰してベイラムを撤退させてから集積コーラルにたどり着き、アイビスの火が熾きる前にコーラルを焼いて被害を最小限にします。バスキュラープラントも壊す予定です」
「これだけです。これだけの為に俺は産まれてから奔走してきました」
「コーラルよ、ルビコンの内にあれ」
「その賽は、投げるべからず」
「賽は壊します。前提条件を壊して平和を目指します。コーラルはルビコンの内にあるように適度に焼きます」
「この計画にあたり、俺は戦力となる外部協力者を募りました」
「インビンシブル・ラミー、ノーザーク、オーネスト・ブルートゥ、コールドコール、六文銭、ブランチの「レイヴン」、V.Ⅲオキーフ、テスト」
「皆、それぞれの未来を欲した仲間です」
「あなたも加わってください」
「ドーザーの幸せのために。そして俺が生きるために準備しました。あなたの力が必要です、どうか俺に協力してください」
ベスティー・ナイトシェイド:ドーザーやジャンカーに顔が利く少年。北西ベイエリアのコーラル局所爆発を利用すべく自分なりに下準備を行っていた。予定を早めてミドル・フラットウェルを説得し、惑星封鎖機構やアーキバスへの包囲網を敷こうとしている。現状各勢力の利得に雁字搦めにされかけているが、いざとなれば武力で逃げる気でいるクズ。論文は論証がいまいちだが、性質の悪いことに結論はあっている。頭が馬鹿。
ミドル・フラットウェル:解放戦線の重鎮。仲介された同盟の話をするだけのつもりが、聞き逃せない一言を聞いてしまい、協力者を欲したクソガキに最悪の可能性を聞かされて巻き込まれた。ただでさえ仕事が多いのに、対オールマインドや対オーバーシアーも考える必要が出てきている。強力な実働部隊が増えたので勢力としては動き易くなった。
オーネスト・ブルートゥ:惑星封鎖機構に取り入った後ろで解放戦線と手を組んだ。最大規模のジャンカー集団の頭目は伊達ではなく、文化の違いで誤解されることを知った上で脅迫材料としてナイトシェイドに委ねた。独自に活動を増してきている。
コールドコール:ベイラムやアーキバスからの依頼を熟しつつ秘密裏にナイトシェイドの依頼も進めている仕事人。とはいえ関係性はビジネスのそれであり、都合が悪くなれば離れる程度の仲。ノーザークをD&Jまで護送して次の任務に向かった。少しだけD&Jに出資した。
ノーザーク:事前に知らせたら遁走するので半ば脅迫されてD&J拠点に連れてこられた。無断でD&Jを株式会社として立ち上げており、出資者の筆頭株主として勝手に登記した。儲けだけ掠めとって全責任を親友に被せて逃げる算段だったが、仲良くなったドーザーたちに担ぎ上げられて本当に経営顧問になった。
六文銭:いつものようにD&Jへ農業を学びに来たら言いくるめられて事務仕事をさせられた。古典芸能に傾倒した影響で算盤を弾けたのが運の尽き、1週間きっちりこき使われた。D&Jにまともな事務仕事が出来る人材が居ないことを知り、趣味の範囲で算盤塾をはじめた。子供に人気がある。
ナスティ・ロビン:実働一辺倒の感覚派リーダー。プレゼン資料は作れても事務は専門外。部下を引き連れてひたすら好き勝手出撃しては書類を増やしている。そもそもD&Jはドーザー集団なので在庫管理や収支報告がまともにできない。部下との仲は良好で、揉め事があれば一緒に出撃して忘れさせる方針をとっている。頭が馬鹿。
レイジ・レック:オールマインドを利用して『ハンミサLCD重二』を手に入れた。既に単体戦力としてかなり強力。表はD&Jのエース兼教官として働きつつ、裏でオールマインドの敵を排除しながら報酬としてACパーツを強請って横流ししている。頭が馬鹿。
大豊パイロット訓練生/テスト:近接派兵主義の申し子。大豊とナイトシェイドからの無茶振りで忙しい日々を送っている。機体が直り次第出撃する過酷な環境の中で実力を開花させつつあり、既にレッドガンの番号持ちを一対一であれば撃墜できる域に達した。出撃前のG2ナイルに奇襲をかけたせいでベイラムから所属不明ACとして指名手配された。
インデックス・ダナム:多重ダム襲撃の一件で怪我を負ったが完全復帰までは元々の職業である職工として働いている。災害復旧の為に仕事仲間と共に各地を走りまわっていて、D&Jの食糧生産プラントも6時間で復旧させた凄腕の職人。
サム・ドルマヤン:コーラル神秘主義思想家にしてルビコンの伝説的な英雄。年老いてからはルビコン解放戦線総司令の立場でありながら活動を縮小し「全ては消えゆく余燼に過ぎない」と諦観の底にあった。ある日、突然訪ねてきたミドル・フラットウェルから往年の警句の答えを返され、そしてリリース計画の蠢動を知る。老雄はその日の内に行動を開始した。
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Q、つまり戦力図はどうなるの?
A、対アーキバス・惑星封鎖機構同盟発足。加盟社は『BAWS』『エルカノ』『大豊核心工業集団』『シュナイダー』『ジャンカー・コヨーテス』『D&J』。戦後は対コーラルリリース同盟に移行する。
Q、ベイラムはどうするの?
A、大豊から待機命令を出して政治的に行動不能に。
加盟各社の目的
BAWS:ルビコンⅢの自治権。コーラル利権。
エルカノ:同上。シュナイダーの技術供与による新型機体開発(合意済)。戦力としてD&Jの吸収。
大豊核心工業集団:レッドガン部隊の吸収。ベイラムグループでの戦力的優勢。アーキバスからの技術吸収。
シュナイダー:アーキバスからの独立。空力至上主義。
ジャンカー・コヨーテス:惑星封鎖機構からの略奪。向精神剤としてのコーラル利権確保。RaDの併呑。
D&J:アーキバスへの略奪・報復。勝ち逃げによる円満な解散。残存勢力をエルカノへ委託。
Q、オールマインドはどうするの?
A、企業による徹底したコーラル利権管理でコーラルリリースを実行不能にする予定。
Q、それで上手くいくの?
A、ルビコンの解放者√ではコーラルを神聖視し重宝しているルビコン土着勢力単体で統治する都合上、コーラルの消費並びに減少が間に合わない可能性があると考えた。ならば危険性を周知させた上で複数企業による管理によって過剰なコーラルを消費・焼滅させることで、比較的安全にコーラル封じ込めることができるのではないかというのがベスティー・ナイトシェイドの思惑。コーラルの減少により最低でもコーラルリリースは避けられて、最悪ルビコンが燃えてもアイビスの火ほどの火力はないので次善の策にはなる。
分割した方が読みやすい文量ですか?
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はい
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