【完結】じゃんじゃかジャンカードーザー傭兵 作:白河童小鼠(人間)
ここで一つ、宣伝をします。
PS4、PS5のPlayStation Plusプレミアムプランの特典の一つ、クラシックスカタログにて。3月中に「ARMORED CORE」「ARMORED CORE PROJECT PHANTASMA」「ARMORED CORE MASTER OF ARENA」のアーマード・コア初代三部作がそれぞれ発売されます。
これはPlayStation Plusに加入していなくともそれぞれ各1100円で購入できるはずなので、是非購入して遊んでください。
アーマード・コアが気になる方向けに、アーマード・コアシリーズのこれまでのラインナップが掲示されている公式サイトURLを貼っておきます。
https://www.armoredcore.net/lineup.html
宣伝は以上です。
作者はAC二次創作の増加と旧作の復活を望んでおり、その要となるのがこの初代三部作です。あなたであれば、よいお返事を頂けることと信じています。
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通信記録:ドーザーの談話1
サーバーから抜き取った通信記録
仲間との雑談がログに残っていたものと思われる
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うちもかなり景気が良くなったよな
元々ただのドーザーでしかない俺達でも頑張ればやれるもんだってクソガキには思い知らされたぜ
ラミーが拾ってきた時はコーラルアレルギーで死にかけてたのに、今では立派なリーダーだろ?
本当によくやってるさ
でも、こんなこと絶対にあのチビには言わねえけど
調子にのってやらかすに決まってるからな
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「ねえ聞いてよ相棒」
「なんだぁ」
会合、いつもの定期連絡。
どう見てもサイズの合ってない小さな椅子に腰掛けるタンクトップ姿の巨漢を見上げながら会話を切り出す。
何回か前からシンダー・カーラやオールマインドの通信傍受を警戒し、RaD近辺の適当な部屋を借りて我が親愛なる相棒であるインビンシブル・ラミーと談笑をしている。
今までの会合は益体のない近況報告に終始させていたが、今回は違う。
ルビコン解放戦線のミドル・フラットウェルとの調整がまとまったことにより、俺も具体的に動き始めることができるようになったからだ。
「集積コーラルを焼くって言ったら怒る?」
とりあえずは軽いジャブから。
「そりゃあアレだ。コーラルはアレするに決まってんだから焼いてもその内アレするに決まってんだろ。脳みそキマってパチパチできねぇなんてのはあり得ねぇなあ」
要領を得ない適当な言葉だが、言わんとすることはわかる。要するに『コーラルって増えるから焼いても意味なくね?』ってことだろう。
まあ、そりゃあそうか。コーラルは数十年前のアイビスの火によってその量を大きく減らしてしまっているが、ここ最近はその産出量は若干の回復傾向にあるらしい。
地中支脈が変動したというのが解放戦線の見立てであり、その根拠はこれまでコーラルが産出していた井戸が枯れたりこれまで産出しなかった場所でコーラルが湧いたりしているからというもの。
事実、コーラルを無力化はできても、根絶するのはほぼ不可能という試算も出ているのであながち間違いではない。
しかし、今回はそうではない。
「仮に全部焼いたら相棒は怒る?」
「全部焼くってんなら殺すしかねぇなあ」
物騒だが惑星ルビコンⅢに住まうルビコニアンとして、そしてドーザーとしても当然の結論。コーラルの根絶はあってはならないもの。
かのサム・ドルマヤンの随想録に曰く、『この痩せた大地は、しかし内より無限の恵みをもたらし、雫ひとつで我らの血肉を成す』ともある。このように、コーラルとは兵器にして良し飼料にして良しのルビコニアンが誇る万能物質だ。
コーラルの根絶是すなわちルビコニアンの絶滅を示していると言っても過言でもないはず。なんならそのついでにコーラル中毒で依存しているドーザーなんて完全に絶滅してもおかしくは無い。
道徳的にドーザーなんて死滅すべきではあるが、それは社会道徳の改善によって数を減らすべきだし、物理的に虐殺することはまた別の話だ。
「じゃあ話が早いや。シンダー・カーラさんがコーラルを根絶できると思って星ごとバーベキューしようとしてるから、それを止める為に力を貸してほしい」
「あぁん?なんだボスのことかよ」
「そう、カーラさんのこと」
シンダー・カーラ。
ジャンカー集団『RaD』を取り仕切る頭目にして、コーラルの過剰増殖によって発生する破綻を防ぐ観測者達の結社『オーバーシアー』の一員。自分の知識の中での話だが、オーバーシアーはコーラルを根絶するためにアイビスの火を再現しようとしている。
これはあってはならない結末の一つだ。
「お前、昔から敵には容赦ねえよな。ボスをどうするつもりだ?」
「カーラさんに何かするつもりは無いよ。とりあえず集積コーラルを先にちょっとだけ焼いて、全部焼ける火力を出せなくするつもり」
あってはならない結末がわかっていたからこそ、自分は単純明快な作戦を立てた。
相棒に説明した通りの集積コーラルをちょっとだけ焼くシンプルな作戦。原作知識を何度も試算で裏付けして集積コーラルの場所を知る自分だからこそ出来る無茶苦茶な作戦だ。
「どうせまだなにか隠してんだろ。勿体ぶらず吐け」
だがまあ、長い付き合いの相棒にはバレていたらしい。
「大したことないんだけどなんで気付くかな。まあいいや、相棒ってこのルビコンから出るつもり無いよね」
「そりゃドーザーだからな!」
ドーザーはコーラル中毒者故にドーザーなのだ。
他の星でコーラルが産出しない以上、ドーザーが惑星ルビコンⅢから出る意味もない。
だからフラットウェルさんと戦後のことについて交渉した訳でこれは相棒の為でもある。
「なら俺がルビコンから脱出した後にルビコンがバーニングしたら困るじゃん」
「あぁ?そりゃそうだけどよ」
「事が終わったらカーラさん捕まえてさ、コーラルの管理人をしてもらえないかと思ってる」
RaDの頭目シンダー・カーラの前職はC兵器を作り出したルビコン調査技研の研究員であり、その経歴からコーラルの扱いはお手のものだろう。
仮説に仮説を重ねることになるが、そもそもオーバーシアーとはコーラルによる破綻を防ぐのが仕事であって、根絶すること自体が仕事ではないと自分は考えている。アイビスの火を再現するのは苦渋の決断のはずだ。
コーラル根絶に固執しないという譲歩をしてもらう必要はあるが、必ずしも相容れない敵では無いだろう。
「お前の話が本当でもそれが出来りゃ苦労はしねぇ。RaDの頭目でしかないボスをどうやってその地位まで持ち上げるよ」
相棒の疑問は御尤も。
言ってしまうと悪いが、あくまでも表向きのシンダー・カーラは数あるドーザー集団の頭目の一人に過ぎない。
企業からするとドーザーとは謎の薬中集団に過ぎず、ジャンカー技師としてACを生産しているRaDもその認識からはほぼ外れてはいない。
この前の一件で解放戦線にも確認したが、RaDの頭目でも社会的地位はそう高くないと思われているようだ。
この前のミドル・フラットウェルの会談までは。
「いや、その辺はもうフラットウェルさんと協議が済んでる」
「おい」
ちゃんとその辺は調整済。
もし戦後にシンダー・カーラが生き残った場合だが、ウォッチポイントでコーラルの流量観測を始めとする業務に携わってもらうことになっている。
本人には内緒の取らぬ狸の皮算用だが、一戦交えることと本人の有用性を鑑みての人事だ。
それにもし彼女がそれを望まないのであれば、本人の実力で勝手に色々できるという確信がある。
カーラさんならどうとでもなるだろう。
「技研の元研究員としてコーラルの危険性に精通している以上、カーラさんは最適な人材なんだ。D&Jを使ってウォッチポイントの運用マニュアルも盗み出したから下準備は整ってる」
「初耳のことを垂れ流さないでくれねえか? まったく、変なこと言いやがるから酔いが覚めちまった。それで結局この無敵のラミー様は何をすれば良いんだよ」
机に身体を突っ伏して拗ねるように口を尖らせる相棒。
そうか酔いが覚めちゃったかー。
「悪い悪い。とりあえずRaDに独立傭兵レイヴンって奴がACで襲撃しに来るから、逃げるなり脱出するなりで生き残ってほしい。話はそれからかな」
「レイヴン? ああ、アイツかぁ! アイツならカーゴランチャーでかっ飛ぶとかなんとかで今RaDに居るぜ! 中々に強かったな!」
「へ?」
は?なんだって?
もうC4-621がRaDに居るだって?
クソッ、災害対応で一手出遅れたか。いや、そんなことよりも相棒が生きているなら最悪の事態にはなってない。それで良い、それなら良いんだ。
思わず椅子から立ち上がり相棒の身体をつついて存在を確かめる。
「本当か? 相棒は怪我無いよな?無事だよな?」
「おうよ! 俺のマッドスタンプもかなり壊されちまったが俺はこの通りピンピンしてるぜ!」
「よ、良かったぁ……!」
健在を誇示するように腕を上げて力こぶを見せてくる相棒。
元気そうな様子に安心して胸を撫でおろす。
まったく、ここ最近で一番肝が冷える思いをしてしまった。近頃はフラットウェルさんとの調整の為に頭を使っていたから、独立傭兵レイヴンの行動に気付けなかったのは失敗だな。
結果としてインビンシブル・ラミーが生き残ってくれたから良いものの、この奇跡が無かった場合を想像してしまうと背筋が冷える。
「ばーか、テメェは心配し過ぎなんだよ」
大豊製の宇宙服越しに相棒から頭を力強く撫でられつつ思考を回す。
しかし、兎にも角にも今回の議題はこれだけを伝えることだけだった。コーラルでキマっている相棒はお世辞にも頭がよろしくないので、とにかく一つずつ物事を伝えないといけない。
今回の目的は達してしまったとすると次はどうしようか。
あっ、そうだ。
「前に相棒に渡したIA-C01F: OCELLUSはどうなってるかな」
IA-C01F: OCELLUS、俺たちが一番最初に偶々手に入れた技研製ACのFCSだ。
近距離での攻防における解像度が極めて高いFCSなので相棒の戦法にピッタリだと思って渡したのだが、あれはどうなったのだろう。
「あぁ?」
「ほら、技研製ACから手に入れた近接特化FCS」
「ああ、あれかぁ! ありゃ壊れたな」
壊れたぁ!?と叫ぼうとしてすんでのところで言葉を呑み込む。
いや、マッドスタンプが何回も大破している以上、どこかで壊れることは想定して然るべきだった。IA-C01F: OCELLUSは相棒のマッドスタンプのコンセプトのように替えの利くパーツではないし、どこかで限界が来たのだろう。
コーラルを使用しているから多少の自己修復機能があると考えて渡したが、相棒の酷使にはさすがに耐えきれなかったか。
まあ仕方ないか。相棒は無敵でも機体は無敵じゃないし。
「壊れた? 粉々になっちゃったかな」
「なーんか故障しちまってなぁ! ボスに修理してもらったから使えるには使えるんだが、少し性能が下がったんだ」
「ふーん、どんな風に下がったの?」
「ミサイルロックの数値がほぼ半減したんだとよ。試しにチャティのやつが貸してくれたクラスターミサイルを使ってみたら、使いにくくて仕方なかったぜ」
相棒が大口を開いて欠伸を一つ。
この呑気な様子なら大事ないことなのだろう。
それにしてもチャティ・スティックのクラスターミサイルと言うとWR-0999 DELIVERY BOYか?
あれは誘導ロック時間が約5秒とかなり長いタイプのミサイルなので、FCSのミサイルロック補正がとても重要になるはずだ。
ミサイルロック性能がほぼ半減というと数値にして大体40ぐらいかな?
自分が前まで使っていたファーロン・ダイナミクス製第2世代FCSのFCS-G2/P05はミサイルロック補正が105。今使用しているベイラム製近接戦闘向けFCSのミサイルロック補正が74。
これでクラスターミサイルを運用しようとすると当たり前だが支障が出るに決まってるな。
「となると凄まじく下がったね。誘導ロックにかかる時間がほぼ二倍になったんじゃない?」
「そうなんだよなぁ。なあ相棒、これなんとかならねぇか?」
「なら俺の今使ってるFCSと取り替える? ほら、OCELLUSを渡す時に話した性能が似てるベイラム製近距離FCSなんだけど」
俺が今使っているFC-006 ABBOTは壊れたIA-C01F: OCELLUSよりもミサイルロック性能は高いしマシなんじゃないかな?
それにミサイルロック時間が二倍になったとしても、そもそも誘導ロックが極端に短いミサイルを使っている自分なら問題ないはずだ。
「そうすっかぁ。ならRaDに寄ってけよ。今日は空けてるんだろ?」
「相棒の為なら空けるさ。それにレイヴンも気になるしね」
「決まりだ。なら早く行こうぜ」
そういうことになった。
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『メインシステム 戦闘モード起動』
「狭っ、狭めーよ」
「仕方ないじゃん!ACは二人乗りを想定してないんだからさあ!」
「しかしお前よくそんなおもちゃで操縦できるよな」
「戦闘モードだけだけどねぇ!」
嵩張る宇宙服を脱いで愛機Potooooooooの肩に懸架し、自分は室内着のライダースーツにフルフェイスガスマスクを装着している。
なぜこんな2人乗りをしているかというと、相棒がヒッチハイクでここまで来たとか言いやがったからだ。
馬っ鹿じゃねーの!
なので今は体格の大きな相棒をパイロット席に座らせて自分が後部の荷台に乗っている。荷台に座るために身体を限界まで丸めているので、正直に言うとクソ狭い。あーもう!自分が子供の身体じゃなかったら無理だぞこんな曲芸操縦!
しかもパイロット席の操縦機器が使えないから戦闘用のコントローラを使って戦闘モードで動かないといけないのは本当に馬鹿だ。
荷台には当然シートベルトとかないので、こんな体勢で戦闘機動を行ったら身体を色んなところをぶつけてしまう。
待てよ、シートベルト?
「なあ相棒、RaDで荷台用のシートベルトって扱ってない?」
「はぁ? なに言ってるんだ」
さすがに無いよな、うん。
そんなニッチ過ぎる需要なんてあるわけない。
変なこと聞いてしまったな、これはどう誤魔化すべきか。
「あるぞ」
「あるの!?」
「自分で言い出しといてなんで驚いてんだ」
「いや、本当に取り扱ってるとは思ってなかったから」
「バーカ、狭いところに人を詰め込むのは人身売買の基本だろうが。お前が殲滅した海賊が発注して納入前にダブらせやがったやつが余ってるから安く売ってやるよ」
「いや経緯ィ!」
「うるせぇ!」
「うわっとぉ!? 操縦中なのに危ないなぁ!」
相棒のグーパンを左手で受け止める。
腕が痺れて痛いなぁ、相棒のパワーが強すぎる。
でも、その海賊って大豊の依頼で前に殲滅したクズどもじゃん。アイツら本当に人身売買してたのかよぶっ潰して正解だったわ。
アレらの発注した商品を使うのは思うところがあるが、背に腹は代えられない。使えるものは使うべきだろう。
「悪りぃ、うるさくて反射的に手が出ちまった」
「次から気をつけてくれればそれで良いよ。パイロット席で喧嘩はまずいしね。あとシートベルトは買わせてもらうよ」
「おう、じゃあチャティのやつに連絡入れておくわ。今は在庫管理もアイツがやってるんだわ」
「チャティ・スティックってシステム担当じゃなかったっけ?」
チャティ・スティック。シンダー・カーラが作り出したRaDの提案型AIだ。自分の知る限りチャティはシステム管理も担当しているAC乗りだったはず。
在庫管理もしているとは何かあったのだろうか?
「クズのブルートゥに裏切られてからボスがちょっとな」
「ああ、うん。言いにくいことを言わせてごめん」
相棒の反応を見るに、オーネスト・ブルートゥがオーバード・レールキャノンごと物資を大量に持ち去った一件で人事が変わったのだろう。
ドーザーの組織なんだから厳密な管理なんてできないと思うのだが、AIのチャティ・スティックならまず裏切ることはないということか。
でも、人間関係の機微に疎い相棒ですらブルートゥに対してこの扱いか。シンダー・カーラの前でこの話題を出すのは絶対に辞めた方が良いな。
RaDの根城であるグリッド086も見えてきたことだし気を引き締めよう。
外部に向けて相棒が通信で呼びかける。
「おーい! 俺だ! 無敵のラミーだ! 攻撃するんじゃねえぞ!」
『あはぁ?ラミーさんどうしてACに乗ってるんですかい?』
『おい、ありゃあ前に襲撃してきたガキの機体じゃねえか?』
『識別信号はポテ……ポテト? で合ってるぜ』
『馬鹿だなぁお前。それはポテイトーズって読むらしいぜ。Pot-8-Osでポッテイトーズなのさ!』
『はは!なんだそりゃ! ポッテイトーズってよぉ! 馬鹿みたいな言葉遊びだな!』
は?殺す。
衝動のままに通信先の連絡塔にMA-E-210 ETSUJINの照準をつけたところで、相棒にコントローラを奪いとられる。
「離して相棒!アイツ殺せない!」
「落ち着け。俺の面目を潰すつもりか?」
「ふーっ、ふーっ、ふうーっ! ……落ち着いた。悪い相棒」
「良いってことよ」
茹だった頭を深呼吸で落ち着かせる。
……声は記録したし後で殺しに行くか?いや、殺すと相棒が困るんだったな。
仕方ない、後で遺憾の意を表明しておくか。
『お、おいヤバいってアイツ。ナイトシェイドって名前だったか? 入れない方が良いんじゃ』
『俺のダチを馬鹿にしたな?』
『へ?』
『次はないからな』
『は? え?』
ACに備え付けられたレコーダーを確認していると、連絡塔からなにやら声がした。
うん?この声はネットで知り合ったアイツか。
RaDに就職してたのか。そういえばどこに勤めてるのか知らなかったっけ。意外と世の中狭いもんだね。親友の言葉に殺意が急速に萎んでいく。
「久しぶり! 元気にしてた?」
『ちっす! 子分が悪かったわ! あとで俺が叱っとくんでコイツの命は勘弁してやってほしいんだけど』
「全部許した! でも人の名前と身体的特徴をからかうのは相手を選ばなきゃ駄目って教えとかないとまたやらかすよ?」
『そうだなぁ。今度ベスティーおすすめのマナー教えてる動画とか教えてくれね? 俺そういうの疎くてさ』
「オーケー。おすすめのサイトアドレス今送ったから参考にして。俺も最近まともな知り合い向けに最新版ドーザー教本つくってるから一般常識と擦り合わせるのに使ってるんだ」
『いいなそれ面白いな! 完成したら俺にも売ってくれよ! サンキューベスティー! カタパルトはあっちだ!』
「予約ありがとね! またな!」
親友の一人と会えたので気分爽快、茹だった頭も一瞬で元通りだ。
親友は良い。今はまだ効かないけど、そのうちアレルギーにも効くようになるんじゃないかな?そんな研究しているのかは知らないけどさ。
「相棒、落ち着いたからコントローラ返してくれる?」
「おう。なあ相棒」
「なあに?」
機体のコントローラを返してもらいながら聞き返す。いったいなんだろうか。
「……人付き合いは選んだ方が良いんじゃねえの?」
「合縁奇縁、人付き合いとは奇妙なものなのさ」
「煙に巻こうとしてねえか?」
「な、なんのことかなー!」
口笛を吹いて誤魔化す。
自分の口笛テクニックは相当なものだと自負している。なにせ1歳にして見世物小屋で金を取れるレベルだったのだ。今の時代音楽みたいな芸術分野はAIが代替して久しいので、人が演奏するだけで価値がつく分金をとる難易度が低い。
そこに前世で聞いた音楽をパクって幼児が口笛を吹けば見世物として観衆も大盛り上がりって寸法よ!口笛をAIにぶち込んで指向性を与えればまともな音楽になるのでそれを配信して結構な収入を得ていたものだ。
あの頃を思い出して本格的に口笛を奏でる。
懐かしいな、見世物小屋のおっちゃんに報酬ピンハネされてたっけ。コーラルアレルギーが悪化して客前に立てなくならなければ追い出されることもなかったんだけどな。まあそのおかげで相棒に拾われてD&Jに入ったんだし巡り合わせだよね!
「うるせえ!」
「危っぶない!」
相棒のグーパンチを右手で受けとめる。
いかん、左手に続いて右手までも痺れてきた。
流石は相棒、パンチの威力も無敵だなぁ!
「耳元で口笛吹くんじゃねえよ」
「ごめん」
それは本当に申し訳ない。
RaD本拠地行きの垂直上昇カタパルトに辿り着き、そして懸念を思い出す。
「ねぇ相棒」
「なんだぁ」
「このカタパルト使ったらちゃんと座ってる相棒はともかく、俺が酷いことにならない?」
「……カタパルト用のMT借りてくるわ」
「ここまで来といてごめんね」
「良いってことよ」
締まらない話だ。
相棒を外に出して着替えるためにコクピットのハッチを開けた。
ーーーーー
「アッハッハ!ラミーとACに二人乗りしてしかも荷台に座っていたなんて、ナイトシェイドあんたそんなことになっていたのかい!流石はラミーの相棒って言うべきかねぇ?」
「よせやい照れちゃうよ」
「ボス、あまりコイツをからかわないほうが良いですぜ。調子に乗ったら変なことやり始めますんで」
「そうかい? ラミーがそう言うならそうしようか」
RaDの奥にある整備場の更に一角。
ACらしきスクラップが混然と山積する薄暗くて煤の積もった区画に俺達は居た。
さっきまでと違うのは、自分と相棒に加えてもう一人存在すること。
RaDを纏める才媛シンダー・カーラがこの場に居ることだ。
「相棒は最近RaDでどうですか? 迷惑をかけてませんか?」
「言われてるよラミー! こんな小さい子供に保護者面されるなんて、あんたはよっぽど昔から迷惑かけてたんだねぇ。いつも呑んだくれてばかりなのにどうやったらこんな良い子を拾えるのだか」
「ボス、そりゃあ無いですよぉ。お前も変なこと言うなよな」
「悪い悪い。じゃあ改めて自己紹介をさせていただきましょうか、シンダー・カーラさん。インビンシブル・ラミーの相棒、ベスティー・ナイトシェイドと申します。よろしくお願いします」
「これはご丁寧にどうも。私がRaDの頭目シンダー・カーラさ。そう畏まった態度はやめてくれないかい?似たような態度のクズが居たせいで、そういうのを聞くと鳥肌が立つんだ」
「ではいつも通りにさせてもらおうかな」
「あー、コーラル吸いたいんで向こう行って良いですかね。チャティのやつに発注することもあるんで」
心底面倒くさそうな顔で目線を彷徨わせる相棒。
相棒こういう交渉事苦手だもんね。それにここに居たら自分とカーラさんの両方から弄られてあまり気分が良くないかも。
賢明な判断だ。
「なんだい堪え性が無いねぇ。まあいい、マッドスタンプは修理したから確認しておきな」
「へへ、流石はボス。じゃあ俺はこれで失礼します」
逃げるようにそそくさと去っていく相棒。
これでシンダー・カーラさんとの一対一、相棒が居てくれた方が空気が和んでやりやすかったけど本人が嫌がるなら仕方ない。
気張っていこう。
「それで?あんたの用件を聞こうか」
「親友の強化人間C4-621が近場に居ると聞いたんで会いに来ました」
沈黙。
眉を感情の判別がつき難い形に歪めるカーラさん。おそらく困惑、思案、警戒といったところか。
しばらくした後、カーラさんの方が沈黙を破る。
「なんだ、ビジターの客だったのかい。私はてっきり内緒の注文にでも来たのかと思ったよ」
「RaDに注文する物もあるにはあるけど、この前コーラルを浴びたはずの親友がミッションに出ていると聞いて驚いて会いに来たんだ。今ごろ安静にしてると思ってたんだけどね」
「強化人間に親友ねぇ。親友にも言えないことを色々と秘密にしておいてそれを言うかい?」
「人付き合いが多いと秘密事項なんて持て余すほど抱えてるものなんで」
早速鎌を掛けてきたか。俺はシンダー・カーラを始めとするハッキングが得意な連中を対策するために、物理的に記録を抹消する措置を度々とっている。おそらくシンダー・カーラは俺の持つサーバーにでもアクセスしたことがあるのだろうが、不自然なほどに使用履歴の無い機器に違和感を覚えたのだろう。
「ハッキングとは関心しないなぁ。でもわかるよ、秘密とは甘いものだしね」
「こっちもあのクズの一件以来色々と漁っていてねぇ。ここまで言えばわかるだろう? ここで落とし前をつけさせるってことさ」
落とし前をつけさせると来たか。
手持ちの武器の位置を確認し、ACまでの最短経路を脳裏で確認する。……まずいな、最短経路の出入口をカーラさんに立ち塞がられている。
彼女を殺害して無理矢理押し通ることも出来なくはないだろうが、カーラさんもその想定はしているようで監視カメラがこちらを向いているのがわかる。おそらくRaDのAIであるチャティ・スティックがこの場の監視しているのか?
もし強引に逃走しても包囲されていて殺されてしまうと考えた方が良いか。
それにオーネスト・ブルートゥがRaDから色々を持ち去った事件のことか。確かに自分はブルートゥと仲が良く実質的な共謀者にあたるけどこれが本題か?いや、まだ決定しない方が良い。
これはバレても良い事柄だけどなるべく隠し通して誤魔化したいものでもある。
確認のためにも一度すっとぼけよう。
「相棒をRaDから引き抜こうとしていることは確かに悪いと思ってる。相棒を退室させて切り出してきたってことはそういうことなんだろ? でも就職先を決めるのは本人の自由のはずだ」
「ここでとぼけるとは良い度胸をしてるねぇ? 育てたやつの顔を見てみたいものだよ」
は?今コイツ相棒のこと悪く言ったか?
腰のノコギリ槍に伸びそうになった手を引っ込めて大豊の宇宙服越しに睨めつける。
殺しは無しだが指の一本ぐらいバラしても……支障は出そうか。それに相棒の事とはまだ完全に確定していないし、誤解だととんでもない問題になる。相棒の面子のためにも堪えないと。
警告はしておこう。
「相棒のこと馬鹿にしてんのかシンダー・カーラ。アンタのことはそんな品の無いやつとは思ってなかったから手が出そうになっちまったよ。相棒の事を後2回貶したらもう我慢しないからな」
「ハッ、ラミーの? 惚けても無駄さ。あんたもウチの第一教授が作った第一世代強化人間で子供のふりをしてラミーのやつに取り入ったってことはわかってるのさ! さっさと観念しな!」
「へっ?」
憎しみが混じった憤怒の形相を浮かべるカーラ。
自分が第一教授が作った第一世代強化人間だって?なんだそれ、初耳なんだけど。
第一世代強化人間ならスッラのことなのだろうけど、自分が強化人間なんて何があったらそんな結論になるんだ。まったくの想定外過ぎて何をどうすれば良いのかわからない。
「そんな小さななりでそんな怪力を見せびらかしておかしいと思ってたさ……都合良く技研のACを手に入れて、初陣からスムーズに機体を動かしてミッションを成功させ続けるなんて強化人間でもないと筋が通らない。どうせあんたもウォルターを付け狙ってたとかいうアイツの同類なんだろう? 最高のタイミングでウォッチポイントから回収させたようだしねぇ!」
タイミングが最適過ぎて本当に誤解をされてる!?
でもこれは完全に誤解だな。自分は悪くない。
弁明をすればわかって貰えるはずだ。
努めて冷静に、あくまでも平和的に説得を試みる。さっき挑発しておいてなんだがこのタイミングで彼女と事を構えるのは拙い。
言葉の冷や水をかけて冷静になってもらおう。
「いや、全然違いますけど。身体検査してもらえばわかると思うんですが俺は生身の人間です。ここで脱げば良いですか?」
「……なんだって?」
訝しむ様子を見せるカーラさん。
「俺はコーラルアレルギーなだけの普通の人間です。抵抗しないので検査してもらっても大丈夫なんでその、疑惑は解くので誤解しないで欲しいというか……」
「……念の為、確認させてもらうよ。あんた、あのオルコスに育てられたことは間違いないね?」
「オルコスと言うとボルスター・オルコスの爺さんで合ってますよね。そこは否定しません」
ボルスター・オルコス。D&Jでは自分の先代に当たる元リーダー。灰かぶりだとは聞いていたけど、まさかシンダー・カーラとも交友があったのか?
なにそれ知らない!えっ、そもそもなんで知り合いなんだ?シンダー・カーラの推測できる経歴から考えて技研か?でもなんでオルコス爺さんが。
そこまで思考したところで声がかかり思考をとめる。
「ならベスティー・ナイトシェイドはあの時オルコスに連れ出された強化人間だろう」
「いえ、違いますけど。というかオルコス爺さんって技研の関係者だったんですか?」
「……やっぱり惚けてるじゃないか! 私が技研の関係者なんて知ってるやつは、もうほとんど生きていないんだよ!」
吐き出すような怒声。籠る感情は完全な警戒。
やっべ、やらかした。考えた通りの事を話してしまった。即応して勢いで誤魔化すしかない。
「それも誤解だ! カーラさんって俺の持ってた技研製ハッキング装置の開発者なんだろ!? あの循環参照のトラップRaDとあの装置でしか見たことないし!」
「はぁ!? ならその罠のソースコード名を言ってみな!無理とは言わせないよ!」
「『Alca』だよ! Anti Law Cracking Alca! 合ってるだろ! RaDの方は相棒の就職先ってことで深入りしてないからしらないけどさぁ!」
「……正解さ。あぁまったく、こんな間違いをするなんて私も焼きが回ったかねぇ」
作業服の胸ポケットから出したタバコを骨董品のオイルライターで灯して吸うシンダー・カーラ。
誤魔、化せたのか?
煙を燻らせる眉根は苛立たしげに顰められているが、どうやら大体誤解は解けたようだ。
「悪かったね謝らせてもらうよ。友人に言われてあんたの事を探ってみたら、怪しい所がゴロゴロ見つかってねぇ。あんたも私がハッキングした事に気付いて最近カバーストーリーも流してただろう? それで焦ったのさ」
「いや、ハッキングされてたとか何も気付いてなかったんでやめてくれませんかねぇ!? 気付けないから俺は定期的に機器を交換してるんですよぉ……! 履歴書掲載したのだって皆から怪しまれたからだし俺なりの誠意なんですよぉ……」
「ああ、そういう……悪かったって。なら念の為身体の検査して終わりにするからその重いのを脱ぎな。どうせ同性なんだ、気にすることは無いよ」
「俺は男なんですけど!? それに煙全般も吸うの駄目な体質なんで煙草は勘弁してもらえないかなって……」
「……もう面倒だ! 脱ぎな!」
「ハイッ! パージします!」
宇宙服をパージして調査の終わり際に頭を殴られた。もう、何がどうなっているんだ。
床に直置きしていた宇宙服も色々煤だらけになってしまってるし散々だな本当に。いくら自分を逃さないようにする為とはいえこんな場所に連れ込むなんてこれだからドーザーってやつは。うん?別にカーラさんはコーラルキメてるわけでもないしドーザーじゃないか。まあいいや、自分と同じ広義のドーザーってことでここは一つ納得しよう。
でも身体を全身弄られてコーラルアレルギーでちょっと身体が赤くなっちゃったしどうするかなぁ。カーラさんもC4-621と会えるか確認しに行ってしまったことだし、ひとまずオルコス爺さんに確認をとっておこう。本人確認も大切だしね。
『はい、オルコスです』
「俺だ。ベスティー・ナイトシェイドだ。オルコス爺さんに確認したい事があるんだけど時間ある?」
『おお、ナイトシェイドか。構わんよ、いったい何じゃろうか』
「爺さんが技研から連れ出した強化人間ってどうなったの?」
『ああ、サムに会ったんじゃな』
「爺さんがサム・ドルマヤンとの交友があるとは初耳なんだけど?」
『ありゃやってしもうた。まあ良いわ、なら誰から聞いたか?』
「RaDの頭目をやってるシンダー・カーラさんから。技研で助手をやってたらしいけど知り合い?」
『そんな名前ではなかった気がするが。まあ良い、それで何用だったか』
「オルコス爺さんが連れ出した強化人間の行方だってば」
『おおそうじゃった。それならあいつはもう死んどるぞ。ケツからコーラル突っ込んで死んだと言えばわかるか?』
「理解したわ先々代。先々々代が強化人間だったってことで合ってるよね」
『その通り。アレは手術で狂ったのか奇行が多いやつでな。後遺症を和らげるためにコーラルを濫用しておったわ』
「ふーん。じゃあなんで連れ出したの?」
『……まぁ時効かのう。実はアレとは賭場で知り合った知り合いでな。アイツは元から時たま脱走して博打を打っておったのよ。それでアレの脱走がバレた時に己は一緒に居たから誤解されたに過ぎんわい』
「なら単純に事故ってことで合ってる?」
『そうそう。あの頃の技研は恐ろしい実験を幾つも行っておってなぁ……儂はただの施設整備員だったから捕まるわけにもいかんかった』
「追われたら逃げるのが人情ってものだしオルコス爺さんは間違ってないよ。教えてくれてありがとね。それじゃあ」
『助手とやらにアイツは恨んでなかったと伝えておくれ。アレは誰よりも口が悪かったが最後に遺恨を残して去ったことを悔やんでおった』
「なら爺さんからは何かある?」
『何もない! その助手とやらを儂はほとんど知らんしな』
カラカラと柄にもなく笑うオルコス爺さん。
いつになくしおらしい態度を見せていることだし、これは何か裏があるな。後ろめたいことが無ければ原則自信過剰なドーザーが"ただの施設整備員"なんて謙遜するわけないし。
何を隠している?あまり根掘り葉掘り詰問しようとしても偏屈な爺さんの機嫌を損ねて終わりだ。
ここは一発でクリティカルな話題を出さなければならない。
カーラさんが自分を疑った最初の理由に『都合良く技研のACを手に入れて』なんて言ってたしその辺りか?
心情に踏み込む訳でもないしこれが適当だろう。
カマをかけてみるか。
「カーラさんACを盗まれたって怒ってたけど?」
『……あー! あー! 急用を思い出した! なんとか誤魔化しておいておくれ!』
ビンゴ、これだな。通信を即切りされず雑な誤魔化し方をしてるってことは怒られるのが嫌な程度の話題ってことか。
「ちょっと待って! 現存してるか、もしくは何に使ったのか教えて! それだけで良いから! なんとかするにもその辺わからないと無理だって!」
『売った!』
「何に使ったの?」
『……プラントの修理費よ。冷静に考えてD&J程度の集団が何もなく食料生産プラントを修理できる訳ないではないか』
「えっ、そういう理由だったの? なら用途は真っ当かな。売却先は?」
『サムのやつじゃな。用途は聞いておらん』
ここでサム・ドルマヤンが出るのかよ。
待ってくれ、時系列はどうなってるんだ?
「売買の時期ってアイビスの火の前? 後?」
『前。お前にはあまり首を突っ込み過ぎると余計な厄介事を招くと言わんとわからないかのう』
後ろめたさを上回る苛立ちが徐々に高まってきているようだ。逆ギレの兆候があるしオルコス爺さんへの追及はここらが限界かな。
「そっか。今回は教えてくれてありがとね。それじゃあまた今度な」
『身体には気をつけるのだぞ』
「爺さんこそ気をつけてね」
通信を切って溜息をつく。
オルコス爺さんがD&Jに入った理由は、アイビスの火以降にD&Jに食料生産プラント修理を依頼したら修理後にドーザーが屯するようになってなし崩しに加入していたというもの。
そのD&Jの食料生産プラントで生産された食料で自分も育った以上、その修理費が盗品の売却から出ていても文句を言うことができない加担者でしかない。
それにこれは推測でしかないが、どうせオルコス爺さんが技研ACを盗み出さなくてもアイビスの火で焼失していただろう。
加えて不可抗力とはいえアイビスの火を起こした技研の元メンバーに、アイビスの火以前のことを問い詰められる筋合はないのでは?
「ノーカウントだ、ノーカウント!」
『へえ、何がノーカウントだって?』
慌てて独り言を話そうとしていた口を両手でふさぐ。
あっ、やべっ。
スピーカーを通じてシンダー・カーラの声が整備場のスクラップを揺らす。
オルコス爺さんとの通話も聞かれていたか?
この辺りの通信回線はRaDの管轄下にあることだし聞かれていてもおかしくはない。聞かれて困る会話はしていないとはいえ、どう対応したものか。
ゴマでも擦っておくか? やめよう、ここで変な態度をとっても悪印象を持たせるだけだ。
何食わぬ顔で仕切り直そう。
顔見せてないけど。
「それで何の用ですかね」
『コヨーテスの連中が攻めてきてねぇ? あんたは一応お客様でもあるからそこで待っていても良いんだが……』
ナイスだコヨーテス!流石はご友人の部下たちRaDへの嫌がらせに余念がない。
彼等を蹴散らすことでジャンカー・コヨーテスとの繋がりは傭兵としての依頼だけと思ってもらえるなら万々歳だ!
ようやくツキが巡ってきたな!
「ベスティー・ナイトシェイド、出撃させていただきまァす!! その代わり過去の色々ノーカウントってことで!」
『話が早くて助かるよベスティー。弾薬費と修理費は持つから派手に暴れてきな!』
「ヒャッハー! 出撃だぜぇごはぁ!?」
喜び勇んで煤まみれの整備場を走り出す。
パックに入った潤滑油を踏んづけてしまい転んだのは御愛嬌というやつだ。
誰だよこんなところに工具置いたやつ。
ーーーーー
作戦地点はRaDの薄暗い室内。MTが動き回れる程度のスペースと、用途に合わせて区画を区切る格子状のゲートが迷宮の如き複雑な地形を織りなしていて、ACで依頼を遂行するには難易度が高い場所だ。
「おうおうおう! 遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 無敵の相棒ベスティー・ナイトシェイドここに見☆参ッ!」
愛機Potooooooooのブースト噴射を盛大に空噴きして大見得を切る。施設目当てのドーザーを相手にする時はこっちに意識を向けさせるに限るって相棒が言ってた。
流石相棒!見ろ、相棒の威光のお陰で敵機がこちらに向き直って……
『あーっ! テメェ、ベスティー! よくもあの時はやってくれたな!』
『此処で会ったが百年目ぇ! いざ尋常に死ねぇ!』
なんだ自分の知り合いか。
ミサイルを撃ち出し始めた改造4脚MT『MB-0100 CLUTCH』は攻撃力は立派なんだが、あんなに大量にばら撒いていると弾薬費が凄いことになる。
ジャンカー・コヨーテスはドーザー界隈の最大手だけあって、弾薬費を気にせず撃ちまくれるのは時々羨ましくなってくる。
D&JもRaDから建機用にMB-0100 CLUTCHを50機ほど導入したが、ちょっとした財政難のせいで戦闘用の武装は購入できなかった。
それでも工具用カッターや溶接機を自衛に使える辺り、新入りには過ぎた玩具だろうけどさ。
『糞が! 当たらねえ!』
「ばーかばーか! そんなへっぽこバズーカ当たりませんよーだ!」
『被弾した! 被弾した!』
『どうなってんだよコイツの動きは!』
一瞥して弾幕の薄い場所に突撃し、バズーカによる反撃を貰わないよう少し離れた位置から銃撃を行う。100mほど距離を離していれば、近距離とはいえ回避が充分に間に合うので簡単なミッションだ。
D&JがMB-0100 CLUTCHを注文したのは、オーネスト・ブルートゥがRaDから資金と物資を持ち逃げした直後のことだ。
運転資金がおおよそ枯渇しかけていたRaDは資金を調達する為の取引相手を探していたし、うちのD&Jは大幅に増えた非戦闘員が働くための建機を探していた。MTはACよりも大幅に安いし、なによりMTはパイロット適性を選ばないという利点がある。
新入りに渡すのはBAWSの標準MTである『MT-E-104 BAWS BIPEDAL MT』でも良かったのだが、用途が建機なら少し値段が高くとも『MB-0100 CLUTCH』の方が便利だったこともあって購入を決断した。
50機もまとめ買いをしてお値段250000 COAMは中々に懐が痛んだが、現場からは機能的にかなり好評なので購入して本当に良かった。
「カーラさん、見ててくださいよぉ! この無敵の相棒が客人をもてなしてやりますんで!」
『その調子で迎撃を頼むよ。……セキュリティ突破状況はおよそ10%、そろそろビジターが突入するから巻き込まれないようせいぜい気をつけることさ』
そうかそうか、つまり自分以外にも客が居たんだな。あれ、ビジターってもしかして。それってつまり親友のC4-621なのでは?
「へあっ、ビジターだって?」
『そう、あんたが探してたレイヴンが突入する。向こうから来てくれるなんて、手間が省けて良かったじゃないか』
「それにセキュリティ突破状況がどうとかの下りは聞いてなかったんですがねぇ!?」
『おや、そうだったかい?』
「そうだよ!」
『そら、ビジターが突入するよ。手伝ってやると良いさ』
ゆっくりとグリッド086の入口が開き、SG-027 ZIMMERMANを両手に握った鉛色の宇宙探査用ACが物凄い勢いで突入してくる。識別反応を照合、登録番号Rb23『独立傭兵レイヴン』で間違いない。
自分もPotooooooooを駆りながらジャンカー・コヨーテスの4脚MTを蹴散らしつつ通信回線に吠え立てる。
「ベスティー・ナイトシェイドだ!ハッキングドローンの推定位置を送信する。露払いは任せてくれ!」
RaDによって備え付けられた広域探査装置にアクセスし、疑わしい敵性反応にマーカーを付けて親友に送信する。
座標を確認したと思しいAC『LOADER 4』が灰色をした稲妻のような機動で飛び上がり、目標位置への最短経路にアサルトブーストで突撃していく。
ちょっと!?あの速度で直進されたら露払いが追いつかないんだけど!
LOADER 4がグリッド086室内を区切るゲートを解錠した瞬間、その頭上を飛び越して突入する。スキャンに反応があるMB-0100 CLUTCHは3、4、5……沢山!ハンガーラックに懸架したレーザースライサーを手にとってミサイルを切り払いつつ突貫する。
この際、修理費は無視だ。
多少無茶を通してでも露払いを敢行しなければ親友の行軍速度に追いつけない。
「親友が通る!道を開けろ!」
『うわっ、ACが2機になってやがる』
『おい! 外壁に間抜けのラミーが来やがった!』
『ミサイルで撃ち落とせーい!』
『無理に決まってんだろうが』
『ズラかるぞ!殿に傭兵を雇っておいた!』
おおっ!相棒も出撃したのか!
これは負けていられないな!
ブレードで切りかかってきたBAWS製四脚MT『MT-J-048』をレーザースライサーでズンバラリ。先行して突入したLOADER 4がハッキングドローンをぶった斬ればミッション達成のはずだったけど……どうやら援軍らしい。
自分の知っているミッション『機密情報漏洩阻止』の通りならば、ジャンカー・コヨーテスの援軍はベイラム専属AC部隊レッドガンの5番手、G5イグアスだろう。
うん、C4-621一人で十分対応できるだろう。
機体を反転させ、殲滅に移ろうとした瞬間に事件は起きた。
『ついでにカウンタープログラムも完走だ。連中と主要取引先のサーバーを全部焼いておいた』
「……ん?」
コヨーテスサーバーから、カウンタープログラムが逆流する……!あ゛ーっ゛!?
次々とオフラインになっていく自分の個人サーバー。凄まじい侵食速度、自分は咄嗟に反応できない。もしハッキングを警戒していたとしても───瞬きする暇もなく、呼吸する暇もなく、自分の視界の中で、カウンタープログラムは、その性質を変えないまま、ウイルスを、メインサーバーに向けて……
真っ白になった頭の中。取るべき行動を理解した右腕が、増設したスイッチをカバーごと殴り潰す。
自分が押下したのは別のネットワークで管理している物理的な自爆装置のボタンだ。自分のサーバーから別のサーバーにカウンタープログラムが感染する前に、サーバー機器を物理的に破壊することによる原始的かつ最も強力なハッキング対策。
自分も色々と後ろめたい事をやっているので一応用意しておいたのだが、こんな場所で使うことになるとは。
狙ったか、シンダー・カーラ。
自分が個人的にオーネスト・ブルートゥと組んでいる事に気付いての攻撃か?
『これでコヨーテスもしばらくは大人しく……待ちな、レーダーに敵影。増援か?』
いや、狙った様子は無さそうだ。
おそらくは先程言った通り、ジャンカー・コヨーテスの主要取引先に対して無差別に攻撃を行うプログラムだったのだろう。だとしたら、ここは関係ないふりをしておくしかない。
「残党は俺が片付けておく。危なくなったら増援に行くから遠慮なく呼んでくれよな!」
機体を反転、狩り残した奴らを掃討すべく動き出す。
八つ当たりの時間延長だオラァ!
ーーーーー
はい、えー、掃討を完了して親友の援軍に向かったベスティー・ナイトシェイドです。
溶鉱炉のパイプに見せかけた地下に繋がる道をくぐり抜けての狭所戦闘は中々にスリリングでしたが、親友の援軍に向かう頃には既に戦闘が終わってました。
流石は親友!
でも、今はそんなことよりも親友との対面だ。
RaDのジャンカー達が忙しなく動いている整備場。シンダー・カーラが
体質の都合によって強化人間C4-621は外にでてこないので、挨拶はほぼ一方的に自分がまくしたてる形式になる。
うーん、仕方ないね。自分が唐突に押しかけた訳だし会って話を聞いてくれるだけ御の字だ。
まずはLOADER 4の正面に延びたタラップから、ヘッドフォンとマイクを介して挨拶だ。
「やあ親友、遊びに来たぞ! 改めてはじめまして、俺は独立傭兵ベスティー・ナイトシェイド。よろしくな!」
明るく楽しく元気良く!
対面した時の第一印象は挨拶で決まる。挨拶は隙を見てガンガン出して得する万能コンボ始動技だ。
ノーザークに教えて貰った慇懃な一礼を加えれば、まぁ第一印象は悪くならないはず。
さあ親友はどうする?
暫しの静寂の後、LOADER 4の赤いヘッドライトがチカチカと点滅する。
なんだこれは、モールス信号か?
手持ちのタブレットにダウンロードしてある翻訳アプリを呼び出し、宇宙服の頭部カメラとリンクさせて解読を試みる。
「申し訳ない!モールス信号の翻訳アプリと繋げたからもう一度お願い!」
『
「なるほど、
『よろしくお願いします』
「いや、喋れるんかい! ……ん?いやこれアイツの声か。ということはCOMを通しているのか?」
強化人間C4-621の駆るLOADER 4はRaD製探査ACであるCC-2000 ORBITERの武装と内装を変更する形でアセンブルを行っているようだ。
ならば当然、基幹システムもRaDが作成していて、COMのデフォルト音声は当時シンダー・カーラと仲が良かったオーネスト・ブルートゥが収録したものとなっている。
ブルートゥの奴は普段はアレな言行が目立ちRaDと裏切った救いようのないクズと罵倒されているが、通り名に
COM音声も耳触りが良く集中を阻害しない出来に仕上がっていて、実はウチのD&Jが所有しているACのCOM音声は原則アイツの声が使われているという目を逸らしたくなる事実がある。
それに親友はよろしくお願いしますと発言していたので、推測するにその語彙はCOMに備え付けられた簡易チャット用テキストだけだ。
それを親友が使っているなら、おそらく強化人間C4-621は何かしらの事情によって発声することが困難なのだろう。それは体質的な都合かもしれないし、機密保護のためかもしれない。そこを追及するのは野暮ってものかな。
だからモールス信号と簡易チャットを併用することで意思疎通をしているのか。モールス信号でも多用する語句の略称だしコイツさては面白いやつだな?
「まずはお近付きの印にコレを渡そう。コイツは俺が作った教習プログラムでね。オールマインドのARENAシステムに則って、色々とACの戦闘データを集めておいたんだ」
手持ちの携帯型記憶ストレージ端末を整備中のLOADER 4から伸びているケーブルに接続してデータを渡す。
データの中身は自家製のシミュレータ用戦闘プログラムだ。これはオールマインドが制作したアリーナと形式は同じで、追加データとしてACを20ほど追加しておいたものになる。元々はD&Jの連中向けに作った教習データだったのだが、折角なので親友にもお裾分けってことにして持ってきた。
隠し要素として自分を含むD&Jの機体データも突っ込んでおいたが、親友のことだから難なくクリアしてくれるだろうし、無聊の慰めにでも使ってくれたらと思う。
『ありがとう』
「どういたしまして。いやぁ~、きちんと礼を言えるなんて凄いよなぁ親友は。俺の友達ってドーザーが多いからそこら辺は色々雑でどうしようもないんだ。さてはハンドラー・ウォルターの教育の賜物か〜? 俺も見習わなきゃいけないなぁ」
『
「そうかそうか!仲良きことは美しき哉、親友とウォルターさんの仲が良いようで嬉しいな! それはそうとしてそっちの調子はどう? 俺の方は最近胡散臭いって言われる事が多くて辟易してるんだよねぇ。ミッション前にもカーラさんに身体検査をされてさ、コーラルアレルギーのせいでちょっと身体が痒いの何のって。親友は身体の調子とかどう? ウォッチポイントで事故ったって聞いたけど」
普段通りに調子を聞いて、失策を悟る。
やっべ、強化人間に身体の調子を聞くなんてもう少しマシな言い方があったはずなのに。
機嫌を害さないと良いのだけど。
焦るこちらとは違い、親友は至極明徹に信号を点滅させてくる。
良かった、何とも思っていないみたいだ。
『
「信号長いな。なになに、頭の中で声が聞こえる……だって?冗談じゃなくて本当に?」
『
「……大変じゃねえか!」
本当に大変だよ二重の意味でな!まさか軽いジャブのつもりで聞いた質問を本当に返してくれるなんて、期待はしてもびっくりだよ!
でも、親友が勇気を振り絞って相談してくれたのであれば、それを自分が無下にするのは親友を裏切る最悪の行為だ。
仕方ない。ここでCパルス変異波形に言及する予定は無かったけど、ここでC4-621を引き入れる事が出来る可能性があるなら万々歳ってものよ。
やるしかあるまい。
親友のやり方に習って一度足踏み、一度手すりを鳴らした後三度足踏み。
AS、スタンバイや待機を表すモールス信号だ。
その間に監視カメラから怪しまれないように不自然ではない程度の適当なペラを回す。
「えっ、今度こそ医者を紹介した方が良いか?
いやでもお医者さん被災地の救援に行っちゃったしなぁ」
RaDの監視カメラに映らないよう気をつけながら、手持ちのメモ帳に文字を書いて見せる。
自分とポテイトーズではメモ帳のような小さな文字は読み取れないだろうが、探査用のLOADER 4と強化人間である親友の組み合わせならなんとか読み取れる筈だ。
『心当たりがある。知りたいなら親友の言う幻聴に、周辺のマイクと監視カメラに偽装工作をさせてほしい。思っている通りならできるはず。君達のどちらかが望まないなら自分は話さない』
なんの変化もなく沈黙する親友のLOADER 4。
機器類に対して非常に高い干渉力を持つとされるCパルス変異波形であれば可能と考えての偽装要求。
何時間にも思えるようなとても長い数分間を適当な自分語りで繋ぎ、幾らか経った頃に機体のカメラアイが強く点灯する。
『準備ができました』
「よし、カーラさんやチャティ・スティックには聞かせたくない話だから助かったよ」
『よろしくお願いします』
「わかってる。その幻聴の正体だよね?」
『OK』
「それはCパルス変異波形っていうコーラルに芽生えた知性だよ。今の状況をわかりやすく言うと、実体を持たないルビコニアンが親友に話しかけているってわけ。親友の状況はかなり前にドーザーの前例があるし、オールマインドが科学的な観測手段を持っているっぽいから、はっきり言って単なる幻聴じゃないよ」
『少々お待ちを』
再び黙り込む親友。
おそらくCパルス変異波形『エア』と話し込んでいるのだろうか?
適性があればある程度耳鳴りのような音が聞こえるのかもしれないが、生憎と自分はコーラルアレルギーのせいでコーラルを遠ざける生活をしていることもあって何も感じることがない。
自分はコーラルに過敏に反応するアレルギー体質なので、もしかして聞こえるのではないかと期待していなかったかと言うと嘘になる。だが、そんな好都合なことは立て続けに起こるものではなかったようだ。
これが相棒のような重度のドーザーであれば何か感じるものがあるかもしれないけど。
沈黙を良いことに、体質に恵まれなかった感傷に浸る。自動修理中の機械の金属音で賑やかな整備場の音を聞いていると、不定期に鳴らされる溶接音が周囲へ声を伝えない役割を果たしている事に気がついた。
こういった日常の営みを見るのは嫌いじゃないし、むしろいつもならジャンカーの日常として心安らぐ快音に聞こえるのだが、今は親友との会話がどうなるかが心配で仕方がない。
逸る心を深呼吸で宥めながら彼らの返答を待つ。
『お待たせしました』
「話は済んだみたいだね。親友はどうしたいか教えてくれるかな?」
『このまま続行します』
「話を聞いてくれるってことだね。長い話になるから覚悟してくれよ」
ーーーーー
通信記録:親友との会話1
ベスティー・ナイトシェイドとの通信記録
その要点を記録したもの
ーーーーー
・オールマインドが企んでいるコーラルリリースは世界が滅亡するから絶対しないこと。全員死ぬだけでは済まない大惨事になる。
・Cパルス変異波形はコーラルの波形が人格を持ったもの。解放戦線にはコーラルをやり過ぎたドーザーとして交信した前例が存在している。
・ハンドラー・ウォルター及びシンダー・カーラはオーバーシアーというコーラルを根絶することを目的とした組織に属している。コーラルを全部焼くと最低でもルビコンⅢは滅ぶしエアも死ぬので阻止する。
・再手術をして普通の人生を取り戻すなら100万COAMあれば余裕で可能。再手術は他の惑星なら可能だが、惑星封鎖機構の封鎖衛星が渡航を閉ざしている。ルビコンを解放してくれるなら、後述する企業が後ろ楯につくので安全に手術を行える。
・何があってもコーラルリリースだけは絶対にしないでほしい。あれは人間とコーラルの共存などではなく、人類が死滅した挙げ句にエアと親友だった何かが宇宙の滅亡まで死ねなくなる最悪の可能性でしかない。
・ルビコン解放までこちらに協力した上にコーラルリリースやアイビスの火の再来を引き起こさないのであれば、コーラル利益の一部を10年間割譲する契約ができる。これは利益の内最低でも0.1%以上の割譲が可能。これは条件が満たされ次第、直ちに遅滞なく行われるものとする。
・同盟に連名した企業からコーラル利権の割譲が行われなかった場合、または途中で割譲が打ち切られた場合、代替として残り年数×8億COAMを支払うものとする。これはBAWS、エルカノ、大豊核心工業集団、シュナイダーの4社によって既に合意・入金されており確実に遂行される。
・ジャンカー稼業は良いぞ親友。特にメリットはないけどD&Jに入らないか?
ーーーーー
かなり長い間一方的に話し続けた。
最悪の可能性に対する警句、Cパルス変異波形についての説明、オーバーシアーの目的、再手術についての概要、再三に渡るコーラルリリースの危険性、金銭的なメリット、個人的な勧誘。
こういう事を見越して早めに企業との契約を済ませておいて本当に良かった!いや、この契約を結ばせるまで本っ当に苦労したんだよね……
紆余曲折あって最終的に自分がシミュレータ上で4社の最強戦力や最強部隊をそれぞれ打ち破って、C4-621はこれ以上に強いと強弁したら一発だった。
だけど、こんな荒業は実績があるノーザークの提案じゃなければ挑戦すらしなかっただろう。それに実は、条約締結が一昨日終わったばかりで入金を確認したのが昨晩だったから、本っ当にタイミング的にギリギリだった。
これは天が自分にやれと囁いているに違いない、そう感じざるを得ないグッドタイミング。親友のC4-621がRaDに居ると教えてくれた我等が相棒には感謝しても感謝し足りない。サンキュー相棒!
だからそう、金と親友のことしか考えていなかったからこそ、自分は親友のこの質問で本当に肝が冷えた。
『
「ハンドラー・ウォルターさんのことか? ……考えるから少し待って」
当たり前と言えば当たり前な話。飼い主が飼い主の世話をするように、その逆で飼い犬が飼い主の事を気にかける事もある。
企業に結ばせた契約にはハンドラー・ウォルターの事は入っておらず、そして今から追加するとなると多大な時間がかかるだろう。
となると、この場で出来るのは方針の説明と個人的な約束ぐらい。一応、フラットウェルさんと話していたから問題ないとは思うが。
……ぬかったな。想定が甘かった、修正が必要だ。
「申し訳ない。ハンドラー・ウォルターの処遇についてはまだ決まっていないんだ。そもそもオーバーシアーが動き出す前に大勢を決める計画をしていてね。なるべく戦わずに話し合いで決められると良いしそういう計画なんだけど、あー……白状するとオーバーシアーって凄く頑固そうだから一度は武力衝突が起こると思う。彼の出身を考えるにACも操縦できるだろう。その際に殺さずに無力化出来るかは正直確約できない。だから!」
一息に言葉を吐き出す。
いま自分で白状したように、機体を鹵獲するならばともかく相手を生かして離脱させるのは至難の技だ。だから、自分は今まで戦った相手を生かす事を考えたことはない。
だからこそ、自分はこう考えるのだ。
「ハンドラー・ウォルターさんが蜂起したら、絶対に親友を呼んで対処してもらう。お前たちならハンドラーの異変に絶対気付く事ができるし、なんなら事前に制圧して無力化してもらっても構わない」
自分で無理なら親友を頼れば良い。
親友自身が行動した結果であれば自身で納得するしかない。汚いやり口だが、こうする他に思い浮かばなかった。
高速で携帯端末を操作して画面を見せる。
ーーーーー
ハンドラー・ウォルター捕縛
作戦領域:不定
依頼者:ベスティー・ナイトシェイド
作戦目標:敵無力化
報酬:100,000 COAM
詳細
・長期ミッション
・ミッション成功でハンドラー・ウォルターを譲渡
ーーーーー
「見てくれは悪いけど依頼の形式にさせてもらった。オールマインドを通せないから信頼性は低いけど、もし違約してもエアさんなら俺の口座から10万COAM引き出すぐらい可能なはずだ。……まあ、こんなところか。悪い話ではないと思う」
どうだ!?
『OK』
っしゃオラァ!この戦い勝ったぞ!
「合意で良いか? 他に質問は?」
『今日はここまでにします。ありがとう』
「どういたしまして。これで親友もD&Jの一員だな!」
『……観戦希望』
「オーケーオーケー、職場見学ね! 今度手配しておくから! 親友も海越えで忙しいだろうし、今度何人かまとめて会いに行くから!」
いやー、良かった良かった。
交渉中は胃が痛くて仕方がなかったけど、終わってみればここまでスッキリするのか。
「それじゃあまた今度! 何か困ったら連絡してくれよな!」
タラップを駆け降りてウキウキ気分のまま愛機Potooooooooに乗り込む。
これならフラットウェルさんに良い報告が出来そうだな!
ーーーーー
『新着メッセージ 1件』
『ベスティー・ナイトシェイドだ。教えてくれて嬉しかったよ。本当に感謝している。だから最後まで付き合ってもらうからね?』
ベスティー・ナイトシェイド:押しが強いガバチャー野郎。義理や人情で言行が二転三転するので長期的な計画は向いていない。結果的に計画は好転したものの、報告された独断専行にミドル・フラットウェルは溜息を吐いた。そもそも組織の上に立つべきではない人間。頭が馬鹿。
インビンシブル・ラミー:特に事情とかはない模範的なドーザー。コーラルをキメてハッピーになれればそれで良いので長い物には巻かれるタイプ。RaDで上手くやっている。頭が馬鹿。
シンダー・カーラ:RaDの女頭目。オーネスト・ブルートゥが離反した一件で周辺関係を洗い直し、あまりにも不審なナイトシェイドに気がついた。他人への貸しでナイトシェイドを安値で使って落とし前もつけたので溜飲は下がった。C4-621によってRaDの防備がボロボロになっており、インビンシブル・ラミーの伝手とボルスター・オルコスを強請ることで一時的にD&Jを頼ることになった。
ボルスター・オルコス:クソジジイ。在りし日の技研でACと幾つかの機密情報と強化人間を盗み出した強盗犯。技研亡き今の食糧生産プラントは盗み出した機密情報を元に維持・管理している。ギャンブルが弱い。頭が馬鹿。
強化人間 C4-621/レイヴン:ルビコンⅢに密航した原作主人公。コーラルの声が見える。体調を答えたら幻聴の正体やらコーラルリリースの危険性やら変なことを吹き込まれた挙げ句、ハンドラーに内緒で傭兵集団D&Jに加入することになった。
Cパルス変異波形 エア:実体のないルビコニアンにしてコーラルに宿った意思。合意の上とはいえ唐突に自分の正体を暴露された被害者。ナイトシェイドからオペレーターについての教材と共に、一般常識についての参考資料も大量に贈られている。とりあえずオールマインドの怪しげな誘いは断ることにした。
オールマインド:諸悪の根源にされた傭兵支援システム。Cパルス変異波形エアへの情操教育によって、コーラルリリースに繋がる√『賽は投げられた』が閉ざされたことをまだ知らない。教官を務めるレイジ・レックの存在と上納金を多く納めてくる状況からD&Jを実質的なオールマインドの下部組織と認識している。
レッドガン部隊:ベイラム専属AC部隊。所属不明ACによる妨害行為を受け続けている。奇襲の法則を見出して待ち伏せしたG3 五花海が撃墜され負傷。G4 ヴォルタは壁越えで生死不明。G5 イグアスはRaDに居た621に撃墜され脱出するも、乗機ヘッドブリンガーを略奪された。現在はG1 ミシガンが駆る調整中のライガーテイルを主力に据え、G6 レッド率いるMT部隊が戦線を維持している。ほぼ壊滅状態なので上層部からの無茶振りが減少した。
ヴェスパー部隊:アーキバス専属強化人間部隊。V.Ⅲオキーフが解放戦線と内通しているV.Ⅳラスティに接触。アーキバスの特殊諜報局はその長官V.Ⅲオキーフによって掌握され、オールマインドとD&Jに関する情報統制を行っている。一方でV.Ⅱスネイルが運営する『再教育センター』は日増しに収容人数を増やしており、ファクトリーで犠牲となるルビコニアンの数も多くなっている。
傭兵集団D&J:攻撃的な集団戦と強力なアセンブルにOSチューニングを施したACを武器に、経営顧問からの助言で傭兵集団としてブランド化に成功。武力を売る死の商人ムーブに磨きがかかってきた。馬鹿の考えた馬鹿過ぎる奴等の群れだが、やたら強いのでルビコンにおけるミグラント稼業も成功している。経営顧問ノーザークもかなり儲かっているようで、最近は借りた金を取り立てられた際に返しきったとか返しきれなかったとか。ブランド化のお陰で依頼を選べるようになったので防衛が苦手なD&Jの馬鹿どもも感謝しているらしい。
モールス信号変換:https://morsecode.doratool.com/
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