【完結】じゃんじゃかジャンカードーザー傭兵   作:白河童小鼠(人間)

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プロット通りに完結まで執筆しました。
初代三部作が面白いです。皆さんも買いましょう。


天下無双の天敵達(Chapter3〜)
急行と直通/エンゲブレト坑道防衛戦


「中央氷原よ!俺は帰って来た!」

 

 寒風吹きすさぶ大地、草木一つ生えない中央氷原で、4機のACが輸送船から風雪を踏みしめる。

 俺の名はベスティー・ナイトシェイド、優雅なる独立傭兵であり、伝説のドーザーインビンシブル・ラミーを相棒に持つ。今は相棒居ないけど。

 

「フッ、大地を俺のキャンパスにしてやるぜ」

 

 久しぶりの大地に気分よく独り言を呟いていると、開いている通信から賑やかな親友達の声が鳴り響く。

 

『絶対に逃さないからなコールドコール……私をドーザーの群れに叩き込んだ報いを受けてもらうぞ!』

 

『面倒だが、仕事は仕事だ。そのドーザーたちの羽振りが良いことを感謝しておくと良い、借金王』

 

 借金王ノーザークと殺し屋コールドコール。

 鮮やかな真紅の中量二脚機体と、それに先行する暗褐色の重量逆関節機体。

 

 この二人は俺と同じく二度目の中央氷原入りだ。

 今回の彼等は債務者と暗殺者という間柄ではなく、雇い主と護衛という関係での渡航になる。

 

 色々と激戦になりそうなので話術に強いノーザークを引っ張ってきたら、試されすぎる大地中央氷原を恐れたノーザークがかつて彼を殺しに来たコールドコールを引き連れて集合場所に来た時は自分も驚いたものだ。

 

『借金王と呼ぶんじゃない!業腹だが既に借金は返したのでな。借金王と呼ばれる道理はないさ』

『……なるほどな。そういうこともある』

 

 前に中央氷原を探索した面子でまたここに来る事ができて本当に喜ばしい。

 いやあ、渡航中も相変わらず独特の緊張感があったけどね!今回の船にご友人が居なかっただけ心配の種が一つ減ったってものよ。

 そうそう。ノーザークについてだけど、どうも最近は借金を返したとか宣っているんだ。変な事を言うなぁ。借金王から借金がなくなる訳がないのに。

 

 でも、自分の連絡がつく限りで彼の借金を確かめた結果、本当に借金は返されているらしい。

 いったい、どんな手段を使ったのだろうか?

 

『そもそも借りた金を、なぜ返す必要がある!君達の融資は無駄にしないとこれほどまでに言っているのに!』

『だからこそ、分かち合わなくてはということなのでしょう。素敵だ……』

 

 船の先にある巨大な物陰から、黄色く塗られたファンシーなようでどことなく危うさを感じさせる重量二脚機体が現れる。

 AC:ミルクトゥース。RaDから蛇蝎のごとく嫌われているジャンカー・コヨーテスの頭領にして、頼りになる我らがご友人、オーネスト・ブルートゥだ。

 

「ブルートゥ、迎えに来てくれてありがとな」

『ご友人、私たちは心で繋がったかけがえのない隣人です。さあ、この広大な中央氷原で、思う存分楽しみましょう!』

 

 ブルートゥは自分達より一足先に氷原入りを果たしているので、こうして迎えに来てもらったんだけど。

 物腰柔らかそうな口調とは裏腹に、コイツはRaDが占拠するグリッド086からインフラ丸ごと引っこ抜き、レールキャノンの入った倉庫ごと直接中央氷原にぶっ飛んだとんでもないクレイジー野郎でもある。

 

 自分も色々頼み事をしていたし定期的に調子を聞いていたけど、実際に会って元気そうで本当に良かった!

 

「ご友人の調子も変わりないようで安心したよ。よーし、お前も来い!」

『あの。俺、お頭さんに言いたいこと色々あるんですけど』

「どうしたんだテスト。文句が多いやつはモテないらしいぞ」

 

 ベイラムのMELANDERをベースにコアパーツを天槍に換装した中量二脚が遅れて降りてくる。

 

 コイツは大豊のパイロット訓練生で、レッドガンに入隊するために武者修行を兼ねて自分のところに来た根性ある青年だ。

 そのコールサインをテストと言う。

 

 さて、普段文句を言わない彼が文句を言いたいだなんてどうしたんだろうか。

 船酔いか?

 

『とりあえず、あの馬鹿デカい機械は一体……?』

「超巨大双胴ドリル潜航艦デュアルアラハバキだけど」

『なんですかその名前!?』

 

 テストの視線の先には、ACから見ても巨大な重機がある。あれこそは、ルビコニアンが集積コーラルに辿り着く為の夢と希望と未来を載せた方舟、超強力地下穿孔戦艦ドリルスラッシャーである!

 名前?そんなもんこの際何だって良いじゃないか!

 

 前回の中央氷原入りで手に入れた報酬の半分を使ってこれともう一つを頼んだは良いものの、まさか本当に実現してくれるなんて。

 やっぱり最高だな、ブルートゥ!

 

『ご友人のご友人、あれは私からの贈り物です』

『それは見ればわかるんですが。どうして、こんな所に……!』

 

 絞り出すような声。

 おいおいテスト、ビックリするのはわかるけどそんなドン引きしなくても良いんじゃないか?

 せっかくサプライズとして持ってきてくれたご友人が悲しんじゃうよ。

 

 いや、別に悲しんでないっぽいけどさ。

 

『……なあコールドコール、あれってRaDの』

『こういうこともある』

『なあ、先ほどから対応が適当過ぎないか?仮にも私は雇い主なんだが』

『生憎と、実物を見たことがないものでな。返答を差し控えさせてもらおう』

 

 ノーザークとコールドコールの二人にはあの超絶螺旋土竜ご友人&親友号の元となった機体に心当たりがあるらしい。

 さて、いったいなんなんだろうな?

 

 原型が無いぐらい改造されているので判った二人を褒め称えたいぐらいだが、自分はRaDとも親交があるので正体は知らないという体で行かせてもらおう。

 機体製作を頼んだだけだし自分は悪くない!

 

「それでご友人、ドリルクリーナーがあるって事はマジでやれるの? 本当に期待しても良いの?」

 

『ええ、もちろんですよ。ですが、先ずはご友人が歓迎の狼煙を上げてくださいますか?』

「よーしベスティー頑張っちゃう! 駆けつけ一発、盛大に! ご安全に!」

 

 左肩のレーザースライサーと左手のバーストマシンガンをパージしてテストに回収させる。

 さあ、ここから楽しくなるぞ!

 

『あの、ノーザークさん。お頭さんが何をやろうとしているかわかりますか?』

『ああ、うん。あの魔改造されたスマートクリーナーを見て察したが……』

『本当ですか?ノーザークさんはやっぱり凄いですね!』

『おそらく親友はアレで一波乱起こす気なのだろう。ならば君は来たる戦乱に備えて強くなると良い。差し当たってはベスティーの戦闘データを解析して制作した教習プログラムがあるのだが、これを履修する気はないか? 今ならテスター料金としてお安くしておこう』

『買います、やらせてください!』

 

『可哀想に。坊やがまずすべきは、人を見る目を養うことだろう』

 

「それじゃあ、エンゲブレト坑道に行ってくるから留守番よろしくね! ブルートゥは念の為帰りの護衛と時間の計測よろしく!」

『嗚呼、今日はとても楽しくなるのでしょう。これから賑やかになると、ミルクトゥースも喜んでいます!』

 

 ミルクトゥースから手渡されたACサイズのハンドバッグをポテイトーズの右肩に提げていざ出陣。

 愉快な遠足の始まりだ!

 

ーーーーー

 

「静かなものだよねぇ」

 

 エンゲブレト坑道。

 ルビコン開発中期から存在していたという、古いコーラル井戸の跡地。

 人っ子一人居ない廃坑道で辛うじて作動している無人小型MT「AM01: REPAIRER」、通称リペアーは動きが悪く、長らくメンテナンスがされていない事が伺える。

 

 そこで自分が何をしているかと言うと、ただのジャンク漁りだ。

 

「おっ、あったあった」

 

 入口を下降し破損した壁をくぐり抜け、幾つか見える橋の内一番上の橋を左に向かう。

 すると広い空間に出て、昇降機のある小高い崖を登れば目的のブツがあった。

 

「ネビュラ……こうして見ると感慨深いな」

 

 やたらと大きい保存用カプセルをハッキングして開封、これでようやくお目見えとなる。

 これは『IA-C01W1: NEBULA』、かつてルビコン調査技研が開発したプラズマライフルだ。

 その性能の特徴としてプラズマライフルにしては高い連射性能が説明に書かれているが、それはある種のブラフ。

 その真価は高い命中精度と攻撃範囲を兼ね備えながら弾切れまでオーバーヒートせず連発できるチャージショットにある。

 あるのだが……

 

「まあ、使えないよね」

 

 如何せん今の自分達では上手く運用する手段がない。なにせこの手の射撃するようなEN武器は、その威力の倍率をジェネレータのEN射撃武器適性に依存してしまうからだ。

 それなら良いジェネレータを買えば良いじゃないかって?実はそういう訳にもいかない。

 

 そもそも基本的に売られているEN射撃武器適性の高いジェネレータは、アーキバス製のものだけだから。

 そんでもってこれからアーキバスに喧嘩を売ろうとしていて伝手も持っていない自分達では、アーキバスの高EN射撃武器適性ジェネレータを購入するなんてできっこないのだ。

 アーキバスとはEN武器の技術に優れたハイテク企業であり、ACの全パーツ部位を自社系列企業で揃えられるというとんでもない特徴を持っている戦闘狂企業だ。

 まったく、こんな企業に喧嘩を売るなんざ我が事ながらどうかしてるぜ!

 

 それで、このNEBULAが使えないと言った理由はもう一つある。

 

「やっぱり弾数少ねえなぁ!」

 

 武器にアクセスしてカタログスペックを表示させ、IA-C01W1: NEBULAの弾数を確認する。

 総弾数58、チャージ消費弾数3。

 約19回チャージショットを放っただけで弾切れするなんて、実戦において論外も良いところである。

 

 ゲームの対戦におけるたった2分間の戦闘でも弾切れを起こす事があったのだから、とてもじゃないが実戦運用できたものではない。

 

 じゃあ何故こんな武器を入手しに来たかと言うと、これが中々高く売れるからだ。

 

「これで185000 COAMの儲け。これから出るちょっとした赤字は回収できるな」

 

 たったこれだけで18万5000COAMも儲けられるのだと考えると、これを逃すなんてあり得ない。お金は大抵の事を解決できるからお金という敬称で呼ばれているのだ。

 

 内心ホクホクしながら次の地点へ向かう。

 次の地点は昇降機のある崖を降りた先にある橋の向こう、電磁フィールドを発生させてくるリペアー達を銃撃で潰した更に向こうにあるこれまた崖の下。

 

「よーうやく回収できたぜ」

 

 朽ちたACと寄り添うように着陸していたのはBAWS製四輪プロペラドローン『CD-E-086 AERIAL DEFENSE DRONE』。以前中央氷原に来た際に、このエンゲブレト坑道に向けて放っておいた自分のドローンだ。

 

 かつて武装を一つも持たせず機器復旧用のインビンシブル・ラミー謹製コーラルグレネードを持たせて送り出し、自動操縦のまま見事任務を達成したこのドローン。このドローンがもたらしたログは、ミドル・フラットウェルを説得するという値千金の価値があった。

 出来ることならこうやって回収したいと思っていたんだ。本当によく頑張ってくれたよ。

 

「よーし、じゃあ死んでこい!」

 

 ドローンから伸ばした配線をPotooooooooに接続して急速充電、その間に下部の懸架装置にブルートゥから手渡されたハンドバッグをキツく結んでおけばこれでもう大丈夫、君は立派な自爆ドローンだ!

 

 充電と追加プログラムの送信が完了した瞬間に景気よく配線を抜き、ドローン起動までのタイマーをセット。

 

「ヒャーッハハハッ! 道を開けろ無人機ども、残骸も残さずグズグズにしてやるぜ!」

 

 ACより遥かに脆いドローンが撃墜されないように先行して片っ端からリペアーを潰していく。

 エンゲブレト坑道を降下した最奥に見えるのは、薄いパルスの光と異音を立てながら稼働するセンシングデバイス。

 

 説明しよう、センシングデバイスとは地中支脈を管理してコーラル逆流が起きないようにしてくれているとっても偉らーい装置である!

 予想通りパルスプロテクションに守られるているようだけど、内に入られて無力であればなぁ!

 

「敵機の全滅ヨシ! ドローン起動ヨシ! よっしゃあ逃げろ!」

 

 崖から浮上してセンシングデバイスに向けて突撃するドローンとすれ違い、対照的に自分は一目散に出口へ向けて機体を駆けさせる。

 

 複雑な地形の坑道を地面スレスレのアサルトブーストで駆け登って地上に到着した。

 

「ブルートゥ、タイムは!?」

『9分32秒……世界新記録です、ご友人!』

 

『ノーザークさん。あれって何の記録ですかね?』

『なんだ、猛烈に嫌な予感がするぞ……!』

 

「あれ、皆来てたんだやっほー。コールドコールさんは?」

『ああ、あの殺し屋なら船の護衛をしている。群れるのが性に合わないそうだ』

「なら仕方ないか。ちょうど良いから見ててよ、凄いことになるからさ」

 

 衝撃、そして一瞬遅れて轟音。

 驚いたなぁ。爆轟を体験できるなんて珍しい体験をしちゃったかもだ。

 

 後ろを見れば慌てふためいたテストが悲鳴を上げながら機体をバックステップさせたのか、ACの一歩前に足跡が残っている。

 反射的にACを操れるようになるなんてテストも成長したな!自分も鼻が高いぜ!

 

『ちょっ、お頭さん!この揺れは一体!?』

「あれね、コーラル逆流」

『ウォッチポイントの報告書に載ってたアレですか!? あんなこと起きたらこの辺消し飛びますよ早く逃げないと!』

 

 赫灼とした炎より赤い息吹が、坑道の内部を幾つも貫き通す。もし今頃の洞窟内部に居たならば、活性化したコーラルによって瞬く間に装甲が侵食されて機体ごと溶け落ちていたかもれないな。

 

 いや、自分のことだから侵食が始まり出した時点でコーラルアレルギーを発症して気絶してたかもしれないな。いやー、怖い怖い。念の為、ACの換気を内気循環に切り替えておくか。

 

『良い風だ……ジェネレータに共振する優しい鼓動、子守唄が心を落ち着かせてくれます』

「安心しろってテスト、あんな酷いことにはならないから」

『ほ、本当ですか?』

 

 ははっ、コイツ中々に心配性だなぁ。

 面白いから放っておこう。

 

 そんなテストを見かねたのか、ミルクトゥースのハッチを全開にして癒されているオーネスト・ブルートゥが優しく語りかける。

 

『ご友人のご友人』

『な、なんですか』

『美しいと、思いませんか?』

『来るんじゃなかった、こんな惑星……!』

 

 かわいそうに。服まで脱ぎはじめているご友人の奇行に巻き込まれているだけだったらしい。

 試しに全裸になったブルートゥの隣に機体を寄せて温度を計ってみると、この極寒の中央氷原においてなんと28℃と丁度良い気温になっていた。これなら凍死する心配もなさそうだ。

 

 それにしても衝撃波が鳴り響く中で躊躇いなくハッチを開けて裸になるなんて流石と言うべきか呆れたと言うべきか。

 その豪胆さを見習うべきか?いや、真似したら体質的に死んじまうな。

 

「ご友人、踊り疲れたのですか?」

『お頭さんまで辞めてくださいよ!? 助けてノーザークさん!』

『いやその、此方を巻き込まないで欲しい』

『ノーザークさん!?』

 

「テスト、丁度良いから機体制御の訓練をしよう。こう見えてオーネスト・ブルートゥという人物はミルクトゥースで踊るという複雑な行為ができる非強化人間におけるACパイロットの到達点の一つだ」

 

『嘘ですよね? 今度こそ嘘ですよね??』

「ところがドッコイ全部本当。ご友人、さあ楽しみましょう!」

『えっ。……やってやりますよ。やれば良いんだろ!』

『素敵なステップです、ご友人!』

「スロー、スロー、クイッククイック

スロー……スロー、スロー、クイックスロー!」

 

 おお!やけくそ気味だけど訓練って言えばすぐに乗って来てくれるコイツのこういうところ良いよな。本当に弄り甲斐がある。

 それに自分もACに踊るという複雑な行動をとらせるなんて初めてするんだ、一緒に上手くなろうぜぇ親友!

 

『わ、私はなんだか混乱してきたようだ。先に船に戻らせてもらおう』

『逃さないですねご友人……!』

「ご友人、サプライズをさせてくれないのですか!?」

『やめろ狂人ども! 私は帰るんだやめろ離せ何をする!』

 

『それでは私の声に合わせて踊ってください。大丈夫、難しいのは最初だけですから』

 

 微笑むブルートゥの掛け声に合わせて不格好に踊りだす3人。

 

 スロー スロー クイッククイック スロー

 

 やっぱり最高だよご友人!

 最初は否応なしに、しかし自ずと口ずさむようになり。お日さまが傾いてブルートゥが服を着た頃、自分達はACでのダンスを自然に習得できていた。

 

 良い友情だな、ヨシ!

 

ーーーーー

 

「久しぶりだな先輩、依頼を仲介したい」

『久しぶりだね後輩。傭兵稼業は休業中だからベリウス大陸に居るんだ。他をあたってくれ』

 

「依頼内容はベリウス地方の複数グリッドへの工作……いや、飾らずに言うと発破工事だ。指定箇所にACで爆弾を仕掛けてほしい」

『……続けろ』

 

「今回のミッションはジャンカー・コヨーテスの協力により行われる。老朽化したグリッドを発破解体するため、既に彼等は動き出している。機動力に優れる先輩の機体なら1日に4時間の1週間で完了する計算だ。頼めないか」

 

『戦闘はあるのか?』

「無いと思って良い。ただ、ベリウス地方は色々物騒だから使った弾薬費と修理費は補填しよう。報酬は一カ所につき2万COAM。どうかな?」

『……受けよう。本当に戦闘はしないからな』

 

「助かる。じゃあ依頼主のミドル・フラットウェルに繋ぐから後はよろしく」

『は? 待て、何故コヨーテスの依頼に解放戦線の重鎮がこの話に出てくる』

 

『こちらルビコン解放戦線中央氷原支部司令、ジャンカー・コヨーテス頭領オーネスト・ブルートゥ代理のミドル・フラットウェルだ。独立傭兵パール、協力に感謝しよう』

『くそっ、なんでもう通信が繋がっているんだ。……まあいい、その代わり報酬は弾んでもらう。僕のような傭兵はCOAMが全てなのでね』

 

ーーーーー

 

 吹雪舞う雪原の向こうに夕暮れが滲む。

 コーラル逆流は自爆ドローンの熾した火種によって完全に燃え尽き、今は燻る火の粉のみとなっている。

 

 ルビコンの空は夕陽に照らされるまでもなく赤いが、夜はカーマンラインを形成する不活性コーラルに遮られることで星の光が目視できないぐらい暗くなるし、雰囲気が出て良いんじゃないかな?

 

「では、作戦内容を説明する。聞き逃したやつは録音を渡すから後で教えてくれ」

 

『私はダンスで疲れたんだが……』

『ご友人……踊り疲れたのですね?もう一踏ん張りですよ』

『そうですよノーザークさん。この程度で疲れていたらレッドガンに入れませんよ』

『入らないが?』

 

「今回の作戦は地中支脈に突入するこの……」

『ご友人、スマートクリーナーですよ』

「その、んんっ!クリーナーの突入支援。早い話、コイツはコーラルジェネレータを修理機構として組み込まれた不眠不休の採掘家だ。コイツが指定座標まで掘削する間、俺達は交代でエンゲブレト坑道を防衛することになる」

 

 あーあ、ご友人が言っちまったよ。

 まあ良いか、この魔改造スマートクリーナーは地中を穿孔しACが通る事の出来るぐらいの穴を開ける事に特化した機体。

 

 ご友人が洋上都市ザイレムで拾ってきたコーラルジェネレータをC兵器の如く魔改造スマートクリーナーに組み込むことによって、メンテナンス要らずで休まず事前に指定した座標まで穿孔し続けていくお利口さんだ。

 

 前世の技術では考えられないような機械だが、前回の氷原入りの際にブルートゥに聞いてみたら製作可能っぽかったので任せてみたらなんか実際に出来てしまった。

 技術って凄いね。

 

 崩落の危険は……まあ、なんか大丈夫らしい。

 理屈としては地下にあるコーラル支脈を今回のエンゲブレト坑道炎上によって焼き尽くすことによって、目的地に近いところまで不活性コーラルで加工されて非常に安定した通路になるというもの。

 

 ちゃんとルビコン開拓期の論文に書いてあった由緒正しい安全な手法ではあるのだが、この方法にはある欠点があって廃れた。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、支脈のコーラルが燃えるのでその穴で採取できるコーラルの総量が大幅に減るのだ。

 ルビコニアン困るしそれは駄目なんじゃね?とも思ったが、よくよく考えてみれば集積コーラルもいい感じに焼かないといけないこともあり、念には念を入れて試算してみたらここで焼いた方が比較的安全にコーラルを焼ける可能性が出てきた。

 

 周りに人が住んでないし、この辺はバカでかい地下施設を作れるぐらいにはしっかりした土地だし割と安全なのだ。

 

『はい、質問』

「なんだテスト。手を挙げて偉いぞ」

『想定期間はどれくらいで?』

「約1週間だ」

 

『長くないか?私は面倒が嫌いなんだ』

「ノーザークも安心してくれ、俺達がずっと警邏し続ける訳じゃないから」

『……それはどういう?』

「あー、うん。あれを見ればわかるんじゃない?」

 

『やいやいベスティー!この前は吾輩たちをよくもやってくれたな!』

『お陰でベリウス支部も壊滅しちゃったしなぁ!』

『お前さあ、何回俺達を虐めれば気が済むわけ?』

『クソッタレのクソガキめ。ブルートゥさんの命令じゃなきゃ児童(ガキ)臓物(モツ)売捌(トバ)してたところだ!』

『くたばれベスティー!土に還れ!』

 

「あの通り心強いブルートゥのご友人(カナリア)が居る」

『ああ、そういう……』

 

『ええ、きっと良い声を聞かせてくれるでしょう』

 

 大小様々なMTに搭乗してワラワラと現れたのは、毎度お馴染みジャンカー・コヨーテスの構成員ども。こりゃあたぶんベリウス地方で何回もぶっ飛ばした奴等が混じってやがる。

 

 坑道のカナリアにしては随分と汚らしい連中だが、声のデカさと生き残るしぶとさは折り紙付きだ。何か現れたらドッタンバッタン大騒ぎしてくれることだろう。

 こんな作戦をブルートゥから提案された時は心の底からドン引きしたものだ。

 

 正直、人間をカナリア代わりにするなんて思いついたところでやるわけがない。

 警備員と言えばそれまでなのだが、流石に外道が過ぎるんじゃないかと思っていた。さっきまでは。

 

「コイツらなら良心の呵責なく使えるだろ?」

『ああ、うん。私は何も言うまい』

 

 良かった良かった、ノーザークは納得してくれたようだ。

 それに比べてこの余燼どもは……

 

『なんだとテメェブッコロスゾー!』

『ケツから奥歯入れて手ェガタガタ言わせるぞー!』

『一族郎党全員出っ歯になれー!』

『お前の陰○、豚の鼻くそ!』

 

「うるせぇぞ余燼ども!文句あるなら封鎖機構のLCやHCぐらい落としてから言いやがれ!」

 

『言いやがったな!おいテメェら、温室育ちでAIにしゃぶって貰ってるマザーファ○カーどもにここが地獄の入口って教えてやるぞ!』

『しゃあっ』

『んかあっ』

『ぶへへっ』

 

 本当にクソみたいな奴等だな!

 生命力だけは強いから今回のような荒事には向いてるんだけどどうにも不安になる。

 自分はドーザーの親友だけど、下品なコイツらとは流石に一緒にして欲しくない。

 ドーザーに下品もクソもないって?

 ……はい。

 

「とまあ、こんな感じだから担当は奥に控えておくだけで済む。一応、俺は最終防衛ラインとして常駐するから相当な奴が来ない限りは安心して良い」

 

『はい、質問です』

「どうぞテスト君」

『この1週間の補給ってどうなりますか』

 

「良い質問だ。そんなものはない」

『えっ』

「1週間後、後詰めで解放戦線とD&Jの奴等に加えて傭兵支援システムがやってくる。食糧は用意してあるが、それまでACの修理はほぼ無補給だ」

『それ大丈夫なんですか!?』

 

「エンゲブレト坑道に陣取る為にかなり無茶な行軍をしたからな。修理できる環境を用意できなかった」

『ご安心を。私とミルクトゥースであればいつでも踊れますので』

「FCSが違うが予備のPotooooooooも2機持ってきている。大物が来たら俺に任せろ」

『それなら大丈夫なような? うーん、心配だ』

 

「加えて知らせるなら、恐らく明日に封鎖機構の強襲艦隊が襲来する。地の利はこちらにあるが、この1週間背水の陣を敷くぞ」

 

『ええ……でも、俺もベストは尽くします。例え弾切れしても素手でなんとかするって事で良いです?』

 

「いや、ACの完全損壊を避ける為に弾切れしたら一旦引いてくれ。それと明後日以降どうしてもどうにもならなくなることが予想された場合、最終手段がある」

 

『そ、それは一体……?』

 

「独立傭兵レイヴンに依頼を出す。資金の制約で一回しか使えないが、金次第でなんでもぶっ飛ばしてくれるから頼りにはなる。ただ、親友の動きでオールマインドにここを勘付かれる危険があるので最終手段だ。リークされて企業も来たら流石に防衛しきれない」

 

『もしかしてオールマインドが持っているという例のステルス機も相手にしないといけないかもしれないんですか!?』

 

「ああ。侵入されないように探査用MTを常駐させているから見つけ次第始末してくれ」

『了解です。これは過酷な任務ですね……』

 

ーーーーー

1日目

『強襲艦隊を確認、制圧用艦隊子機が展開されています!』

「あれに削られると後々一番ヤバいぞ、絶対に近づくな!」

『では、どう対処を?』

「クソ狭いエンゲブレト坑道の入口で弾幕を張る。ノーザーク、盾を貼りながらプラズマミサイルをマルチロックでばら撒いてくれ。近づかれそうになったら銃撃でなんとかしろ」

『初日から人使いが荒い!』

 

ーーーーー

2日目

『SG、LC混成部隊来ます!』

「まだ問題ない。予備で俺が出る、エンゲブレト坑道前で迎撃だ」

 

ーーーーー

3日目

『高速接近する機体反応が2機、エクドロモイです!』

「俺が出る。ブルートゥは控えで雑兵を」

『ええ。援護は必要でしょうか?』

「まず必要ないだろ。それより入口を通さないでくれ」

 

ーーーーー

4日目

『コード21現着した!馬鹿な、壊滅しているだと……!?』

「テスト、すまないが一機目のAPに余裕がない。袋叩きにするぞ」

『わかりました、突撃します』

 

ーーーーー

5日目

『ブルートゥさんが封鎖機構と交渉に行ったので抜けましたが……キツいですね』

『カタフラクトが突っ込んでくる!逃げろ!』

「クソが、どうせ出入り口は通れないから……二機目だと!?」

 

『コード23、敵性ACを確認。これより交戦を開始する』

『コード44、排除対象の情報を回してくれ。両機共にシミュレータと異なる奇妙な動きをする』

 

『コード44を受領、システムより解答します。企業所属、スミカ・ユーティライネン。独立傭兵地雷伍長。両者共に戦型不一致を確認、同一搭乗者とは認められません。暫定処理として脅威度を引き上げます。対処してください」

 

『まさか、そんな筈は……特務上尉!?』

『コード5、コード5!情報ログを送信、再照合を!なんなのだ、コイツらは……』

『コード5受領、システムより解答。送信者の登録IDが照合できません。不明なエラー」

 

『うわぁ、お頭さん戦闘中によく情報撹乱までできますね』

「システムより解答……じゃなかった、話しかけんな!ぐへぇ!?」

『まさかの人力解答!?すみませんでした!』

 

ーーーーー

6日目

 

『すみません、昨日ので機体が限界です』

「いや、無理もない。HCに加えてカタフラクトを単騎で倒したんだから大金星だ」

『コールドコールさん、後はお願いします』

『匂い立つな……思わずえづいてしまいそうだ』

「これだけ潰したんだ、そりゃあこうもなるさ」

 

『馬鹿な……寄せ集めに、執行機体が……!』

『恨みは無いが、仕事なのでな』

「コールドコールさん助かった、後は船の護衛を頼む」

 

ーーーーー

7日目

「最終日、3機目にして近接FCSのポテイトーズだ。何が来てもぶっ潰してやる」

『お頭さん、ゴーストを感知しました!』

「くそっ、こんな時に!」

 

『学びて思わざれば則ち罔し。之に先んじ、之を労す!三途の渡しの六文銭、しかと受け取れい!』

『こちらルビコン解放戦線氷原支部司令ミドル・フラットウェル。先行した六文銭が援護に向かう、持ちこたえろ』

「まじで!?助かります!」

 

『備わらんことを一人に求むる無かれ。過てば則ち改むるに憚ること勿かれ』

「一人で抱え込み過ぎて悪かった!ごめん、助かったよ六文銭さん」

 

『仁者は難きを先にして獲るを後にす……しかし、其の身を正しくする能わずして人を正すを如何せん』

「はい、仰る通りです。すみませんでした……」

 

『あの、あの言葉の意味わかるんですか?』

「ん〜、なんとなく?」

『徳は孤ならず。君子は人の美を成す』

 

ーーーーー

 

『封鎖機構との同盟を取り付けて参りました。これでしばらくは安全でしょう』

「ナイスだご友人!いや、本当に助かった!」

 

 防衛戦終了の翌日。

 俺達がエンゲブレト坑道で物資補給を受けている最中、ご友人が朗報を持ってきてくれた。

 

 あまりの猛攻に見かねたブルートゥが、5日目から最後の2日間封鎖機構の基地まで単身交渉に出向き、ジャンカー・コヨーテスと封鎖機構の協力体制を勝ち取って来たのだ!

 

 あの頑固なお役所仕事で有名の封鎖機構に渡りをつけるなんて本当に凄いな!さてはブルートゥ、あの奇行で誤魔化されているけど事務手続きとか出来るやつだな?

 ドーザー最大勢力の頭目、オーネスト・ブルートゥの名は伊達ではないな。

 

「これで一息つけますかね?」

 

 喉を擦りながら大破した残骸の上に座るテスト。

 コイツは7日間、出撃していない間でオペレーターとして戦況を観察させていたが、どうして中々堂に入った声の張り上げ方だった。

 正規の軍人だけあってこの状況でも絶え間なく働き続けるタフネスは見事なもので、出撃した2日間でも新型HC執行機体とカタフラクトを無補給で落としてみせた大戦果を上げている。

 

 それと、どういう経緯があったのかは知らないが、自分も多用するちょっとした小技の『小ジャンプ移動』と『踊り』を独自に体得したようだ。

 一応、自分でも教えていたのだが、理屈にいまいち納得がいかないようで最近まで習得状況が芳しくなかった。

 しかし、この過酷な実戦で体得してみせたのだから、男子三日会わざれば刮目して見よとは良く言ったもの。自分も師匠として鼻が高いぜ!

 

「私としてはこれ以上こき使われるのは願い下げだぞ!D&J経営顧問は断固として会計責任者に抗議する!」

 

 地面に直置きしたパイプ椅子をガタガタ揺らしながら抗議するノーザーク。

 思えばテストによく話しかけていたし、『踊り』習得の切欠となったのはノーザークのお陰かもしれないな。

 

 そして、ひたすら殲滅要員としてミサイルをばら撒き続けた彼の怒りもよーくわかる。

 1日目は攻め手が緩くて楽な作業だったのだが、二日目からは狭所での乱戦となって頻繁に駆り出されることになっていたから本当に大変だっただろう。

 武器も今回は採算度外視の効率重視でプラズマミサイルを装備してもらっていたけど、普段とは異なる武装構成での熾烈極まりない戦闘はさぞ負担だったに違いない。

 

「本当にごめん!流石にここまで攻められるとは想定してなかったんだ。俺の見通しが甘かった、申し訳ない」

 

 ノーザークには本当によく助けられたので今回は頭が上がらない。無茶な日程の強行軍を唐突に入れたのに、文句を言うだけでキッチリ仕事をしてくれたのだから本当によくやってくれた。

 

「お頭さんでも見誤ることってあるんですね」

「俺はいつも見誤ってばかりだよ。しかし、準備が出来てなかった事が響いてここまで苦戦するなんてなぁ」

 

 今回の防衛戦を振り返ってみると、惑星封鎖機構の数と質の暴力を改めて味わうことになった戦いだった。

 二日目に偵察のSG・LCの混成部隊が来たのはまだ良い。この程度は想定していたし、なんなら軽く撃退すれば諦めて退散してくれるんじゃないかとも思っていた。

 

 だが、三日目にいきなりツーマンセルの特務機体エクドロモイが襲来し、四日目に新型HC機体が午前と午後になんと合計5機も来襲。五日目にカタフラクトが2機も突入してきた事で完全に目算が狂った。

 

 なんなんだよあの頭のおかしいやつら!お陰でテストが早々に頼りにできなくなって、船を護衛してくれていたコールドコールに連絡することになったじゃん!

 

 本っ当にアレはヤバかった。

 エンゲブレト坑道という入口が狭く数の暴力を活かしにくい立地でなければ、三日目辺りで総攻撃を仕掛けられて押し切られていたのではないかという疑念が未だに頭の片隅に残っている。

 

 ヤバいのが襲来するのは予想できてはいたけど、まさかあの狭い入口を車体で削りながらカタフラクトが唯一の出入り口を封鎖しようとしてくるのは完全に予想外だった。

 あんな型破りな攻略方法を惑星封鎖機構のシステムが思いつく訳が無いし、たぶんアイツが提案したんだろうなぁ……

 まぁ、事前に何かやるって伝えてはくれていたし、結果的に封鎖機構の重要戦力を削げたからプラス材料の方が大きいんだけどさ。

 

「あれで苦戦などという下手な冗談は辞めてくれ。誰一人無理をせず終わっていたのだから、あんなものは苦戦に入らないだろう?」

 

「俺の弱点なんだ、相手を想定できない長期戦って。ペース配分と残りリソースで自分のケツを叩いて集中力を上げているから、先が見えない戦いになると節約を意識した無駄な動きが増えてしまうってことさ」

 

 そうなんだよなぁ。今回の防衛戦で自分の課題も見えてきてしまった。

 独立傭兵ベスティー・ナイトシェイドの戦力としての長所。それはスタッガーさえとれればなんでも一方的に勝てる攻撃性能と、整備性の高い地元企業BAWSの量産機『BASHO』を複数所有していることによる頻繁に出撃可能である点だ。

 

 この1週間で用いた『Potoooooooo』の数は3機。

 そのいずれも大破寸前の限界まで酷使することで、今回の防衛戦を成立させることが出来たと言っても過言ではない。

 だが、それが自分の課題だ。

 

 それ即ち、スペアに胡座をかいた立ち回りの妥協。エンゲブレト坑道防衛戦では敵機の掃討速度を上げるためにかなりの被弾を受けながら戦っていた。

 勿論、意識している中では全力で被弾を避ける立ち回りをしていた。しかし、被弾によるACの修理費は馬鹿にはならないので回避していたにも関わらず、結果的には大破寸前まで追い込まれるこのザマだ。

 

 なんと情けない。

 政治的に布陣を整えることができても、それで自分が負けては全てが御破算だろう!

 

 認めよう、自分は封鎖機構を侮っていた。

 ハッキングと帯域封鎖で幾らでも情報操作ができるとはいえ、正規の軍人として最新兵器を操る封鎖機構の戦力は並大抵のものではない。

 

 ああ、だからこそ安心した。

 これからはまともにアイツらと戦う事は無いのだから。

 

「それであの強さか。流石親友は格が違うな」

 

「おいおい、褒められると照れちゃうよ?ウヘヘヘへ……!」

 

 へへへ、よせやい。

 いくら自分が強いからって格が違うってほどでもないんだからさ!

 

 唐突な褒め言葉に熱を持った顔を抑えて照れている最中、真顔になったノーザークから無慈悲な言葉が下された。

 

「テスト君、情緒不安定の傾向だ。コクピットに連行したまえ」

「わかりましたノーザークさん」

 

「酷くね!?」

 

 テストに無理矢理引っ張られて修理中のポテイトーズまで連行される。

 

 ちくしょう!こんなのって無いだろうが!

 ばーか!この借金王め!覚えてろよ!

 

ーーーーー

 

「……ノーザーク」

「ああ、わかっているともコールドコール。おいブルートゥ」

 

 エンゲブレト坑道の上層、人為的に整備された区画に設けられた整備ドッグの一室。

 ノーザークはコールドコールの護衛のもと、ブルートゥの部屋の前に来ていた。

 

『おや?どうかいたしましたか?』

「次はない、と宣告しておこう」

『……はて』

 

 扉を隔てて唐突に突きつけた剣呑な宣告。

 それはノーザークからオーネスト・ブルートゥに向ける言葉の剣に間違いないだろう。

 

「お前の知っているナイトシェイドはあの通り身内に甘い男だ。あれはあれで独特の魅力となって利益に繋がっていることもあって、私にその側面を否定する気はないとも」

 

『ええ、ええ。それは私もよく知る彼でしょう。情に親しみ、人に親しみ、そして友人に慕われる。本当に素敵だ……この私も、彼にとっては親友なのですから』

 

 対して扉の向こうの彼はおどけたように受け流す。

 普段通りの、真意のわからない言動に何一つ変わりはない。怪人オーネスト・ブルートゥ、自らを誠実と信じて疑わない人格破綻者に一瞬顔を顰めるノーザーク。だからこそノーザークは宣告にやってきたのである。

 

「だがしかし、しかしだ! お前は一つ勘違いをしている。あの少年は、利にならない裏切り者を嫌うぞ」

 

『嗚呼、私は疑われているのですね。ノーザーク……貴方もまた、私の友人の一人だと言うのに』

 

「お前の行為を非難するつもりが無いとは言わないでおこう。それでも、今回の主軸はそれではない。お前の知らないベスティー・ナイトシェイドの一面を教えてやろうじゃないか」

『……』

 

 沈黙。無言の催促と捉えたノーザークは朗々と語りはじめる。

 

 語るは主観。

 ノーザークはルビコン星系の外で生を受け、独自の価値観による自業自得で借金を負って追手から逃げ延びてきた経歴を持つ男だ。その旅路は並大抵のものではなく、ルビコニアンではないが故に、主観でもある種客観的な視点を持つ。

 

「D&Jを知っているだろう? あの潔癖なまでに異分子を廃し、ある種純粋な狂信者の一軍を。アレは狂っているぞ。口ではどうとでも貶しているが、あの一団の奥底にあるのは規律と信仰。この私もコールドコールに放り込まれてようやく気付いたんだ」

 

「D&Jは、あの男が啓示した夢を追う一団だと」

 

 その客観を以てノーザークは、D&Jを宗教であると断じた。

 

「夢、そう夢だ! この大地が荒廃し、人心も定かならざる戦乱の中で。鮮烈な生き様で魅せ人を従えるなど、宗教でしかないのさ! そうだろう、オーネスト・ブルートゥ」

 

「だからこそ私はあの男が恐ろしい。どんなに失敗をしてなお、一切揺らがぬ信仰を持たれるあの男が恐ろしいのだ」

 

「汚点を肯定し堕落を肯定し、ドーザーの期待に応えるという甘言を抜かすあの男は、心の底から夢を実行してみせると胸を張って言い切っている」

 

 心胆を寒からしめるような体験をしたと。最後にそうこぼして、言葉を締め括る。

 

 ノーザークからすると、ベスティー・ナイトシェイドとD&Jの関係性は非常に不可解で異様なものとして目に映ったようだ。よほど価値観に合わない奇妙な体験をしたのだろう。弁舌をもって企業相手に斬った貼ったの大立ち回りを演じてみせる彼の舌は、最後の言葉を震えながら紡いだ。

 

『ご友人はそういうものでしょう?』

 

 だが、狂人には何も響かない。

 狂人には狂人の理屈があるように、狂人同士通じ合う何かがあるのだから。

 

 噛み合うことのない価値観の不一致に、護衛として同行したコールドコールは僅かな間皮肉げに頬を歪ませた。

 だが、同行を求めた彼はそれも織り込み済みだ。

 

「だからこそ忠告だ。今回はベスティー・ナイトシェイドが実力を証明して見せたが、次に妨害すればお前が実力の証明に使われるだろう」

 

 ノーザークはあくまでも善意の第三者として忠告のみを伝えれば良いのだから。

 そうすれば義理は果たされ、次の謀反の際に告げ口をすれば容赦なくギロチンは振り下ろされる。忠告の通りベスティー・ナイトシェイドとはそういうものでしかない。

 

 親友を名乗る少年は身内の裏切りを境として一切の容赦を持たず、敵と認識した者として苛烈なまでに処断する。

 D&Jのリーダーとは時に絶対の裁断を求められる役職であり、ベスティー・ナイトシェイドは居心地の良い友情という飴と痕跡すら残さない抹殺という鞭で9代目リーダーを全うしたというのだから。

 

 だからまあ、これも予想外の一言だったのだろう。

 

『ご忠告に感謝を。ですがご安心を……今回のパーティは、ご友人の企画によるものです』

 

「……は?」

 

 間抜けな言葉未満の問い返し。

 狂人に義理は果たしたと身を翻そうとした革靴が、再度友人に向きなおる。

 

『ご友人。私は彼に背きましたが、それもまた親友の手引きの内。よほどドーザーに精通しているのでしょうね。私が叛意を抱いたその瞬間、まるで長年連れ添った友のように肯定のメッセージが届いたのですよ』

 

 歓喜にブルートゥの声が震え、扉の向こうでシューズの踵が快音を鳴らす。定期的な靴音が高らかに廊下に響き渡り、彼は感極まって踊り出す奇行に出た。

 

「スロー スロー クイッククイック スロー」

 

「え、キモい。なあコールドコール、この男は何を言ってるんだ?」

「ともすれば戯言か、あるいは虚言か。だが、そうでは無いらしい」

 

『彼が語るには、その時はじめて叛意の理由に思い至りメッセージを送信したとのこと。間一髪でしたね、ミルクトゥース?』

 

 あっさりと、これまでの説得を徒労にする言葉を白状した。

 事の真相は至極単純で、今回の防衛戦は合意済みの試し行為だったというだけのこと。

 

 なんということだ。ノーザークもこれには肩を落とし、無駄骨を折ったことを嘆く。

 

「なんなんだ一体。ああもう、原稿を練った時間を返してほしい。念の為確認しておこうブルートゥ、これ以上裏切る気は無いのだな?」

 

『勿論ですよご友人。私は嘘をついたことがありませんから』

 

「虚言癖の人格破綻者。なるほどな。あれで的確に表現されていたようだな借金王」

「ええい、借金王と呼ぶな借金王と!」

 

『ですが、これでハッキリさせることができました。私たちは、かけがえのない友人であることを! 素敵なご友人、私と共にこのルビコンで楽しみましょう!』

 

「へーい何やってんの皆!俺も混ぜて混ぜて〜!」

「すみませんノーザークさん。頑張って抑えたんですがパワーが違い過ぎました……」

 

「チッ、時間切れだな。……親友!お前は遊んでいないで早く寝るんだ!寝なさい!」

「え〜?『夜の木陰』と呼ばれたこのナイトシェイド様が、そう簡単に寝るもんですかいってんだ!ウヘヘヘ、徹夜王に俺はなる!」

 

「坑道に残ったコーラルの残り香で酔っている、か。恨みは無いがこれも仕事なのでな。大人しく眠っていろ」

 

「なにおーう!ザッケンナコラー!ッスゾオラー!……うわ待てスタンバトンは辞め……!うぎゃっ!?」

 

「コールドコールさん、ありがとうございました。俺はこの人を運ぶので失礼します。 ……ふッ、どっせい!」

 

「親友も怪力だがあいつも凄いパワーだったな」

「流石は軍人といったところか」

 

「重さは合計で150kgほどだろう? 一体どんな鍛え方をしているんだ。そうだ、再現性があるなら訓練方法を売れるのでは」

「興味深い。完成したら買ってやろう」

「なんだって? 私の聞き間違いか?」

 

「年老いるとそれ相応の鍛え方が必要になる。それだけの話だが、いずれ理解する時が来るだろう」

「……! 閃いた。老人向けの宣伝モニターになってみないかコールドコール」

「衆目に顔を晒せる身分ではないので断らせてもらうとしよう」

「いや、顔はむしろ不要だ。首から下を映す手法で匿名の独立傭兵として使う。感情移入しやすいモデルとして記号化できるはずだ」

 

「断る。身体的特徴すら時に仕損じる原因となる。他を当たれ」

 

「くっ、これはお前の宣伝にも使えると、何故理解しない……!?」

「ビジネスモデルの違いだ。お前も偶には他人を尊重することだな」

 

 戦明けの一日が過ぎていく。

 認識の溝は大きく、しかしそれでも問題はない。

 

 独立傭兵など究極的にはあぶれ者でしかないのだから。

 




オーネスト・ブルートゥ:エンゲブレト坑道を封鎖機構に潰させる勢いで攻めさせた主犯。そもそも封鎖機構とは621の海越え以前より手を結んでおり、今回の苛烈な襲撃はこの怪人の手引きによるもの。到底無茶な防衛戦を熟しきったナイトシェイド達の計画成就を確信した。

ノーザーク:利害関係がD&Jが絡まない外部に乗り換えただけなので借金は返しきれていない。武装構成に拘りがなく雑兵の殲滅要員として活躍。ブルートゥから習ったダンスで通信講座を開講した。なお、他の情報商材に勧誘する入口にしている。ブルートゥを脅すためにD&Jについてかなり誇張して伝えた。

テスト:機体相性もあるが惑星封鎖機構が誇る地上最強兵器カタフラクトを相手に、余裕を持って単騎で落としきれるまでに成長。常識的で話しやすいノーザークを尊敬しており色々騙されている。ノーザークからナイトシェイドが企業に披露した戦闘ログを買い取り、オーネスト・ブルートゥのACダンスを加えた結果、『踊り』という奇妙な回避挙動を習得した。

ベスティー・ナイトシェイド:計画のガバに気が付き、解放戦線や企業に先行する形で急遽中央氷原入り。想定以上の猛攻に非常に焦った。対封鎖機構特化型ハッキングプログラムとして『Alca』を調整しており、エンゲブレト坑道入口に備えさせたECMジャマーを併用することでシステムとの通信妨害が可能。頭が馬鹿。

六文銭:盟友の危機に海上から単騎駆けを敢行。一晩かけて7日目の援軍として馳せ参じた。殲滅に不向きな機体構成だが、砂埃からIA-27:GHOSTを特定する荒業でステルス機による侵入を防ぎ続けた。

ジャンカー・コヨーテス達:ベリウス地方から出向してきた余燼ども。なんやかんや仕事は熟してLCを数機撃墜に成功。この後RaDが仕掛ける『大型ミサイル発射支援』対策のためベリウス地方にとんぼ返りする羽目になった。頭が馬鹿。

オールマインド:元々はオーネスト・ブルートゥに情報ログ『観測データ:見えない領域』を持つゴーストを撃墜されたことにより、ジャンカー・コヨーテスの調査をしていた。エンゲブレト坑道で立て籠もっているという情報を入手し残り少ない機体で調査に向かったがほぼ撃墜される。封鎖機構対策で入口に炊かれたECMフォグによって遠隔撮影すら失敗している。

スマートクリーナー改:RaDから持ち逃げしたスマートクリーナーを魔改造した使い捨て地下穿孔機。ベスティー・ナイトシェイドがオーネスト・ブルートゥに依頼した二機の内の一つ。1週間の間にウォッチポイント・アルファ深度2を経由してシステムの届かない未踏領域探査の地点まで到達した。今は役目を終えてミールワームに集られている。馬鹿の兵器。

強化人間C4-621:今回は出番無し。仮に出撃していた場合、ドーザー特有のその場のノリで封鎖機構を壊滅させるまでやらされる危険性があった。そうなった場合は信頼関係もクソも無くなるので計画は破綻する。取り扱い要注意。

D&J:かなりアレな奴等の集まり。ACを任せられると判断した奴等を集めただけあって、とても気持ち悪い温度感の集団になっている。別に狂信者や宗教というわけではないが、命の価値が軽いドーザー特有の価値観のせいで殉教者に見えないこともない。身内ノリが宗教に見えたノーザークは正気度が少し削れた。頭が馬鹿。
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