【完結】じゃんじゃかジャンカードーザー傭兵 作:白河童小鼠(人間)
目が覚めると知らない天井だった、というのは時に言いようがない不安感を募らせる。
とても長い間眠った時特有の怠さをベッドの上から這い出して、周りを囲んでいる白くはないが清潔なカーテンを開ける。
隣のベッドに寝ころんだ人から酒焼けした陽気な声がかけられて、咄嗟に枕カバーを被った。
「よう、元気か?」
「元気元気、バリバリ元気よ。そちらはどうなんで?」
「いやぁ、闇市で買った酒を呑んでから記憶がねえわ。そっちはちゃんと記憶があるかい?」
「ん〜、アイスワームと戦った帰り道の途中までは覚えてる」
「わっはっは! こりゃ頭がイカれちまってるな。ナースコール押してやるよ」
「ここ病院か」
電子音で再現された優しげな音色が鳴り響く。
駆けつけてきた看護師に幾つか問診された後、車椅子に叩き込まれてどこかに運ばれた。
仮にも病人に対して扱いが荒いなあ。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。あなたは一週間の間、昏睡状態でした」
「そんなに」
運ばれた先の診察室に居たのは、いつになく綺麗な白衣を着たかかりつけのお医者さんだった。
開口一番、挨拶もなしに告げられた言葉に呆けた声が出る。
「急性アレルギー性ショック。症状は皮膚の炎症、喘息、失禁、嘔吐、血圧低下による意識不明。宇宙服からの救出が遅ければ、あなたはゲロに溺れて窒息死していましたね」
発症したシーンを想像したくないほどの症状のオンパレードに天を仰ぐ。
いったいどんな聖人が、ACの中に居た自分を助けてくれたんだ。
あの場に居たのはノーザークやコールドコール、親友のC4-621、それにケイトぐらいか。
ケイトは直帰していたし、親友は身体が良くないのでACの中からはでてこないはず。
ノーザークはその辺薄情で汚物に塗れた者を助けたりしないから除外しても良い。
コールドコールは人命救助とかやらなそうだけど、消去法からして一番濃い線はコールドコールさんかな。
「それは助けてくれた人に礼を言わないといけないね。お医者さん、その恩人の名前は?」
「ハンドラー・ウォルターと、護衛として同乗していたあなたの相棒になります。入院費用は一ヶ月分ハンドラーが支払っていきました」
「ウォルターさんと相棒が!?」
どういう組み合わせだよ。
いや、護衛って言っていたな。
オーバーシアーの繋がりで、シンダー・カーラによってインビンシブル・ラミーがハンドラー・ウォルターの元へ派遣されたのだろう。
なるほど、そういうことか。
きっと621がウォルターさんに助けを求めてくれたに違いない。
なにもなしにコクピットの中で倒れた自分まで確認できるとは思えないし、発見したのはきっと実体を持たないエアさんかな。
みんな命の恩人だ。
「お礼しにいかなきゃ」
「あと一週間はこの病院で安静とします」
ホワイ?どういうこと!?
「なんで!?」
「当然です。今回の事故で負った全身打撲以外にも、精密検査を行った結果過労で内臓の数値に異常が出ています」
「でも俺が行かなきゃいけない計画があって」
そうだ、シンダー・カーラさんと企画したACバトル興行はどうなった?
ヤバい。既に関係各所に話は通してあるから計画が止まることはないだろうけど、一週間も抜けてしまったらどこかに無理が出ているはずだ。
自分がやらなければいけない作業は山ほどある。
企画した責任者とはそういうものなのだから。
「通してもらうぞ」
椅子から立ち上がるが、肩をお医者さんに抑えられる。ぶっ飛ばすか?いや、医者の本分を全うしているお医者さんに責任はない。
穏便に足払いでもかけて……
「その必要はありません。あなたの作業は既に引き継ぎが完了していますので」
「なんだって?」
は?引き継ぎが完了している?
ヘリに置いていたもしもの為の引き継ぎ書はまだ未完成だしなにがあった?
そう困惑していると、タブレット端末を手渡された。
そこに表示されていたポップな広告のタイトルは『ルビコンぶっちぎり最強決定戦〜ルビコンアリーナ〜』。
なんだこの……なに?
ポップなカラー文字は共通語以外にも幾つかの言語に対応していて、ルビコン外にもベイラムや大豊にシュナイダーとかその他諸々の経済圏にも届くよう細心の配慮が為されている。
でも、タイトルがダサい。
この広告を作った奴はセンスが死んでいる。そうに違いない。
「このように計画とやらはあなたの手を離れ、恙無く進行しています。あなたの出番は3週間後の戦闘のみです。大会に全力を出せるよう、この一週間はしっかり療養しなさい」
「アッハイ」
「それとこちらを」
「アッハイ。……これはチケット?」
タブレットをお医者さんに返すと、先程のポップな広告とは打って変わって大豊風の意匠が施された紙を手渡される。
書いてある文字は日時と場所。
日時はさっきのルビコン最強決定戦とやらの翌日を示している。
「大豊星系行きの渡航券です。アーキバス先進開発局の技術者輸送に併せて、使節団と渡航希望者を纏めて船団で護送すると聞いています」
「なるほど。船団なんてルビコンに無いはずだけどどこから来たんだ?」
「どこからと言われるとそれはもう大豊からとしか。あなたが大豊の訓練生を護送した辺りには既に稟議を通していたのでしょう」
「……なるほど?」
大豊、先見の明がありすぎだろう。
自分は確かに期待に答える男ベスティー・ナイトシェイドだけど、それにしたって期待し過ぎではないかな。
自分はたかが一人のドーザーなんだけど?
「それだけ貴方は期待されていたということです。大豊は船団でルビコン解放の決戦に介入することによって、コーラル利権の交渉を有利に進める腹づもりだったのかと。ですが、集積コーラル到達が予想以上に早かったせいで間に合わなかったようです」
「なるほどあれだな? 高度な政治的駆け引きの結果ってやつか」
「理解が及んでいないことはわかりました。では、お大事になさってください」
慇懃な決まり文句と共に肩を押されて診察室から退出させられる。
状況が動きすぎて理解が追いつかない!
「おお、帰ってきたか坊主。こちとら精神病棟行きで帰ってこないんじゃないかと思ってたぞ」
「酷い言い草だなアンタ。俺はあと一週間はここでお世話になるんだってさ」
大人しく病室に戻ってきたら、酒焼けした声のおっさんが話しかけてくる。折角の隣人なんだ、仲良くなるために会話を膨らませないとね。
「ギャハハハ! 良いじゃないの。そんなに生き急ぎ過ぎなくたってさあ!」
「おじさん良いこと言うね」
「だろう? これが年の功ってやつ。そんな年寄りの醍醐味は若者を弄ることでねえ。ほれ、なにか面白いこと言ってみてくれ」
「クジラの金玉袋の重さって3トンらしいよ」
「なんだその化物!?」
「地球の海に生息する哺乳類でちんちんは3m。得意技は潮吹きで4mぐらい上に飛ばすんだ」
「ディックが3m!? 4m潮吹き!? チキュウの哺乳類怖えなぁ!?」
「どう? 面白かった?」
「サンキュー面白かった。じゃあ俺は退院するわ。アデュー!」
そう言ってリュックを引っ掴んで病室から飛び出していくおっさん。
あの勢いから察するに金が無いから取り立てられる前に逃げたな?
ノーザークが似たような表情をしてたからわかる。となれば、俺がとる行動は一つ。
ナースコール脇の受話機を握って一言。
「もしもし、隣の患者が逃げました」
『情報提供に感謝します』
大捕物がはじまって賑やかになった病院内。
さーて、いきなり暇になったことだし、自分はなにをするかねぇ。
とりあえずは通信かな。
ーーーーー
「もしもし、ベスティー・ナイトシェイドです。ハンドラー・ウォルター様はご在宅でしょうか?」
『お前か。意識を取り戻したようだな』
「おかげさまで一命を取り留めました。ありがとうございます。また後ほどお礼に参上するつもりではありますが、一先ず貴方の口座宛に立て替えてもらった入院費を振り込ませていただきました」
『礼は621にしろ。俺はあいつの意図を汲んだに過ぎない』
「そうですか。では、後ほど親友にお礼の通信を行います。それでその、ハンドラー・ウォルターさん」
『なんだ』
「あなたにも借りを返したい。勝手ながらあと3週間でルビコンを出ることになりましたが、その間に俺が叶えられることであればなんでも言ってください」
『……幾つか確認するが、まず621に競馬という賭博を教えたのはお前だろう』
「えっ。あっはい。その、すみませんでした」
『謝罪は必要ない。あいつが戦う以外に興味を示したこと自体は良い兆候だ。……お前の渡航先も競馬文化のある大豊星系で間違いないな』
「はい。競馬観戦はかねてよりの夢だったので」
『……実は、621が馬主というものに興味を持っている。俺としても使い切れないほどの収入が入る予定である以上、節税の必要性を感じているのでな。単刀直入に聞くが、馬主になるにはどうすれば良い』
「すみません。まず確認したいのですが、どこまで本気ですか?」
『ああ。ルビコンIIIが平穏になった以上、ここで独立傭兵を続ける意味はない。ひとまずは621が興味を持った大豊星系で活動を行うことになった』
「ウォルターさん自体は馬に興味がないということでよろしいでしょうか」
『……いや、実を言うと俺も興味がある。この歳になっても動物というものをミールワーム以外に見たことがなくてな。生物であるならば、621が手を引いたとしても俺が死ぬまでは馬主として役目を果たそう。それぐらいの金はある』
「わかりました。そうですね……それなら大豊星系の競馬であれば問題ないと思います。極論、金さえ払い続ければ星外住まいであっても馬主になれるのが大豊競馬です。星系を股にかけて金を稼ぎながら馬主をするという前例は多々ありますから。それで馬主になる方法についてですが、後ほど自分用に纏めていた資料をお送りします。わからない所があれば答えますのでメッセージなり通信なりで聞いてください」
『ああ。最後に一つ言っておく』
「はい、なんでしょうか」
『あまり、若い身空で賭博にのめり込まない方が良い。例え収入があったとしても身持ちを崩す原因となる』
「いや、心配ご無用です。俺は金を賭けるのは嫌いなんで。馬が走ったりしている所が好きなだけなんですよ。ですが、大事なことなので忠告は胸に刻んでおきます」
『そういう楽しみ方もあるのか。……身体には気をつけておけ。失礼する』
「はい、そちらもご自愛ください。お時間いただきありがとうございました」
ーーーーー
『新着メッセージ 1件』
『ベスティー・ナイトシェイドだ。先日は醜態を見せてすまない。親友には助けられた、本当にありがとう。親友への細やかなお礼として、以前送ったアリーナの追加データを贈らせてもらうよ。親友の友達であるエアさんも遊べるよう機能を追加したから楽しんでほしいな』
ーーーーー
『よう相棒、無茶したな』
『悪いね、相棒に助けられちゃったよ』
『テメェなあ、本当に無茶し過ぎなんだよ。D&Jの奴ら、口で強がっちゃあいるがかなり心配してたぞ。代わりに色々やったロビンのやつに感謝しとけ』
『はいはい、もう感謝の印は送ったから心配要らないよ。……ぶっちゃけ、俺が開催したかったなぁ!』
『ドーザーの誰だってそうだろうぜ。あんな派手なイベント、隙を見せてぶん盗られるお前が悪い』
『手厳しいね』
『何度でも言ってやるが、お前は無茶をし過ぎなんだ。大人しく引っ込んで大人を頼ることを覚えろって言ってんだよ』
『悪かったって。でも、もう無茶をする機会は無いから安心して良いんじゃないかな?』
『どうだかな。相棒よう、お前は昔からツキの回りが極端なんだ。この無敵のラミー様の忠告を覚えておいて、本当にマジで気をつけろよ』
『縁起でもないこと言うのやめてくれないかなぁ!? でも、ああ。うん、気をつけるよ。本当に気をつける』
ーーーーー
3週間は飛ぶように過ぎた。
連絡した先々からお叱りを受けては心配されて。
人情の温かみというものを知った入院中の一週間。
フラットウェルさんからの『お前が欲しいACパーツを揃えてやる。それまで休んでおけ』というありがたいお言葉に甘えて、決闘に備えて遠慮なく機体をリクエストさせてもらった。
一回限りの晴れ舞台なんだ。
贅沢をしたって良いんじゃないか?
前世の動きを取り戻す為、解放戦線で態々拘束されていたV.I フロイトを借りてきてシミュレータに叩き込み、1000回の戦闘訓練に付き合わせた。
嫌いな相手だからこその、情け容赦がない荒業だ。
細かい数は覚えてないが、フロイトとの戦闘回数は2000回も行ってないと思う。
この男は元ヴェスパーの首席隊長だけあって体力的にタフだし、なによりACに対するモチベーションが高い。
10戦しては感想戦を行い、時に来客を巻き込んで戦闘による自らの調整に勤しんだ。
というか来客は全員シミュレータにぶち込んで俺の相手をさせた。
だって、自分の休暇中に来る方が悪いじゃん。
普段からなにされてもおかしくないドーザーなんだからさ、シミュレータでACの対戦をさせられるぐらいなら命が助かっただけ儲けものじゃないか。
生きてるだけで丸儲けってね。
その辺り、フロイトは非常に都合が良い男だった。ACでの戦闘に対して真摯だし、戦闘中は頭が良いし、アセンブル思想のある一点だけは本気で判りあえた。
それは性能をある種度外視した、浪漫の追求。
「そのジェネレータ。今は不合理じゃないか?」
「こっちの方が格好いいだろ?」
「それでこそフロイトだ」
「そのCOREとARMS。お前、面白いな」
「とっくに時代遅れな組み合わせなんだけどね。俺はこの見た目が一番好きなんだ」
「性能はどうして悪くない。こちらを選んで正解だったな」
使いたいアセンブルは決まっていた。
あとは自分をその形にあわせるだけ。
前世と比べて存在した齟齬を埋めるのに随分と時間をかけたが、その苦労の甲斐もあって自分は過去最強の自分になることができた。
「お前に感謝を。フロイト」
「勝てよ。ナイトシェイド」
輸送されていくフロイトを見送り、組み立てられたばかりのACで決戦の地へ向かう。
さあ、やるか!
ーーーーー100%
『親友、ベスティー・ナイトシェイドだ。祝勝会ってことでとっておきの対戦相手達を用意した。俺達は一番盛り上がるシーンでの登場でね。誰も死ぬ必要がない、徹頭徹尾楽しむためだけの戦いなんだ。それじゃあ、今この時を楽しもうじゃないか!』
ーーーーー
《レディース&ジェントルメン! 皆さま、今日この時を楽しみにしていた方も多いのではないでしょうか!》
ウォッチポイント・アルファの扉が閉ざされた直上。自分が居ない一ヶ月の間、こちらでは随分と攻略が進んでいたらしい。
一ヶ月前までは敵地だったこのウォッチポイント・アルファの平坦で円形を描く扉は、今では中央氷原で最も熱い決闘のコロシアムへと変貌している。
《それでは選手紹介をしましょう! 観測者達の結社、オーバーシアーの精鋭四人!》
《RaDの頭目にして全製品の基礎設計を行う第1技師! ルビコン最高の電子戦能力を持つ女、シンダー・カーラ! 一言どうぞ!》
『RaDの頭目は操縦もそこそこやる。そいつをお見せしようじゃないか』
最初にステージへと降りたのは、糸吐く蜘蛛を意匠にしたエンブレムを持つシンダー・カーラ。
操る機体はデザートピンクと赤色をしている武装・機体フレームの両方がRaD謹製の専用AC:『フルコース』。重量二脚の純ミサイラーであり、一対一では劣るもののその真価は前衛となる僚機が居る時に発揮される。
機体に使用されるパーツ名も洒落ていて、両手両肩に装備した
恐ろしい相手だ。
《続きまして登場するのはこちら! RaDの頭目カーラを補佐する腹心にしてシステム担当! その正体は、なんとAI!? 寡黙な仕事人、チャティ・スティック! さあ、一言どうぞ!》
『RaDのチャティ・スティックだ。ボスからはまたとない機会を楽しむよう言われている。ここ最近はあれほど気分の良さそうなボスは見たことがなかった。俺も楽しむとしよう』
二番目に登場したのはチャティ・スティック。
エンブレムは電子回路を軌道にミサイルを模した抵抗器。
操る機体は可愛らしい黄色と水色だが、その実態は中量級に収められた軽量タンク脚部で地上を爆走しながら火力支援を行う油断ならないAC:『サーカス』だ。
参加者の中での実力は一段劣るものの、機体自体の機動力は段違いに高い。平坦かつ隠れる場所がないこの地形では、対処には苦慮するだろう。
その武装には両手に小型バズーカに小型グレネード、垂直ミサイルに加えて爆撃するクラスタミサイルまである。命中率に劣る武装構成だが、横やりを入れるには使い勝手が良い。
今の自分の機体では前のような速攻はできないので十分注意しておこう。
《お次はオーバーシアーに助っ人として呼ばれた傭兵が登場! ハンドラーの猟犬を噛み殺す蛇、過酷な戦場を生き残ってきた古豪! 原初の第一世代強化人間、独立傭兵スッラ! 一言お願いします!》
『猟犬、お前の飼い主は私を選んだぞ。そうだろう? ハンドラー・ウォルター』
《痛烈なマイクパフォーマンス! これは負けていられません! C4-621選手も闘志を燃やしていることでしょう!》
赤と黒。左右非対称の色をしたACが舞い降りる。
独立傭兵スッラの乗機AC:『エンタングル』は極めて実戦的な中量二脚ACだ。その特徴は高レベルに纏まったアセンブルにある。高い速度、高い姿勢安定性能、使い勝手が良い武装構成。
その機体構成は前世の自分がアセンブルを行う下地として使用していた程の完成度であり、現在の自分の機体にとっては天敵に等しい武装構成だ。
特にいやらしいのは大型パルスガンHI-18: GU-A2と特殊軌道ミサイル45-091 JVLN BETAの組み合わせ。対処に苦慮していると避けられない連爆バズーカが飛んでくる。どうしたものかね。
スッラが参加すると発表されたのはつい一昨日のことだった。親友の621と相対してウォッチポイントからどうやって生き残ったのかはわからないが、とにかく相手として出てきたからには不足なし。
BAWSに搬入したエンタングルで釣った甲斐があったというものだ。
《それではオーバーシアー陣営最後の一人を紹介しましょう! 悪名高きハンドラーとは仮の姿。その正体は慈悲を以てコーラルの破綻を防ぐ最後の安全弁! 鋼鉄の決意を持つ男、ハンドラー・ウォルター! 一言、どうか一言!》
『このACはかつてアイビスシリーズとして集積コーラルに火を付け、そして満足して死んだ男の墓標でもある。……俺を育てた男だ』
《重っっっっも! ではチームを代表して一言お願いしますっす!》
『こうして平和に戦えることを喜ばしく思っている』
《こうもっと! 視聴者の方を熱くする一言を!》
『……火をつけよう、燃え残った全てに』
《最高の煽り文句です! ありがとうございましたー!》
赤く、紅く、燃え上がるコーラルのように赫いメタルレッドの機体が輸送機から落ちる。
IB-C03:HAL 826、ルビコン調査技研が開発した3機目のアイビスシリーズにして、最終後継として唯一の有人操縦機体。親友の飼い主であるハンドラー・ウォルターが操縦するAC。
HAL 826の特徴は、なんと言ってもその機体全てにコーラルが使用されていること。
即ち、高出力高負荷に似合うだけの高性能超火力。全ての攻撃が大振りだが、その代わり直撃した瞬間こっちのAPが消し飛ぶと考えて良い。
そしてC兵器なので自分が乗ったら死んでしまうが、普通の人からすれば問題ない程度だけどコーラルが含まれている。
そこのところハンドラー・ウォルターさんは特異体質のようで、全く問題ないどころか強化人間並のパフォーマンスを発揮できるようになると聞いている。
要するにハンドラー・ウォルター専用機だね。
相手は曲者揃いだ。
自分達も覚悟しなければなるまい。
《さあて、お次は最強の傭兵二人組を紹介しましょう! まずはこの少年! 解放戦争の発起人! 親友を名乗る不審者! 値段を優先した安い機体だったのに、ルビコンで二番目に強いパイロット! ベスティー・ナイトシェイドが本気機体で出陣だー! あっ、なにか言うっすか?》
「ウォッチポイント・アルファへようこそ。これがナインオーズだ。長き修行を経て、俺はついにこいつと一体になった。もう誰にも俺を止めることはできない。さあ、相手してやろう!」
《恥ずかしいぐらいノリノリですね!》
「うるさいバーカ! 言ってて恥ずかしくなってきたじゃん!」
ーーーーー
機体構成
右腕武器 MA-E-210 ETSUJIN
左腕武器 VE-66LRB
右肩武器 Vvc-703PM
左肩武器 VP-61PS
頭部 HD-033M VERRILL
コア DF-BD-08 TIAN-QIANG
腕部 AA-J-123 BASHO
脚部 VP-422
ブースタ BST-G2/P06SPD
FCS IA-C01F: OCELLUS
ジェネレータ VE-20B
コア拡張機能 PULSE ARMOR
ーーーーー
司会をしているロビンを罵倒しながら、今乗っている機体に思いを馳せる。
この機体をPotooooooooと呼ぶにはあまりにも別物。言葉遊びの一貫で験担ぎも兼ねて機体名を9つのボールを冠したOOOOOOOOOに変更した。
リスペクト元に習って機体カラーは赤と黒のツートンカラーに配色。気分はさながらアリーナのトップ。普段は8を使ってアリーナにすら居ない自分がよくもまあ吹いたもんだ!
この機体は前世で俗に言う『エツRB』という機体だ。低負荷なのに命中精度と衝撃力を兼ね備えているので普段使いしている
この機体の一番笑える点は、腕部積載を超過した上に射撃武器適性が最悪の
本当にイカれてるよ。腕部積載超過のせいで腕部に負荷がかかりまくってメンテナンスが大変だし、ルビコンから撤退したアーキバスのパーツを多用するせいで整備性が最悪で補給も不可能だし、そもそも機体自体が滅茶苦茶な混成ACなせいで普段使いには適していない。
だけどそれでも、自分は前世でこの機体を使用していた。
この機体を使う自分が、自分の中で最強だった。
例え性能が俺の知るそれとは異なり弱くなっていたとしても、最強のイメージに変わりはない。
だから俺の
この後、傭兵を続けるかすら決めてないんだ。
これが最後でも構わないよう、美しい機体で格好良くありたい。それがベスティー・ナイトシェイドだ!
《では、次で最後の紹介となります。ルビコン最強の名をほしいがままにし、宇宙最強との呼び声も高いイレギュラー! 彼こそが
音もなく、まるで不活性化したコーラルの余燼から産み出されたかのように出現する灰色の機体。
恐るべきは、その機体で最強を突き通してきた搭乗者の技量。
武装構成も密航直後に発行したミッションからほぼ変化はない。両手に一丁ずつ
変更点はミサイルが六連から四連になっていることだけだ。
《えー、では一言お願いします!》
緩慢な動作でカメラを向きなおるLoader4。
暫し動きを止めた後、スッラの方にショットガンを向けた。
《おーっと! レイヴン選手、スッラ選手に対して頭を消し飛ばしてやると挑発しました! 素晴らしい応酬です! では、ナイトシェイド選手チーム代表代理として熱い一言お願いします!》
『俺と親友で最強と最強。俺達の絶技に酔いしれろ!』
《では試合を始めましょう! 両者配置について下さい》
どうしたものかな。
配置につきながらフロイトと練った戦型を考える。
まず、自分のナインオーズは一人で戦うと四人全員を倒す前に弾切れを起こしてしまう機体だ。
防御力向上のため左肩に攻撃能力がないパルスシールドを装備しているせいで攻撃の瞬発力にも欠け、上手く戦ったとしても三人目を倒した辺りで右手に装備したバーストマシンガンが弾切れする。
リペアキットの無い2分未満の対戦に耐えるよう組まれた機体なので当然と言えば当然だ。
だけど、必ず2人は落としてくれると親友の強さを信じているので、弾切れはそこまで心配せず戦うさ。
それなら問題となるのは相手への対処。
スッラとチャティ・スティックは極論どうとでもなる。それぞれの瞬間火力は高くない。だが、ハンドラー・ウォルターとカーラに組まれると完全回避が不能なコンビができてしまう。
どちらも、ターゲットロックを行ったままじゃないと回避が難しい攻撃を放ってくるので確実に分断しなければならない。
そうとわかっていれば話は早い。親友との通信回線を開く。
『ナイトシェイドだ。ウォルターさんとカーラさんを分断したい。カーラさんのフルコースを俺が受け持とう。親友にはウォルターさんを対処してほしい』
平時ならいざ知らず、戦闘モードに入った親友からの返答はない。
自分の言うことを聞いてくれれば良し、聞いてくれなかったら頑張って対処するだけの話だ。
《カウント3、2、1……》
システムチェックオールグリーン。
全火器使用制限解除、起動準備完了。
『メインシステム 戦闘モード起動』
試合開始を告げる合図が響いた。
「こっちだ、シンダー・カーラ!」
動き始めた他の機体を置き去りにしてアサルトブーストによる単騎突撃を敢行。
D&Jのやつらに『ついてこいやカス』とかぬかされながらこれを実行されると自分はキレるが、今回のこれは数的不利を覆す為のちゃんとした作戦だ。
『チャティ! あたしがベスティーを抑える。アンタはあいつらとビジターを!』
三連プラズマミサイルと共に突撃し、フルコースのミサイル掃射をブーストキックで中断。
エツジンの掃射とLRBの二連射で先手をとった。
EN補給の為に接地しつつノーアラートで放たれた横薙ぎのコーラルブレードを盾で受け止め、敵陣のど真ん中から向こう側に突っ切って抜けたら後はこっちのペースだ。
ダメージを与えながら付かず離れずの近距離を保ちながら、フルコースを孤立させる。
こちらへのロック数1、さっき
親友の反応は開始位置から方向を反転させており、完全に逃げの一手を選んだ。
賢い選択だ。三対一では考えるまでもなく完全に不利とわかるし、背を向けての逃亡に邪魔な
「さあ、踊ろうぜ」
『まったく、せっかちな小男は嫌われるよ』
「こりゃ失礼。用意されたフルコースに辛抱たまらなかったもんで」
『卑しい子供だね。それにしても随分と釣り出しが手慣れてるじゃないか』
「D&Jの仮想敵を
他の相手達と十分距離が離れたことを確認し、ミサイルを安定して避ける為のサテライト機動に移行。
AAによる追撃は無し、迎撃用途か?
垂れ流したエツジンとLRBによる衝撃値蓄積もそろそろ一回目のスタッガーに至る。
こちらの追撃ブーストキックに合わせてAA、盾で防いでエツジンでスタッガーさせた所にLRBのチャージショット。
数秒攻撃を避け続ければこちらの衝撃値もリセットされる。ミサイラー相手は上昇推力と通常推力を合わせて斜め上や斜め下に動くとミサイルを振り切りやすい。
続けようか。
「シンダー・カーラともあろう者が消極的だな」
『おや、意外かい?』
130m付近から近づくように見せかけてブーストキックを誘発。余裕をもって上昇し、空振りさせた隙にLRBをねじこむ。
「思ったより削れない? それともチャティの所に誘導できない? いずれにせよ動きが焦ってるかな」
陰から飛んできたバズーカを機体を揺らして避け、続くグレネードをジャンプで回避。
そのまま斜め上に上昇することで包囲ミサイルを避け、ある程度の高度から上昇を解除することで落下速度を利用して更にミサイルを避ける。
LRBをフルコースに向けて放つも今回はクイックブーストで避けられた。
『……バレてる。チャティ、挟み撃ちで行くよ!』
『了解だ。ボス、援護する』
戦闘に加わったのはRaDのチャティ・スティック。最初からこれが狙いか?
いや、視界内に入ったサーカスの塗装が従来より剥げている。親友にあしらわれてこちらに戻って来たか。
幾つか策を用意した上で、状況に合わせて選んでいるのかな。
再度LRBを放とうとナインオーズの腕を上げた所でフルコースが反応。LRBのチャージ時間を利用したずらし撃ちでクイックブースト先に当てる。
何にせよ視界外からの攻撃は怖いので挟み撃ちなんてさせない。敵機に対してほぼ真っ直ぐ後退しながら攻撃することで両機を視界内に。
こちらの後退速度が中々に早いことを活かした由緒正しい引き撃ち戦法だ。
それにそろそろ頃合いかな?
『やるねぇ。相当使い込んだ動きだ。だけどそっちはウォルター達の……』
『ボス!』
「親友、今だ!」
『チッ、やられた!』
背面から機体を掠めていくバズーカに冷や汗をかきながらクイックブーストで急前進。
先程から半チャージ撃ちでエネルギーを溜めていたLRBが爆速でチャージショットを放つと同時に、頭上を灰色のACがかっ飛んでいく。
距離を詰めれば命中率が向上するという単純な理屈でのチャージショット着弾により、AC:フルコースがスタッガー。寸分の狂いなく散弾を撒いた灰色の砲弾が翠緑の剣身を振りかざし敵機を切り捨てた。
シンダー・カーラ撃墜、残り3機。
「ナイスだ親友」
アサルトブースト起動。エネルギー切れの上空までナインオーズを飛ばして、即座に後ろを振り返ると追ってきているAC:エンタングルの姿が。
機体推力を止めて下降、迫ってきていた45-091 JVLN BETAが目前にして射程限界を迎えた。
これでチャティ・スティックとハンドラー・ウォルターは親友に任せられたかな。誰も追ってこなかった最悪だったが、さっき後ろから放たれたバズーカでスッラは追ってくるんじゃないかと思ってたよ!
落下中に衝撃値を冷まして、着地でジェネレータのENを回復させる。
落下時間を利用することで1.70秒と極めて長いEN補充遅延を誤魔化しきったがはてさて。
ここからどうしようかな。
『お前か。猟犬が気にかけていたやつは』
「こんにちはスッラさん。ご機嫌麗しゅう?」
若くて老いているという矛盾を孕んだ声。昏い情念が舌の根を蠢かせている気色悪い声だ。
三連プラズマミサイルを後退しながら盾で受け止め、パルスガンの初弾の光から急ぎ盾を畳む。
アサルトブーストでジグザグに突撃してきたので、ブーストキック対策に接触の瞬間だけVP-61PSを展開しエンタングルと交差クイックブースト。
130m付近まで離れて射撃戦を開始した。
『エンタングルで私を誘き寄せようとしたのもお前だったか?』
「さあね。案外、エンタングルが欲しかっただけかもよ?」
『あまり手を煩わせるな……余計だ、お前はな』
エンタングルがクイックターンと同時に
弾速が早くて盾による防御が難しいのであれば余裕を持って避けられる程の距離を開ければ良いものの、残念ながらこの機体ではそう上手くいかない。
お返しのLRBを差し込んで内心でため息をつく。
だってこのナインオーズ、腕部積載超過と射撃武器適性の低さのダブルパンチで近距離じゃないとまともに攻撃が命中しないんだもん!
だから自分にできるのは、ギリギリIA-C01F: OCELLUSの近距離アシスト適性が働く130m付近で極力ガードと回避を行うこと。
カァーッ、辛いなあ!そういう所がロマンあって好きなんだけどさ!
敵機パルスガンの集弾性能を極めて小刻みな揺動運動で悪化させて最小限の被弾に抑え、伸びてきた
経過は上々だ。
『この感じは非強化人間、しかも技研のFCSを使っている。そして、無人機より遥かに機体を使い潰すこの動き』
アサルトブーストを起動しつつ機体重心を右に。発動と同時にクイックブーストを吹かすことでブースタ出力を一時的に増大させながら回り込んで半チャージLRB。
間髪入れず前に普通のクイックブーストでステップを踏んでLRB、両方命中。
『不憫なことだ。そのACに同情するぞ』
「そんな人聞きが悪いこと言わないでほしいな!」
相手の照準が合う時間を見越して後ろに小ジャンプ。空中の揺動で
『主が違えばもう少し長生きできただろうに』
「正論だけに耳が痛い!」
相手がアサルトブーストをしたそうな感覚がしたので、こちらも最短ブーストキックで始動を潰す。
LRBを接射。左横へのクイックブーストでバズーカを避けるが照準の追いついたパルスガンを甘んじて機体で受け止めつつジェネレータを回復。
APの減り具合は問題ない、ここで余裕を持って一つ目のリペアキットを使用した。
「そういえばさ。ウォッチポイントから泳いで脱出したって本当なの?」
エンタングルの左肩に装備した
『今年はかなりの冷たさだった。三年前の冬も悪くなかったが、今年の冬はそれ以上だ』
「スッラさん毎年寒中水泳してんの!? 俺もできるかな?」
LRBをチャージしながらのブーストキックはバックステップで避けられたが、隙消しのエツジンでスタッガー完了。
チャージショットからのブーストキック。これでリペアキットは全て使わせたかな。
エンタングルのAPを7割近く消し飛ばしたことを視認する間もなくアサルトブーストを再起動。再び上空へと飛び立ち、障害物のない上から俯瞰して戦況を確認する。
ド派手な赤色のコーラルビームが遠方を薙ぎ払っているが、爆発属性のミサイルは見受けられない。
もう撃墜されていたか。
流石は親友、仕事が早い。
チャティ・スティック撃墜、残り二機。
『冗談を解さないとは所詮は植物だな。さもなくばお前も死ぬことになる』
「ちくしょう騙された! でも、どうやって脱出したんだ?」
戦況確認も程々に上がってきたスッラを迎え撃つ。先触れとして接近する三連プラズマミサイルを、アサルトブーストを止めた慣性による放物線機動で隙間を潜って避ける。
相手がこうしてアサルトブーストで追いかけてきてくれたのならば、互いにほぼジェネレータのエネルギーが枯渇寸前になっている。
クイックブーストという大きくエネルギーを消費する回避行動を制限された状態であれば、盾を持つこちらの有利状況だ。
『それも余計だ』
「オーケー、これ以上詮索はしない」
『それで良い』
射撃を意にも介さず
通常ブースト移動の連続操作によってLRBを当てる落下速度を調整したため、余計なエネルギーの消耗なく接地と共にジェネレータが回復。
相手の着地にブーストキック、スタッガー。
追撃のチャージショット、ブーストキック。僅かに残ったAPをエツジンで削って終いだ。
『ハンドラー・ウォルター……その猟犬は、大切にしておけ……』
スッラとの通信が途絶。エンタングル撃墜。
親友の方を確認すると、丁度HAL826の左手を斬り飛ばすところだった。
「なにあれぇ……」
《試合終了ー! 圧倒的な実力で4機もの強敵を退けたのは、チーム独立傭兵!》
試合が終わってみれば親友の撃墜数三、こちらの撃墜数一と実力差が如実に出た試合となった。
えっ、あの腕を斬るやつどうやったの?
ウォルターさんを無力化するために練習した?
そっかぁ。親友凄いなぁ。
ーーーーー
ルビコン中を巻き込んだ飲めや騒げやのドンチャン騒ぎから一夜が明け。
大豊の移民船が浮上する。
生まれ育った星を後にする感慨に耽り。
まだ見ぬ夢の先に思いを馳せ。
それぞれの夢と希望を乗せた方舟達が空を舞う。
『なあ親友。
みんな地下のあれらに夢中になっちゃいたが、どいつもこいつも視野が狭いよな。
企業が宇宙から来るように、ルビコニアンの先祖が遠い空から来たように。
そう、宇宙は空にあるんだ。
俺はこの星を飛び出して夢を叶えたい。
親友はどうだ?』
かくして、無頼達は宇宙へ羽ばたいた。
傭兵は夢を叶える為に宙を翔け、今はただ一言となった伝説が今なお人々を空へと駆りたてる。
『宇宙は空にある』と。
じゃんじゃかジャンカードーザー傭兵 完結