【完結】じゃんじゃかジャンカードーザー傭兵 作:白河童小鼠(人間)
最近は寒くなってきたのでACで興奮して暖まりましょう
「まじかよ、アイツ決めやがった」
ノーザークとの対談から数日後。
オールマインドと輸送ヘリを改装する段取りを打ち合わせていたところ、ノーザークから通信が届いた。
秘匿通信を通じて手元のタブレットに入ってきた報告に目を見張る。
そこには『BAWS調査船貸与決定、万事問題無し』という簡潔ながらあまりにも望み通り過ぎる報告文が書かれている。
いったい何をどうしたらここまで上手くやれるのだろうか?
自分が手伝ったことと言えばBAWSの担当者との仲裁をした程度で、そこから先はほぼノーザークの独力だ。
一応、俺も同席しようとはしたのだが、ノーザークがあまりにも自信満々に一人で交渉させろと言うものだから全部任せたのだ。
念の為、送られてきた契約書を確認するも偽造の痕跡は見当たらず。
これと言って俺に不利益な点は無し。
完璧な仕事ぶり。
なんて野郎だノーザーク。
その舌鋒は古今無双。
せめて債務者でさえなければ依頼の仲介人として天下がとれただろうに。
こうしては居られない。
この働きに応えなければ男がすたるというもの。
まずは計画を前倒しにすべく、オーネスト・ブルートゥへと連絡をとるのだった。
ーーーーー100%
『ルビコン解放戦線中央氷原支部司令に就任したミドル・フラットウェルだ
我々は現在、ベリウス地方にて企業勢力に対する攻勢準備を進めているが、惑星封鎖機構に不審な動きありとの知らせが入った
我々としては星外企業勢力と惑星封鎖機構による抗争での消耗を狙っているが、それには惑星封鎖機構の戦力評価が不可欠だ。
そこで、惑星封鎖機構の拠点と疑われる中央氷原へと乗り込み、情報を持ち帰ってもらいたい
独立傭兵ベスティー・ナイトシェイド
色良い返事を期待している』
ーーーーー
霧が出ている深夜。
山間部を長距離巡航用のブーストで踏破し、人の気配が薄い港に着地する。
見渡せば、ACも収容できる巨大なタンカーが一隻停泊している。
見間違いなどではなく、しっかりと。
「おはよう親友。まさか本当にやってのけるとは」
『当然だとも。私が持ち逃げするとでも?』
夜露に濡れた深紅が地下から姿をあらわす。
ノーザークのビタープロミスだ。
港の地下倉庫に潜んでいたらしい。
逃亡生活で草臥れていた機体はメンテナンスで輝きを取り戻し、頼もしい立ち姿を見せている。
どうやらBAWSで補給とメンテナンスを受けることができたようだ。
ノーザークはその多重債務で逃げ回っている都合上、オールマインドからの支援を受けにくい。
なのでこうしてメンテナンスを受けられたビタープロミスを見ると、俺も親友の立派な姿に嬉しくなる。
「まさか。でも、そうなったら俺は破滅だ。ヤケクソで封鎖衛星に特攻してたかもな」
『封鎖衛星の運行を把握していた君がそう言うと冗談に聞こえないな』
「まあ、プランの一つではある。本当にやるなら綿密に計画を練るよ」
『怖い怖い。それで、もう一人は?』
「自動操縦の効く運搬用MTを輸送してくる都合で、あと2時間ほどかかるらしい」
待ち合わせをしているのはもう一人いる。
この依頼にあたるメンバーは3人。
強行偵察の俺、ベスティー・ナイトシェイド。
後方物資とタンカーの護衛、ノーザーク。
そして、今この場に居ない獲得物の護送役オーネスト・ブルートゥだ。
『それはまた呑気な事だ。集合時間に間に合うようにするのは基本だろう』
「そう言わないでくれ親友。ご友人は予定を前倒しにして忙しかったんだ。責めるなら親友の手腕を想定できていなかった俺にしてくれ」
『君は君で詰めが甘いからね。まったく、私は不安で不安で仕方がない』
「なら、完璧な戦闘で失態を取り返さないとな」
演技がかった口調でからかってくるノーザーク。
こちらも笑って返答する。
どうせ2時間暇なのだ。
スピーカーで会話したところで問題あるまい。
『そういえば君も最近忙しかったそうじゃないか』
「あはは、とにかくシェルパを用意するために金が必要でね。念には念を入れるのが信条なんだ」
ノーザークから報告を受けたあと、2回ほど軽い任務をこなした。
正直ACを動かした任務の収入としては頼りないレベルのものだが、その収入は全部補給シェルパを用意するために使用した。
俺の愛機『Potoooooooo』は、ほぼすべてのパーツをBAWS製のパーツで固めている。
その関係で依頼主のBAWSからは安めの値段で補給シェルパを仕入れることができた。
アセンブルした時の相棒から『安い機体でメンテナンス費も安く』という助言を素直に聞いていて正解だった。
こういった探索任務は短いスパンで出撃する必要がある。
単純な構造をしている旧型機『BASHO』はこういったメンテナンスが容易なのだ。
『入念なのは良い。しかし、修理工の真似事をしていたと聞いた。独立傭兵にまでなってそのような事をするとは何があったんだ』
「アリーナのランカーじゃないから仕事が少なくてなぁ。親友はどうやってランキングに入ったんだ?逃亡しながらだと依頼も受けにくいだろうに」
『私はルビコンに来る前に活動実績を積んでいたからな。なに、あの借金取り達を蹴散らせる親友の実力なら、すぐに信用も拡大できるだろう。こういったのは地道な積み重ねが大事だからね』
「そうか、そうだよな。あの借金取りは知り合いが交じってたから話し合いで帰って貰ったけど、その気になれば幾らでも殺れたしな。うん、親友ありがとう!元気出てきた!」
『そうかそれは良かった。それはそうと親友、最近通信業者と知り合ってね。掛け合えば君が好きな競馬中継も配信してくれるかもしれない。この話は親友が喜ぶと思って引っ張って来たんだが……ここは一つ投資していかないか?』
なんと、これはまた嬉しい話だ。
ノーザークが俺のためになることを自発的にしてくれるなんて考えてもみなかった。
帰った後の楽しみが増えるかと思うと、今から心が弾むようだ。
「まじで?この依頼終わったら見積書回しといてほしい。今はちょっとCOAMに余裕がないけど3年以内には施工出来るように頑張るから!」
『……ははは、ならじっくり待たないといけないか』
「待たせて悪いね、親友」
『なるほど』
青が弾ける。
そのパルス爆発がアサルトアーマーによるものだと認識したのはスタッガーに陥った後だった。
ノーザークが反射的に盾を構えるのは視認できたが、俺は対応が遅れてしまった。
完璧な不意打ちで放たれたアサルトアーマーに次いで単発のミサイルが着弾し、大きく吹き飛ばされた。
『詐欺師どもの化かしあいか』
ジャマダハルのような武器を振りかざしてビタープロミスに襲いかかるのは、ダークレーズンに赤色の差し色が映える逆関節の機体。
『恨みはないが依頼なんでな
ここで果ててもらおう』
「独立傭兵コールドコール!アリーナランク10だ!」
AC『デッドスレッド』。
独立傭兵コールドコール。
裏社会の暗殺請負人が、俺達に牙を剥いていた。
ビタープロミスがアサルトアーマーを受けてオーバーヒートした盾を格納し、縦横無尽にレーザーの弾幕を浴びせかけるデッドスレッドに迎撃を行う。
しかし、至近距離で放たれれば回避が難しいはずの拡散バズーカは、一発も着弾せず避けられてしまっていた。
『親友、これは流石に!』
「老獪な……なんとかするぞ!」
スタッガーから復帰したポテイトーズで戦線に加わる。
しかしこれは、旗色が悪い。
2対1という数的有利はあるものの、圧倒的にコールドコールの立ち回りが上手すぎる。
初撃の奇襲で心理的に劣勢を印象づけさせ、焦りから生じた甘い弾幕を悠々と潜り抜き。
乱戦と化した戦場で同士討ちを誘うような立ち位置を徹底している。
ACで協働する戦闘経験の浅い俺達を、油断無く狩りにきている動きだ。
こうなればもう、多少無理をしてでもひっくり返すしかないだろう。
秘匿回線でノーザークに話しかける。
「親友、多少の誤射は気にするな。両手の火器で牽制し続けてくれ」
『わかっている。しかし、これは……』
「懸念事項か?」
『周囲が怪しい。親友の仕業かと思っていたが』
「俺じゃない。親友、そっちに対処してくれ」
『取り立て屋の方は?』
「こっちで対処しよう。そちらの対処が終わったら逃げて良い」
少し離れた場所に着地したデッドスレッドをブーストキックで蹴りつける。
逆関節は非常に高い跳躍力による機動力が強みの脚部だ。
弱点はいくつかあるが、その一つが着地の隙。
ブースターのQB噴射時間にもよるが、大なり小なり逆関節という脚部は着地時に隙ができるのだ。
ノーザークの方に跳ぼうとする隙を捉えて銃撃を加えると、ようやくこちらの相手をする気になってくれたらしい。
「弱いものいじめなんて酷いじゃないか殺し屋」
『なるほどな。これは背を見せるとこちらが殺されそうだ』
バックステップで距離を離すデッドスレッドに対して、こちらのポテイトーズも距離を詰めていく。
じわりと削られていくAPの数値は気分の良いものではない。
さっさとスタッガーさせて倒しきりたいものだが、相手もかなりの技巧者。
夜を裂くレーザーに紛れて着実にミサイルを放ってくる。
デッドスレッドは全武装が牽制用に近い機体だ。
しかし、爆発力の無い構成と侮るべからず。
動きの止まる隙を徹底的に廃した武装構成は、コールドコールの実力によって隙の無い蜘蛛の巣を思わせてくる。
しかしそれでも、俺とポテイトーズの敵ではない。
「そら、一回目だ」
ミサイルを放ち、即座に斜め前にクイックブーストしつつ銃撃する。
避けきるのが難しい擬似十字砲火によって、デッドスレッドはスタッガーに陥った。
即座にレーザースライサーに持ち替えて突撃するも、カウンターとして放たれたアサルトアーマーに押し止められる。
これは予見できていたので、アサルトアーマーの直後にパルスアーマーを展開して隙を消した。
『難しいか』
「……きっついなぁ!」
が、そこで状況が変わってしまった事に気がついた。
パルスアーマーは足が止まった隙に高誘導ミサイルが当たってすぐに消えた。
それは別に良い。
機体を揺らす衝撃を無視して更に猛攻を仕掛ける。
AP差ではこちらが僅かに劣勢であり、下手に手を緩めるとこちらが維持している距離が離されてしまう。
正直に言うと、ACの操作技術自体はこちらの方が上だ。
跳ねて吹かして着地する。
それだけの動作で、相手のFCSの偏差を騙してダメージトレードでは有利に立っている。
こちらのFCSが中距離に対応しているので、避けやすい距離を保っても銃撃が当てられることも有利の理由だ。
そもそも自分は回避が得意なのだ。
ACの操作技術の差で劣勢を押し返しつつあるのだが、パイロットとしての戦闘経験は向こうの方が上らしい。
徐々に、徐々にだが、交戦距離を離されつつある。
これは機動力の差だ。
こちらは相手の攻撃を避けながら相手を追うのに対し、相手は牽制しつつ後退していれば機動力で敗ける事は無い。
よしんばアサルトブーストで無理に距離を詰めようとしても、交差するように躱されてそのまま違う方向へ撤退されるだろう。
正面からの戦闘であれば、敗ける事は無い。
しかし、俺には完全に逃げに入った相手への追撃戦の経験が皆無だった。
『こちらノーザーク。対処が終わった。タンカーを狙う砲台を破壊した』
「こちら親友!無理、追いきれない!」
『最初から戦力の分断が狙いだったというわけか』
ノーザークが冷静に分析する。
おそらく、砲台はタンカーを攻撃させて、砲台とコールドコールの対処の為にこちらを分断させるのが目的だったのだろう。
悔しいが、相手の方が何枚か上手だった。
こうしている間にも、仕留めきれずに山岳地帯へと差し掛かってしまった。
地形が複雑になるこの場所では回避機動も制限されてしまう。
追撃は諦めるしか無いだろう。
『察するに、仕留め損ねて憤懣やるかたないと言ったところか』
煽るような愉快げな声が通信から響いてくる。
相手の目的はおそらくノーザークの暗殺だ。
コールドコールの実力であればノーザークは下準備無しでも暗殺できた事だろう。
しかし、それでも油断せず失敗した時の準備をしてきたというのは感服に値する。
完敗だ。
もはや弾幕を躱し続けて、逃げ去る相手を睨むことしかできなかった。
『可哀想に。たまには突撃以外も考えてみるんだ、な……!?』
『可哀想なご友人。後で慰めて差し上げましょう』
耳を劈くように響くチェーンソーの音。
続けてそれぞれから放たれたアサルトアーマー。
間違いない。
この特徴的な声は。
「ブルートゥ!遅かったじゃないか!」
『ご友人……踊り疲れたのですか?』
「まさか!まだまだいけるよな、ノーザァァァク!」
『まったく、私は一仕事終えたばかりなのだがね』
大ダメージを受けて体勢を整えるデッドスレッドの正面をミルクトゥースが塞ぎ、後退しようにもその位置には俺のポテイトーズが陣どっている。
続いてビタープロミスが到着し、包囲の構えが完成した。
まさかこのタイミングでオーネスト・ブルートゥの加勢が間に合うとは。
やはり俺は運が良いのかもしれない。
行き場を失ったコールドコールが観念したようにぼやく。
『……なるほどな。こういうこともある』
『まったく、運の悪い取り立て屋だ。それでどうする、消すのか?』
『花を手向けるのも悪くありませんが』
なるほど。
アサルトアーマーをやり返した後に、オーネスト・ブルートゥが拡散バズーカで追撃しなかったのはつまりそういう事なのだろう。
ここは起死回生の立役者であるご友人の案を採用しよう。
「なるほどな。よし、お前船に乗れ」
『……どういうことだ』
そういうことになった。
ベスティー・ナイトシェイド:そもそも近接機体は不得意。本来はこの世界では極めて高水準の回避能力と盾のガード精度による、近距離・中距離射撃戦を得意としている。現在のPotooooooooでの強さはNESTで言うDランクぐらい。コールドコールを取り逃がしかけた事を猛省してこの後めちゃくちゃ猛練習した。頭が馬鹿。
ノーザーク:弁舌と交渉における鬼才。戦場に向いていない性格にも関わらず、独立傭兵として頭角を現した類稀なガッツを併せ持つ。借金を踏み倒す狂った価値観さえなければ極めて有能な人物。前科あり信用マイナスの圧倒的不利な状況からBAWSを説き伏せて輸送船とACの整備設備を調達してきた。親友を連帯保証人にしようと画策している。
コールドコール:企業の暗部を渡り歩く凄腕の暗殺請負人。ACを操る独立傭兵としても優れた技量を誇っている。ノーザークの暗殺依頼を受けて居場所を特定するまで約半日。ランキング圏外の知人と出港寸前との情報を得て、最低限の準備だけを行い奇襲をかけた。交戦初手でBAWSの旧型機使いが実力者と見抜き撤退を決断。オーネスト・ブルートゥによる奇襲さえ無ければ夜闇に紛れて追撃を振り切っていた。交戦距離の管理と地形把握能力が極めて高く、その上戦況を見誤らない古強者。
オーネスト・ブルートゥ:謎多き怪人物。今回の騒動の元凶でもある。将来的にコールドコールが脅威になると判断し、先制して封じ込める為に手を打った。ノーザークの情報をコールドコールが贔屓にしている情報屋に流したのはこの男の仕業。他の誰にも悟らせることなく証拠を隠滅してきた為、戦闘には少々出遅れたものの美味しいところを持っていった。