最弱の国の隠れた名将に 作:韓人
全話の短さを帳消しにして、大体一話6000文字ぐらいでまとめたい。
この時代に生まれなおしたことに気づいたのは、多分一歳を過ぎる頃だったと思う。
確か壁から手を離して歩いているときにすっ転んで、頭を強打した反動で記憶が戻ったような覚えがある。
いわゆる転生、というやつだ。
それも“神様転生”という類のそれだ。
前世での死後、確かに真っ白な空間で、ちょっと抜けていそうな女神様と話した覚えがある。
ついでに転生する直前、遠くから「あ、あわ、ああ! あひゃああああ!?」とか悲鳴が聞こえた気がしたが……気の所為だと忘れることにしたのは懐かしい思い出だ。
まあすぐにそうとは言っていられなくなってしまったのだが。
神様転生、という言葉で分かる通り、前世死んだ俺は今世での転生先とか能力とかを選ぶことが出来た。
そこで選んだのが、『キングダム』という漫画の世界だ。
キングダムの世界を選んだ理由はいくつかある。
まず単純にキングダムという漫画の世界観が好きだったこと。
そして、現代人としては少し奇特な考えかもしれないが、国家のために戦う武人という存在に憧れたこと。
更に、現実での古代の戦争とは違って、漫画やアニメにあるように、将軍が軍の先頭で矛を振るって突撃するような世界観であること。
そういうキングダム流の軍や将軍のあり方と、俺のそもそもの思想と、その他色んな要素が絡み合った結果、キングダムという世界に転生しようと女神に頼んだのである。
その中でも何がしたいのか、という話だが。
俺は秦というせっかく出来上がった国をすぐに崩壊するようなことはさせたくなかった。
史実の始皇帝は、相当に傲慢で残酷な人物だったらしい。
史記なんて細かく読んでいないのでらしい程度だが、少なくともキングダム原作における政とは全く異なる人物だったのはわかる。
そんな政が作り上げた国が、わずか十数年で崩壊してしまうのがもったいないと思う。
それで世界がより良くなるかはわからないし、もしかしたら史実以上の戦乱の嵐が起こるかもしれない。
それでも、せっかく生き直すのだから、俺の人生も歴史の流れも、史実とは別物にしてみたい。
そう思ったわけだ。
だから俺も転生して、できれば将軍として活躍して秦の中華統一の支えとなりたい、なんて妄想しながら。
「キングダムの秦に転生したい、そして身分はそれなりに高い家がいい」という、ガバガバにも程がある願いを女神に伝えたわけであるが。
転生して数ヶ月かけて記憶を整理しながら恐ろしいことに気づいた。
ちなみに数ヶ月も記憶の整理にかかったのは、まだ幼い体が前世の思考回路に耐えられず、長時間の思考が困難だったからだ。
ついでに体に引っ張られるように自然と思考も退行し、比較的普通の子供のような振る舞いをしていたと思う。
せっかく願いをもってキングダムの世界に転生したのに、その願いの元になったストーリーが吹っ飛んでしまったのだから、当然驚きもしたし焦りもする。
そして更に衝撃的だったのは、俺が生まれた国が秦ではなかったことである。
そう、
この時点でもう察するものがあった。
あ、あのポンコツ女神やらかしたな、と。
会話しているときから若干怪しい気配は感じていたのだ。
そして別れ際に聞こえた悲鳴。
多分何らかの手違いで、俺の転生先や原作に関する記憶がほとんど消されてしまったのだろう。
まあ原作の記憶については、年を経るごとにほんの少しずつだが思い出してはいるのだが。
惜しむらくは、原作の記憶が早期に戻らなかったために、青田買いで集められそうだった原作の有能な人物達を集めることが出来無かったことだろうか。
ギリギリ一人だけ大駒を拾い上げることが出来たのが、唯一の救いだ。
時系列的にはもう原作は始まってしまっている。
俺の放っている諜報網が、秦王都咸陽で起こった騒動とそこに参戦した山の民の動き、そして先日の魏と秦の蛇甘平原の戦いについての情報を既に持って帰っている。
とはいえ、今の俺には転生時に願った『秦の中華統一を助けたい』なんて思いはもはやない。
単純な話で、今の俺が、秦とは違う国で生まれ、そこで生き、その国に忠を誓っているからだ。
俺は、自分の仕えると決めた相手に忠を尽くす。
それが今の俺の生き様だ。
それに、この国で生き、自分の配下達と民達と多くを成し遂げ発展させてきた。
今更それを侵略者共にくれてやるなどと、認められようはずがない。
故に俺は、自らの領土と国家のために戦う。
そんな俺の今生の生まれは、戦国七雄最弱の一国、韓である。
******
南方の楚との国境線での戦いの後、数日をかけて領土に戻った俺たちは、民からの大きな歓声を浴びていた。
「藍章様の軍が帰ってきたぞ!」
「楚の大軍勢を木っ端微塵にしたそうだ!」
「さすがは我らが城主様だ!」
「「「ワァァァァ!!」」」
城の中だけでなく、入る前から大勢の民が詰めかけて、噂話をしては歓声を挙げている。
この時代には娯楽が多くないから、こうやって軍を見て皆で騒いだりするのが数少ない娯楽の一つになっていたりするのだ。
もちろんそれだけでなく、俺とその軍が慕われているというのも、民が集まっている理由である。
「あ、岳陵様もいらっしゃるぞ!」
「なんとお美しい……」
「紫詠様はいらっしゃらないのか?」
「紫詠様は今回は守りに残られたんだ。お前知らなかったのか?」
「番香様だ! あの力強い筋肉! 男なら憧れるぜ!」
「田楽様こそ、猛将の中の猛将よ! あの突撃を受けられる敵はいないだろうぜ!」
「くー、やっぱかっこいいなあ!!」
俺だけでなく、部下たちもそれぞれに民からの歓声を浴びている。
俺たちは前線にずっと出張るのではなく、忙しい中でも民とのつながりを大切にしているので、その分民達にも慕われているのだ。
「がはははは! この田楽、また敵将を討ち取ったぞお! 大将首は岳陵に取られたがなあ!」
「自慢することじゃないな」
「岳陵、お前も手ぐらい振ってやらんか」
「そうですね、せっかくですから」
それに兵や将達も、手を振ったり武器を掲げたりと嬉しそうに歓声に答えている。
民に慕われて嬉しくない者などいない。
更に俺の領土では、将だけでなく全ての兵たちまでもが民の信頼を集めている。
道中で大部分は分離してそれぞれの城や村へと帰っていったが、彼らもまたそれぞれの村や城で歓迎を受けているだろう。
兵士は戦に出ることで民の尊敬を集め、更に彼らを見て憧れた子どもたちが兵士を志したりもする。
そうやって俺の領土では、多くの兵が集まる環境ができあがっている。
「田楽、今日は一旦集まるからすぐに遊びに行くなよ」
「わかっておりますとも。女と遊ぶときは余裕を持たなければなりませんからな」
「いや……まあ良いか」
田楽の言葉に思わず力が抜ける。
確かにそうなんだが、俺の側近ならば連絡事項とか会議とかそっちを優先して欲しいものだ。
いやまあ配下の中にも政に適正があるやつと無いやつがいるのはわかっているんだが。
それでも軍でも会議ぐらいはやるからな?
「城主に呆れられるとは、お前も終わりだな」
「なにぃ!? あいや城主、そういうわけではありませんぞ!」
「どういうわけだよ」
まあなんというか、いくらか抜けている豪快な男、というのが田楽だ。
それ故に、同僚や俺から時折こうやっていじられることもあるが、けして仲が悪いわけではない。
そうやって歩いていると、進行方向から馬に乗った少数の一団がやってきた。
完全に行進とかち合う形になるが、特に警戒する必要はない。
領土の守りに残していた者が出迎えに来てくれただけだ。
「お帰りなさいませ、藍章様」
出迎えの一団は、俺の前で足を止めると拱手とともに頭を下げる。
その中でも先頭の、大柄で鋭い目と整った顔をした男が、留守を任せた将である。
「出迎えご苦労、紫詠」
彼の名前は紫詠。
キングダムの原作を読んでいる人ならば、《魏火龍七師 槍の紫伯》と言った方がわかりやすいだろうか。
紫伯というのは代々引き継ぐ家の名なので、彼はそれを継がなかった結果紫詠なのだ。
彼こそが、俺が原作キャラの中で狙って拾い上げることが出来た唯一の大駒である。
彼は原作では魏国の大将軍で、槍を使うものでその名を知らない者はいないと言われる程の槍の腕と知略を併せ持つ、魏の顔となる将軍の一人だった。
ただ他の魏火龍七師と問題を起こして殺し合いとなり、結果当時の魏王に幽閉されることとなってしまう、というのが彼の原作での経歴だ。
それを思い出した俺は、早い段階で彼に声をかけ、彼が大切にする妹ごと俺の領土に引っ張ってきたのだ。
原作では彼と妹は不幸な別れとなり、それによって紫詠も闇に沈んでしまうのだが、俺が引っ張ってきたことでそんな経歴をたどることもなく、俺のもとで純粋に将としての実力と恐ろしいほどの槍の冴えに加えて、軍略家に近いレベルで戦略を読む能力を手にしているのが、今の紫詠だ。
ちなみに何故か魏火龍七師は別で揉め事でもやったのか、この間麃公に討たれた呉慶を除いて全員死んでいる。
多分幽閉されているんだろう。
それほどの能力を紫詠は持っているために、俺が戦や王都への招聘で領土を離れる場合には、彼に俺の代理を任せて領土を守ってもらっている。
今回もそんな理由で紫詠が留守番役を務めてくれていたのだ。
逆に彼を派遣して、俺が城に残るようなことも当然あるが。
「紫詠様、お久しぶりです」
「岳陵か。敵大将を討ったと聞いた。見事だ」
「ありがたきお言葉。これも紫詠様の教えのおかげです」
「俺は何も教えていない。お前が自ら見て学んだだけだろう」
そして紫詠は、今回の楚との戦で敵総大将を討ち取った岳陵の槍の師である。
といっても時折手合わせをしたり、紫詠の鍛錬の見学を許した程度で、教えるという程には教えてはいないらしいのだが。
普通に考えて原作の紫伯の十年以上のブランクありでのあの強さを見たら、大紫詠と小紫詠が揃ってるようなうちの軍は反則だと思う。
「よし、行進はこれぐらいで良いだろう。では解散する! 兵達は皆休んでくれ。各将も休みたいだろうが、先に現状確認の軍議を行う故、軽く休んだら夜までには中央の城に集まってくれ」
「「「ははっ」」」
その後ただ屋敷を目指すのではなく、ある程度都市の中を練り歩く。
これは、民に自分たちを統治するものの存在や軍への信頼を集めるためだ。
ついでに民の慰撫と兵士たちの労いも当然含んでいる。
それをある程度のところで切り上げる指示を出したあとは、軍を解散するための後始末をする。
それらが終わってようやく城に戻った俺は、馬は城の者にあずけて、鎧を着たままここまで手伝ってくれた紫詠とともに城の廊下を歩く。
「留守居役の任、ご苦労だった。ひとまず俺は湯浴みと着替えを済ませてくるが、何か緊急の報告があれば先に聞こう」
「はっ……。つい昨日ですが、王都より藍章様に招聘の連絡がありました。休んだ後で良いので新鄭まで来るように、と」
「一年ぐらい休んでやろうか」
俺の言葉に紫詠が困ったような表情をする。
原作のあの冷たい表情から比べて、随分表情豊かで良いことです。
さておき、俺がこう言いたくなるのも紫詠にもわかっているはずだ。
あまりにも、戦をふられる回数が多い!
その上更に中央に招聘されたりしてたら自分のところの統治もままならん。
いやまあ軍も領土の政も俺がいなくてもやっていけるような組織を作り上げたので、いなくても困らんと言えば困らんのだけども。
「というかなんだ? 成恢や洛亜完は寝ているのか?」
「いえ、そのようなことはないかと。ですが確かに、少々我らの負荷が多いようには思えます」
なお、俺たちが結構戦い続けても未だに韓の英雄は成恢と洛亜完である。
これは俺たちの情報が外に出回らないようにと韓本営が気を回してくれているからだ。
この中華では力が無いと飲み込まれるが、力をつけて目立ってしまうと目をつけられて損をする。
一番良いのは、一切目立たないままに将と軍を育て上げて、隠れた地方の名将になることだ。
それこそ原作だと趙に二つぐらいそんな城があったのと、後は楚の、名前が思い出せないが大将軍級が二、三人いた城がそんな感じ、のはずだ。
まだうろ覚え程度にしか思い出せていないが。
実際俺もこれを目指していたが、流石に中央から目をつけられてここ数年は戦が絶えない。
それでも他国にも国内にも隠してもらっているのはありがたいことだ。
まあ地方に領土を持ってるやつが、将軍とはいえ軍を揃えたり私兵を抱えたりしていると警戒するよな。
一応許可は取ったんだけども、だからといって放置してもらえるというわけではないのだ。
「お前に言ってもしょうがないことだったな、済まない」
「いえ、私も同じように思っていましたから」
「そう言ってくれると助かる」
紫詠は俺がもう一人の俺になるように色々と仕込みをしたお陰で、ただ一軍の将だけでなく文官としても軍略家としての能力も高く身につけている。
故に、国家全体や中央におけるこの領土と俺達の扱いについてもある程度気がついている部分があった。
「他には何かあるか?」
「魏と趙の間で戦が始まったようです。魯南近辺の戦ですので、中央でも対応を考えているようです。場合によってはこちらに飛び火する可能性もあります」
「そうか……。それについては後の軍議で話し合おう」
「はっ。緊急の報告は以上です。他には農業研究の成果と軍略研究所からの報告が上がっていますので、後ほど確認をお願いします」
「わかった。それと、両方明日顔を出そう。では、俺は湯浴みに行ってくる」
「はっ」
紫詠に見送られて、城に用意した大浴場に向かう。
取り敢えず夜に将達が集まるまでに、湯浴みをして一休みしながら書簡に目を通して……。
そして次は魏と趙の戦か。
中華では大概どっかしらで戦が起こっているので、特に気を配るという程のものではない。
双方名のある将が動いているならその報があるだろうし、無いのならばそこまで気にする必要はない。
かと言って戦から目を離していいわけでもなく、この中華の絶妙な力関係においてはどこかで起こった戦が全く離れた場所で起こる次の戦に繋がっていたりもする。
故に注目しすぎず注目するとかいう面倒くさいことをしなければならないわけだ。
しかも今回の戦の場所は魯南。
ちょうど韓から真東の位置にある場所で、普通に魏や趙の王都よりも韓の方が近い土地だ。
弱小のうちが打って出るような判断を下すことはそう無いとは思うが、中央にも目を配っておかなければならないだろうし、あるいはそこで領地を奪い取りそこねた魏が反転してこっちを殴ってくる可能性もある。
まあ魏と趙は秦の進出の盾にうちを使ってるくさいので、そうそう大きく攻め込んでは来ないだろうが。
来てもせいぜいちょっと削りに来る程度だろう。
「はあ……弱い国で上にへいこらしながら色々やるのは……苦労するな」
取り敢えず今は湯浴み、そして軍議だ。
さっさと風呂に入ってきてしまおう。
******
湯船につかりながら、今の中華の状況をざっと思い返す。
ついでに原作の記憶についても、思い出している重要そうな部分についての確認だ。
それ以外については、断片的に思い出していてもそれが韓にとってどういう意味を持つか今では判断出来ないものが多いので保留だ。
一応史実ベースの作品だったから、秦の嬴政が中華を統一するところまでは既定路線のはずなので秦を特に注視してはいる。
「まず……きつめの将軍の居場所か」
原作知識だけでなく、この中華で行っている情報収集で集めた情報も参考にする。
まずは秦。
ここは六大将軍がほとんど死亡し、残っているのは“怪鳥”王騎のみ。
そしてその他だと、大将軍に麃公、張唐、蒙驁がいる。
この中だと魏火龍の呉慶を討ち取った麃公が頭ひとつ抜けるだろうか。
ただ調べた限りだと、魏火龍はどうも秦六大将軍に趙三大天と比較すると、一枚落ちるような連中が多い気がした。
知将猛将の違いなどではなく、残した戦果が妙に薄味なのだ。
六大将軍や三大天ならもっとごっそり行ってそうだな、と思う場面でも魏火龍の大半が圧倒的ではない。
警戒しないといけないのは、圧倒的武力を誇った凱孟と軍師霊鳳ぐらいか。
呉慶もここに割り込む程度には出来ただろうが、かと言って王騎廉頗と真っ向からやり合えるかと言われると疑問が残る。
まあ王騎は六大将軍の中でも上澄みだろうし廉頗は三大天という少数の枠を射止めているので、七人になる魏火龍が相当しないのは当然かもしれないが。
他の魏火龍は言い方は悪いかもしれないが、張唐蒙驁以上でも六大将軍には及ばないだろう。
もちろん推測だけで実際に侮ることはしないが。
さておき、その魏火龍の呉慶を討ったからといって、麃公が圧倒的な実力を持つかというと疑問符がつく、ということだ。
しかも相手が不得手な一騎討ちに出たがために討ち取れたが、撤退されていればそうはなっていない。
更に今回の秦・魏の戦いでは、結局秦は予定通りに攻め込むことが出来てはいないので、呉慶が討ち取られていなければむしろ秦の負けまであった戦だった。
一方で気になるのが蒙驁だ。
うろ覚えなのだが、確かかなり後の方で中華に名を響かせる将軍たちが秦から出てきたように思う。
蒙驁の息子の蒙武は既にある程度響かせているが、それとは別に蒙驁の下に何かいなかっただろうか、と思って間者を放ったら、やはり居た。
蒙驁の副将を務める王翦と桓騎だ。
この二人が蒙驁よりも遥かに強い。
取り敢えずまだ諜報を行わせているが、どこまで探れるかは不明だ。
多分原作に出ていると思うので、はやく記憶が戻って欲しい。
けど傾向的には時系列過ぎないとはっきり思い出せないっぽいんだよな。
これからも原作知識は頼りにならないものとして見るにとどめておこう。
しかもこの二将は蒙驁の傘の下に入っているせいで、その実力が定かにならないのも困りものである。
うまいこと蒙驁が隠してしまっているのだ。
そうでもなければとっくの昔に名が知れ渡っている。
やっぱ隠れた名将が最強だわ。
秦は大体こんなもの……いやまあ主人公達がいる国なのでこれ以外にも若者がバンバン成長してきたりするのだろうが。
そこまで行くともう知らん。
後は諜報が情報集めてくるのを待つばかりだ。
取り敢えず主人公の国らしく、強い将軍がたくさんいる警戒すべき相手だ。
次はお隣の魏国だが……魏火龍七師が全滅した今、魏にまともに強い将軍がいない。
いや、調べた限り強くなりそうな将軍はいるのだが、顔になるレベルの将軍がいないのだ。
それこそチラチラと名前が出るところでは、“光華狼”の龍范に“知”の呉鳳明などがいるが……これは俺が魏に対して綿密に諜報を行っているからで、とても中華に名が響いているような将軍達ではない。
まあ龍范はちょっと見た目があれなので割と目立っているが。
なんだ金ピカって戦場舐めてんのか。
まあ赤備えの親戚みたいなものだろうが。
取り敢えず魏は、今後も注視だがひとまず警戒は下げていいレベルだ。
そして次に趙。
趙については領土の奪い合いで間に魏が入ったり入らなかったりするので魏ほど警戒するわけではないが、それでも一応隣国、になる場合もある国だ。
そんな趙の将軍と言えば、やはり趙三大天の唯一の生き残り、大将軍廉頗──
と思いきやなんと廉頗将軍、数ヶ月前に急に魏に亡命した。
そう、今魏に大した将がいないと言ったが、大将軍廉頗が亡命してきているのである。
どうもはっきりしないが、廉頗を疎ましく思った趙王が廉頗から地位を剥奪しようとして、廉頗がそれに逆らって趙の軍隊を打ち破って逃げたとか。
趙王ポンコツかよ、というかそんな大物相手にするならちゃんと反抗出来ないように軍と引き離してから軟禁なりなんなりしろよ。
即位した瞬間にプッチンして即更迭とか、悪いことするならするでもう少し賢くやってくれ。
そもそも廉頗を追い出すというのが信じられない。
俺なら喉から手が出るほどに欲しい。
実際廉頗が亡命してすぐに本営には進言したが、まあ通らなかった。
他所の大将軍だし、そう簡単に受け入れられはしないということだ。
さておき、亡命した廉頗によって魏には有力な将が一人増えた。
しかしどうも魏王は廉頗を受け入れはしたものの歓迎はしていない、だから廉頗が戦に出てくることはない、という噂だ。
まさかそんなわけがない。
全ての王が趙王のように暗愚だと思っては困る。
少なくとも魏王は秦王嬴政のような信念や楚の考烈王のような政治的剛腕は持たないものの、理性的に国のための判断が出来る人物だ。
そんな魏王が手元に廉頗という大駒を得たとしたら。
いざというときには躊躇わず使うだろう。
むしろ廉頗と魏王の不仲の噂は、他国に警戒させないためのものかもしれない、とすら俺は思っている。
魏に大駒が無いと甘く見て対面に廉頗が出てきたとしたら……まあ俺は存分に楽しませてもらうが、成恢や洛亜完でも普通に無理なんじゃなかろうか。
廉頗の将校らも一緒に亡命しているらしいし。
実際廉頗の魏への亡命を聞いて、うちの国は一気に魏の国境線を警戒した。
そのつけが俺たちに回ってきた結果が、楚国境線での長丁場だったが。
結局廉頗が出てこない上に不仲の噂が流れているのであっちの警戒は弱めたらしい。
そういうわけで、魏は大駒を得て、趙は大駒を失った。
ではそんな趙の将軍はどんな状態かというと、これがまた、魏と同様にことごとく大駒を失っている。
直近で言えば廉頗を失った上に、その廉頗を討伐しようとしたこちらも大将軍の楽乗は負けて以降軍を辞してどこかへ消えてしまった。
これで趙は完全に三大天を全て失ったことになる。
他に中華に名だたる将軍と言えば、先日燕との国境線から邯鄲に呼び戻された大将軍の扈輒がいる。
が、燕との国境から邯鄲に移したことを見ても入ってくる情報から見ても、これは暗愚な悼襄王が自分の守りに置いたからだろう。
故にそうそううって出てくることは無いはずだ。
他にも一応“守備”の李白など何人か名が知れた将軍はいるが、大軍を率いるレベルにも、大将軍級に対抗出来るレベルにもない。
むしろ俺が気にしているのは、趙の北部雁門を守っている李牧と馬南慈という将軍だ。
俺は少々つてがあって匈奴とも定期的に交流をしているのだが、その中で、「雁門の李牧がとんでもなく強い」、「李牧が恐ろしい策を使う」、「“鬼人”馬南慈に将が討たれた」、とそんな報告がここ数年ずっと届いている。
実際俺も中華の外まで見に行ったことがあるが、騎馬民族という連中の激しさは中華の軍よりも更に上だ。
それから中華を一手に守る雁門の将が弱いはずもない。
更に李牧という男が天才だったなら、そこに雁門での数多の経験が重なってとんでもないことになっているはずだ。
故に俺が今一番警戒しているのはこの李牧だったりする。
他の大物達は中華に名が知れているのに対して、李牧、馬南慈などは騎馬民族の相手をしているので中華に名が知れない。
そのため情報が集められないのだ。
そのくせして中華の軍よりことによっては強い騎馬民族をずっと相手にしているので、本人らもその軍も配下も全部とんでもない程に練り上げられている可能性がある。
俺の理想とする隠れた名将の到達点のような存在と言ってもいいだろう。
実際民としては絶対に嫌だろうが、強い軍強い将を育てることを求める俺からしてみれば、常に攻め寄せる相手というのは格好の相手だ。
他で言えば秦南西部の夜郎とか楚の南部の南越とかも気になるが、やはり一番は騎馬民族だ。
あとついでに言うと、どうも李牧とか原作に出てきたような気がする。
思い出せないから断言は出来ないけど。
とはいえ趙は、雁門を緩くしてしまうと騎馬民族にとんでもない目に合わされる可能性もある。
だからいくら強いとはいえ、そうそう雁門の将軍達が中央に出張ってくることはないだろう。
取り敢えず趙はそんな感じか。
魏と違って極めて有力な将はいるものの、趙の状況を考えると攻めに出てくることはそう無いだろう。
次に楚。
韓も接する超大国で、実のところは一番の敵だ。
そも韓というのは中華の要所に存在する。
故に抑えれば強いが、逆にそこを韓が抑えていることで、他の国が大きく動けずに膠着状態が生み出されているとも言える。
故に、趙と魏はちょっかいをかけてくることは多々あれど、大きく攻め滅ぼそうとしてくることは基本的に無い。
秦や楚に対する盾として韓を使っているわけだ。
場合によっては、韓に援軍を送ってくれることすらある。
一方ガッツリ攻めてくる危険があるのが、南の大国楚と西の雄である秦なのだ。
さておき楚だが、その実力というのは、まあ多くが明らかになっているわけではない。
これは仕方の無い話で、楚がそもそもでかすぎるのである。
これはどういうことかというと、どの国も楚相手に下手に攻め込めないし、逆に楚も下手に何処かに注力すると他の国々から殴られるので攻め込めない。
結果、楚が大きな戦をすることが基本的にないのである。
更に言えば、韓、魏、趙と西から順に国境線を接する地域に至っては、一つの国に侵攻したところで他の二国に挟まれた守りづらい土地が少し手に入るだけになってしまう。
それでも韓が弱いと見て何度も領土を掠め取りに来るのだから、こっちとしては大歓迎(意味深)をさせてもらっているが。
そんな大国である楚なので、その実態、全体像を捉えられている国は存在しないだろう。
名のある大将軍ぐらいは知れているだろうが、それ以外にどんな将を抱えているのか、軍を抱えているのか、判明していないことが多すぎる。
でかい分一つの戦に本気を出す必要も無いし、あの広大な国土にどれほどの強者が潜んでいるか。
わかったものではない。
が、取り敢えずわかっている大物を上げるならば、楚の“大翼”項燕大将軍に、汗明大将軍。
後は媧燐大将軍も、戦果は定かではないが名が上がっている。
取り敢えず仮面をして戦線を巡っていた頃汗明とやり合ったことはあるが、あれはまあ強い。
大将軍たるやこれぐらいでなければ、という感じだ。
聞いているか成恢。
とはいえ、少しやり合ったが決着はつかなかった。
まあ負ける気もしないが、容易く仕留められるとも思えない。
小手調べ程度の侵攻だったようだし、あれが本気で攻めてくれば少々厄介なことになるだろう。
ただ軍自体の戦い方は大分大味だった。
数が多いのに任せての正面衝突一辺倒。
楚ならそれでも良いかもしれないが、もうちょっとそっちの骨が無いと戦っても面白くないので、次までには改善していてほしい。
取り敢えず楚はこんな感じだ。
とにかく数が多く、そのために質も担保されている、という印象がある。
一番恐ろしい国ではあるが、同時に中華の状況的に一箇所に集中して攻め込むことは無いだろうという安心感もある。
まあ全力で殴られたら韓なんか秒で吹っ飛ぶという確信もあるが。
いくら俺が将を育てて兵を調練しても頭数が圧倒的に足りん。
もしそうやって全力の楚を防ぎきったとしても、その後には復興するための人員すらいない死に体の韓が残るだけだ。
続いては斉……だが本当にわからないので飛ばす。
距離が離れている上に、大きな戦をあんまりやらないのでこの将が、というのがわからないのだ。
取り敢えず名うての将軍としては、岩茂、顔聚、田赫といった将の名前が上がっているぐらいだ。
そして最後に燕。
取り敢えずここは、救国の英雄劇辛大将軍が一番に警戒する将だ。
あの軍神楽毅とともに斉に侵略されていた土地を取り返したどころか逆に斉を滅亡寸前まで追い込んだ大将軍で、その実力は相当に確かである。
更に楽毅とともにいたのだから、その戦役の知を引き継いでもいるだろう。
俺がもっと生まれた時代が早ければ、楽毅の戦とか全部手の者に見に行かせて記録を取らせたんだがな……。
さておき、燕の最大の敵は目下趙である。
その趙と戦っているのが、先程の劇辛大将軍と、オルドという名の大将軍だ。
このオルドがまたよくわからない将軍で、なんなら匈奴からの連絡で、燕北方の山岳地でオルドと戦った、という内容も多く見かける。
これが同一人物なのかなんなのか。
しかしそうなると、燕のオルド大将軍は山の民を従えている可能性があり、なかなかに侮れない。
他にも秦の咸陽での騒動時に山の民が訪れていたという話も在るし、実際原作で嬴政が山の民と手を結んでいる。
それを考えると、オルドが山の民を従えて戦力としていてもおかしな話ではない。
あるいは、オルド本人が山の民出身か、だが。
ぶっちゃけ山の民より匈奴を手懐ける国が出るほうが俺は怖いが、流石に扱いきれないのだろう。
まあ正直燕、斉はちょっと遠い国の話だ。
趙や楚を圧迫してくれるかどうか、ぐらいにしか見ていない。
取り敢えずこれが今の中華で警戒するべき大駒達だ。
……戦争に生きる類の人間としては好ましい限りだが、民を統治する領主としてはもう状況がきつすぎて萎えそうだ。
なんでこんな国残しているのか、大人しくどっかに併合されちまおうぜ、とも思うが、この時代併合されると碌なことが無いのはわかりきっている。
だから結局なんとしてでも守りきらなければならないのだ。
俺はそれを軍と商いの道に求め、本営は中華のパワーバランスを舞台にした他国との駆け引きに求めている。
それぞれがそれぞれに頑張っているわけだ。
原作知識についても確認したかったが、長風呂になってしまっているのでもう上がることにしよう。
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原作戦力大きく崩したくないな、と思った結果主人公回りはほとんどオリキャラになりそうです。