最弱の国の隠れた名将に   作:韓人

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ここから数話は内政お呼び国政パート。
8か9話で蒙驁軍の韓侵攻の話になっていきます。




「世界の軍事的天才を集めてみないか」

https://lavender.5ch.net/test/read.cgi/whis/1675849684?v=pc


こちらのスレが非常に面白いです。
本作が好きな方は是非読んで頂きたいです。

内容としては、アレキサンダー大王やチンギス・ハンなど、歴史上最強の将軍達を、とんでもなく詳しいスレ主が解説したり、他の人のツッコミに豊富な知識で答える内容です。

普通に「そんな凄い将軍達がおるんか! やべーかっけえ!」
となったので皆さんも是非どうぞ。


第4話 農業研究所

《藍章視点》

 

「領主様!」

「領主様だ!」

「おーう、元気にしてるかお前ら」

 

 農作業をしていた農民達の声に答えて、俺は手を上げる。

 帰城から開けて翌日、朝から政務を文官達に押し付けた俺は、城を出て近くの小さな城邑へとやってきていた。

 俺の育てた文官たちは優秀なので、大きなことをやる場合を除けば俺のやるべきことは一部の政務の最終確認と認可ぐらいなのだ。

 

「領主様、トウキビが無事に育ってますぜ!」

「本当か!? いやあ、育ってくれるのはありがたいな。そのまま種子をつけられるまで世話してくれ」

「もちろんです!」

 

 中央からの招聘もかかっているが、休んでからで良いと言っている以上は急ぎの用事ではないだろう。

 どっかが攻めてきたとかそういう話ならば、大至急と言ってくるはずだ。

 ならばしばらく戦に出ずっぱりだったわけだし、少しぐらいは待たせてやってもバチは当たるまい。

 

 今日やってきたのは、昨日言った通りに農業関連の研究をやっている城邑だ。

 規模も他の小さな城邑と比べても更に小さく、中には農業や研究に従事する者たちや兵士の住まいと、研究、製造、保管のための設備しか置いていない。

 城邑とは言うものの一つの大きな農業研究のための施設であり、仮に敵襲があった場合には戦うのではなく閉じこもって守りが来るまで耐えるような作りになっている場所だ。

 

 とはいえ農業に関する研究のために、俺が本拠とする中梁のすぐ近くに新しく作った場所なので、急に敵襲を受けるようなこともそうない。

 場合によっては全員揃って物資も含めて中梁まで避難する計画も練ってある。 

 

 それほどに厳重な守りがおかれている場所なのは、ここが俺の領地改革と発展の一つの要になっているからだ。

 

 この城邑の外に広がる農地では基本的に、既存の作物をよりたくさん育てるための方法や道具の実験、品種改良の研究だったり、俺が他所から集めてきた新しい作物を育てる方法や活用する方法の研究だったりをしてもらっている。

 

 例を挙げるならば、前者は小麦や稲、その他穀物の品種改良、後は養蜂技術の研究なんかを。

 後者は、こんにゃく芋や里芋、他にもじゃがいもに近いイモ類に、サトウキビや小豆の栽培実験なんかに、まだ野生の要素が強い野菜の品種改良の研究が該当するだろうか。

 他にも少し離れた森に作った果樹園では果物の品種改良なんかもやってもらっているが、こっちは十年以上かかってようやく成果が出るか出ないかという気の長い話になっている。

 

 中華の歴史は長く、多くの作物が何百年も前から作り続けられている。

 とはいえやはり現代と比べると、どこか非効率的であったりまだ価値が見出されていない食べ物があったり。

 特に葉野菜根菜系統のやつらは、穀物と違って栽培するという考えが薄いのかそもそも野生種が栽培しづらいのか、あまり大々的に扱われてはいない。

 まあそもそもこの時代餓死する人がそれなりに出る時代だし、目の前の飯のために穀物を育てるのが優先といえば優先なのだけども。

 

 そんなところに、俺は色々と前世知識で知っていることもあって手をつけて、研究をやってもらっているわけである。

 特にそもそも韓で見つからない種とかもあって、そういうのはうちの領土で育った商人を送り出して各地から集めたり、場合によっては中華の外に人を送って持って帰ってもらったりしている。

 

 サトウキビを東南アジアから持って帰ってくれたときは跳んで喜びそうになったし、この時代には原型すら存在しないはずのシルクロードの経路で地中海沿岸まで到達した人が白菜の原型っぽいやつの種を持って帰ってくれたときは声を出して喜んだ。

 他にも玉ねぎとか人参とか、現代では欠かせない野菜の原型種らしきものも中華の外から集めてきてもらったので、その種を使って栽培と品種改良の研究をやっていたりもする。

 

 他にもそんな植物を様々育ててみたり育て方の研究をしたりして、俺の領土の発展に大きく寄与してくれているのがこの城邑だ。

 おかげでうちの農民達は穀物以外にも野菜もそれなりに育てていて、健康的な生活になったりしている。

 後は山羊、こいつも西アジアか中央アジアあたりから連れて帰ってくれたので、いくらか繁殖させている最中だ。

 

 加えて、ここでは農民から文官、兵士まで多種様々な身分の者たちが入り混じって働いていて、身分の異なる者たちの交流をある程度深めさせるためのロールモデルのような形にもなってくれている。

 

 さて、そんな大切な場所を俺が今日訪問してきたのは、時折余裕があるときに訪問するようにしていたというのもあるが、昨日読んだ報告書に驚くべき内容が書いてあったからだ。

 

「ようこそいらっしゃいました、藍章様」

「苦労をかけるな反泊(はんはく)。ついにあれが出来たと聞いて、待てずに来てしまった。それに現場でどう作っているのかも見たかったしな」

「ははっ、ここにいる者たちは皆、藍章様がそういう御方だとわかっておりますとも。まだ子供の時分から、随分といろいろなことに気づかれる方でしたからな」

「昔の話はよしてくれよ」

 

 ここの責任役を任せている反泊は、俺が本当にまだ戦に出たことも無いような子供の頃から、色々な農業関係の研究や実験をしたがる俺に付き合ってくれた男だ。

 そのため子供の頃の俺の様子を微笑ましげに語られたりして、俺としては若干気恥ずかしかったりもするが、この場所を任せられるのは本当に彼をおいて他にいない、と言えるほどの知識と柔軟さを兼ね備えた人材だ。

 

「藍章様の子供の頃の話ならば、私も聞きたいな」

「ほっほ、では中で──」

「後にせい! というか、紫詠、お前そういうの好きだなほんと!」

 

 普段は為政者然として振る舞っており、気が知れた者たちの前でも貫禄のある話し方が自然と出る俺だが、ここではどうにも昔に戻ってしまう。

 今では軍での将軍職に城主に収まらない領主の務めと、様々な役割を担っている俺だが、この農業、産業関係の実験というのは、俺にとってはまさに、俺の生をこの中華の歴史に刻みつける始まりの場所だったのだ。

 

「ほほっ、ではまずはご案内致しましょう。さ、こちらへ」

 

 俺をからかうのは一旦やめとしてくれたようで、反泊が今日来た目的の場所へと案内してくれる。

 俺と紫詠、そして護衛の兵士たちの半数ほどはそこで馬を降り、馬を預けて後に続く。

 残りの半数の兵士たちは馬に乗ったまま城邑の中と外で不測の事態に備えて警備を行う。

 

 完全に自陣であるこの場所でも、そうしなければならないのが今の俺の身分だ。

 もっともここは中梁の城下などとは違って、入れる人間すら厳重に確認がされているので心配は本当に一つも無いのだが。

 一度どこかで緩みを作ると余計な緩みまで産みかねないので、兵士の皆には苦労をかけている。

 

「紫詠は事前に見に来たのか?」

「いえ、私も連絡を貰っただけですので、あの小さな布に触れただけです」

 

 紫詠がわざわざ軍だけでなく内政でまで俺に着いてきているのは理由がある。

 

 というのも、原作の槍の紫伯を知っている人からすれば衝撃かもしれないが、今の紫詠はただの将軍ではないのだ。

 原作で魏火龍に任命されたほどの将軍としての戦場把握に戦術、そして本人の武力と部下たちの練度など将としての能力に加えて、何故か文官の能力に外交官顔負けの弁舌、法家ばりの思想など、完璧超人かお前、と言いたくなるような能力を兼ね備えているのだ。

 

 この紫詠の成長は、俺からしてみても完全にイレギュラーというか想定外である。

 

 俺が紫詠を魏から買い取った理由は、有力な将軍に育つ駒がいるならば手元においておきたい、そして出来ることならば、成長して俺の副将だったり完全に軍を任せられるような人物に育ってくれればありがたい、ぐらいに思ったからだ。

 俺以外にも都市や領地の奴らを鍛えまくって将や兵士を育ててはいたが、それでも有望な才能ある人材が容易く手に入るなら欲しいというのが俺の考えだ。

 優秀な人材はいるだけ困らないものだ。

 

 つまり、兵士、将としての紫詠が、原作の槍の紫伯ぐらいに戦術に長け、本人の戦闘力も飛び抜けた将軍になって、俺の味方陣営で活躍してほしいと思っていたのだ。

 

 だが、どこでどうこじらせたのか、紫詠は将としてだけでなく、内政の知識や弁舌能力など文官方面でも能力を高め始め、いつしか軍事だけでなく政まで任せられるようなとびっきりに優秀な人材に成長していたのである。

 もちろん彼の成長は望ましいものだったので、俺もその成長の手助けやサポートはしたが。

 

 俺は彼に俺の下で支えて欲しいと考えていたが、彼はどうも俺に並び立てる、いや、彼の言葉を借りるならば『俺を超えるぐらい大きな人物』になろうとしているそうだ。

 そのためには、将軍としての能力は前提として、更に領主であったり弁舌家としても高い能力を持つ俺を見習って、それらを身に着けたい、と考え、学んできたのである。

 

 おかげで今では、俺にとっても部下というよりは相棒とも言えるような良い関係になっていると思う。

 でも俺は越えさせんからな。

 

 そしてそんな紫詠だからこそ、俺が主導して行っている農業改革や産業、工作、治水などに関する知識も出来る限り身につけたいと考えているようで、こうやって俺がここを訪れるときは一緒に来たり、あるいは一人で来て反泊に説明してもらったりしているらしい。

 他にも暇を見ては領地の各地を自分の目で見て回ったりもしているようだ。

 

 向上心の怪物みたいになってしまっている。

 以前紫季歌に聞いた限りでは、昔は生きるために必死だった分、何かに必死でないと気持ち悪くなってしまう性格らしく、その結果の産物だそうだ。

 まあ味方にいる限りはありがたいですね。

 原作の魏は本当にでかい人材を無駄にしたんだなと、ちょっと可哀想になった。 

 

 

 反泊に案内された移動先は、城内の一角、食料用の農業、畜産業以外の、商品になる作物だったり道具の開発を担っている場所だ。

 今は麻やヘンプを麻布に加工する方法の改良だったり、植物から採った染料の抽出方法の研究などをやっている場所だ。

 ちなみに量産するための技術が出来上がったものについては、量産作業自体は他所でやるので、ここは本当に研究するための場所となっている。

 

 さて、そんな産業区画の一角に、今回俺の目指す場所はあった。

 木とレンガで作られたしっかりとした建物の扉は締め切られており、それを反泊がノックする。

 

「介良、領主様が来られたぞ」

「もう!? そんな時間か! おい、お前ら壁際に整列!」

 

 反泊の言葉に慌てた返事が聞こえたかと思うと、勢いよく戸が開かれる。

 

「りょ、領主様、ようこそいらっしゃいました」

「ああ、ついに出来たと聞いて急いで来たぞ。それで、中に入らせて貰っても良いか?」

「へ、へい! どうそこちらへ!」

 

 介良に案内されて中に入ると、拾い作業場が広がっている。

 その壁際で、介良以外の職人たちが整列して頭を下げていた。

 

「丁寧な応対感謝する。今日は皆の作業を見学させてもらいにきた。皆、作業の続きに戻ってくれ」

 

 俺の言葉を受けて、職人達がそれぞれのしていた作業へと戻る。

 本当は全く気にしないで貰いたいのだが、そういうわけにも行かないのがこの時代の身分制度だ。

 故に俺も、彼らの礼儀を受け入れた上で、作業を見せてほしいとお願いするようにしている。

 

 種と一体化した綿を特殊な道具に挟んでゴリゴリしたり。

 種と切りはずしたそれを、弓の弦をビンビンさせて柔らかく分離させたり。

 しばらく作業を見学していると、奥の倉庫から介良がその手に籠を載せて戻ってきた。

 

「これが、完成した綿布です」

 

 そう言って差し出された籠の中には、見事に白い布。

 漂白剤のある現代ほどではないが、麻の布と比べるとその色合いは一目瞭然だ。

 

 そう、俺が今回見に来たのは、この綿布、つまり綿で作った布が完成したという報を聞いたからである。

 籠から取り上げて触ってみる。

 

 流石に現代ほどのきめ細やかは無い。

 それは当然だ。

 まだ綿の栽培すら始めて数年の段階で、職人の腕も成熟していないしこの時代には大量生産及び精密作業が出来るような機械もない。

 

 それでも、現在の衣服の大半を占める麻と比較すれば、とんでもなく肌触りの良い布だ。

 これは確実に需要が見込めるだろう。

 

「素晴らしいものだ。これからも是非励んでほしい」

「は、はい!」

「これはこのまま持っていっても構わないか?」

「もちろんです!」

「ありがとう。皆も、素晴らしい布を感謝する! 今日は酒と肉を届けておくから、ささやかながら宴にしてくれ」

 

 介良と、そしてこれを作ってくれた者たちにはねぎらいの言葉をかける。

 量は少ないが、この時代には糸車はないし、俺は糸車の導入はちょっと慎重になっている派なので、まだしばらくは俺から発想を出して作らせようとは思ってないので、そこは特に気にしない。

 それでも優秀な木工職人に資金を出し続けているのでそのうち作ってしまう可能性もあるが、それならそれでそういう運命だと納得出来るので良い。

 

 とにかく、史実ではまだ綿が入ってきていない時代の中華で、綿の製造が確立出来たのは非常に大きいことだ。

 

 綿布の入った籠は護衛の兵士に持ってもらう。

 籠を更に外から麻布で覆って、絶対に綿布を汚さないための備えは万全だ。

 

 その後、軽く他の研究や農作業も見て回り、市民に労いの言葉をかけてから、俺達はその城邑を後にした。

 

「それほどに素晴らしいものなのですか? 私には良い布程度にしかわかりませんでしたが……」

 

 移動の道中で、紫詠がそう話しかけてくる。 

 実際に紫詠も触ってみたが、そこまでのものなのか疑問らしい。

 それについては俺も同意だ。

 

「布自体の品質で言えば、俺やお前が来ているような絹の方が遥かに上質だ。これは麻よりは上質だが絹には劣る。そういう素材だ」

「……では、それ以外に何か利点がある、と? 例えば……丈夫さ、とか」

 

 俺の答えを求めるだけでなく、自分で考えて答えを探す。 

 考える力がつけられているようで何よりだ。

 だが、残念ながらこれには紫詠が身につけていない類の知識が必要になる。

 

「絹よりは頑丈だが麻には劣る。紫詠、一番中華中に広まりやすい商品とは、どんなものだと思う?」

 

 これは、商売の話だ。

 そして現代の知識を持つ俺からすれば、人間の集団というのは一定の規模を超えると、商売について考えなければ成立しなくなる。

 一定の規模とはつまり、全員が顔見知りで、互いに必要なものを提供し合って協力して生きていく規模だ。

 

 これを越えたとき、人は必要なものを、『特定の誰か』に求めるのではなく、需要として社会に求め始める。

 

「……最も品質が良く、それでいて安い商品、ですか?」

「部分的に正解だ。お前が言ってるのは品質と価格だな。それに加えてもう一つある」

「……わかりません」

「生産量だ。どれぐらいの量が、市場に流れるか、と言い換えても良い」

 

 俺の言葉に紫詠が何か考え込む表情になるが、構わずに俺は説明を続ける。

 紫詠がそれを同時に処理するぐらいの能力があると知っているからだ。

 

「品質、価格、流通量。まあそれぞれの中にも、どういう面での品質か、どの地域での流通量か、生産地はどこか、なんて細かい要素は他にも在るが、取り敢えずこの三つを考えれば、その商品がどうなるかは見えてくる」

「麻は、品質は最低です。しかし生産量は多く、価格も安い。だから多くの農民や市民に広がっています。絹は反対に、品質は最高ですが、価格が非常に高く、生産量も極めて少ない。使っているのは私達のような身分のあるものか、大きな商家の者たちだけです」

「そこに割り込む商品があるなら、どんな商品だ?」

 

 俺の言葉に、紫詠は更に考える。

 

「品質で絹を超えるのは不可能だと仮定します。ならば、品質は自ずと絹より下。ですが価格や生産量については麻が高い水準にあり、一番貧しい農民でも手にすることが出来るので、麻より低品質で価格や生産量で上回って広めるのは不可能です。ならば、品質は麻と絹の中間、値段、生産量も中間のものなら、二つの間に割り込む余地がある。そういうことですか?」

「正解だ。まあ実際には市場がどの程度を求めているのか、なんてのも考える必要はあるが。ちなみに、麻や絹の生産量なんていうのは知っていたのか?」

「領内で生産されているものですから、ある程度は把握しています。そこから推測しました」

 

 なるほど、たしかにそれぞれについての知識は無くても、内政をする上で集まる情報を把握していればそこからの推測は難しくはないか。

 いやそれにしても優秀だな紫詠。

 

「そこまで把握しているのは流石だな」

「ありがとうございます」

「で、絹というのは高級品だ。俺たちは身分が高いから着ているが、逆に普通の兵士たちは着ていない。田子(でんし)たちが着ているのは、麻の服だろう?」

「はっ」

 

 護衛の兵士が俺の問に短く答えてくれる。

 絹は基本的に高級品だ。

 手に出来るのは一部の高い階級にある軍人か、名家や商家の者ぐらい。

 それも軍でいえば、千人将でも高いと感じるぐらいの価格はする。

 まあこの時代は上と下の格差が激しいので、千人将と将軍の間での差が非常に大きいのだが。

 

 さておき。

 

「生産が難しく生産量が少ない。その分絹が出回る量は少なく、手に出来る者は一部に限られる。逆に麻は、広く市民や農民までが使っている。生産量は多いが、服としての品質は高くない。なら、後は簡単な話だ。ここに品質は麻より圧倒的に高く、生産量は絹より圧倒的に多い布が出現したらどうなる?」

「……中層から下層の民が、皆それを使うようになる、ということですか」

「うまく行けば、だけどな」

 

 まあ結局はうまく行けば、という話にはなってしまうのだが。

 元々前世でもそういうビジネスだったりをやっていたわけでもないし、商売の知識は浅い前世の知識とそこからの自分なりの思索と実践の産物でしかない。

 この世界の他国の民の実情も知らない以上、やってみた商売がうまく行かないことだって当然存在する。

 

「忘れやすい話だが、俺達や王族が頂点に居座ってる国というのは、数十万、数百万の人間で構成されている。俺たちは山の頂上にぽつんと座ってるだけで、名家と呼ばれるような連中はその下にいるがそれでも山頂付近でしかない。その下の山全体を作っているのが、数多くの市民であり、農民達だ」

 

 本当に、この身分差が多い中華では、本当の意味でこのことを骨の髄まで理解している人間は一人として存在しないだろうが。

 いたとしても民を大切にする領主ぐらいで、現代で研究されるような経済学や社会学の観点から国、社会という者を見れるものはいない。

 

 だがそれでも、国が人によって出来ている限り、そこには上流階級の何倍何十倍もの潜在客が眠っているというわけだ。

 

「商売をするなら、良いものを買ってくれる客だけでなく、たくさん買ってくれる客も大事にしないとな」

 

 うまく行けば、中華に大きな旋風を巻き起こし、韓の国力となる。

 かもしれない。

 ただこれについては、絶妙なパワーバランスの上でタップダンスを踊っているのが韓という国であるため、一度本営に確認を取る必要がある。

 あまり大々的に商売をやりすぎても、困ったことになる可能性があるのだ。

 

 その分領地内では自由に出来るので、まず広めるならばそこからだろう。

 

「商売、ですか。私も少し商売について勉強してみたいですね」

「流石に手を広げすぎだろ。それにお前程に有能な人材が商売を学ぶなら、それこそ秦の呂不韋のような傑物ぐらいだ。相応しいのは」

 

 いやまあそれでも紫詠がやりたいと言うなら止めはしないが。

 呂不韋については、国が違えどあれは本当に傑物だと思う。

 言語化や研究しての論理化は出来ていないのかもしれないが、商売というものを、金の動きというものを良く知っているのだろう。

 

 正直な話、下手に秦王が王になるよりはあれが国王になってくれた方が、韓にしてみれば嬉しい。

 国力の問題で併合される、という懸念もあるだろうが、そこは逆手にとってしまえば良い。

 韓を他国と同じ生産国にするのではなく、各国の商品が集まる巨大な中央市場にしてしまえば良いのだ。

 国まるごとショッピングモール計画である。

 ついでに各国から職人を集められるとなお良い。

 そしてそこに他国から商品を買い求めて人が集まる。

 

 中華の位置的な中央にある韓ならばそれが出来る。

 韓の他国からの交通の便が抜群に良いという防衛においてはうんこみたいな短所が、流通の拠点となるならば代えがたい長所となるのだ。

 

「ま、暇があったら俺が商売の話をしてやる。あるいは、商売・経済研究所で教えてもらうのもありといえばありだがな。ただあそこはまた少しアクが強いからな」

「一度覗いてみようと思います」

「飲み込まれんようにな」

「……気をつけます」

 

 紫詠が苦笑している。

 だが冗談で言っているわけではないのだ。

 

 俺が下手に経済学なんていうこの時代では発展していないようなものを提供してしまったのが思想家たちの琴線に触れたらしい。

 それまで儒家だのなんだの言っていた連中が、こぞって人の世界の動きの話をし始めてしまった。

 故に今中華でもっともその分野が進んでいる場所では在ると思うが、同時にいきなり入るには少しばかり勇気がいる場所になっている。

 

 さて、取り敢えず農産業研究所の方の視察は終わった。

 綿布の他にも、サトウキビやこんにゃく作成など色々と成果が出てきそうだったので、これからも期待が持てるだろう。

 

 これまでにもいくつもの野菜や、豆腐に味噌醤油なんかを開発して送り出してくれているので、今後もあの場所にはしっかり投資していきたい。

 

 そして今度は、軍略研究所の方に顔を出しに行こうと思う。

 俺が作ったもう一つの要が、その研究所とそれにくっついている養成所なのだ。




「世界の軍事的天才を集めてみないか」

https://lavender.5ch.net/test/read.cgi/whis/1675849684?v=pc


こちらのスレが非常に面白いです。
本作が好きな方は是非読んで頂きたいです。

内容としては、アレキサンダー大王やチンギス・ハンなど、歴史上最強の将軍達を、とんでもなく詳しいスレ主が解説したり、他の人のツッコミに豊富な知識で答える内容です。

普通に「そんな凄い将軍達がおるんか! やべえかっけえ!」
となったので皆さんも是非どうぞ。








余談①
キングダム原作だといろんなキャラが来てる服どうみても麻じゃなくね?
みたいな感じしますけど、史実的にはこの時代には綿は中華に入ってきていません。
なので絹を着れない人たちは全員麻を着てます。

ということで主人公による綿導入となります。
ちなみにこれを売り始めて他国に流れると呂不韋に目をつけられます。
商人怖いね!



余談②
原作だと信が山羊の乳飲んでるみたいな話あるんですけど、調べたらこの時代山羊中国にいなくね?
っていう。
どうも中華が羊大好きだったみたいで羊の話題はめっちゃ出るんですけど、山羊の話題が無いんですよね。

それで山羊はシルクロードにのって西アジアから世界に広まったらしいので、この時代には中華にはなくて、主人公が連れてきた、っていうことにしました。


余談③
他にも色な植物とかの「〇〇 伝来」「〇〇 古代中国」みたいな検索したらわかるんですけど、意外とこの時代中華に無いものが多いです。
後の時代で東南アジアとかから流れてきたものだったり、あるいはもっとずっと後に新大陸から欧州経由で流れてきたものだったりが結構あります。
調べてみると面白いかもです。
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