キーンコーンカーンコーンと、今日の終わりを告げるチャイムの音が学校に響き渡る。
恐らく大半の生徒はこれから部活に行ったり、帰ったりするのでしょうけど、残念ながら私たちはそれができない。何故ならば校長先生に呼ばれているから。
ということで、私とルラは放課後、校長室に来ていた。
「失礼します。細工です。」
「同じく流譜です。」
「うむ。入りたまえ。」
部屋の中からの返答を確認して丁寧に扉を開き、入室する。
入室するとそこには既に3人の生徒会メンバーが待っていた。
「かいちょー!ルラちゃん!おつかれー!」
この少し幼い印象を感じる子は
「お疲れ様です。マスター。ルラ様。」
私をマスターと呼んでいるこの子はエイド・ヴォーヴァル。生徒会では書記を担当してもらっているわ。記憶力が非常に高くて人の発言や書いた内容をほぼ全て暗記できる凄い子よ。ただ、何故私をマスターと呼ぶのかはわからないわ。まぁ、別に気にしないから良いのだけれど。
「お疲れ様。ルア。ルラ。」
少し私に似た口調のこの人は
この3人と私、ルラの計5人が生徒会のメンバー。そして......
「放課後に集まってもらってすまないね。諸君。」
校長室のデスクに鎮座している、黄色いスーツに身を包み、どう整えているのか分からない、竜の角のように尖った髪型をした背の低い老人。そう。この人こそがこの桜龍高等学園の校長。
「いえ。校長先生にもご都合があるでしょうし。あ、お話の前にこちらを。」
胸ポケットにしまっていたカードを取り出し、校長に差し出す。
「この前のクリーチャーじゃな?」
「えぇ。ようやく捕まえられました。送還はお任せします。」
「うむ。責任をもって届けよう。」
少し私の差し出したカードを少し観察したのち、校長はカードを受け取ってそれを引き出しにしまった。
「それで......今日はどういったご用件で?」
「うむ。今日はドラゴン娘としての君たちにお願いがあるんじゃ。」
ドラゴン娘。それは私たち生徒会の裏の総称にして秘密。校長先生の受け売りだけれど、少し説明をしましょうか。
私たちが今生きているこの世界では何らかの原因で開いてしまったワームホールの影響で、別世界の生命体『クリーチャー』が頻繁に表れるというにわかには信じがたいことが起きているの。
クリーチャーたちは私たち人間とほぼ同等の知能と特異な能力を持っていて、それらを用いて人間社会に溶け込んだり、悪事を働いたりしている。前者は良いとしても、後者は流石に看過できない。故に誰かが彼らの悪事を取り締まらなければならない。
しかし、クリーチャーには2つ厄介な点がある。1つは「通常の人間には彼らから姿を明さない限り、彼らを感知することができない」点。どうやら彼らには皆、自身の姿を隠匿する力が備わっているようで、その力を彼らが解かない限り、私たちは彼らを認知できない。但し、クリーチャー同士では隠匿していても見えるみたいね。
そしてもう1つは「クリーチャーにはクリーチャーとその世界に由来する力以外が通用しない」という点。武術に武器など、どんな力であれ、この世界で生み出されたものであればもれなく通用しなくなる。こちらの原理は不明だけれど、校長先生にそうであると断定されてしまっている以上、詳しくない私たちは事実として受け入れるしかない。悔しいけれど私たちは理論上、彼らには何もできない。
けれど、この2点には抜け道がある。それは、
事を重大と見たあるクリーチャーはこのことに気づき考えた。
こうしてそのクリーチャー、校長先生こと
「また事件ですか?」
「いかにも。ここ最近、この学校で妙な噂が流れていてのぅ。」
「それってもしかして、開かずの教室からの声ってやつ?」
「そう。それじゃ。」
「開かずの教室からの声?チヨ、知っているの?」
「うん。ボクもこの前聞いたんだけどねー。」
チヨはその噂について思い出すように話し始めた。
「この学校の3階には誰も開けられない開かずの教室っていうのがあるでしょー?昼間は特に開かないこと以外何の変哲もない教室なんだけど、夜、その前を通ると後ろから大声で叫びながら何かに追いかけられるんだって。「貴様ぁっ!宿題を忘れたなぁっ!」って!」
「「「「「......」」」」」
きっとチヨは少し怪談話風に話して私たちを怖がらせようとしたのね......でも残念ながらここにいる時点で実質種明かしされているようなものだから......怖がれないわね......
「つまり、チヨ様が言うその声がクリーチャーであるということですか?」
「え?あ、う、うむ......そういうことじゃ......」
エイドの率直な問いを「こいつマジか」みたいな顔をした校長が動揺しつつも肯定する。そういう顔になるのも頷けるわ。他人のユーモアを意に止めず話を進められるんだから......エイド......恐ろしい子......
そして一方で、ほぼ無視に近い反応をされたチヨはというと......
「み、みんなぁ......無視しないでよぅ......」
当然今にも泣きそうになっていた。
「ご、ごめんね!チヨちゃん!私ったら怖くてつい呆然としてたわ~!」
「うぅ.....ほんと?」
「えぇ!本当よ!ほんと!だから泣かないで?ね?」
「うん......」
ルラがチヨを咄嗟にフォローし、何とかチヨを泣き止ませる。流石ルラ......ナイスよ。チヨが泣き出すとルラでも手を焼くものね......
「とにかく!その噂の正体がクリーチャーである可能性が高い!この謎の声と追跡で生徒が数名階段から落ちたり、壁にぶつかって怪我をするといった実害も出ている。よって君たちにはこの件について調査をしてほしい!」
部屋に漂う少しよどんだ空気を払うように、校長先生が大声で要件をまとめ、私たちに謎の声に関する調査を依頼する。
「調査してほしい」とお願い口調で言うけれど、実質私たちに断る手はない。何せこれがクリーチャーがらみの事件なら、解決できるのは私たちしかいないのだから。
「わかりました。引き受けましょう。皆もそれでいい?」
他の生徒会メンバーに肯定を求めると、全員は無言で頷き、賛同してくれた。
それを見て校長先生は安堵したような、心強そうな表情をして話を続ける。
「ありがとう。では、早速じゃが今日は学校に泊まって調査をしておくれ。」
「はい。......はい?今なんと?」
「?じゃから今日は泊まって調査をしておくれ。」
「......え?」
こうして、私たち生徒会の長い夜が始まるのだった。
登場人物紹介
布佐座チヨ
桜龍高等学園1年生の生徒会広報担当。性格・仕草が共に非常に愛くるしく、生徒会のマスコットとして非常に他生徒から人気が高い。幼い口調や抜けているところについ、無知そうなイメージを抱くが、学業成績は上から10本指に入るほど高い。
エイド・ヴォ―ヴァル
桜龍高等学園1年生の生徒会書記担当。発言や文章をほぼすべて覚えられるという特技を持っており、記録や交渉を担当することが多い。しかし一方でユーモアなどを理解するのが苦手であり、よくチヨを涙目にさせている。
叉砥リカ
桜龍高等学園3年生の生徒会会計担当。数学者である両親の影響で数学全般が得意であり、例えどんなに会計の仕事を積まれても数時間で終わらせられる並外れたワークスキルを持つ。ルアとは従姉妹の関係であり、お姉様と呼ばれてる。
校長(天龍神アークゼオス)
桜龍高等学園の校長であり、生徒会メンバーをドラゴン娘にした張本人。その正体クリーチャー、天龍神アークゼオス。ドラゴン娘たちは大体彼からの依頼でクリーチャーを捕獲している。尚、本人はわけあって戦う力を失っているらしく、その点に関しては若干ドラゴン娘たちに申し訳なさを感じている模様。しかし、無茶ぶりは何食わぬ顔でする。