十二鬼月・累の物語 〜Another〜   作:葵巴鈴蘭

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17話 伍、現る

(あれは……下弦の肆の頸⁉︎)

 

 下弦の陸が肆の頸を手にしている。先ほど肆は死んだはず。

 

 炭治郎ははっと振り返る。

 

 下弦の肆の頸のない体が地面に横たわっていた。灰のような匂いはまだしない。代わりにした匂いは……

 

「悲しみの匂いがする」

 

 今にもこの鬼は死にゆこうとしているのか。

 

 

「どうして君が鬼になったのかなんて知らない。何があったのかなんて分からない。でも、それは人を殺していい理由にはならない」

 

 陸の体に肆の頸が吸い込まれると同時に、肆の体は崩壊を始めた。

 

 

 ごめん……な、……さい……

 

 

 そう聞こえたのは空耳かもしれない。

 

「どうか。今度はこの人が人間でいられますように」

 

 少し目を瞑ると、炭治郎は前を向いた。

 

(……十二鬼月を吸収したのか?)

 

 より強靭な肉体となった下弦の陸は、雄叫びを上げた。

 

「蛇の呼吸 参ノ型 塒締め!」

 

 伊黒さんが無数の斬撃を浴びせる。鬼の手足や無数の頸が切断されるが、やはりしばらくすると再生してしまう。

 

(ダメだ……この鬼は本当に頸が弱点じゃないのか? 何かを見逃してるんじゃないのか?)

 

 日輪刀を握り、小芭内の援護に向かおうとするが、体に力が入らない。

 

(神楽を連続で使ったからか……助けに行かないといけないのに!)

 

「紋逸! 起きろコラァ!」

 

 伊之助が善逸を蹴飛ばしているのが見えた。

 

 何をしているんだと止めようとしたが、すぐに善逸は目を覚ます。

 

「ひぇぇぇぇ‼︎」

 

 奇声を上げると、善逸は狂ったように辺りを走りはじめた。

 

しかし、その様子を見ている間もなく、伸びた鬼の腕が炭治郎を襲う。

 

 神楽の反動もあり反応することができず、地面にたたきつけられる。

 

「くっ……」

 

(早く回復の呼吸を……深く、全集中の呼吸をするんだ)

 

 再び鬼の攻撃が飛来する。

 

 しかし、炭治郎に届く前に、ある人物の蹴りによって撃ち落された。

 

「禰豆子!」

 

 今までぴくりともしなかった禰豆子が箱から姿を現した。

 

「禰豆子! 少しの間俺を守ってくれ! 善逸! 禰豆子の代わりにくるみちゃんを頼む!」

 

 禰豆子に護衛を頼み、善逸にくるみを託すと、炭治郎は意識を鬼に集中させた。

 

(鬼の弱点を嗅ぎ分けろ……どこか匂いが違う場所があるはずだ……)

 

 炭治郎の額の痣が燃え上がる。

 

(胴体か? もっと深く……鮮明に)

 

 鬼の頸を見極め、炭治郎は瞳をカッと開く。

 

「見えた! あの太い胴体の中! そこに本体がいる!」

 

「胴体の中に本体?」

 

 小芭内がこちらを振り向いた。

 

 鬼の攻撃で意識を失う伊之助を目の端で捉える。

 

「禰豆子! 気絶した伊之助を頼む! 俺は伊黒さんと鬼の頸を!」

 

 炭治郎を叩き潰そうと振り下ろされた鬼の拳が地面に突き刺さる。炭治郎はその巨大な腕を駆け上った。

 

「ヒノカミ神楽 碧羅の天!」

 

 上半身を半回転させ、両腕で力強く刀を振るう。刀は垂直に円を描き、鬼の上部を切り裂いた。

 

(見えた! 鬼の本体!)

 

「くそがぁぁぁ!」

 

 下弦の陸は必死の形相を一瞬浮かべたものの、その表情は不気味な笑みに変わる。

 

 その隙に、小芭内は鬼の頸を斬るべく刀を伸ばした。

 

「蛇の呼吸 壱ノ型——」

 

(なんだ? まだ何かを見逃している? でもこの鬼が本体だ。匂いからして間違いないのに、この違和感は)

 

 炭治郎は違和を感じつつも、勝利が確定したこの状況に安堵しつつあった。

 

「血鬼術」

 

 しかし無慈悲な鬼の魔の手は。

 

「刻糸牢」

 

 それを。

 

(あい)

 

 許さなかった。

 

「か……はっ……」

 

「伊黒さん? ……伊黒さん!」

 

 人の頭部ほどの大きさの穴が小芭内の体に空いていた。振るったはずの刀は砕け散っている。

 

「下弦の……伍……?」

 

 自身の声が震えているのが分かる。

 

 一体何が。

 

「僕は気配を消してこいつの巨体の中に潜んでいたんだよ。残念だったね」

 

「なんなんだ! お前は! あぁぁぁぁ‼︎ ヒノカミ神楽! 炎——」

 

「遅い」

 

 掌底を胴にもろに喰らい、炭治郎の意識は飛びかける。

 

(中に潜んでいた……? 匂いはしなかった。どう……やって)

 

「い、ぐろさん……」

 

 小芭内の瞳は既に光を失いかけていた。人間にとって、死ぬには充分すぎるほどの致命傷を受けていた。

 

「……ぁ……く、そ……が……」

 

 分かる。もう伊黒さんは助からない。

 

「下弦の伍……助かったぜ」

 

 下弦の陸は嫌な笑みを浮かべながら、伍に声をかける。伍が振り向いた。

 

「これでお前も用済みだね」

 

 

 

 

 

 

 下弦の伍・累は釜鵺の巨体の中に隠れていた。鬼狩りが釜鵺にとどめを指そうとしたとき、不意をつき反撃するためである。

 

 釜鵺の本体は、異形と化した巨体の中に隠れているため、たねがバレない限りは累が力を貸さなくとも柱に勝てる可能性はあったのだが。

 

「血鬼術 刻糸牢 (あい)

 

 だが耳飾りの少年と柱はそれを見破った。

 

 だから、攻撃範囲を極小に狭め、貫通力に特化した血鬼術で、柱の胴体を刀ごと抉り取った。

 

「なんなんだ! お前は! あぁぁぁぁ‼︎ ヒノカミ神楽! 炎——」

 

「遅い」

 

 耳飾りの少年に掌底を撃ち込む。あの時は一度遅れをとったが、完全体になった今、この程度相手にならなかった。

 

「下弦の伍……助かったぜ」

 

 下弦の陸が声をかけてくる。今回は耳飾りの少年は後回しだ。

 

「これでお前も用済みだね」

 

 累は糸で釜鵺の頸を切断する。

 

 釜鵺は絶句した。

 

「…………ぁ?」

 

 柱を片付けたら、最初から下弦の肆と陸は吸収するつもりだった。臨機応変に対応し、一度肆は陸に吸収させたが、これを纏めて今取り込む。

 

「お前……! 仲間なんじゃ……!」

 

「仲間? 誰が? まさかお前と僕が仲間なんて言ってるんじゃないだろうね。お前を仲間だなんて思ったことはないよ。さよなら」

 

 手のひらから釜鵺を吸収した。

 

 十二鬼月、下弦の鬼2体分の養分が累に加算される。

 

(家族……これだけ力を蓄えたんだし、上弦の鬼を家族にできるんじゃないか?)

 

「ま゛、て゛……」

 

 

 

 胴に風穴が空いた小芭内が、立ち上がった——

 






伊黒さん……
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