十二鬼月・累の物語 〜Another〜   作:葵巴鈴蘭

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18話 蛇柱と下弦の伍

「ま゛、て゛……」

 

 蛇柱・伊黒小芭内は立ち上がる。

 

「こいつ……なんで死んでない」

 

 下弦の伍は驚いたように言った。当然だ。まだ、まだ死ぬわけにはいかない。

 

 左腕に蛇のようにうねった痣が浮かび上がる。

 

(もう……体に力が……こんなところでは)

 

 恨みがましい目をした50人の腐った手が、俺をあの世に引きずり込もうとしているかのように、体に力が入らない。

 

 しかし全身全霊の力で小芭内は刀を構えた。

 

(まだ……俺は、あいつに……! ……想いを……‼︎)

 

 刀身が赫へと染まってゆく。

 

「お前も……その赫い刀を」

 

 下弦の伍は更に瞠目した。

 

 そんなことどうでもいい。

 

(俺の汚い血が浄化されるよう……鬼舞辻無惨を殺して死にたい……)

 

「下弦如きに、負けるわけには……いかんのだ」

 

 自らの出生を一瞬回顧した。だが、すぐに首を振り、その思考を振り払う。

 

 鬼のいない平和な世界で、もう一度人間に生まれ変われたら。

 

「蛇の呼吸 壱の型 委蛇斬り」

 

(甘露寺……今度は必ず君に、好きだと伝える)

 

 死の淵に瀕し、限界を超えた力が、先ほどよりもなお鋭い一閃で鬼の腕を斬り落とす。

 

 本当は、甘露寺には鬼殺隊をやめて欲しかった。危ない目を合わせたくなかった。だが、君を遺して死ぬ俺を許してくれ。

 

「蛇の呼吸 伍ノ型 蜿蜿長蛇」

 

 糸を張り巡らし、剣撃を防がんとする鬼へ迫る。

 

 君を1人にしてしまうが、今度は1人にしない。

 

 だから、君の前に立ち塞がるかもしれない悪鬼を一体でも減らしてみせる。

 

 

 

 

 

(伊黒さん……)

 

 一体何が、彼を動かすのだろうか。

 

 大きな風穴が空いた体。生きている方がおかしいくらいの致命傷を受けながら戦う小芭内を見て、炭治郎は思う。

 

(許さない。こいつだけは……こいつだけは、ここで必ず倒す)

 

 これでもかと言わんばかりに、鬼を睨みつける。視界が赤く染まっている気がする。目から出血しているのかもしれない。

 

「ヒノカミ神楽」

 

 鬼の動きが僅かだが遅くなったような気がした。

 

「灼骨炎陽」

 

 小芭内の背後を狙っていた糸を焼き払う。炭治郎の肉体も、既に限界を超えつつあり、ヒノカミ神楽の連発で酷く消耗していた。

 

「伊黒さん、俺も援護して戦います」

 

 炭治郎も自身がすごく冷静になっていることに内心驚いている。

 

 体の感覚が麻痺しているのか、小芭内は一瞬だけ眉を動かすと、ぼそりと呟いた。

 

「炭治郎、感謝する」

 

 

 

 

 

(こいつら……なんで、なんのためにここまで動ける。人間のくせに)

 

 累は内心酷く動揺していた。

 

 こいつらは確固たる信念を持って、累を討とうとしている。今の累に、そんな信念はあるだろうか。あれだけこだわっていた家族も、今はいない。

 

(この感覚はなんだ……この気持ちは)

 

 だが、すぐに冷静になる。

 

 柱はもうすぐ死ぬ。今ここで、直接手を下さなくとも、それだけは確定している未来だった。

 

(あの蛇が戦闘の手助けをしているのか)

 

「蛇の呼吸 肆ノ型 頸蛇双生」

 

 累が張った糸を超え、柱の刀が累の頸に触れる。徐々に刀が皮膚に食い込み始めた。

 

「斬れろぉぉぉぉ‼︎」

 

「くっ……!」

 

 焦って刀の腹を両の手で掴んだ。刀はそこで止まるが、柱はまだ累の頸を斬ることを諦めてはいなかった。

 

「炭治郎!」

 

 累ははっとして耳飾りの少年を目で追う。一瞬目を離した隙に、奴は姿を消していた。

 

(どこだ? どこに消え……)

 

「ヒノカミ神楽! 斜陽転身‼︎ うおぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

 炭治郎は宙返りすることで糸による攻撃を避けていた。天地が逆となったその態勢のまま繰り出される鋭い一薙ぎが、累の頸に突き刺さる。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎ 斬るんだ! 鬼の頸を‼︎」

 

(馬鹿な…………)

 

 左右から、頸を斬るべく刀が肉を切り裂き、先へ先へと突き進む。

 

 何かの想いが鬼狩りたちを限界以上に強くしている。こんなやつら相手にしてられん。これ以上相手せずとも、柱が死ぬのは時間の問題だ。

 

 だが、2人の刃は累が逃げることを許さない。

 

(両手が塞がれて、糸で頸を斬ることはできない。かと言って、刀を押し返すのも……柱の腕力が強すぎる。だが耳飾りのガキに、僕の頸を切断できるほどの力はない)

 

 炭治郎の刃は既に止まりつつあったが、小芭内の刀は累の手で抑えられつつも、確実に前へ前へと進んでいた。

 

(頸が……このままでは斬られる……)

 

 絶体絶命の状況を打破するべく累か導き出した答えは、身体能力(フィジカル)を最大限に活かすことだった。

 

 累は今や上弦の鬼にも匹敵しうる肉体を持ってはいるものの、格闘技などの技術や経験などは一切ない。十二鬼月というだけあって、大抵の相手なら適当に殴る蹴るをすれば勝てていたのである。だから今の累は、血鬼術なしでは上弦の鬼には及ばない。

 それが累の、糸を操ることにリソースを割きすぎていた故の弱点だった。

 

 だから、この糸の使えない状況に陥った今、初めて累の脳裏に、格闘技による状況打破が選択肢として浮かび上がった。

 

(血鬼術による特殊能力じゃなく、身体能力(フィジカル)強化に全てを賭けた上弦の鬼がいた……)

 

 それは……

 

 

 

 

 ——上弦の参・猗窩座。

 







累、覚醒——⁉︎
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