「累。これが格闘を極めた上弦だ」
ここは浅草、無惨様が人間に擬態して潜伏している地である。
今、眼前では上弦の参・猗窩座という鬼が鬼狩りと闘っている。
「弱い。弱者を見ると虫唾が走る」
「累。徒手空拳を極めた鬼を見てみたくはないか」
ある日、僕は無惨様は僕にそうおっしゃった。
「いえ、ご存知の通り僕は強さにはそこまで執着していません」
無惨様は口答えするものは十二鬼月であろうと容赦なく罰する。しかし僕は特別だった。昔のことは覚えていないけれど、何故か僕は無惨様から気に入られていた。
「これも勉強だ、累よ。ちょうど始末しようと思っている鬼狩りがいる」
無惨様の隠れ蓑の周辺を嗅ぎ回っている鬼狩りがいるらしい。馬鹿なやつだ。
「はい、わかりました」
「水の呼吸 壱の型 水面切り!」
柱ではないようだが、累の目から見ても、鬼狩りの中では決して弱くはない部類であろう男の攻撃を、上弦の参は当たり前のように避けていた。
「遅い遅い」
30代手前ほどの男は焦りを見せ始め、高速の突き技を繰り出すが、上弦の参はハエを払うかのように刀を弾くと、鬼狩りの腕を一回転するように捻る。
「ぐわぁッ……!」
「破壊殺 空式」
鬼狩りに触れる寸前で拳を止めると、拳圧が放たれ男は後方に吹き飛んだ。
「あの方の御前だ。かなり手加減してやっているのだが……この程度で瀕死になるとは」
かろうじて意識を保った鬼狩りは刀を杖代わりにして立ち上がった。
「くそ……俺はいずれ柱になる男なのに……! なんで……なんで十二鬼月が……上弦がいるんだよ!」
無惨様が目配せすると、上弦の参は構えをとる。
「術式展開 破壊殺 羅針」
上弦の参の足元に雪結晶にも似た巨大な陣が展開された。
「あれは……」
累は思わず呟く。
「感知能力に特化した血鬼術だ。感知能力だけで言えば、猗窩座は上弦の弐をも上回る」
なるほど。近接攻撃のみに特化した鬼だと思っていたようだが、どうやらそれだけではないらしい。
(無惨様は僕の質問に答えてくださる。もし……このお方が父……)
累は首を振った。いけない。立場をわきまえなければ。
累は再び前に意識を向ける。
「水の呼吸 参ノ型 流流舞い!」
鬼狩りが折れた片腕が傷つくにも関わらず、高速の剣捌きで猗窩座に迫る。
笑みを浮かべた猗窩座は全てを最小限の動きで回避してみせた。
(これが、上弦……)
あの剣技では累の頸を斬ることはできないだろう。だから累ならあの攻撃を避けようとは思わない。多少皮膚が斬られようとも鬼にとっては些事でしかないし、血鬼術でねじ伏せればそれで終わりだ。なのに、上弦の参は最小限の動きをもってして全てを避けてみせた。
(しかも)
気配がまったく乱れていなかった。たとえ鬼でも動けば必ず気配が乱れる。隙ができるほどでなくとも、多かれ少なかれ、静が動になるのだ。
それなのに。上弦の参の気配に変化はなかった。直に、この眼で、見ていたのにだ。
まだ累の実力が足りず、見切ることができていないだけかもしれない。それだけ、力量に差が開いていた。
(そうだ。たしかあの技は、こんな感じだったか?)
「術し——」
その時、死に損ないの柱が口を開いた。歪な笑みを浮かべている。既に精神状態が正常ではないのかもしれない。
「大丈夫だ悪鬼……お前を殺したら俺もどうせ死ぬ……一緒に死んでやるから……!」
『大丈夫だ累……一緒に死んでやるから……』
(……⁉︎ は……? 誰だ今の声は……)
柱の言葉と、記憶の中の誰かの言葉が重なる。先ほどまでの累の思考は中断されていた。
(なんだこれ……まさか、昔の記憶⁉︎)
「く、クズ共が‼︎」
激しい頭痛と目の前の邪魔者に対する怒りが、累を強くする。
「お前たちの相手をするのはもう飽きたよ! 柱は死ぬ! 耳飾りのお前を殺すのは、次の楽しみのためにやめておくよ。じゃあね」
全身に力を入れた。
「血鬼術 脹略圧怪・悠!」
超高速で移動し、頸を穿つ刀を打ち砕き、抜け出すと、炭治郎と小芭内を吹き飛ばし累は夜の闇の中に走り去ったのだった——
家蜘蛛って、瞬間移動みたいに高速で動き回るじゃないですか……そんな感じの血鬼術です。
今日の回は個人的にも上手く書けた気がしません。なにか物足りなくて、もやもやするかもしれませんが、許してください……