「……っ!」
気を失っていた伊之助も、もうとっくに目を覚ましていた。
「伊黒さん……」
炭治郎は涙を流す。
目の前には、腹部に大穴を開けられた伊黒小芭内が横たわっていた。未練があると言わんばかりに、険しい表情をして。
もう彼が身を覚ますことは2度とない。
「俺が、弱かったから……負けたんだ。すべて俺のせいだ」
強く拳を握りしめ、爪が皮膚に食い込んだ。そこから血が溢れる。
「炭治郎のせいじゃないよ。相手が悪かった」
善逸がフォローしようとしてくれているようだが、何の慰めにもならなかった。
何かが炭治郎の手に触れた。
(伊黒さんの……蛇?)
小芭内が普段から連れていた蛇だ。この蛇も、飼い主の死を悲しんでいるらしい。どことなく、精気が弱まっているような気がした。
(俺が責任を持って連れ帰ろう。せめてそれぐらいは)
炭治郎は涙を拭った。
(そうだ)
なんとかして、無理をして笑顔を作る。
(くるみちゃんの両親を……探さないと)
くるみの両親が生存している可能性は限りなく低い。だが、1%でも確率がある以上、探さないわけにもいかない。
(くるみちゃんはまだ子供……俺が泣いてどうする)
「くるみちゃん。悪いやつはもういなくなったよ」
くるみは木の影で耳を塞ぎ、目を閉じ、縮こまっていた。
炭治郎が至近距離で話しかけたことにより、ようやく闘いに決着がついていたことに気がついたらしい。
「お母さん……お父さん……」
「……探そっか」
結論から言おう。くるみの両親は生きていた。2人は、下弦の陸や肆が潜んでいた、館の跡地の地下牢獄に囚われていた。碌な食事が与えられていなかったのだろう。2人は痩せ細ってはいたものの、くるみの姿を見て涙を流した。くるみも酷く泣きじゃくった。
地下牢獄には他にも囚われている人が何人もいた。彼らに聞いた話によると、毎日、或いは数日ごとに一度、何人かが連れて行かれたらしい。下弦の陸と思われる鬼に連れられた人たちは2度と牢には帰ってこなかった。恐らく、実験台にされたのだろう。
「本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか」
「いえ、気にしないでください。やれることをやっただけです」
何度も炭治郎たちにお礼を言うくるみの両親に、鬼は危険なから気をつけるようにと念を押すと、炭治郎は彼らに別れを告げた。
(下弦の伍……)
俺たちの行く先に度々現れては、悲劇をもたらす無慈悲な十二鬼月。
(もっともっと強くならないと……下弦の鬼に負けてるようじゃ、いつになっても鬼舞辻無惨に勝てない)
改めて、強くなるという決意を胸に、炭治郎は涙を拭った。
産屋敷邸。
「小芭内は頑張ったんだね。凄い子だ」
鬼殺隊員から、お館様と呼ばれるこの男……産屋敷耀哉は鴉から連絡を受け取った。羽上生の奇怪林での、下弦の鬼三体との交戦により、伊黒小芭内は死亡……と。
「寂しくはないよ。私ももう長くは生きられない。近いうちに小芭内や皆のいる黄泉の国へ行くだろうから——」
寂しくはないといいつつも、悲しさを僅かに滲ませた耀哉は、目を閉じた。
「炭治郎さんに禰豆子さん。善逸さん、伊之助さんに伊黒さん」
炭治郎らと別れたくるみは恩人たちの名を口にしながら帰路についていた。
少し先を両親が歩いている。炭治郎さんたちは本当に2人を助けてくれた。もう2度と会えないのでは、と心のどこかでは思ってはいたのだ。
「あれ?」
道の脇に何かが落ちている。少し見覚えがあった。
(炭治郎さんが使ってた刀……?)
先が折れ、刀身がやや短くなった黒刀がそこに落ちていた。
この刀は累の最後の攻撃によって折られたものだ。累が脱出した勢いで吹き飛ばされ、炭治郎は紛失したと思っている。そもそも、炭治郎たちも鬼との戦いで負傷していたため、折れた刀を探す余裕などなかったのだ。
くるみは折れた黒刀を手に取る。
「……」
両親がこちらを見ていないことを確認する。
そして、危なくないように手拭いで刀身を包み、懐にしまったのだった——
伊黒さんは早くも退場です(´•ω•̥`)…グスン
この後の展開にどう響いてくるのやら……