「はぁ……はぁ……」
無尽蔵の体力を持つ鬼としては珍しく、累は息切れしていた。そのまま地面に座り込む。
今し方、柱を殺し、耳飾りのガキの追撃を振り払い、逃げてきたところだった。
(頭が混乱して、思考が纏まらない……)
痣、赫い刀、記憶の中の剣士とよく似た耳飾りの少年、記憶の中の誰かの言葉。
「あ゛あ゛……!」
拳で地面を叩き割ったと思ったら、いつのまにか景色が変わっていた。
ここは、無惨様の……
(無限城)
「累」
(無惨様……)
鬼舞辻無惨がそこにはいた。どうやら彼が累を呼んだらしい。
「柱の一人を殺して参りました……下弦の肆と陸は役に立たなかったので僕が吸収しました」
(入れ替わりの血戦をせずに十二鬼月を吸収することは認められていない……)
無惨からの叱責を受ける覚悟であった累だったが、無惨が累を怒ることはなかった。
「よくやった。鬼狩りの柱に下弦が勝つことはここ数百年の間、一度たりともなかった。非常に喜ばしいことだ」
それに、と無惨は付け足す。
「下弦の肆と陸程度ならいくらでも代えがきく。この調子で励め」
「は」
(良かった。そうだ、あの記憶についても話さねば)
「恐れながら、申し上げたいことが」
「話せ」
「赤髪の、額に痣のようなものがあり、赫い刀をもった鬼狩——」
(……⁉︎)
怒気だ。凄まじい怒気。無惨は今まで累に向けたことがないほどの殺気を放っていた。いや違う。これは累へ向けたものではない。
「——始まりの呼吸の使い手、日の呼吸の剣士」
「日の……呼吸?」
『ヒノカミ神楽! 円舞‼︎』
まだ記憶に新しい。耳飾りのガキも似たようなものを使っていた気がする。
「日の呼吸の使い手は全て殺したはずだった。だが、累。お前を追い詰めたあの耳飾りの剣士は日の呼吸によく似た呼吸を使っていた。気をつけよ」
無惨と別れ、累はしばらく思案していた。
(日の呼吸? それは無惨様が徹底的に排除するほど危険なものなのか? あの殺気……さっきの無惨様の圧。僕の細胞の一つひとつが縮こまり、麻痺するほど……)
あのガキを甘く見ていたのかもしれない。最初に邂逅したときは、そこまでの力は持っていなかった。弱体化した、不完全体の累でも容易く殺せるくらいの力量差があった。
だが、会うたびに、時間が経過するほどに奴は力をつけていっていた。
そして、記憶の中の剣士によく似た特徴……
(あのガキと記憶の剣士には何か関係がある。今のあのガキは、下弦の肆や陸にも致命傷を与えられるだけの実力を備えている。人間のくせに、成長速度が早すぎるんだ)
もしかしたら、今回あの少年を見逃したのは悪手だったかもしれない。
だが耳飾りの少年を殺すという目的の意味は、もはや累の私怨だけではなくなっていた。
もちろん、家族の絆を引き裂いたあのガキを許すつもりはない。だがそれと同じくらいに、奴は、無惨様に害をなす可能性があるため、どちらにしろ生かしておくつもりはなかった。
(早く次の計画を立て、実行するべきだな。下弦の壱と弐を上手く使えば……)
下弦が招集された時、姿を眩ませた2人だが、大体の居場所は予想できていた。
下弦の壱は最近、列車というものに巣食って人間を喰っているらしい。
特定の列車で、多くの人間を食べているが故に、既に何人もの鬼狩りが派遣されているらしかった。
柱がやってくるのも時間の問題だろう。
(確か下弦の壱は精神に干渉する血鬼術の使い手……場合によっては柱より先に僕があいつを……)
下弦の弐のことは元より眼中になかった。血鬼術も大したことない。下弦の弐でいる理由としては、鬼として生きた年月が下弦の中では1番長く、多くの人を食ったからだ。年季が入っているだけ。
累は、弐のことをそこまで強いとは思っていない。
(壱の血鬼術は、大人数に効力はなかったはずだから、弐も多少は働いてるんだろうけど)
あとは、どうやって耳飾りのガキをそこへ呼ぶかを考えながら、累は暗闇の中に消えたのだった。
2章 奇怪林編完結です!
ここ最近は連日投稿していましたが、新章の準備のため1週間くらい?休載します(。>_<。) GWなのにごめんね( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ ) 途中で閑話を投稿するので!
新章はみんな大好きなあの柱が登場しますよ! 果たして死の運命を回避できるのか……? オリジナルの新キャラも登場するので、楽しみにしててくださいね(๑˃̵ᴗ˂̵)