22話 無限列車
(これが、無限列車)
ちまたでそう呼ばれるようになったこの乗り物は、まだこの時代では珍しいものであった。
現在の行方不明者の数は20人程。
(適当な情報はまいた。今日にでも食いつくはず)
累は人間に擬態して、ここに来ていた。
実を言うと、無惨様を除いて、鬼というのは擬態能力はそこまで高くない。一部の上弦の鬼には擬態を得意とするものもいるが、再生能力が働いてしまい、元の姿に戻ってしまうのだ。
だが、累はある程度は人間に擬態できる。家族鬼の顔などの容姿を、自分に似せるように強要していただけのことはある、と言ったところだろうか。
「切符……拝見いたします……」
車掌と思われる人間がよろよろと累のところまで歩いてきた。妙にやつれているのが気になる。
(あぁ……血鬼術の影響か)
累が切符を渡し、切り込みを入れてもらうと、鬼の気配が生まれるのを感じた。
(眠らせる血鬼術か。低級の鬼には効くかもしれなけど、対人間の意味合いが大きいみたいだね)
実際、累の前ではこの程度の血鬼術は効果が無いに等しい。
(わざわざ人間に擬態してくる必要もなかったか。こういうことをしてれば、昔の記憶が戻るかもしれないと思ったけど)
「お前、下弦の壱と弐はどこか知ってる?」
累は立ち去ろうとしていた車掌を呼び止める。
「下弦の……壱……」
「瞳に“下壱”と文字が刻まれてる鬼のことだよ。手に気色悪い目が生えてたっけ? 分かるだろ?」
「上に……」
それだけボソりと呟くと、車掌は去っていった。
精神状態に異常をきたしているようだ。まともな会話が成立するかどうかも怪しい。
累は窓から車上へ出ると、先頭の車両へ移動した。2人の人影が見える。
下弦の壱と弐だ。
「あれ? 下弦の伍かい? 君は肆と陸と手を組んだはずだけど」
下弦の壱・魘夢は大袈裟な身振り手振りをしながら、驚いたようにこちらを見た。
「伍? 何のようだ」
下弦の弐・轆轤が眉を顰め、累を睨む。
「肆と陸は死んだよ。柱と耳飾りの鬼狩りにやられた。でも安心してね? 柱の一人は僕が殺したから」
「なんだと⁉︎ お前が柱を⁉︎」
「分かってると思うけど、これから柱が来るよ。ついでに耳飾りのガキも来るから——」
『累』
(無惨様?)
『近くに鬼狩りの柱がいる。その列車に向かっているようだから先に殺しておけ。蛇を連れた柱を殺したお前なら可能だろう。一応、上弦の鬼も送る』
柱が近くにいる、か。予定通りだ。
ふと、思ったが、最近はよく柱と遭遇するな。運がいいのか悪いのか。
そしてさすがは無惨様。僕が柱を屠ったことを既に知っているようだった。
「お前たちを助けるつもりだったけど、急用ができたから僕はもう帰るね」
「助ける? 下弦の伍なんかの力を借りたところでたかが知れてるよ。俺の力を前にすれば、どんな強い鬼狩りだって関係ない」
先程、柱を殺したと伝えたはずだが、下弦の壱はそれを無視した。
「人間の原動力は心だ、精神だ。精神の核を破壊すればいいんだよ。人間の心なんてみんな同じ、硝子細工みたいに脆くて弱いんだから」
「せいぜい頑張って」
先程着いたばかりだったこの列車を累は去る。
(せっかく柱を殺したのに食いそびれた……今度は食ってやる)
これから交戦する柱が始まりの呼吸を用いた剣士以来の天才と呼ばれ、20年で上弦の鬼に匹敵する実力を身につけた天才である累にも引けをとらないと言うことを今の累はまだ知らない。
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