「逃げるわけにも……いかないな」
「どうしてですか?」
柱が2人いるとはいえ、十二鬼月……それも片方は上弦の鬼なのだ。それを相手にするのは難しい。実際ここ100年以上、上弦の鬼は倒されていないのだ。
それを考慮すれば、逃げるのが賢明なのだが。
「あの列車にも恐らく十二鬼月がいる。今は別の隊士が討伐に当たっている。俺たちが逃げたら、目の前の2体は向こうに加勢しにいき、後輩たちが殺されてしまう」
「列車にも十二鬼月が? 他の柱が来ていないんですか?」
「うむ! 柱はいない! でも大丈夫だ!」
煉獄さんが大丈夫と言った以上、恐らくどうにかなるのだろう。
今は目の前の敵に集中するしかないようだ。
「お前も柱だな? その闘気……至高の領域に近い」
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」
「お前も鬼になれ、杏寿郎。無一郎には断られてしまったからこれから殺すが、お前まで死ぬことはない」
「ならない。初対面だが俺は既に君のことが嫌いだ」
「そうか、俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫酸が走る」
会話が成り立っているように見えるが、内容が噛み合っておらず、実際は成り立っていない。
「俺と君とでは物事の価値基準が違うようだ」
「杏寿郎とも戦いたいがまずは無一郎から殺す。杏寿郎は下弦の伍と遊んで待っていてくれ」
「上弦の参、お前何様のつもり? いいよ。杏寿郎とかいう柱は僕が殺すから」
冥土の土産にと、下弦の伍は累と名乗る。
「時透、単独で上弦と戦うのは無謀だ。上手くお互いに背を預け合って、2対2の状況で戦おう」
「分かりました。あの下弦は糸の血鬼術を使います。身体能力も下弦の域を出ているので、気をつけて」
糸の血鬼術と徒手空拳の鬼の相性は悪い。向こうはまともに連携を取れないはずだ。
「来るぞ!」
「術式展開 破壊殺・羅針」
「血鬼術 殺目籠」
猗窩座の足元に、雪結晶の陣が展開された。
杏寿郎の周囲には糸が渦巻き、狭まっていく。
「く……」
回避することによって、早速2人は引き離されてしまった。
猗窩座は先程よりも速く、無一郎に接近した。
なんとか刀で受けきると、拳の勢いを受け流す。
「破壊殺・乱式!」
「霞の呼吸 弐ノ型 八重霞」
「いいぞ無一郎! 素晴らしい剣技だ!」
高速の剣撃で対抗したが、向こうの手数の方が上だった。
「くっ……!」
猗窩座は一度距離を取ると、拳圧を放った。
「破壊殺・空式!」
(こいつ……近距離だけでなく、中距離もできるのか)
「霞の呼吸 参ノ型 霞散の飛沫!」
拳圧の軌道を衝撃で逸らす。
「素晴らしい判断だ無一郎!」
その時、背後から声をかけられた。
「時透すまん! 糸を切り損ねた!」
「なっ……!」
「血鬼術 刻糸牢」
あやとりのように、複雑に編み込まれた鋼糸が収束する。
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!」
完全に収束しきる前の糸を杏寿郎は切り裂いた。
勢いのまま累の頸に刀身が掠る。
(こいつも強い。無一郎とかいう柱と同等、いやこちらの方が若干上か)
普通の思考をしていれば、刻糸牢に自ら飛び込むなんて馬鹿な真似はしない。
糸に血を込めた。
「お前はどこまで耐えられるかな——血鬼術 刻糸輪転」
(おいおい……まだ全然本気じゃなかったのか!)
煉獄杏寿郎は血の色に染まった糸を見て、内心ため息をついた。
この鬼。下弦の鬼にしては強さが別格すぎる。下弦の鬼は入れ替わることが多いはず。何百年も生きている鬼は下弦にはいないはずなのだが。
「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり!」
渾身の力の斬撃で、糸を相殺した。
(このまま距離を取って戦われると頸を斬るのは厄介だ。ならば! 近づくのみ!)
「参ノ型 気炎万象!」
累の肩に刀が突き刺さった。そのまま振り下ろし、袈裟斬りにする。
「チッ」
累は舌打ちをした。傷はすぐに再生する。やはり下弦の再生速度ではない。
累は、両の手の五指を手前に引き、糸が複雑に交わるようにした。すぐに糸を手放すと、累本人が杏寿郎に肉薄する。
交差した糸が杏寿郎の背後の逃げ場をなくしていく。
(本人が来るか!)
糸使いで近接は苦手だと思っていたが。
このまま累の拳を受けると、背後の糸に刻まれる。糸を切ると本人に殴られる……なるほど。
「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!」
(糸が完全に編まれる前に、先に累を倒すのみ!)
(炎の呼吸か)
累は戦いながら、目の前の炎柱を観察していた。
(炎……地面に足を踏ん張り、力強い一撃が特徴。技を出せぬように、一気に畳み掛ければいい)
そうして糸と本人の格闘技による二段構えで杏寿郎に迫った。
「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!」
(! 先に僕を斬るつもりか)
累は敢えて右腕を前に突き出すことによって、攻撃が自身に命中する瞬間をずらした。
刀の速度が一瞬遅くなった隙に、体をねじり、カウンターを横腹に叩き込む。
杏寿郎は攻撃をもろに食らい、糸のほうへと飛んでいく。しかし、刀を地面に突き刺し、軌道をずらすことによって糸を避けた。
ギリギリのところで杏寿郎に当たらなかった糸が、背後の無一郎めがけて飛んでいく。
「時透すまん! 糸を切り損ねた!」
一章のアンケート、縁壱さんのところの票数がめっちゃ伸びてる……累の強さを縁壱さんレベルにしたらこのお話どうなっちゃうの( ᐛ )