「時透すまん! 糸を切り損ねた!」
「な……!」
慌てて体を逸り、糸をかわす。しかしその隙をつかれ猗窩座の一撃が無一郎を掠めた。
「が……っ!」
直撃こそ受けなかったものの、無一郎は吐血する。
(肋骨が何本かやられたな……)
「無一郎。お前はまだ若い。肉体の全盛期から5年……いや10年は前だろう」
攻撃の手を緩めた猗窩座はゆっくりと歩いてくる。
「やはりお前をここで殺すのは惜しい。鬼になるんだ無一郎。お前には無限の可能性がある」
(無限……?)
『無一郎の無は……』
ズキンっと頭が痛んだ。
(なんだ今のは……)
炭治郎の神楽を見た時の感覚にも似ているような似ていないような。
「今のお前では俺に勝てない。無意味なんだ無一郎」
『無一郎の無は……』
(……っ! 誰だ、俺を呼ぶのは)
知るためにも、まだここで死ぬわけにはいかない。
「霞の呼吸 肆ノ型!」
「まだやるのか無一郎」
「移流斬り!」
(! さっきより速い! 闘気が跳ね上がった!)
猗窩座は興奮していた。この少年は今、まさに成長しているのだ。
頸を守るべく交差した両腕が切断された。
腕が再生しきる前に無一郎は猗窩座の頸を狙うが、間に合わない。
「破壊殺・脚式 流閃群光!」
「霞の呼吸 陸ノ型 月の霞消!」
剣撃と拳撃が激しくぶつかり合い、火花を散らす。
その時、何かが爆発したような轟音が鳴り響いた。
何か巨大なものが飛んでくる。
(列車?)
線路を脱線したらしい列車は、倒れ地面を進んでゆく——
少し前。
「うまい! うまい!」
列車に乗ると炭治郎の耳に大声で叫ぶ男の声が聞こえた。何かトラブルが起きたらしく、まだ列車は出発していない。
「あの人が炎柱?」
「……うん」
「ただの食いしん坊じゃなくて?」
「……うん」
善逸に耳打ちされるがこの変人が柱なのだから仕方ない。
ようやくこちらに気がついたようだ。
「君はお館様の時の」
「そうか、それで。その箱に入っているのが」
「はい。妹の禰豆子です」
「うむ! あの時の鬼だな! お館様がお認めになった事、今は何も言うまい。ここに座るといい」
列車の被害拡大のために自分たちが派遣されたことを伝えると、炭治郎はもう一つの本題に口にする。
「俺の父のことですが……」
炭治郎は、病弱な父親が舞ったヒノカミ神楽のことについていくつか質問をしたが、役に立つ回答を得ることはできなかった。
「ヒノカミ神楽という言葉も初耳だ! 君の父がやっていた神楽が戦いに応用できたのは実にめでたいが、この話はこれでお終いだな」
杏寿郎は列車の中を隅々まで探索しようとする伊之助に声をかけた。
「危険だぞ! いつ鬼が出てくるかわからないんだ」
「え? 嘘でしょ? 鬼出るんですかこの汽車⁉︎」
「出る! だが柱である俺が来たからには……」
杏寿郎は喋っている途中で口を閉じた。
「鬼だ。列車の外だな。かなり強いのが1体……いや2体か! 別件かもしれん」
列車の外、少し離れた場所に出現した強力な鬼の気配を察知した杏寿郎は向かうべきが思案する。
そこに、誰かが声をかけた。
「炎のような髪に、覇気のある声。お前が炎柱・煉獄杏寿郎だな?」
男にしてはやや長い髪をうなじで束ね、大弓を背負った美男が現れた。
「君は誰だね……ん?」
杏寿郎は男を上から下まで観察して、頷いた。
「その大弓。まさか君は、天涯真弓か?」
真弓と呼ばれた男は頷いた。
「ああ、俺もこの列車の鬼を討伐しにきた。外にも鬼がいるんだろ? この列車は俺に任せて、お前は行け」
柱相手にため口で、堂々と話す男に、杏寿郎は少し驚いたようだが、すぐに立ち上がった。
「うむ! そうさせてもらう! 噂では、君の強さは柱に迫る、あるいは匹敵するとも聞く。ここは頼んだ!」
「煉獄さん!」
炭治郎が呼び止めようとしたが、杏寿郎はすぐに姿を消してしまった。
「そして、お前が。竈門炭治郎か」
(天涯さん……柱の人たちと同じような匂いがする。凄く強い)
「お前たちは今すぐ帰れ」
「え?」
「何のためにここにきた。何のためにに鬼殺隊に入った」
「妹の禰豆子を人間に戻し、鬼舞辻無惨に勝つため!」
真弓はため息を吐いた。
「やはりな。覚悟も力もなく、身勝手な理想論ばかり垂れ流す……その程度のやつらが来ていい場所じゃない」
『お兄ちゃん!』
今となっては二度と聞けない声を懐古し、真弓は炭治郎を睨んだ。
「俺は家族を鬼舞辻に殺された。唯一生き残った禰豆子も鬼にされた。だから……」
「俺が一番嫌いな……癪に障る人間を教えてやろうか」
真弓の放つ圧が強くなる。
(怒ってる……匂いがする……)
「現実の重みを知らず、軽々しく理想を口にする——お前のような人間だ‼︎」
やっと列車サイドの話になった笑