十二鬼月・累の物語 〜Another〜   作:葵巴鈴蘭

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26話 結核の少年

生半可な覚悟しかない人間は鬼殺隊に必要ない。確固たる覚悟を持った、柱のような選ばれし人間こそが組織に相応しい。

 

 最近の隊士は質が低いとも聞く。所詮は大した訓練もしていないただの民間人。そういったやつらは鬼と関わるべきではない。

 

「どこが軽々しいって言——!」

 

「じゃあなんでお前はそこまで弱い」

 

 いつのまにか炭治郎は後ろ手を組まれ、真弓に拘束されていた。呼吸の練度が違うのか、力を入れてもピクリとも動かなかった。

 

「⁉︎ 動きが見えなかった⁉︎」

 

「お前の不意をついたとはいえ、反応さえできないとはな……」

 

 やはり。この炭治郎とか言うやつはうわべだけで実力が伴っていない。

 

「妹を人間に戻す? その程度でよくほざけたものだ。十二鬼月に勝ったというのも本当か怪——」

 

 ドンっと衝撃音が鳴った。列車が動き出したらしい。

 

 それと同時に、車掌らしき人物が切符を切りに来た。

 

 

 

 

 

「切符……拝見いたします……」

 

 炭治郎は車掌に切符を手渡し、切り込みをいれてもらう。

 

「あれ? 天涯さんは?」

 

 たった今まで、炭治郎を拘束していた真弓はいつの間にか姿を消していた。すぐ近くにいた善逸と伊之助も今気が付いたようだった。

 

(すごい……本当に柱にも引けを取らないんだあの人は)

 

 自分とは比較にならない力を思い知らされる。

 

 確かに、自分には覚悟が足りないのかもしれない。

 

 

 

 

 

「ねんねんころりこんころり、息も忘れてこんころり、鬼が来ようとこんころり、腹の中でもこんころり」

 

 深い眠りだ。

 

「楽しそうだね、幸せな夢を見始めたな、ふふっ……落ちていく、落ちていく——夢の中へ」

 

 もう目覚めることはできないよ。

 

 

 

 

 

「言われた通り切符を切って眠らせました! どうか早く私も眠らせてください! 死んだ妻と娘に会わせてください! お願いします、お願いします」

 

 鬼狩りたちを眠らせた車掌は、魘夢の切り離した片手に向かって土下座をした。

 

 こいつらを眠らせたら、夢の中で家族に会わせる約束をしていたのだ。

 

「いいとも、よくやってくれた、お眠り~」

 

 車掌は、バタッと倒れる。

 

 もちろん家族に会えるとも。最後には皆殺しにするけどね。

 

「家族に会える良い夢を」

 

 魘夢は目の前にいる数人の子供に聞こえるようにして言った。

 

「あの、私たちはどうしたら……」

 

「もう少ししたら眠りが深くなる。それまでここで待ってて。勘のいい鬼狩りは殺気や鬼の気配で目を覚ます時がある」

 

 本当は、自身の手でここで鬼狩りらを殺してもいいのだが、念の為だ。リスクは犯さず、徹底的に勝つ。

 

「近づいて縄を繋ぐ時も体に触らないよう気をつけること。後で俺の仲間の鬼をここにやるから、準備が整うまで頑張ってね。幸せな夢を見るために」

 

 

 

 

「縄で繋ぐのは腕ですか?」

 

 鬼の手が去った後、ひとりの少女が口を開いた。

 

「そう、注意された事、忘れないで」

 

「大きくゆっくり呼吸する。数を数えながら……」

 

そうすると、眠りに落ちる。

 

 

 

 

 少年は目を開いた。

 

 ここは、額に火傷後のある少年の夢の中。僕はこいつの精神の核を破壊しなければならない。

 

 今回は運良く、夢の端の方に侵入できたらしく、すぐに無意識領域に入ることができた。

 

(これが……彼の心の中)

 

 ただ、美しい。果てしなく広がる水面に、水平線が見える。そして、暖かい。

 

(ん? なんだ?)

 

 無意識領域に何かがいる。

 

 光る小人だ。それも複数。それらは僕の元へと集まってきた。

 

「まさか君達は、この人の心の化身?」

 

 心の化身は僕の手を引き、歩き出す。まるで、僕を案内するかのように。

 

 やがて、彼らは足を止めた。これは……

 

「これは……精神の核⁉︎ なぜ見せるの?」

 

 心の化身は言葉を喋ることはなかったが、不思議と彼らが言いたいことが、僕の心に伝わってきた。

 

「僕が探していたから? 連れて来たのかい?」

 

 そんな。僕は壊そうとしていたのに。どうして。

 

 愕然とした。こんなのは初めてだ。なぜ、君を害そうとした僕に……

 

 激しい感情の揺らぎのせいか、夢の世界が不安定になり始めた。

 

(そうか……君は……)

 

 

 

 

「邪魔しないでよ! あんたたちが来たせいで夢を見せてもらえないじゃない‼︎」

 

 再び意識が浮上した時、僕たちは皆、現実世界に戻ってきていた。

 

 金髪の少年や猪頭の人も目が覚めつつあるらしい。どうやら彼らは、覚醒することができかけているようだ。

 

「何してんのよ! あんたも起きたなら加勢しなさいよ! 結核だか何だか知らないけど、ちゃんと働かないならあのヒトに言って夢見せてもらえないようにするからね‼︎」

 

 仲間である少女が僕を怒鳴りつける。でも、もういいんだ。

 

 僕は彼女を無視して、火傷後のある少年と目を合わせた。

 

 

 

 

 僕は結核にかかっている。結核は不治の病だ。一度かかったら、もう死ぬのを待つしかない。

 

 僕は働くことすらできず、両親からは煙たがられていた。

 

 でも仕方がなかったんだ。苦しい。苦しい。どうやったらこの苦しみから逃れることができるというのか。

 

 そんな時、僕はあのヒトに出会った。

 

『結核? かわいそうに。でも俺のために働いてくれるっていうなら、幸せな夢を見せてあげるよ』

 

 あのヒトの力は本物だ。家族に愛され、元気に生活することができる夢を見せてもらえた。

 

 だから僕はその対価として、あのヒトのために他人を傷つけてきた。

 

 僕はこの病の苦しみから逃れられるなら、人を傷つけてもいいと思っていた。

 

 でも……

 

 

 でも、君の夢の中、心の中は暖かった。

 

 家族や医者にすら見放され、現実世界に希望などとうにないと思っていた。だが、彼は今一度僕に希望を持たせてくれた。

 

(こんな人がいるなんて思いもしなかった。自分ではない誰かのために、ここまで尽くせるなんて)

 

「君の中にいた光る小人が、僕の心を照らしてくれた」

 

「? 大丈夫ですか?」

 

(君は、最後まで、僕を責めることをしないんだね)

 

 僕は眉尻を下げ、少し笑みを浮かべた。

 

「ありがとう。気をつけて」

 

 ありがとう。本当にありがとう。こんなにも人間って暖かいものだったんだね。もう一度、自分自身や家族と向き合ってみるよ——

 

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