十二鬼月・累の物語 〜Another〜   作:葵巴鈴蘭

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今回の前半はほぼ原作をてきとーに文字に起こしただけだから長いw わたし的にはかなり割愛したつもりなんだけど……笑

でも途中にひとつだけ確実に違うところがあります。さがしてくださいねー……
目の前が真っ赤になった後がヒントです。

 



30話 無一郎の無

 

 父は杣人だった。息子である僕も木を切る仕事の手伝いをしていた。

 

 大木を切って運ぶ作業だ。すごく大変で疲れるに決まってる。でも父さんは僕にいつも笑いかけてくれた。

 

 僕は、僕はそんな父さんの手伝いが好きだった。

 

 

 

 

 母さんが倒れた。僕たちのために無理をして働き、風邪をこじらせて肺炎になってしまったのだ。

 

「母さん大丈夫? 今父さんが薬草を採りに行ってるから……母さん!」

 

 すごく熱い。人間が生きられる体温とは思えなかった。

 

「……さむい……」

 

 無一郎は自身の布団を母にかける。

 

「父さん、もうすぐ帰ってくるから——」

 

 その日父さんは帰って来なかった。その日は嵐のせいで外に出られるような天気ではなかった。

 

 

 その日僕は母さんと父さん……大事な人を一度に亡くした。

 

 

 十歳で僕は1人に……いや違う。1人になったのは十一歳の時だ。

 

「情けは人の為ならず。誰かの為に何かしてもろくな事にならない」

 

 僕は双子だった。

 

「違うよ。人の為にする事は巡り巡って自分の為になるって意味だよ。父さんが言ってた」

 

 兄は有一郎と言った。

 

「人の為に何かしようとして死んだ人間の言う事なんて当てにならない」

 

「何でそんな事言うの? 父さんは母さんの為に……」

 

「あんな状態になってて薬草なんかで治るはずないだろ。馬鹿の極みだね」

 

「兄さんひどいよ……」

 

「嵐の中を外に出なけりゃ死んだのは母さん一人で済んだのに」

 

「そんな言い方するなよ。あんまりだよ!」

 

「俺は事実しか言ってない。うるさいから大声出すな。イノシシが来るぞ。無一郎の無は無能の無。こんな会話意味がない。結局過去は変わらない。無一郎の無は無意味の無」

 

 兄は言葉のきつい人だった。記憶のない時の僕は何だか兄に似ていた気がする。

 

 兄と二人の暮らしは息が詰まるようだった。僕は兄に嫌われていると思っていたし、兄を冷たい人だと思っていた。

 

 

 

 

 

 春になった。白樺の木の精のように美しい人が僕らを訪ねてきた。

 

「あなたたちは、始まりの呼吸の剣士の末裔なのです」

 

 その方はお館様のお内儀で、僕らを訪ねてこんな山の中まで来たというのだ。

 

「始まりの……剣士?」

 

 あまね様というその方は僕たちが知らない、驚くべきことを口にした。

 

「はい。この世界には鬼といって、人を食い糧とすることを生業とする存在がいます。私たち鬼殺隊は鬼を狩ることを目的としています」

 

 曰く、僕たちは始まりの呼吸の剣士の子孫らしい。その剣士の実力は他とは一線を画していたとのことだ。

 

 その才能を継いでいるかもしれない僕たちに鬼殺隊に加入して欲しいらしい。

 

 しかし兄は、いつものように暴言を吐いてあまね様を追い返した。

 

「時間はあります。じっくり考えてから、お返事ください」

 

 

 

 

 

「すごいね! 僕たち剣士の子孫なんだって! しかも一番最初の呼吸? っていうのを使うすごい人の子孫で……」

 

 兄はこちらを振り向きすらせず、大根を包丁で切り続ける。

 

「知った事じゃない。さっさと米を研げよ」

 

「ねえ! 剣士になろうよ。鬼なんてものがこの世にいるなんて信じられないけど、僕達が役に立つんだったら……ねえ! 鬼に苦しめられてる人達を助けてあげようよ! 僕たちならきっと……」

 

 無一郎は目を輝かせていった。こんな僕でも人の役に立つことができるかもしれない。

 

「お前に何ができるっていうんだよ‼︎」

 

 だが、有一郎は憤怒の形相で無一郎に言い放った。

 

「米も一人で炊けないような奴が剣士になる⁉︎ 人を助ける⁉︎ 馬鹿も休み休み言えよ! 本当にお前は父さんと母さんそっくりだな!」

 

 有一郎は何度も何度も包丁をまな板に叩きつけた。

 

「楽観的すぎるんだよ! どういう頭してるんだ! 具合が悪いのを言わないで働いて体を壊した母さんも! 嵐の中薬草なんか採りに行った父さんも! あんなに! あんなに止めたのに! 母さんにも休んでって何度も言ったのに‼︎」

 

 切断された大根が地面に落ち、転がる。

 

「人を助けるなんて事はな! 選ばれた人間にしかできないんだ! 先祖が剣士だったからって子供の俺達に何ができる! 教えてやろうか? できる事! 俺達にできる事! 犬死にと無駄死にだよ! 父さんと母さんの子供だからな‼︎」

 

 無一郎は、兄のあまりの発言に、言葉を失った。

 

「結局はあの女に利用されるだけだ! 何か企んでるに決まってる! この話はこれで終わりだ! いいな! さっさと晩飯の支度をしろ‼︎」

 

 それから僕達は口を利かなくなった。ずっと家へ通ってくれるあまね様に、兄が水を浴びせ掛けた時だけ一度喧嘩をしたきり。

 

 

 

 

 

 夏になった。その年の夏は暑くて僕達はずっとイライラしてた。夜も暑くて。セミも鳴いてて。

 

「水……」

 

 無一郎は柄杓で桶に貯めてあった水を掬い、口へと運んだ。ぬるくなっていたが体にしみるようで気持ちが——

 

「……⁉︎」

 

 すべての音が消える。先程まで鳴いていたはずのセミの鳴き声も聞こえない。

 

「なんだガキ二匹だけかよ……チッ……まあいいか」

 

 鬼だ。このときの僕は思いもしなかったが、鬼は実在した。

 

 鬼は鋭い鉤爪を無一郎に向けて振り下ろす。

 

「無一郎!」

 

 それと同時に兄が目の前に飛び出した。

 

 無一郎の代わりに、有一郎がその一撃を受け、切断されて腕が宙を舞う。

 

「うわぁぁぁぁ‼︎ 痛い! 痛い!」

 

「兄さん! 兄さん!」

 

「うるせぇ……うるせぇ! 騒ぐな。どうせお前らみたいな貧乏な木こりは何の役にも立たねえだろ。いてもいなくても変わらないような、つまらねぇ命なんだからよ」

 

 

 

 

 目の前が真っ赤になった。生まれてから一度も感じた事のない腹の底から噴きこぼれ出るような激しい怒りだった。

 

 その後の事は本当に思い出せない。とてつもない咆哮がまさか自分の喉から、口から、発せられていると思わなかった

 

 自分の中の何かにヒビが入り、砕け散った気がした。

 

 全身……特に頬と額が燃え上がるように熱い。心拍数が上がり続ける——

 

 

 

 

 気付くと鬼は死にかけていた。頭がすり潰され、四肢も欠損、心臓も潰れているようだった。だけど、それでも死ねないらしく苦しんでいた。

 

 斧や鉈、金槌に杭に大岩。家にあるありとあらゆるものを総動員していたらしい。

 

 間もなく朝日が昇り、鬼は塵になって消えた。心底どうでもよかった。

 

 視界が次第に元に戻ってきた。少しずつ心拍数も安定していき、体温が急激に下がるのが分かった。

 

 速く有一郎のところへ行きたかったのに……突然体が鉛みたいに重くなって……目の前にある家までずいぶん時間がかかってしまった。

 

 

 

 

 

「……お願い……しま……」

 

 よかった……兄さん、生きて……

 

「神……様……仏……様……どう、か……どうか…弟だけは…助けてください」

 

 

 え…………?

 

 

「弟は……俺と……違う……心の優しい……子です……人の……役に……立ちたいと……言うのを……俺が……邪魔した……悪いのは……俺だけ……です……罰を当てるなら……俺だけに……してください」

 

 

 

 

 

「は…………っ!」

 

 意識が現実に引き戻される。あの時と同じように、口から心の臓が飛び出さんとするばかりに心拍数が上がっていく。体が燃えるように熱い。

 

『わかって……いたんだ……本当は……無一郎の……無は……』

 

 無一郎は飛び起きた。

 

 

『無限の……無なんだ………………!』

 

 

 両の頬と左額に痣が浮かび上がる——

 

(頭の中の霞が晴れたみたいだ。すごい思考が透き通る)

 

 今までは何となくで握っていた刀を強く握りしめた。

 

『わしは心配だよ坊や……誰がわかってくれようかお前さんの事を……お前さんがどれだけ手いっぱいか』

 

 もみじが舞っている、暖かい日だった。

 

 この刀の作成者……鉄井戸との記憶が蘇る。

 

『どれだけぎりぎりと余裕がないか……物を覚えていられん事の不安がどれだけか……そして血へどを吐くような努力を』

 

 そう。僕には余裕が無かった。何をしても、していても、すぐに忘れてしまう。

 

 だから、頭で覚えられないならと、体に刀の使い方を覚えさせたんだ。

 

『誰がわかってくれようか……わしはお前さんが使った刀を見ると涙が出てくる。わしももう長くはない。命を惜しむ歳ではないが……どうにもお前さんが気掛かりじゃ』

 

 鉄井戸さんごめん。心配かけたなあ。

 

(だけど)

 

 俺は。もう大丈夫だよ。

 

 

 今なら分かる。

 

『ヒノカミ神楽!』

 

 適正がない? 本当にそうだろうか。

 

(お館様の仰った通りだ。確固たる自分があれば、両の足を力一杯踏ん張れる)

 

 無一郎は地面に強く足を踏ん張り、刀を構えた。

 

『無一郎…優しくしてやれなくてごめんな。いつも、俺には余裕がなかった』

 

 無一郎の呼吸音がより轟音を帯びたものへと変化する。

 

『人に優しくできるのも、やっぱり選ばれた人だけなんだよな』

 

 ヒノカミ神楽の呼吸、扱いきれないのであれば……

 

『だけどな無一郎、どれだけ善良に生きていたって神様も仏様も結局守ってはくださらないから、俺がお前を守らなければと思ったんだ。無一郎……お前は俺とは違う』

 

 柔軟に。より柔軟に。自身に合ったカタチへと昇華させればいい。なぜ呼吸の種類はここまで増えたのか。それは、人々がより自分に合った呼吸法を編み出してきたからだ。それと同じことをすれば良い。

 

(自分が何者かわかれば、迷いも戸惑いも焦燥も消え失せ——)

 

『自分ではない誰かの為に……無限の力を出せる』

 

(霞の呼吸+ヒノカミ神楽の呼吸——)

 

『選ばれた人間なんだ…………!』

 

 

移流陽炎(いりゅうかげろう)

 

 

(——振り下ろされる刃から逃れる鬼はいない)

 

「馬鹿……な……」

 

 猗窩座の頸が、胴に別れを告げた——

 









みなさま分かったでしょうか? 
はい、そうです。この時代で一番最初に痣を発現させたのは無一郎だったのです! まさかの11歳で! だから那谷蜘蛛山で義勇は炭治郎より先に痣を発現させることができました。

なんか刀鍛冶の里の無一郎のシーンを総集したみたいになっちゃった笑


ちょっとしばらく更新が遅めになりそうです……
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